葬式帰りに飲食店に立ち寄ったら、穢れていると追い払われるような悪臭は御免被ります。
四十九日間動けないというのも、不条理ではある。
葬儀でも休めない。休ませない。そういうことをモーレツ美談にしてきた。
そこは反省して、見直した方がよいのかもしれません。
「あの選手はすごいで。お父ちゃんが亡くなっても葬儀に参列せんで、チームのために貢献した。プロやなぁ」
こういう話は、人情があまりにない。もうやめーや。
フカ先生はしみじみと、師匠の教えを語ります。
描くだけではなく、色々学んだのです。
「引き際は潔くということを学びました……若い世代を中心に大改造するお話。信楽を離れて遠くから応援させていただきますわ」
両者納得、合意の上での退社になりそうではある。
ところが、この場で一人納得できない人物がおりました。
不器用そうなのに頑張ってお茶を出していた、八郎です。
フカ先生が信楽を去る!
そのことを聞いてしまい、動揺を隠せません。
八郎はお茶だしを何とも思わない。
ここは大事です。
昨年の放送事故で、台所仕事をやらされる男性が「下僕」だのなんだのお笑い扱いされていたわけです。
そういう細かいところに差別と偏見が宿るんやで。
喜美子は絵付け工房で、フカ先生の話し合いを気にしています。
「フカ先生はまだですかね。何の話しとるんやろ」
二番さんは「後片付けしとくから、早くあがり」と喜美子に促します。
かばんをかけて帰ろうとする喜美子。
その帰り際、火鉢の生産が大幅縮小されるという話をふります。
ちょっと気まずそうな弟子二人です。
「ああ、せやけど、キュウちゃんは心配せんでええよ。絵付け係は残るさかい」
フカ先生からそう聞いてる、絵付け係はなくならへんと安心させまます。
いずれキュウちゃんにも、フカ先生から話があると言われるわけですが。
ええんか? これ。
娘の進路を気遣うようで妨害する、父の悲哀
川原家では、またも気になる話題が出ております。
夕方、陽子が縁側に来ておりました。
本作の川原家のセットは絶品で、上から見下ろすカメラワークが生きる作りになっています。こうして縁側トークをする世界をうまく描いているのです。
話題は、お見合いのことでした。
「お見合い? ずるいなぁ」
「うちやないよぉ」
「当たり前や」
信作がお見合いを希望してきたとか。
それをジョーが羨んでいるわけですが、思い出しましょう。
諸悪の根源はジョーカス。
勝手にお見合い暴走して、米屋三男坊を巻き込み。
進路選択で揉めて、意地になって一生結婚するな宣言をする。
清々しいまでの自業自得を見せるジョーなのです。
こいつが縁側から見て奥に座り、団扇をパタパタしているだけで暑苦しいわ。
ほんま只者やない。
百合子は興味津々で、その理由が気になるようです。
照子の父の死がきっかけかも。そう推察されます。伊賀の甘やかしぃのお祖母ちゃんの死も、影響を与えたもんなあ。
そうそう、これも信作世代の差や。
信作や『なつぞら』の夕見子のように、誰かの大往生が人生初に接した死であること。
そうではなくて、照子のような場合もある。
家族の戦死が人生初の死という人も多かった。なつのように、母と空襲で死別してしまった孤児も多かったのです。
ジョーは、陽子の伊賀の親戚筋を頼るというお見合いにソワソワ。
「喜美子にもひとつ頼むわ。白髪やるから、ほれ」
「いらんわ、あるわ!」
陽子がそう返します。
本作の軽妙なボケとツッコミは、新喜劇のような演出を無理して入れていておかしいという意見もありますが。
せやのうてな。
リアルな関西を追い求めた結果、しょうもない会話でもボケとツッコミに分裂する。そういう関西面やないの?
こういうじゃれあいでリアリティを出したいのだと思います。
ここへ喜美子が帰宅。
陽子は寺岡先生が遅れる電話を伝えにきたと言います。
本作は電話の使い方も上手です。
陽子登場のフックなんですわ。
お菓子もぎょうさんもろたと嬉しそうな百合子。その頬を触りつつ、陽子はこう言います。
「ええのええの、ゆりちゃんの食いしん坊な顔、好っきゃねん!」
可愛い。
直子はこうはならんやろ……。
こういうことをされても説得力がある。そんな福田麻由子さんがすごい。
ここでジョーが咳払いをして、目配せてお見合いを念押しします。
北村一輝さん、その腹巻の違和感がなさ過ぎて感動する。
そしてついに寺岡先生が来ます。
ここでもジョーが咳払いをします。
昭和のおっちゃんの、自分に注目させたい時の咳払い。うまい使い方です。
イライラするやろ。
イライラしてこそうまい使い方や。
百合子は緊張しています。
果たして願いは叶うのか?
明日が気になるところですが、フカ先生のこともありますよ。
言えませんでした、黙ってました。で、終わんのか?
いかんでしょ。
そう突っ込みたい。突っ込みどころ満載の本作。お笑いという意味やないで。
フカ先生も、一番さんも、二番さんも。
キュウちゃん抜きで、何大事なこと、「あかまつ」で決めとんねん!
今日も、ものすごく嫌らしいと思った。
丸熊に入ってからの喜美子の受ける仕打ちが、ともかく酷い。わかりやすい搾取とは違ういやらしさがつきまとっています。
喜美子が参加できない酒の席で、物事が決まる。
「あかまつ」に女性客がいた場面はありません。ジョーは喜美子を忘年会に参加させませんでした。喜美子に居場所はないわけよ。
喜美子をマスコットガールにして売り出す取材にせよ、本人ではなく上層部が社長室でポンポンと話を決めてしまう。
あの打ち合わせで、喜美子本人が立ちっぱなしだったのがその象徴だと思いました。
決定権から二重の意味で剥奪される喜美子。
どのへんが二重なのか。
丸熊の社長室に入り込める女性がいないわけではない。それは和歌子と照子、身内の女性です。
しかし【身内でない】うえに【女性】の喜美子は排除される。
デザインを弟子の中で真っ先に採用されても、注文を殺到させるほどになっても、喜美子は排除される。
このことは重要なのです。
女が出世できないのは、地位が伴わないのは努力しないから、意欲の問題とは言われるところです。
けれども実際はそうじゃない。
喜美子のように成果を上げても過小評価されたりする。まぐれだ。若いお嬢さんが注目を浴びただけ。そう思われる。
厄介なのは、フカ先生にせよ、一番さんと二番さんにせよ、指摘されるまで何が悪いか全く気がつかないところでしょう。
そういう世界で生きてきて、何もおかしいところはないと思ってきた。
まず指摘から始めなくてはいけない。
そういう構図がある。
そこを取っ払って、ありえない世界をありえるように描いたのが『なつぞら』です。
あのドラマでの東洋動画社長室、マコプロダクションを思い出してください。
前者は、なつたち女性社員の意見をふまえて決定していた。
後者は、そもそも組織のトップが女性でした。
あとこれ。
「いやあ、うちの女房は気にしとらんかったで」
「俺はな、娘からはお父さん大好きと言われてんねん」
こういうのは女の意見を聞いたとは言わんのよ。身内やん。
それに照子は男の顔色を伺っておずおずと意見を出していますよね。バイアスあるでしょ。
最近の広告炎上が連発する背景にも、こういう誤解があると思う。
俺の奥さんなら文句言わないから。
女性部下がうなずいたから(※ひきつった顔色は無視)。
そんなもん何の突っ張りにもならんのよ。
『なつぞら』が、女性の意見を取り入れて変わってゆく一歩先を描いたのであれば、本作は女性排除のばかばかしさと、おちいりかねないHELLを構造的に見せつけているんだなと。
NHK東京が青空を背景に飛ぶ天使ならば、NHK大阪は緋色の地獄で高笑いする悪魔や。
どっちもそれはそれで魅力的なんや!
本作は、昭和の亡霊を分析し、炎上させて満足どころか徹底的に爆発させるところまで到達した。
そういう恐ろしい何かを感じる。
『なつぞら』でも、この朝ドラは五年くらい早かったんじゃないかと思った。
そして、まさか、二作連続で朝ドラがそれをぶちかますとは思っておりませんでした。
すごいことになってきたぞ!
あ、ついでに書いとこ。
イッキュウさんと八郎は、偏見に囚われずに一点突破する特殊枠やで。明日はきっと八郎が、いろいろぶちかますで。
◆テレビCM「炎上させて満足」してませんか? 昭和の亡霊との戦い方 – withnews(ウィズニュース)
文:武者震之助
絵:小久ヒロ
【参考】
スカーレット/公式サイト
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