昭和59年(1984年)が明けました。
喜美子は穴窯の前に立ち、何か決意を固めています。
誰かに寄り添うこと、助け合うこと
「かわはら工房」に戻った喜美子は、住田に穴窯をやらないと告げた様子。動揺する住田に、去年立てた予定を組み直すと説明します。
喜美子の強がりが悲しい。病気のことは言えないだけに、辛くなってきます。
でも、私たちも考えたいことではある。
身の回りで黙っている誰かが、人には言えない秘密を抱え、苦しんでいるかもしれないわけです。
住田はやっぱりえらいと思うのです。佐久間あたりとは違う。押し付けがましさがなくて、喜美子の判断に任せるところがある。
それが彼の商売のコツなのかもしれませんが、相手を尊重したやり方に変わりないのは確かでしょう。
ここで照子が野菜を持って、新年のご挨拶に来ました。
住田は敏感なので、何かあったのか?と喜美子に尋ねます。喜美子は穴窯は二週間焚きっぱなし、陶芸教室も始めたと告げる。そのうえで、展示会をしっかりやらせてもらう、稼がなあかんと言い切ります。
美術商である住田は、もう何も言えない。安堵の表情もありますね。
喜美子はやはり、喜美子です。
・穴窯に突き進む姿は、子どもの学資を切り崩しただけに「狂気」とまで言われたけれども……
→でも、自分だけのことしか考えていないわけではない。理詰めで勝てると思ったからこその邁進でした。我が子を思うからこそ、その穴窯を辞めるとキッパリ決めた!
・展示会で稼ぐでぇ!
→どこか浮世離れしていて、財産や名声に興味がなさそうで、先生扱いに戸惑っていた。せやけど、医療費のためならば稼ぐでぇ! 住田のためにも稼がなあかん!
皮肉にも、美術商との対応で喜美子と八郎の差が見えてきます。
佐久間に流されて前が見えなくなった八郎。
住田に任せるところはそうしながら、自分できっちり対処もできる喜美子。
喜美子は朝ドラ屈指の知勇兼備に突入してきました。『なつぞら』ならば、なつ&マコでこなしていたようなことを、周囲と協力しつつ一人でこなしてゆくのです。
住田は、黒川に年始の挨拶をすると去ってゆきました。
そんな強い喜美子ですが、もちろん一人で戦い続けることはできません。照子が野菜を取り出します。
「今年初めての家庭菜園照子ぉ〜! 愛がいっぱい、これで美味しいもんいっぱい作ったれ!」
「ほやな」
明るくマイペース、そんな照子がどれほど喜美子を助けてくれることか。
ただのおばちゃんで片付けられかねない彼女たち。マツ、陽子、大久保、そして照子たちがどれほど喜美子を救ってきたことか。
そういうおばちゃんの力を見せてくれる。これぞまさしく、女性を応援する朝ドラです。
緋色が、昭和ヤングの青春に落ちる
「ヤングのグ」では、武志がバイト中。ケチャップのついた皿を見て、鼻血と「家庭の医学」を思い出してしまう。
信楽焼の色を示す、緋色のスカーレット。それが血を連想させるのだから、おそろしいことになりました。
「ハッピーニューイヤー!」
そこへ晴れ着の芽ぐみと真奈がやって来ます。
和服も変わりましたね。芽ぐみの祖母が来ていた頃とは変わり、派手な髪型ともふもふ毛皮がつく。荒木荘で着付けを学んだ喜美子も、時代の流れを感じていることでしょう。
朝ドラで人生を学ばなあかんな。口のうまい着物業者に騙されるかもしれませんが、ああいうもんは別に伝統でもなんでもない。流行やから。
武志はびっくりしています。
「かわいいやん!」
「当然やん!」
ほやけど仕事始めちゃうん?
そう武志が戸惑っていると、芽ぐみと真奈の口から報告が。信金やめたってよ。信金窓口マドンナから宝田米店マドンナに移るってよ。
なんや、この昭和地方のリアルは。おめでとうございます。芽ぐみさん、学くん、よかったね!
そしてここから先が、真奈の本音です。負けずにたこ焼きパーティしませんか? そう大胆に武志に言う。
おっ? なんや田舎の人間関係を感じるで。芽ぐみが学から「武志は鈍い」と聞いた。ほんで芽ぐみから真奈へ「アタックしなくちゃダメ」と言われたとか?
ここで芽ぐみが、真奈先輩はたこ焼き焼かせたら信楽一だと言う。武志が、信楽一は俺やと対抗する。
自宅でたこ焼きパーティーデート。そんな昭和ヤングの流れが出て来ました。
このあと、武志は部屋をきれいにして、たこ焼きパーティーの準備をしています。
ふと目に入る、薬と『家庭の医学』。片付けようとして、よろめいてしまう。そして薬を手にして考え込む。そのとき……。
真奈はワクワクとしてアパートの廊下を歩いて来ます。手にしたビニール袋にはアイスクリーム。
「信楽一のたこ焼き娘が来ました!」
ドアを開けて、武志はこう言います。
「あ……悪い。用事ができて急用……ごめんな」
「あっ、いえ、ほな出直してきますね」
「ほんますいません!」
「気にきにせんといてくださいね。だいじょうぶ、だいじょうぶ、ほなさいなら」
真奈は去っていきます。
青春の一ページそのものの場面。それでもどうしたって考えてしまう。
芽ぐみと学は結婚できる。
でも、真奈と武志は?
難病者のお約束として、死んでしまった相手を美化するけれども、彼らは泣かせるために存在しているわけではない。もしも回復して結婚できたら、その方がいいに決まっている。
土は生きている、私たちも生きている
「ふ〜お父さんの足が臭いんやぁ!」
忠信の足の臭さを叫びながら土を手でこねる、そんな陽子です。
臭い認定者一覧
・ジョー
・信作
・忠信←New!
いや、おっさんが臭いのは当然のことです。しかし、こうも臭い認定を繰り返す本作に、何かを感じてまう。
忠信の足の臭さはさておきまして。陽子は夫への思いを、家事その他にぶつけたのでしょう。ほら、布団干しの時とか。
「やめぇい、そんな、妻が夫を憎悪しながら家事する姿勢明かすのやめぃ!」
そう思う方は、少しでも自分でなされればよろしいかと思います。今は便利なグッズも増えましたし。
※これをシュッ! ええ時代になりましたわ
やさしい気持ちで向かい合うこと
ここで喜美子は、奥深いことを言う。
「はぁ〜やさしい気持ちでな」
納得する生徒たち。
トンデモ科学のようで、こういうことはあるのでしょう。精神が荒れていると、作品にも出てしまうと。
スポーツ選手が試合前に同じようなことをするとか。パワーストーンネックレスをつけるとか。
そういうことを「なんやあのオカルト」と一概に否定はできません。それで精神集中できるのであれば【有効】なのです。
この陶芸教室の場面は、忠信の足のこととか、そういうネタでもない。喜美子が気分転換して、日常を少しでもプラスに持っていく、そういう意味はあるのです。
精神性を重視しすぎて危険なのは……
「仏壇前でアイテムを使うと出てくる、そんな亡夫の意見を聞く!」
「夢枕に立った亡き姉のお告げで、社運をかけた新商品を開発する!」
そういうやらかしです。
恋のためにも、知りたいこと
武志は県立病院にいます。
待合室には、苦しそうな少年と、それに寄り添う母。小さな役でも、本作の母と子には愛を感じます。
そこへ山ノ根が、また白衣を着ていない大崎を追いかけてくる。すっかり名物コンビになっちゃって。彼女は小さな役のようで、重苦しい空気を和らげる効果があると思えます。
「どうしました?」
大崎が気付くと、武志は「休日でも診てもらえると聞いたんで」とおずおずと言うのです。
とはいえ、先に診察すべきなのは、高熱が出ている智也くんのほう。あの母に付き添われている少年です。
武志は待てなかったのか。
アパートへ戻って来ます。部屋のドアノブに、ビニール袋がかけられているのでした。
良かったらどうぞ
真奈の可愛らしいメモがある。
令和現在、スマホ普及がしすぎて、こういうメモも減ってそうですね……。かつては、こういうメモを電子で再現するような、デコメールなんてものもありました。気持ちを伝える手段は、時代とともに変わるもんです。
武志はアイスクリームを手に取り、冷て〜と笑う。
まだ始まったばかりの恋。でも、だからこそ、武志は知らねばならぬことがあるのです。
この年代なら、恋のための知識は『ホットドッグ・プレス』の、北方謙三先生にハガキを送るとかあったでしょうに。
武志はまず病院に行かねば、恋すら前に進めないのです。
大崎先生がやって来た
喜美子が工房にいると、大崎がノックしてきます。
「陶芸教室はここですか? あっ、山ノ根から聞いたんで。陶芸教室やってるって。うちの看護婦です」
マイペースな大崎は、戸惑う喜美子に理由を説明します。
大崎は、医師としての説明は噛み砕いて、きっちり経過や理由を説明できます。けれども、日常の会話となると割とマイペースな展開をするんですね。
そういう不思議な感覚を、稲垣吾郎さんはきっちり読み込んでいてすごい。それだけでなく、作る側も彼ならばこういう役目ができると考えて作っているのでしょう。
「あっ、あの、入会ご希望ですか?」
「入会するものいいな。素人でもできますか?」
「素人相手の教室なんで」
なんか話がズレてない?
喜美子と大崎の対応がちょっと面白いんですね。大崎は医者だというオーラをあんまり出さない。よい意味でおっさんです。
これは稲垣さん自身の感覚もあるのかな? 白衣を着ていると、医者になってしまう。彼自身は押しも押されぬスーパースター。そういうところから抜け出して、素顔の自分を見せたいのかな? そういう距離感が生々しいんですよね。
やっと本題へ入ります。
「いや、電話をかけても出ないんで。ご実家にいるのかと。病院に来ていて、聞きたいことがあると。名前を呼んでもいなくて。この仕事長くやってると、ほっとけないことがあるんですよね。僕の場合、しょっちゅうなんですけど」
大崎先生、めっちゃええ人やん! それで喜美子ファンの山ノ根に聞いて、ここまで来たんです。それを偉そうにでもなく、自分自身でやるのだから、信頼できます。
でもちょっと心配です。医師として、どこかで切り分けねばならない、そんな患者さんと向き合う誠意が心配になります。
「ちょっと電話してみます!」
喜美子はそう言い、椅子を出して進めるのです。
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