全体重をかけて、粘土を練る――。
三津に指導する喜美子がなかなか厳しい表情。腕組みして、コーチ顔になります。
体重かけるにはどうすればいい?
そう問いかけ、太ればいいと答える三津。
「うちみたいにぷっくぷくに太れ! どこがや!」
そう関西人らしく返しつつ、指導する喜美子師匠なのでした。
喜美子の疑念
そこへ武志と八郎が帰って来ます。
珍しくスーツ姿の八郎です。生徒からお菓子をもらったそうで陶芸教室の帰りですね。
スーツの八郎は、カッコいいと言えばそうですが。丸熊時代の素朴な雰囲気とも、結婚後のセーターとも違う。
かといって、フカ先生のように作務衣になれるわけでもない。そこに立ち位置が見えると言えばそうです。
立ち位置といえば、喜美子もそう。
喜美子は三津に任せず、自らお茶をいれに行きます。
幼い頃、荒木荘、丸熊陶業。どこにいても、喜美子は自然とそうすることが身についてしまっているようにも思える。
一方で、それをおおらかに受け流す三津はお嬢様ぽさがあるわけです。
八郎は三津の悪戦苦闘を目にして「電動ろくろはうまい」と言葉にする。
思わず喜美子が異変を察知。
思えば、橘の依頼を受ける前、あのとき三津の手についた粘土から、電動ろくろを使った可能性は察知できたとは思います。
十分に練った粘土や。どうして……そう思ってもおかしくない。
それに、喜美子に陶芸を教えるときは、そんな一足飛びに電動ろくろには向き合えなかった。記憶を辿れば、そうなる。
八郎が一回ちょっとやらせただけと告げたにせよ、それだって陶芸への向き合い方として真剣みがあると言えるのかどうか?
本作の怖いところは、喜美子がじっくり考えようとすると、途切れるところでして。
ここでも武志がお菓子を全部食べてもいいか?と言い出すから、親としては、おばあちゃんにも配ってくるように言わねばなりません。
喜美子が八郎にお茶を勧めると、陶芸教室で散々呼ばれて来たからと断ります。
「ほな二人で休もうか」
女性二人になり、三津の口から語られるのは、八郎とフカ先生のことでした。闇市で売ってしまったことを知った喜美子は絵を描いてきた――。なんてええ子なんだろう。あん時から引かれてたんかもしれんなぁ、って。
それを聞いて、喜美子はこう返します。
「そんなことまで言うてる、よう恥ずかしい。三津には何でも話すんやな」
三津はほとんどおのろけと返答します。
粘土をこねるのをやめて、休憩しようと言う喜美子。手を洗いながら三津は、先生の話を聞きながらいいなあって思うと言う。
「私も先生みたいな人、好きになりたいなぁ」
喜美子は何かを悟ったような顔になります。テーブルにあったお菓子は、三津が静岡で食べたことがあるもののようでして。
「いただきます!」
そう手を合わせる三津は無邪気そのものです。
二人だけのものでもなくなった秘密
昨年の放送事故。仕送りに頼っていた画伯とそのエロモデルを思い出していただきたいのですが……。
妻と夫の間に入り込む女って、女狐しぐさをするのが定番です。
ちや子の元職場である、スポーツ新聞のエロエロ小説挿絵っちゅうか。そういう、髪の毛がほつれてボタンをわざとらしく外しているような、「うっふーん、もてあましてますぅ❤︎」みたいな。まぁ、昭和やな。
一方で三津はむしろ清潔感というか、子どもらしさがある。狙って八郎を落としにいく、そういうくノ一めいた役割ならば、あんなことはむしろ言わないと思うのです。
そういうところに、本作の生々しさがギュギュッと濃縮されている。
つらい!
しんどい!
八郎の言葉には、妻への愛があるようでもある。
けれども、鳥が二羽飛ぶあの絵は、夫婦仲の象徴として設定されたものでした。公式でもそう認定しています。
その絵の存在は、二人しか知らないものであったはず。そのままならば、夫婦だけのもの。白髪になった二人が語り合って笑うようなものであったはずではないですか。
そこに、八郎は三津を引き入れた。
工房だけでなく、思い出の中にまで三津を引き入れた。
喜美子が苦い顔になるのも、当然のことでしょう。
どこまで八郎がそう意識しているのか、わからないのが怖いところでもある。本作は、今週からじわじわとおそろしくなっている。
喜美子が考えこもうとすると、家族のことが発生して思考が中断される。
その一方で、八郎は電動ろくろに向かうふりをして、熟考する時間がある。
人間の知能って、どういうことだろう?
これは学歴や読書、情報量だけの問題でもありません。
じっくりと考える、息抜きする、気持ちを切り替える。そういうこともとても大事。
男女間にその差があるとすれば、女性にシャドウワークが押しつけられがちな、そういう構造も考えたいところ。
この二人が同じだけ賢いにしても、ストレスが溜まり、気が散る喜美子は圧倒的に不利になりそうではある。
彼女の財産は、皮肉にも200枚の小皿製作の時かもしれない。あのときの彼女は手だけでなく、頭を動かすことができる。
ちなみに三津ですが、彼女は知略が低いというよりも、集中ができない。ここが弱点でしょう。
セリフでもはっきりと、自分には喜美子のような集中力がないと言ってしまっている。
ここも考えていきたいところ。
労働に対価は払われなあかん
さて、夜の喜美子は。
百合子の帰宅の遅さにイラ立っております。
晩ごはんすぎても電話も入れない。こうなれば見合いの話でも持ってこようか。また信作と飲んでいるのかとこぼしていますが……。
百合子はお見合いはないと断言した。それにも関わらず、進めようとする。うーん、ジョーも米屋三男坊でそんなことをやらかしていたな。
そして、その信作がまさかのお相手とは気付いていない。
信作に同情しかけますが、それだけでもない。あいつが誠意あふれる男ってことでもありますね。
昨年の放送事故では、未成年のヒロイン姪に成人男性がエロエロと群がっていた。このロリコンどもめが! 信作がそういうゲスロリコンぶりを発揮していたら、ジョーと喜美子で成敗待ったなしでしょう。
八郎は、武志が靴下を繕っていることに驚きます。
12円やと聞いて、苦笑い。喜美子はキッパリこう言い切ります。
「労働に対して賃金払うのは当たり前やん」
おっ、なんやこの、「ブラック会社によろしく」のマスコットガール・ミッコーにスライドできそうなセリフは。ええんちゃうか!
これは問題だと前置きします。
そもそも朝ドラで、生々しく現代社会の労働問題に切り込んでこなかったこと。これはあかんちゅうことで、ここ数年切り込んできたと思えるんですよね。
『なつぞら』の労働組合が甘いだのなんだの言われておりましたが、その前のアレやコレやは主人公側が労働基準法違反そのものでした。
それが八郎には理解できない模様。
「まだ子どもやで。12円てなんや、どういう計算?」
ここも夫婦のすれ違いでもある。
「サニー」開店時のコーヒー茶碗でも揉めていた。真っ白いご飯が食べられることへの感謝も、喜美子ほどはなかった。
結婚生活でも、そこのすり合わせに失敗しているように思える。
八郎は精神論がある。
フカ先生の絵を売り払った記憶があるのかもしれませんけれども。でも、それでよいのでしょうか?
お金がなければ生きていけない貧困。
女は厳しい業務内容でも賃金を抑えられる、そんな差別。
そこには無頓着でもある。
姉が彼の学費を捻出するために苦労して来たことを思うと、腹立たしさすら感じてしまう。
姉は、大久保さんが弟のためにそうしたように、一生懸命頑張ったのに……弟である八郎は、そこのところが鈍い。
なんとも悲しく、悔しさすら覚えますが、皮肉にもこの点でお嬢様育ちの三津と一致しそうでもあるんですよね。
ここで電話が鳴る。
張り切って武志が取ってしまう。お母ちゃんだと代わると、喜美子はこぼします。
「なんでわからへんのに出てんのや」
こういう母親の小言が、ただの文句ではなく親としての責任感であるとわかる。そんな本作です。
【速報】信作、出陣すら失敗……
はい、ギスギスした視聴者に、信作&百合子のほっこりタイムをお届けします。
二人は「あかまつ」ではなく、休業中の「サニー」におりました。作は、彼なりに出陣の作戦を考えています。
・電話かけんでいきなり行く
・喜美子が怖いから……(って、そこ克服できんのか! 義理の姉になるんやぞ!)
・ふらっとさりげなく結婚を切り出す、その方が俺らしい。なんかアホっぽいけど、それは確かに一理ある
これに対して、百合子はこうだ。
「わかりました、うふふふっ!」
可愛いなぁ〜。
いくで! いこか!
でた、ICカード名にもなったICOCAやな。
※西日本はSuicaやない! ICOCAや!
川原家にご挨拶にいくで! そう大野夫妻も出馬。
なんでやねん! なんか無駄にハレルヤハレルヤ、BGMが流れとるけど。
ここで、柔道はあかんかったと陽子がいう。
お、おう、せやな!
百合子が柔道に戸惑う中、信作はドヤ顔をする。
「俺に任しとけ! もう、目ェそらさんで! しっかり頭下げてくる!」
信作は信用できませんが、百合子はそうではない。
こう言い切ります。
「反対されるわけはない。驚くけれど、反対はされない!」
「そんなんわからへん、喜美子やで……」
信作がめんどくさすぎてつらい。出た、この無駄な猜疑心!
喜美子本人が聞いたら投げ飛ばしかねないと思う。
何年、幼なじみとしてつきおうてきた! ようわからんところあると言いつつ、受け入れてきたやろ! アホちゃうか、ほんまアホちゃうか!
「大丈夫、問題ありません!」
信作はとりあえずどうでもええ。百合子が念押しするから、大野夫妻も明るい顔になる。
それではなんかつまらんと、わけのわからない方向に行くと、忠信が挙手します。
陽子も横で張り切る。
この夫妻、きっちりスーツとワンピースで、お出かけご挨拶モード武装完璧にしてますからね。
「それなら俺が反対する!」
信作は迷走ぶりにあきれ、こう言います。
「この親にしてこの子ありや」
百合子ははしゃぎます。今頃気づいたん? うちはずっとそう思っとった、だってよ。
「大野家おもしろくて大好き!」
ゆりちゃーん!
感激のあまり、百合子に抱きつく大野夫妻。
信作が「俺の女や!」と主張しますが、まあどうでもええでしょう。
この間、ずーっと高らかに鳴っとるハレルヤはなんやねん……戸惑っていると、ここで電話が鳴ります。
陽子が出て、百合子に変わります。
なんと喜美子からの深刻な呼び出しでした。
直子が妊娠?
しかも結婚してへん?
してへんから慌ててる?
百合子は慌てて、こう返すしかない。
「ああッ、すみません、結婚の申し込みは先送りにさせてください! ごめん、すみません、ごめん!」
「ちょ、どないすんの? 行ってまった……」
呆然とする大野夫妻。
信作はなんとも言えない弱々しい笑顔を浮かべております。泣きたいんやろなぁ。
こいつ、無駄に繊細だからよ。
テンション上げて、ここでそれが台無しになって、もう泣きたいと思うわ。しかも、ナレーションが追い討ちをかける。
これが後々語り継がれる【信作結婚のご挨拶がなかなかできない】の始まりでした――。
なんでや。
なんでここまで信作受難の流れなんや!
※続きは次ページへ
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