大阪の喜美子から、信楽の川原家にハガキが届きます。
笑顔になるマツ。
喜美子は今朝も元気よく洗濯物を干しています。
その様子を、大久保は見ていた……!
「色もんは、日陰のほうへ」
喜美子は慌てて移動させるのでした。
「きみちゃ〜ん! ちょっと来てぇ〜」
ここで、さだが呼び出します。
休む間もない忙しい一日が始まります。
大人のええ声での電話対応
三毛猫がいる、そんな荒木荘。そこでさだは、電話について説明します。
「電話を使うんは、荒木荘の住人だけやないで」
普及はまだまだ先です。
ここから時代考証が細かく、かつじっくり考え抜いたNHK大阪渾身の電話描写が続くで。
本田さん。二件先の山梨さんもあり。これはもう、地図を見て覚えるしかない。
喜美子はこう念押しされます。
「失礼ないように出るんよ」
そう告げて去ってゆくさだに、大久保はこう声を掛けます。
「お早うお帰り」
いいですねえ。
いってらっしゃいではなくて、遅くならないように帰って来て欲しい、そんな願望入りの見送りです。大久保は、さだが小学校に通う頃から、言い続けてきたのでしょう。
喜美子は地図の描き直しをしたいと言います。
大久保は勧誘撃退のためにも、大人のええ声で電話に出ろと告げるのです。
戸田恵梨香さんはええアルトだけに、おっさんだの落ち着いていると言いますが、それはどうでしょう?
喜美子の浮かれ調子や幼さは、声音にも出ています。
それにな……低い声の少女もおるんやで。
アルトという声は、何を指すと思うとんねん。ソプラノしかおらん合唱団はないッ!
そんなわけで、ここは幼いアルト演技が試される重要な場面だと思うのです。
「荒木荘でごじゃいま……」
「荒木荘でございます、や」
声音を変える大久保を、真似る喜美子です。
低いだけでは大人っぽくなくて、発音そのものイントネーションも大事だとわかるのです。
大久保と喜美子――安心感が確かに違う。
大久保を演じる三林京子さんは、関西で絶大な知名度を誇るベテラン女優です。
こういう関西ならではの逸材を、全国区にしてこそNHK大阪だと思えるのです。
草刈正雄さんや高畑淳子さんのような全国区ベテランを出す。
そんなNHK東京『なつぞら』もよいものですが、それだけではない、関西ならではの味を出してこそ、NHK大阪の本領発揮。
狙いに狙って、彼女を出してきた本気を感じます。
演技派って、まさに彼女なのだと、毎朝シャキッとしてしまう。
知名度が高くてイケイケで売り出し中の女優が、頭のてっぺんから奇声を発するとか。顔芸しながらくねくね動くとか。
そういう作り物のわざとらしさではなく、重厚な演技がそこにはあります。
ハガキが信楽に届いたで
そのころ、信楽の川原家に届いたハガキが波紋を巻き起こしています。
マツが見せると、陽子はこうだ。
「いや〜楽しいて書いてあるやん!」
「へえ〜あら〜!」
陽子もすっかり喜んでいます。
この「いや〜」が、関西として重要かもしれん。標準語ではあんまり使わないもんね。
ここで、直子が発見してしまう。
「これ電話やんけ! 喜美子姉ちゃんにかけたい! 楽しいなんてずるいやん、文句いうたる!」
おいっ、直子、おいっ!
お姉ちゃんが懐かしいからじゃないのか!
直子ちゃん、素直なのは名前だけなのか。
素直で取り繕うことをしないがゆえに、暴走気味なのか。どっちでしょう。
なんでも直子は、最近の生活に文句タラタラだそうです。家のお手伝いに身が入らず、父に叱られてばかりとか。百合子がそう説明します。
そんな叱られてばかりの信楽を出たいんだって。図星を指されて、直子は百合子のおでこを突きながらこれです。
「とろとろしゃべるな!」
幼い妹をとろとろと呼ぶ。
どういう姉や。直子は幼いころからわがままで、ますます加速していくようで、もう期待しかありません。
『なつぞら』の夕見子も濃かったけれども、あれは軍師でこちらはなんだろう。倫理よりも欲望重視の呂布系……?
「家のお手伝い大変なんやねえ」
陽子はそう理解を示しつつ、うまい手で牽制します。
「大阪までの電話代、えらいかかるで〜。汽車賃よりも高いかもしれんな〜」
「そやねえ電話は高いさかい、そんなにかけられへん」
うぬぬぬ……家の経済状況はわかっている直子、捨て台詞を残し、カツ子おばあさんのもとへ向かいます。
「プンプンや!」
おもろい。
この幼さで既に完成しつつあるおもろさとめんどくささがある。
期待しかない逸材や……朝ドラここ数年に一度の、めんどくさいキャラという可能性を感じるで。東に夕見子あらば、西に直子ありよ!
喜美子みたいにはいかない。
難しい年頃と陽子はフォローしますが、直子は年頃も関係なく、生まれた時からこうなのでは?
陽子のこのあとが、なかなか残酷ではある。百合子にこう声をかけるのです。
「ゆりちゃん、飴ちゃん食べる?」
「ええの?」
あー……電話は無理でも、飴ちゃんはもらえたかもしれないのに。プンプンして逃してしまった直子よ。
そしてでたよ、飴ちゃん。
そうそう、『なつぞら』の荒井が飴ちゃん出してたもんね。関西が本場の飴ちゃん見せないとね。
不器用なお父ちゃんの涙
夜、保と博之は雇用主の川原家に戻ってきます。ジョーは当然のように食事を勧めるのです。
「あ、飯食うてけ。ええからええから、食うとけ」
飯をここで食べて当然。そう当たり前のように勧める。こういうところがええおっちゃんです。
オゥちゃんがジョーを慕うのもわかる気がする。軍隊内でもこういう班長殿なら、そりゃ好かれるでしょよ。
そして食後はこれだ。
「ほな保、飲み行くで」
「僕はもう……」
「ええからええから、早よ行くで!」
ジョーカス、出てきたら酒飲んでる。
宗一郎が飲みたくないと断って、落ち込んだ理由もわかります。下戸の気持ちはわからんのよ。
かくしていつもの赤提灯、「あかまつ」へ。ジョーはすっかり酔い潰れています。ジョー、好きな割に、酒あんまり強くないんか。
「ジョーさん、ジョーさん、いきましょか。何でて呼んだんですやん」
そうオゥちゃんが起こしております。
若い衆は明日の仕事に備えて、帰宅済みです。
「もう一軒いくで、もう一軒」
そううだうだするジョーを、オゥちゃんが背負います。
今朝もジョーカスっぷりに安定感がありますね。
「もうすぐ着きまっせ」
ただいま。よいしょ。
かくしてジョーは、大野家に置かれます。
「大丈夫ですか、お水持ってきますわ」
「どこやここ〜」
そう立ち上がったジョーの目に、電話が留まります。ご利用の際は家人に言えと張り紙はある。しかし、そこは気にしてられない。
荒木荘では、喜美子が電話の横に地図を貼り付けています。
画才があるだけに、色分けした綺麗なものです。
そこで電話が鳴ります。
「はい。はい、つないでください。はい。荒木荘でございますぅ」
ジョーからでした。
信楽のジョーは、ここで何も言えへん。
「もしもし、何や? こちら荒木荘でございますぅ〜。もしもし? もう切りますよ。もう失礼します」
無言電話に戸惑い、喜美子は受話器を置くのでした。
「何なん?」
電話を切られたジョーは、泣いています。
「喜美子……喜美子ぉ、喜美子っ、頑張れよ、頑張れよぉ……」
大野夫妻が見守り、信作も見つめる。そんな夜です。
「喜美子、よう頑張れ、頑張れや……」
ジョーなりの、男の誇りがある。
ここで話したら泣いてまうやろ。そんな娘相手に泣けない。だから会話すらできない。アホやなぁ〜。
不器用で、馬鹿な男の、そんな哀愁が詰まっているのです。
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