昭和34年(1959年)夏――。
丸熊は、敏春が選んだ3人の若手社員が入社してきます。
初物スイカを笑て食べた絵付け工房の面々。
キュウちゃんこと喜美子の運命も変わってゆきます。
【新・丸熊三人衆】見参
ミーンミーンと蝉が鳴く、そんな社員食堂では。
中牟田、黒岩、田原という三人の陶工が雑談中です。
若手社員採用って、人員整理ちゃうけ?
古い陶工、年寄りは、辞めさせられるのかも――そう不安を募らせているのです。
事業拡大は商品開発であると敏春は認識しており、そうなるとむしろ人員が増えてもおかしくないところではあります。
とはいえ、陶工の不安もわかるところではある。
新技術や新商品が導入されると、ついていけへん古い人員は整理されてしまうのです。
ここで、その敏春が若手社員の紹介に回ってきました。
本作、本当に巧みの技があるでほんまに!
こういう無理のない自己紹介をしても、展開としておかしくないのです。
自己紹介を途中でストップさせる、そんな放送事故朝ドラが昨年ありました。
アレはあかんかった。紹介を遮る側が性格悪いようにも思えるし、貴重な機会を逸しているわけです。
さて、そんな三人は?
◆藤永一徹「開発ならお任せください!」
・スーツにメガネ
・京都の大学卒業後、奈良の陶器会社に就職
・企画開発を担当していて、敏春にスカウトされた
◆津山秋安「技術なら任せてや!」
・ハンチング帽の伊達男
・大阪生まれの大阪育ち
・建造物技術開発、建築資材研究所研究員経歴あり
・敏春からスカウトされた
◆十代田八郎「信楽でものづくりするんを楽しみにしてます」
・素朴さがある青年
・京都の美大で陶芸の奥深さに目覚める
・学生に陶芸を教える手伝いをしつつ就職口を探していて、スカウトされた
公式サイトの人物紹介も更新され、全員掲載されております。待っとったで!
ちょっと気になったんですけれども、本作って結構珍しい名字が多いですね。
しかもルーツを探ると西日本が多い。
歴史的有名人から持ってきたわけでもなく、なかなかマニアックな名字なんですよね。
あれですか?
「西日本の変わった名字見せな(アカン)」
こういうこと?
どんだけこだわりあんねん。
名字も気になりますが、この三人をスカウトした敏春の狙いも考えたいところ。
企画と営業の藤永。
技術の津山。
美的センスの八郎。
八郎が生み出し、津山の技術で大量生産して、藤永が売り込む。
それを総監督する敏春――こういう図式かな?
性格もおもしろくて、津山は典型的な明るい大阪男、藤永はバランス型、そして八郎は素朴なのです。絵付け工房では、八郎は何か思うところがあるのか、言葉が詰まって名前しか出てきません。
そういえば自己紹介で、八郎が話始めたところに津山がカットインしている場面がありました。
あれは不器用でマイペースな八郎にはちょっと困ったことかもしれません。
八郎は絵付け工房で思いが溢れそうになりながら、言えないでいることが伝わってくる。
八郎も本作にはこれまでいなかったタイプだと思えてきました。
喜美子が気になっているのは、その八郎の破けたシャツ。
あまりに雑、白いシャツを黒い糸で縫ったところが気になって仕方ないのです。
ゴシップは楽しいで〜
敏春は、商品企画室に三人を案内します。
敏春には野望がある。
今までの火鉢とは全く違う。生活用品のようでいて、発想を広げたものを作り出したい。
予算も取ったし、必要なものがあれば言って欲しいと告げて出ていきます。
本作のすごいところって、昭和レトロなセットや衣装なのに、発想には斬新さがあるところかも。
今週からそういう片鱗が見えてきましたよね。
ここで藤永と津山が暑いとぼやくと、八郎はお茶をいれてくると言いだします。
タイプが違うようで、八郎からは『なつぞら』のイッキュウさんぽさを感じます。
両者ともに【お茶汲みは女性、目下がやる】という先入観がないタイプに思えるのです。
これは創造分野では長所のはずです。
役場から来た信作は、食堂掲示板にポスターを貼っております。
これまた小道具さんがIllustrator臭を抜いて昭和風に仕上げた力作やで。
台所では、八重子と緑がちょっとしたフィーバー状態です。
「新しい社員来はったなあ! そっちも挨拶あった?」
「アーハハハハ、ええ感じの人いやった?」
「きみちゃんは絵付けしか目に入らんもんな!」
「たまにはここで新しい社員さんとしゃべりやもう!」
「もうそんなはしゃがんと、帰るで!」
「しっかり気張りや!」
ここの場面、あまりに演技しているように思えないというか、ナチュラルで驚かされました。
そのまんまゴシップにテンションあがっとる関西のおばちゃんやん。
相対的に荒木荘の圭介恋愛フィーバーが落ち着いて見える。どういうこっちゃ……
父を背負ってもよろめかない息子
喜美子はおばちゃんのゴシップネタにされて戸惑い、息止まるか思うたと言いつつ、ポスターを貼る手伝いをしながら、信作へお母ちゃんの謝罪を伝えます。
割れた茶碗はどうやら戻ったようで。
忠信は一人で飲みに行って泥酔したそうです。
せやな……。
陽子がよろめいていなかった――それがわかって不安が一気に解消されたんやな。
信作はそんな父を迎えに行きます。
ぐでんぐでんて足下おぼつかない父を背負って帰ったのです。
信作は、喜美子に父を背負ったことがあるかと尋ねます。
無理だと即答する喜美子。自転車の後ろにくくりつけ、途中で落ちて「喜美子ぉ〜!」と怒って絶叫するまでが定番だそうです。
会話だけでも酔態を晒すジョーって……。
信作にとって、父を背負うことは初めてでした。
幼い頃、熱を出してよく病院まで背負って行かれたのに。
「それが今や背負う方になったんやな」
しんみりとそう語る信作。
親父はあんま変わらへん。こっちは変わった。いつのまにかこっちが変わった。
石川啄木の短歌のような世界です。
戯れに 母を背負いて そのあまり 軽きに泣きて 三歩歩まず
ただ、本作ですのでこれも伏線です。
商店の息子で自身は役所勤めの信作と違って、家業がある親子の世代交代は大変なことなのです。
そこへ八郎がやかんを抱えてやって来ます。喜美子は「元はここで働いていた」と八郎を手伝い、ものの置き場所を教え始めます。サバサバしていて、八重子や緑とはタイプが違う。
「喜美子はまだ女ではない」と照子が言った理由もそのへんにあるのでしょう。
喜美子はお茶をいれるとか、家事をするとか。
そういう「女子力」が高いスキルをこなせるものの、そこにアピール性はない。切り離しているのです。
信作は八郎に興味津々だ。
「新しい人? へえええ、若いな。同い年? 何どし?」
干支を聞きおった。
もう今は干支でピンと来る人も少ないかと思いますが、当時はそうでした。
八郎は亥(いのしし)。つまりは二歳年上だと気づく信作。そして畏まります。
今よりずっと長幼の序が厳しい時代らしさを感じますね。
社会人としての経験は学歴が関係しています。高卒の信作は、大卒の八郎よりも社会に出るのは早かった。
こういう年齢や学歴で態度を変えるところが、本作だと描かれますね。
ジョーも草間さんが大卒と聞いて言葉遣いを変えました。
下心で「て~だいそつ~♪」と浮かれるのではく、態度を改めるわけです。彼らは礼節を叩き込まれて育った世代ですので。
喜美子・照子・信作:昭和12年(1937年)生まれ、干支は丑、劇中では21才
八郎:昭和10年(1935年)生まれ、干支は亥、劇中では23才
ちょっとかしこまった信作に対し、喜美子は話をしたらええやんと促します。
信作は信楽火祭りの話を始めます。こっちの人でない八郎は知りません。
松明を担ぐ祭りという時点で、会話が停止して、2人は見つめあってしまいます。
このドツボよ……。
信作は無口なカッコつけキャラを演じすぎたのかも。
友達がいなくて、キャーキャーはしゃぐ女の子が喋っているのにボソッと口を挟むくらいで、会話スキルが身につかなかったのかもしれない。辛い。
実はジョーカスも会話スキルがおかしくて、詰まるとちゃぶ台返しでごまかそうとする悪癖がある。
それでもオゥちゃんと飲み友達なのは、酒が入ると口が回るようになるのでしょう。だから草間さんの時も酒を飲もうとして、相手が断って落ち込んでいたと。
酒が好きなのは理由なんてないようで、飲み二ケーションじゃないと交流もできない悲しみもあるのです。
じゃあ八郎は?
さて、どうでしょうか。
素朴、それや!
ここで喜美子が、詳しい説明を始めます。
焼き物の里・信楽だから、火の神に感謝をする。
そのために松明を担いで、山の上にある神社に奉納するのです。
※信楽町観光協会の紹介動画やで
おぅい信作ぅ、祭りの由来くらい把握しとかんかい!
演歌歌手呼べるかどうかよりもそっちやろ――そう突っ込みたくはなりますが、あまり歴史に興味がないタイプなのでしょう。
八郎は陶芸がらみになると顔がパッと明るくなる。
この二人は信楽が、その土が好き。ちょっとざらざらしている手触りが好き。
※続きは次ページへ
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