「困っている顔もかわええなぁ。好きいうたろか」
「一人で蜜柑食うとけっ!」
こう茶化す。
ヒロインが相手役を可愛いといなして笑うって、ものすごく画期的なことではないでしょうか。
八郎は「カワイイだけじゃあかんのか?」みたいな、ちょっと古いヒロインじみていて。
喜美子はそんな相手にダメだと言う、そんなヒーローめいている。
そしてこう宣言します。
コーヒー茶碗20個、うちが作る!
喜美子の宣言に、八郎は?
「あかん。あかんいうか、できひん」
八郎は困惑します。
電動ろくろは難しい。
確かに喜美子は筋がええとは言ったけれども、人前に出す茶碗ではある。
喜美子は粘る。
デザイン案を見せつつ、これを見ながら作ったらええやんと言える。それに絵付け火鉢を手掛けてきて、ものづくり職人としてわかっている。
だからこそ、十代田には作品作りに集中して欲しい。コーヒー茶碗はうちに任せて! そう力強く言えるのです。
八郎は反論します。
「基本が大事と、深野先生は言うてなかったか? 喜美子はまず基本をしっかりやらな。いきなりコーヒー茶碗20個なんて無茶や。陶芸上手になりたいんちゃうの? この先もずっとやっていきたい、思てるんやろ? 基礎一つ一つ段階踏んで、今は今やらなあかんことをやりぃ。僕は大丈夫やから」
思い詰めた顔になる喜美子。
この八郎のセリフは、突っ込みどころ満載なんですよね。
誰のせいや!
誰のせいで無茶振りすることになってんねん!
安請け合いしたお前があかんのやろ!
段階踏んでって、結婚もやで。
夫婦になるならまずは陶芸展やん。
それを無視したのはお前や!
僕は大丈夫?
泣き真似しとったやん!
あかん。ジョーとは別の方向性でカスさを見せてきた八郎があかん。
きみちゃんを泣かせおった……
形作り。乾燥。素焼き。本焼き。
コーヒー茶碗20個には、およそ二週間かかる――。
丁寧なナレーションによる陶芸の工程説明が、ますますこちらを焦らせてきます。
戸田恵梨香さんの、唇をきゅっと噛むような顔も絶品です。
女優さんは美しいから、笑顔がかわいいって当たり前やん。
不安。決意。怒り。オラつき。拒絶。そういう魅力を見せていかな。
直子役の桜庭ななみさんはオラつき。
百合子役の福田麻由子さんは、ジョーに対して気色悪いと言った拒絶顔。
そして喜美子は、信念と疑念の顔が素晴らしいんですよね。
その目に、ついに涙が滲んでしまう。
本作はわーっと泣かすのではなく、戸田恵梨香さんもジーンと来たという北村一輝さんといい、自然と涙が浮かぶところにグッときます。
八郎も気がつきます。
「ええっ! 何? 誰が泣かした?」
「泣いてない!」
「えっ! 僕が泣かした?」
「泣いてへん!」
「えっえっえっわからへん、何? どういうこと?」
「うちかてわからへん。もうわからへん言うてるやん」
「怒ってるんか?」
八郎ぉおおお! ……なんやこいつ。
おーい、誰かちょっとジョー呼んできて。もうむしろ、「おんどりゃあ〜!」という一撃が欲しくなって来たわ。
お前だよ、お前がきみちゃんを追い詰めてんだよ!
締め切り前に二週間かかるもんをホイホイ引き受けて、こんなん、絶望するやろ。
このあたり、ホイホイ引き受ける職場の誰かのせいで、デスマーチに追い込まれた視聴者も泣きたくなるかもしれへんね。あー、つらい、つらいわぁ!
喜美子はたまらず、泣きながら訴えます。
「作りたかった! 十代田さんの言うてることは正しい。人前に出す茶碗はうちには任せられへん! うちにはまだわからへん! 基本のキはわかる。そういう考え間違ってないし、そういう考えする十代田さん好きや。けどな? 無茶したかった。作りたかった。一緒に乗り越えたかってん!」
喜美子はそう涙ながらに訴えます。
どうする?
恋人として、そして陶芸家の卵として、ものづくりに挑む者として?
八郎の決断のときが迫ります!
どこまで難易度を上げる気ィや!
うーん、本作はすごいもんがある。
どこまで難易度を上げる気ィや! そう唸ってしまいました。
『半分、青い。』の「スパロウリズム」にせよ。
『なつぞら』のマコプロにせよ。
二人で同じものを作るけれども、分担はありました。別分野なのです。
それがこの先、喜美子と八郎は同じ陶芸をしていく――そういう前提だからこそ、こういうプロットができる。
いわば喜美子が夫にかわって出陣する流れよ。
これでええんか? というのはある。
同じことをして、女が上になると男のプライドがぶっ壊れるんですわ。
「いうても女は兵士になれへんねん。あいつら楽したいんやで」みたいなことは未だに言われる。ジョー世代でも、ソ連の女性兵士と対戦していてもおかしくないんですけどね。
体力面で劣るから女性が兵士にされないとは、長いこと言われたんですけれども。
実際には、女性兵士への暴行や、プライドぶっ壊されたくない男側への配慮もあるんですよね。
そこを逆手にとって、女性兵士部隊を作るとテロリストが「女にやられたら天国いけへん!」と焦る流れもあるほどです。
※『バハールの涙』
『八重の桜』でも「主人公が人殺してええんか!」という意見が散々でてきたっけ。
いや、大勢の男主人公は殺しまくりやんか。
戦場じゃない、クリエイターのキャリアもそうでした。
社会が女性の活躍を認めないとか。夫がゴネるとか。最悪の場合、夫が妻の功績を自分名義にして発表するとか。
そういうドロドロの悲劇につながりかねないから、本当にこれは難しいんですわ。
※『天才作家の妻 -40年目の真実- 』
それを朝ドラでやったら……これはもう大炎上よ。
でも、本作ならやりかねない!
それでも八郎を愛せるかウィークです
「何いうとんねん! 八郎さんに限ってそういうことはありえへんよ!」
そういう気持ちはわかります。けれども、先週ラストから八郎のあかんところをチョコチョコと出して来ていますよね。
二人だけなら甘い時間が送れる。
商品開発室はそんな天国ではあった。
しかし、そこを出たらそうじゃない。
川原家も。大野家も。そして丸熊陶業も。
八郎のやらかしたことを知ったら、呆れ果てるようなことがどんどん出てきています。
ジョーとは別の方向性で、八郎のカスっぷりが結構出てきている。
かわいらしさ。抜群の愛嬌。真面目さ。クリエイターとしてのセンス。才能。そして愛。
そういうもので、なんとなくごまかされてはいるけれども……飴と鞭をぶっこみつつ、本作は煽りに煽ってきています。
ほんまに八郎を愛せるんか?
沼から出てもええんやで?
そういう作り手の挑戦を感じる。ギリギリのところをぶん投げてくる。
それを打ち返せるかどうか、ここやで!
今週は天国と地獄を行ったり来たりさせられる。甘くて苦い、そんな週や。
自信満々、ブレイク目前や!
さて、そんな難あり八郎はそれでも魅力満点です。
[st-card id=138478 label=”” name=”” bgcolor=”” color=”” readmore=”on”]◆「離さへん!」再現 朝ドラ「スカーレット」舞台で松下洸平さんトークショー
公式ブログでも、こういうニュースでも、作り手が逸材獲得を確信を込めて語っていて、こちらもうなずきます。
海外の映画祭でお墨付きを起用とか、確かにそういうのはアピール性は抜群です。
しかし、これぞという逸材を発掘する――その喜びに勝るものはなかなかないと思うんですよ。
そういうパワーをビシビシと感じますよね。ええんちゃうか!
◆松下洸平 朝ドラ出演で女性人気急上昇!ディーン旋風の再来か
ディーン・フジオカさんと五代友厚は、海外からやってきた、これからプッシュするスター枠という意味で重なっていました。
本作の松下洸平さんと、八郎も、ぴったり個性が重なっているんでしょうね。
北村一輝さんは、エゴサをして落ち込んでいたそうですが。
◆『琵琶湖に沈めたれ』人生初のエゴサで落ち込む北村一輝に「今は…」と励ましの声!
八郎も、人によっては琵琶湖送りの運命かもしれん……。
本作の記事を見ていると、八郎の純粋さやクリエイターらしさを絶賛するものが多い。
ええんか?
ピュアなだけでは生きていけんのよ。
そこを、私は見守りたいのです。
文:武者震之助
絵:小久ヒロ
【参考】
スカーレット/公式サイト
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