ポンコツ帰宅やで〜
「テッテテテッテ〜♪」
そう歌い踊り、家路を歩く圭介。
内職のハタキを作る喜美子。圭介は荒木荘に戻ってきます。
玄関で喜美子が出迎えます。
「飲んで来はったんですか」
「ちょっとだけや。正月ぶりやこんなん」
少しどころか、結構飲んだようです。
テッテテテッテ♪
そうダンスホールで踊ってきたそうです。ディスコやない、ダンスホールや。
『カーネーション』でも、糸子はダンスホールのドレスのために奮闘しておりました。ああいうプロではなくて、デートコースですね。
「きみちゃんのおかげや! かわいい妹、おやすみぃ〜。テッテテテッテ♪」
圭介があかん男すぎて、いい。
『なつぞら』の岡田将生さん扮する咲太郎は、ビールの注ぎ方や酒の飲み方が昭和のおっさんで、すごいと思いましたが。
圭介は、昭和の、大阪のおっちゃんになりつつあって、これもすごいことになってきた。
北村一輝さんのジョーカス不在の荒木荘。
雄太郎はわかるにせよ、圭介までおっちゃん成分を補うとは、参りましたわ。
ここで、その雄太郎です。
「郵便な、郵便な。届かへんよな、こんな時間に。ふーん。きみちゃんもうやすみぃ、もう寝よ。寝よ!」
そうふらり〜とやって来るのです。気になるんやな。
喜美子はここで、郵便受けにある「酒田圭介」の文字を見てしまう。
「お電話よ。お電話が鳴ったような気がしたんやけど、気のせいやなぁ〜」
今度はさだ。
大丈夫かと聞かれて喜美子は、圭介さんなら帰ってきたと説明します。少し、いやだいぶ酔っていたと説明します。
「きみちゃんや! 明日はな、もうゆっくりでええからな、なんなら休んでもいいわ。なあ、もう寝え」
郵便も、電話も、嘘やん。
嘘をついてまで喜美子を心配する。そんな荒木荘のおもろい人々です。
恋はおもろい
そしてちや子の登場です。
「大丈夫?」
「何がです? 皆さんうちのこと……なんでです?」
「いつもと様子が違うから……きみちゃん、わからへんの? 自分の気持ち、えっ、ほんまにわからへんの!」
「恋? うちが圭介さんに、恋?」
姉のようなちや子に問いかけられ、喜美子は戸惑います。
ここで二人は、喜美子の部屋に行き、喜美子はつぶやきます。
「ほな、この胸がズキズキ痛むんは……」
「痛むんか」
「気持ちが沈んでしまうんは……」
「沈むんか」
いちいち突っ込むちや子に、鬱陶しいと思う人もいることでしょう。
これが関西やと思う。そういう真髄があると思う。
喜美子は本音を言います。
おはぎない、コーヒーない。そう言うあき子を、草間流柔道で投げ飛ばしたるどー! そう一瞬思ったって。
おいっ、きみちゃん、おいっ!
武力が高いなっ!
うーん、けどええわ。
ヒロインの初恋はうれしはずかし、胸がキューン。そういうかわいいイメージを「とやあ〜」でぶっ飛ばすと。
きみちゃんは、幼少期から強かった。
信楽でも悪ガキを、ホウキによる凶器攻撃で撃退しましたからね。
無力どころか、武力なヒロイン。ええんちゃう、最高ちゃう。
「なんでこんないけずなこと、思うてしまうんやろ。なんでやうち……」
圭介を見て、内心はこれですからね。
「何浮かれてんねや、このポンコツ!」
ポンコツ、て……。
「せやけど、笑ってる顔見たらよかったやんて思えた。圭介さんが喜んでると、うちうれしい」
「恋や。きみちゃん、それは恋や」
「腹立ったり、喜んだり、今までもない気持ちも。悲しくもなります、寂しい気持ちにもなる。何や気持ちが忙しい。おもろいな……恋ちゅうのはおもろいなあ」
「おもろいか」
「おもろい、おもろいなぁ」
いけずになったり、ポンコツだと思ったり。武力は高いけれども、かわいらしい恋。
おもろいなぁ。これが本作の真髄かな。
気持ちが忙しくなって、それがおもろい。
そういう様々なものへの愛が、緋色に燃え上がるのでしょう。
甘くて苦い――サブタイトルがここでしっくり来ました。
エロエロから、本気で恋愛を描く。
そんな急転直下のジェットコースターじみたおもろさがあります。
【つっころばし】の妙味
同じ歌舞伎でも、江戸と上方(関西)は違う。
落語もそう。そこで描かれる人物像も異なります。
上方の定番に【つっころばし】があります。二枚目です。
・イケメン
・ええとこの御曹司
・優柔不断
・甲斐性なし、根性なし、決断力なし
・恋に狂って奇行に走る
・デレデレ
・なんかおもろい
まんま圭介でんな。
同じような恋愛ものでも、江戸ですと柔らかい中にキリッとしたところがある。ですので、そこまでコメディタッチにはならない。
武家支配の影響とか。商人が強いとか。
江戸は男女比がどうしたって崩れていて、男性が多いとか。ともかく、違うもんがあると。
そういう東西、理想の男性像って何でしょうか。
「朝ドラで、二枚目の東西差を見せな(アカン)」という意気込みを、圭介からは感じます。
『なつぞら』では、魔性の江戸っ子・奥原咲太郎がおりました。
ソウルフードである天丼にこだわり、噴水に仲を突き落とし、面接を妨害し、暴れ放題だったあいつ。
演じる方も、役も同年代ですし、やはり咲太郎のライバルは酒田圭介だと思います。
山田天陽とはちょっと違う。
朝ドラは女性のものとされる。ヒロイン像ばかりがどうこう言われる。
せやろか?
理想の男性像を求めてもいい。
少女漫画だの乙女ゲーだの、そういうことではなくて、もっと根源的な関西のええ男に迫りたい。
そういう心意気を感じますわ。
毎朝うっすらと鬱陶しくて、ポンコツと言いたくなる喜美子の気持ちもわかる。
でも、これはええポンコツですわ。
演じる溝端淳平さんも、キャリアを振り返って、ここが区切りになったと思える。
そういう役になりつつあると感じます。
文:武者震之助
絵:小久ヒロ
【参考】
スカーレット/公式サイト
昔、関東出身の人に「豚まんなんて言うの恥ずかしい」と言われ、めっちゃ切れたことがありました。「豚」という言葉は、彼女のところでは、日常では使わないそうです。その価値観がよくわかりませんでした…