スカーレット145話あらすじ感想(3/23)味覚の喪失という残酷な表現

喜美子は武志の大皿を見ています。

「お母ちゃんの心いっぱいや。幸せやなぁ。武志にしかできひん作品できたなぁ」

「おう」

工房で微笑み合う親子です。

智也の残した手紙

武志は病院へ向かいます。

作品の完成を聞き、大崎は興味を持っている様子。休みがあれば見にいこうかと言います。

ここで喜美子ファンである山ノ根も誘われるのですが、「そんな、私はもう!」と遠慮しつつ、かなりときめいていますね。

大崎はそんな武志を診察します。

「ふらつきや倦怠感は? 食欲はある?」

「あります。あ、食欲はあるんですけど」

「うん?」

この先の診察内容はわからないまま、診察室を出る武志が映し出されます。

外には理香子がいました。

彼女は武志に、ベンチの横に座るよう促す。そして封筒を差し出します。

「葬儀の際は遠くまでわざわざ……これ、智也の遺品整理してたら、【川原たけしさんへ】いうて。よかったら受け取ってもらえませんか?」

「はい……」

喜美子がもらったファンレターとは違う。ただの真白な封筒。

それが男子高校生といえばそうですが、工夫のしようもない寂しさも感じます。手紙には何と書いてあるのでしょう。

お父ちゃんの卵焼き

川原家では、八郎が台所で卵をといております。それを喜美子が、椅子に座って見て笑い転げています。

「何がおもろいねん!」

「味付けどうするん? ほんまこにれこれ入れるん?」

よりを戻すのか、戻さないのか。そんなことを言われる二人ですが。そういう仲ではなく、同志なり、親友ということでよいのではないでしょうか。そう思えます。

そこへ武志が帰ってきます。

「ただいま」

「病院どうだった?」

「変わりなし」

これもどう考えたらよいのやら。

もしも、ドナーが見つかったら。大きな変化になるのです。そういうプラス方向への変化もないと。

武志は「何してんの?」と八郎のことを聞いてきます。喜美子は「おもろいでえ!」とうれしそうに、からかうように言ってきます。

喜美子のこういうサバサバしたユーモアは、幼い頃からそうでしたね。

信作相手に狸を食うたると言い返したり。そういうピリッとしたユーモアが苦手な人もいるとは思いますが、私は好きです。ええんちゃうか。最高ちゃうか。

「おもろいでえ」

喜美子が面白がっていることは、八郎の卵焼きでした。武志は知らんと言い切る。実際のところ、彼も父の卵焼きは初めてのようです。

そういえば結婚前、姉のいつ子に習って料理は得意と言っていたっけ。最終週まで引っ張ったのか! ロングパスやなぁ。

ここで八郎は、作らなかった理由を語ります。

お義父さんに「男は台所に立つもんやない!」言われたってよ。

なんやその、最終週までイラつくジョーカスの呪いは。

いや、これはジョー一人の問題ではないわけでして。

「昔からいうわな。男子厨房に入るべからず、ってな」

その昔っていつやねん?

はい、トリビアです。

『麒麟がくる』でもカッコいい細川幽斎(細川藤孝)は、

「ほんまの風流人は、自分で包丁握れんとあかん」

と言い切ったほど。

和食の歴史ご存知ですか?戦国武将は包丁握り 紫式部はイワシ好き

細川藤孝(幽斎)は文武芸術に通じた光秀の盟友!しかし本能寺後は……

戦国時代は、男性でも自分で調理しました。

できないとダサい。そういう美学がありました。

それが江戸(ただし地域差が大きいもの)、明治と時代が降るにつれ、日本では「男子厨房に入らず」になっていったわけです。

同じ東アジアでも、中国語圏は男性も料理をするもの。なんや記憶が刺激されるけど、それはええとしまして。

下手すりゃスープ一杯で国滅びる……中国料理の歴史がマジぱねぇ!

いまだにジョーのようなことを言うおっさんはいるでしょうが、そのときは「先祖返りや、日本の伝統やで」と言い切りましょう。

これも考えさせられますよね。

『なつぞら』のイッキュウさんの場合、八郎と同世代です。それでいて、ワクワクと料理をしていました。

彼の場合、親も個性的で理解があったのでしょう。イッキュウさんの父がジョーみたいな価値観だったら、揉めています。そしてそれが日本の常識でもあったと。

喜美子は、そんな八郎の甘えを許さない。そのあとなんぼでも作れたやろ、そうダメ出しします。

まぁ、ジョーは早くに亡くなってますもんね。言われてみれば、ジョーの死後家事分担していれば、穴窯炸裂大炎上離婚は回避できたかもしれん……とちょっと思ったりして。ほんまにええ家庭のために、使えるドラマやな。

『なつぞら』は優しく理想を見せる太陽。ほんで本作は、やらんとこうなると示す北風や……。

八郎はそんな元妻の風を受け流しつつ、「人に作るんは久しぶりや」と語っております。喜美子はこれだけやと不安だから、うな重を取ると言います。

「また!」

武志がそういうと、こう言い切ります。

「贅沢な話をしおってからに、どこのお坊ちゃんや。特上やで。この卵焼きもな、お祝いやで。お父ちゃんから武志に」

おう、せやな。思えば喜美子は、この家に来た当初は粥をすすり、卵は贅沢品で、給食が生きがいであったものです。

「ようできたな」

武志はそう言いつつ、といた卵を卵焼き器に流すのでした。

ここで電話が鳴り、喜美子が取ります。大崎でした。

「変わったことはないですか?」

「えっ、何か?」

「食欲はあるんだけど、料理の味はわからくなってきたんです……そう話してくれたんです」

「そうですか……」

「味覚障害かもしれませんね。味覚障害かもしれませんね。でも、お母さんは今まで通りで、お母さんの味で構いませんよ」

「わかりました。わざわざお電話ありがとうございます。失礼します」

ここで喜美子は電話を切ります。命を味わう五感が武志から奪われてゆきます。

味がわからへん

うな重が届きました。

お吸い物を「熱いで」と言いながら武志に渡すあたりに、お母ちゃんの気遣いを感じます。喜美子はぶっきらぼうでええアルトで、ベタベタとした喋り方とは無縁。それでも優しいのです。

ここでうな重を並べて、八郎の卵焼きも置かれます。

「あ、綺麗にできとるやん。見た目はな」

「おう見た目はな」

きみちゃんは家事の面でも鬼軍曹……。男性が気合を入れて家事をしたのに、褒められるどころかダメ出しされてふくれてしまう。そういう話がある。

ネットニュースでも、

「家事をする男性は(ともかくしょうもないことでも、やたらとしつこく)褒めなあかん!」

みたいな記事がザクザク出てきます。

そんなん知らんがな。

そう突き飛ばす喜美子はやはり強かった……。男は5歳児扱いするライフハックみたいなもん、全力で燃やしますよね。

よいしょ。そう声をかけつつ八郎も食卓に座り、皆で「いただきます」と食事に向き合います。ここでお吸い物に口をつけた武志の顔が少し曇るのです。
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