昭和40年(1965年)、夏――。
余命が短いジョーは、最後の旅をして加賀温泉から戻りました。
武志は祖父母に甘えています。
喜美子がスイカを食べるかと聞くと、ジョーは温泉まんじゅうを食べて腹一杯やと断るのです。
温泉で悪いところは治ったのかと聞きつつ、こう続けます。
「うわ悪い顔! 悪いまんまやん! 病院行くでえ」
冗談のあと、キッパリとそう言い切る喜美子でした。
医事指導つきの生々しさ
ジョーが、八郎はどこか?と尋ねると、窯業研究所所長に呼ばれていると喜美子は答えます。
帰ってきたのに酒飲みかと愚痴るジョーですが……。
カスやな。残り短いとはいえ、昭和のカスさがたまらんわ。
昼間だし商談だと思えんのかっ!
【自分がおっちゃんと会う=酒を飲む→八郎もやろ】
こういう自分のダメさをポロッとこぼすから、ジョーは哀しい。
『なつぞら』の柴田泰樹はそもそもが無口だし、欠点を無意識のうちに言うようなこともしない。あいつは知略99だからさ。
そんなジョーは、ずりずりと這いずって寝ると言い出します。
医事指導もしっかりついている本作。
リアリティがある衰弱描写が切ないのです。
「ううっ……ガクッ!」
「【娘の名】〜〜〜!」
「ガマガエル(有毒)は栄養満点!」
「エロマンボダンスで色覚異常が治りました!」
そういうことをやらかした昨年の放送事故。NHK大阪も「これはあかん……」と反省したんやろな。
アホやけど、好きや
マツは、旅行は楽しかったと語ります。
聞けば、大阪で実家の墓参りをして、親戚に頭下げてから、加賀温泉へ向かったそうです。
これは哀しい……。
駆け落ちだった二人がこうするのは、もう二度と夫婦揃って旅はできないということなのでしょう。
喜美子に給料の前借りをして、大阪に来ていたジョー。
あんな元気かつ、ビャーッとした旅はもうできんやな……うっ、な、なんで、こっちまで、ジョーカスのせいで目に液体にじんでんねん!
ジョーは旅先で、アホなことばっかりしていたそうです。
何十年分も笑かしてくれてたってさ……。
スリッパ頭に乗せたり、温泉卵を孵化させようとしたり。
「アホや……」
そうしみじみと語るマツ。
関西の、愛がこもった「アホ」の用法です。これはええ受信料の使い方、関西弁啓発ドラマや。
膝枕をして甘えるジョーの姿が映ります。
ジョーを罵倒していた視聴者までもが、熱い掌返しをして号泣する。これはそういう流れやろ。強い痛み止めを飲んでるってよ。
マツはそんなジョーに、したげられることないか、何回も聞いたそうです。
何もない、そう言われたマツは、こう締め括ります。
「せやから、せかやらできることは、泣かんことや……」
おう、せやな。目の液体はもうええ。こっちも封印や。
喜美子はこう言います。
「うちでみよう。うちで」
百合子も同意します。
「うん、うちでみよう」
こうして、ジョーの残り少ない日々が過ぎてゆくのです。
ジョージ襲名の流れか?
さて、川原工房では窯業研究所の柴田が来ております。
当たり前ですが、酒は飲んでいない。
そしてここで【エエ方のジョージ】の名前が出ます。チラシもあると。
ジョージ富士川や。
「自由は不自由やでぇ〜!」
という滋賀県枠・西川貴教さんが演じるわけですが。こうなると。
【生きている方のジョージ】
【故・ジョージ】
うわーっ!
まあ、こちらのジョージも楽しみではあるんですけどね。にしても、えげつなっ!
前半ジョージがいなくなって、後半ジョージ本格登場って、なんでジョージ襲名みたいな流れなん?
「そら、紛らわしくないようにと。親切心やで!」
「うそやん!」
こういう脳内会話したわ。
んで、ジョーは知っているようで知らんと、投げるようなことを言って突っ込まれとる。
「どういうこっちゃ」
なんでチラシがあるかというと、窯業研究所が呼んだそうです。年末実演あるってよ。
美術商・佐久間信弘の伝手だそうです。佐久間さん、ええ和服着てはる。
八郎は、お義父さんも見にきたらどうかと誘うのですが、こっちのジョージは年末何してるかわからんと返されるのです。
ここって、考えようによっては、聞いても聞かなくても無神経ちゅうか。
どうなんでしょうね、八郎のこのセリフは。
そんな八郎は、所長の柴田と佐久間からこう釘をさされます。
陶芸展で金賞狙うんやったら、もうちょい強い個性を打ちださんと。
言われてみれば、並んでいる彼の作品は、新人賞作品と似た真っ赤な器だらけです。
なんだろう?
綺麗な作品だけれども、あの時ほど感動しないのはどういうことだろう?
そういうことはあるんでしょう。
ドラマでもある。『おんな城主 直虎』の小野政次と、『あさが来た』の五代様を混ぜたような、そういう一昨年放送事故朝ドラの人物。二番煎じ見え見えで、高橋一生さんの魅力が皆無どころか当人にとってはマイナスでしかなかった。
これも創作論かと思うとキッツイわあ。
【こういう路線が受けたから】と繰り返すと、だんだんダメになる。
NHK大阪朝ドラ、ここ数年の反省かっ!
京阪神実業家路線多すぎ問題――これは『カーネーション』あたり過去名作との決別も、彼らは考えているのでしょう。
「NHK大阪の違いを見せな(アカン)」
うん、で、八郎はジョージ富士川みたいな、大胆さが欲しいと言われる。
佐久間はこうも言う。
「本気が足らんのちゃうか? 今のままでもええけど、頭ひとつ抜きん出ると、息しやすうなるで。そや、一回有名になっとくと、息吸えて歩いていくんが楽になる。川原八郎の名で、なんでもできるようになる」
これも、こういうことを製作側が意識していると思うと怖いわな。
名が売れると、企画も通りやすくなるし、風通しはよくなるという実感はあるんやろなぁ。
そこをどう思っているか。こっちも気になる。
これは見るしかない。NHKには朝ドラでヒットを飛ばして、大河に行くパターンもあるわけでして。
「クリエイターの妻は素敵ですぅ〜!」「せやろか?」
「ほなそろそろ行くわ」
「ほなハチ、またな」
二人が去って行きます。
芸術論を語る立場の方が去りまして、残るのはゼニ勘定担当者のジョーですわ。
「こっちが五万、八万、十万……」
そう作品を指し示すと、八郎はまだそこまでは値がつかないと言います。
「そう言うて、もう何年経つねん。騙されたわもう」
これもある意味、キッツいわ。
八郎が伸び悩んでいることが、喜美子の過労に繋がっているとわかるわけです。
本作の残酷なところって、クリエイターを支える女性の厳しさを容赦なく暴いている面でして。
成功するかどうか、そこがわからんわけよ。
夫が何度逮捕されても悲壮感があるんだか、ないんだか――昨年の放送事故ヒロインがそうだったのは、【成功する】というシナリオがわかっていたから。
金銭面でも支えるのは非常につらい。
家事と労働がぶん投げられ気味で、喜美子は疲労しきっとる。
そういう【バンドマンを彼氏にした結果】みたいな地獄を、朝ドラはむしろ回避してきたと思えるわけですが。
これは、むしろど真ん中!
ジョーは八郎に、恩着せがましいことを語り出す。
なんで信楽で可愛がられとるかわかるか? それは川原家の人間になったからや。
大阪から出てきて、信楽に根っこ生やして。それをお前に引き継いだ。やってる仕事はちゃうけどな。
そうジョーは語ります。
「あかまつ」の飲みニケーションもそういうことなのでしょう。
確かに、ジョーは外面はいい。社交性はある。八郎とは違う。
八郎と信作の場合、そういうことが苦手な同士の交流にも思えます。信作はできるようになってはいるけれども。
にしても、キッツ……。
クリエイターは、ドラマを作るような人は、創造性を研ぎ澄ましていると思いたい。
そういう願望は視聴者もあるかもしれない。
でも、実際は人脈あるし、空気も読んどる。
うちらかてそや。
あの有名絵師さんが感想漫画で褒めているから、あの映画見たろ! そう思って、ええ情報やと拡散するやん? で、終わんのか? いかんでしょ。
人間は、そうやって空気を読んで、ええもん作るよりも人脈で仕事を得たいと思うようになる。
それが悪いこととは言わないけれども。
八郎も、そういうことを身につけてきた。
だからこう言える。
「川原家に入って俺の息子になったんや」
「つまり今の僕があるんは、全てお義父さんのおかげということですね」
ジョーは満足している。五年経って、そう言えるようになった。喪主の挨拶でもそれを言え。そう喜んでいます。
これはあかんやろ。
八郎のプライドにヒビが入っているような……。
ヒビ割れる感情
先週、ちや子の「きみちゃんの方がええもん作るかも」も、色々ざわつかれていましたが。
このジョーの発言は、もっと危険に思えた。
八郎のここが怖い!
その1「プライドが高い」
コーヒー茶碗でわかった。
陶芸家として自立するという気持ちが強い。それなのに五万の約束が守れていない。
八郎のここが怖い!
その2「冗談や脚色の区別がつかない」
ジョーの言葉は軽口、冗談半分だろうけれども、八郎には通じていない可能性がある。
ミッコー記事も、そのあたり揉めていた。
「全てお義父さんのおかげ」を本気で言っていて、自分には何もできないとなれば、爆発するかもしれない。
八郎のここが怖い!
その3「ジョーから学べるのか?」
ジョーの人脈作りを八郎が継承できるか?
ここも引っかかります。
卑劣だと拒むか。あるいは悪用を学ぶか?なんだか嫌な予感がする。
本作と『なつぞら』との違い――あのドラマには魔王軍団的な演出をされながらも、大天使マコ様が降臨していた。
イッキュウさんや神っちではできない、商売面での交渉を彼女がしたからこそ、クリエイターが実力を伸ばせたのです。
ここにそういう大天使はおらん……。八郎が人脈交渉を下手に学ぶと、大暴発しそうでちょっと怖い。
そこへ喜美子が怒りながら入ってきます。
「八郎さん、なんで断ったん?」
「何? なんのこと?」
この前、八郎が問屋さんからの電話を受けていました。
それを喜美子に確認せず、断ってしまったそうです。
八郎は、60個を喜美子が作れるかどうか、疑念を呈したのです。
「今、そんなできるかな」という返答をした。これに喜美子は怒ります。
「勝手なこと言わんといて! できるかできないんかはうちが決める! うちの仕事やん!」
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