弟子二人を辞めさせることになった八郎。
二人は、釉薬の調合をひとつも習ってない! 掃除と雑用だけだ! と怒りを喜美子にぶつけます。
NHK大阪が真面目に取り組む「シャドウワーク問題」
短いながら、モヤモヤとする場面ではある。
最近ズレてきている八郎ですが、丸熊時代は雑用も掃除もやってはいた。
喜美子は師匠の夫人であり、弟子はもっと敬意を払ってもよいはず。それに彼女も陶芸家です。
にもかかわらず喜美子に失礼な怒りをぶつけられるのは、「シャドウワーク」(家事労働等)の持つ構造でしょう。
昨年の放送事故では、調理師経験を生かして、シャドウワークを手伝うヒロイン母の下につくこととなる人物がおりました。
奇しくも弟子役の一人と同じ方が演じているそうです。
彼は製塩をする周囲から一段下にみられ、そのことをあざ笑う描写にされていた。
ヒロイン母が彼を下僕だのなんだのコキ使う様が描かれた。
SNS投稿でも彼を笑いものにして、その様子をネットニュースでまで取り上げていた。
あの元調理師を、骨折キャラだのなんだのみなす投稿までありましたっけね。
何をしていたか、わかっていたのでしょうか?
ああいう描写は、シャドウワーク蔑視そのものです。
シャドウワークは「まっとうな男」ではなく「価値のない女」がすべきものだというところに押し込んでいる。だからこそ、男が女の仕事をしていることが「笑える」ということになるのです。
昔のジョーク集や笑い話アンソロジーを読んでいると、目の見えない方が転ぶような障害者差別、あるいは虐待めいた話をギャグにしていた。
黒人はバカだとみなす「ミンストレルショー」は、そのど真ん中です。
あの放送事故の作りと、それに対して笑う風潮は、構造的にはミンストレルショーとそこまで差がないとは思っておりましたが。
「そんなことない! 私たちはただ笑っていただけ、悪意はありません!」
そういう言い訳は通用しません。
要は、いじめの加害者が「遊んでいただけ」と言い訳するのと大差ないんですね。
信楽に松永三津見参!
はい、問題提起はここまでとしまして。
川原家には武志が帰宅します。そこへ、フカ先生の一番さん、二番さんじゃないですか! 劇中では十年ぶりの池ノ内と磯貝です。大阪行ってたんちゃうか!
ここで、彼らの目的が明かされます。
はい、松永三津の登場です。
また濃いのが来たなぁ~!
公式サイトの登場人物も更新されました。
今までは、当時の風俗を取り入れるようで現代向けにアレンジしたヘアメイクでしたが、更新されたものは当時のモッサリ感が出ていて味があります。
特に直子な。
トラブルメーカー全開顔で、こんなん見た瞬間笑てまうやろ。
メイクも、三津もそうですが、綺麗な白ではなくて割と濃い色を使ってますよね。
『なつぞら』は北海道の雪のように白い肌だったと思うので、あれはあれでよかったと思います。年齢も考えて白く綺麗にして、そこから後半は薄くして、加齢を出す感じですかね。
『スカーレット』だと、むしろ歳月を乗せていくような効果かなぁ?
にしても三津は半端ないな。
もう、カッコからしてぶっ壊れとんな。
当時の流行といえばそうだけれども、美大生だからそうと言われればそうだけれども。
せやろか?
これは何かを感じるで!
※ヒッピーやで!
陶芸家の妻、その真実
工房では、柴田が喜美子の皿を佐久間に見せております。
そして、ここの会話がえげつねぇ……。柴田の本音が出てくる出てくる。
万が一、喜美子が賞なんか取ったら困るってよ。
夫の銀座個展の前に、妻が目立ったら困るってよ。
絶叫したくなるほどムカつく言い訳ですが、巧妙だし、視聴者は思い当たるところありますよね。
「生徒会長に女子ねえ。ここは副会長でええんちゃうか。会長は男やろ」
「ええアイデアやな。これをリーダー(男)の名前で出して、プレゼンしよか!」
そういう下駄の履かせ方。それが世間いうて、医大の入試から何やらで、女を落とすやり方よ。
※『天才陶芸家の妻 ウン十年目の真実』になったらあかん
もしこれが笑い飛ばせたら何の問題でもない。
八郎は、独自の発想による造形力、才能があるとかばうわけですが、男二人はそれに感心するどころか冷淡ではある。
「そんなに甘い世界でないこと、ハチさんがわかっとるやろ」
そういなされるわけです。
世界が甘い、そう厳しさを教えるようで、女である喜美子排除に動く構図はある。そういう生々しさから目が離せない。
柴田は黒川と一緒に来月頭に出すから、取りに来るとは言う。それまでタイトルつけとけって。
佐久間は立ち去る間際、もっとえぐいことを言います。
「ひらめきと感覚だけでパッパッとやってうちは、たしいたことないんや。怖いんは、これに知識がついたときや。豊富な知識に裏打ちされた自由奔放な作品ほど、怖いもんはないで」
佐久間はさらにこう続ける。
八郎の受賞作は見た目の美しさだけでなく、造形も前衛的だった。そっから進化していけばよかったのに、落ち着いてしまった。
「奥さんに才能あるなんていうてる暇あったら、もっと気張りぃ」
佐久間のセリフは怖いのです。
湯気をたてるやかんを乗せただるまストーブを背景に、何かが煮詰まってゆきます。
八郎の純粋さが失われてゆく
八郎が悩んでいると、喜美子が戸を開けて、一番さんと二番さんを連れてきます。
ここで再会を喜ぶ八郎と一番さん二番さんが描かれるわけですが、短いセリフがこれまた怖い。
二人は何の悪気もなく、えらいご活躍が大阪でまで評判だと褒めるわけです。
その言葉が、八郎には刺さるかもしれないわけですが……。
そして本題。
東京美大卒の弟子、若い女の子というだけで軒並み断られてきた――そんな三津を紹介します。
陶芸いうてもまだまだ男の世界。
それでも諦めきれずに、二番さんのところへ話が回ってきたそうで。
一番二番の二人は思い出した。
女性でありながら焼き物に取り組む、パイオニアたるキュウちゃんがおるやん!
本作では、喜美子もそうですが、若い女の子を男性だらけの世界に入れてはあかんという気遣いがある。当然です。
いや、そうかな……? 昨年の放送事故では、未成年であるヒロイン姪がそういう場所に放り込まれて、かつエロ目線を浴びていましたね。
ああいう加害者心理をギャグにして、被害者心理を踏みつけるような悪質な描写を、どうしてできたのか謎ではある。
犯罪まがい感覚、古いセンスの産物だとは思いますが。
喜美子はここで、一存では決められないと言います。
あっ、ここもちょっとつらい。
荒木荘の荒木さだは、ジョーに押し切られたとはいえ、彼女の一存で喜美子雇用を決め取った。喜美子には、さだほどの決定権はないちゅうこっちゃ。
八郎は個展のことがいっぱいで、そういう余裕はないと言います。
八郎は、極悪非道になってゆくわけではありませんが……。かつてのような感受性の強さ、喜美子に歩み寄る気持ち、そういうものをボロボロと落としていっている感じはありますよね。
松下洸平さんは2020年の顔になるな。ピュアで魅力的な、そういう八郎はできる人が他にもいると思う。
でも、そこから魅力が剥がれ落ちてゆく。そういう演技は、彼だからこそできるものがあるんやろなぁ。半端ないなぁ。
戸田恵梨香さんの場合、無邪気さがこぼれていくようで、時々光るからこれまたすごい。
松永三津はあばれ旅帰りだった
※2020年は柳生ブーム到来やで!
さて、その三津は武志とキックボクサーごっこをしておりました。
三津は半端ない
その1「女らしさという概念にそぐわない」
どういう性格や。
そりゃ一番さんも二番さんも、いきなり連れては来ないわけだ。
子どもと遊ぶやさしいお姉さん?
いやいやいや。
埃が立つでしょ。危ないでしょ。
普通の大卒女子なら、座ってお茶でもおとなしく飲むでしょうに。
そこへ喜美子がやって来ます。武志はこのお姉さん弟子になったんやろと無邪気に言います。
ここで、三津は喜美子に対して丁寧なまでにこうだ。
「よろしくおねがいします!」
この先、三津はお礼すら言えない、非常識、無神経、そう袋叩きになりかねないと思います。
そうなる前に書いておきたいのですが、そんなことはない。お礼にせよ、挨拶にせよ、きっちりできる子。親の教育、しつけはちゃんとしている。そういう子ですね。
どうしてわかるって? 彼女は近年の朝ドラでは、明確に近い性格の人物がおります。『半分、青い。』のヒロイン・楡野鈴愛です。
鈴愛は、挨拶もお礼もしているとわかる人物なのに、厚かましくてお礼も言わない人物だとさんざん叩かれました。
だからこそ、三津もそういうバッシングを受けそうだと先回りして指摘しておくことにした。
よりにもよって、あんなドラマのあんな女と一緒にするな! そういうあの作品アンチの声も予測はできます。その根拠も書いてゆきますので。
彼女らは挨拶できないわけじゃない。
むしろ、生きてくるうえで非常識だと言われてしまうから、挨拶は人一倍丁寧にしようと思って大仰、変なことになっているかもしれない。
三津は工房に連れて行かれると、はっきりこう言いますからね。
「お仕事中すみません! 松永三津と言います!」
話だけでも、そう言わはった。
喜美子は八郎にそう伝えます。
三津は半端ない
その2「遠慮しない」
これが三津ってやつよ。
八郎が忙しいと本気で思っているのであれば、それこそ常識のある普通の子ならば、日も暮れたわけですし、「あかまつ」あたりで一番さんと二番さんにお酌をしているか、あるいは電車に乗っていますよ。
忙しいのはわかるけれども、自己主張をしたい。自分なりに、相手に何かをぶつけたい。
秋風羽織に五平餅を持ち込む、そんな鈴愛のようにここは引けないのよ。
はい、松永三津タイム。
松永という人物は、今年の大河でも派手な暴れ方をします。
みんな大好き、あのボンバーマンこと松永弾正久秀やで!(※史実では爆発してません)
爆弾娘の三津と、爆発つながりよ。さあ、朝ドラではどうでしょうか。
三津は、大学卒業後、日本全国を回って来ました。
北海道から鹿児島まで、たった一人で回ってきたってよ。この時点で、剣術修行に出ちゃった系の半端なさがある。
そして弟子入りしたいけれどもできない。
でも、ここなら大丈夫だと思った。実家にも一人前になるまで戻らない宣言をしたそうです。だから何しとんねん……。柳生十兵衛か!
でも、喜美子もそうだった。
荒木荘でそう宣言してましたね。
三津は興奮して、八郎が三年前に受賞しているとも言う。
ミッツー、順番が普通やないで。
そこはな、まずは八郎の素晴らしさを褒めまくってから、自分語りや。
しかも、見た瞬間に「初めて見た、別の作家の真似した色味のものは見た」と言い切りますからね。あとからどんどん真似されるってよ。それは結構失礼な発言では?
八郎の了見が狭かったら、「真似できる程度のもんと言いたいのか!」と怒りかねないわけです。
ここで思い出したのは、フカ先生と八郎です。
八郎がフカ先生の絵を売った話。あれは感動的にまとめられていましたけれども、普通ならば売ったことは伏せて褒めまくってもよいところですよね。
三津は半端ない
その3「正直過ぎる」[/st-mybox]
八郎も、三津も、正直すぎると。そしてこうきた。
「あの、これどうでしょう!」
遠慮もなく、八郎のノートをずらして瓶を置き始める。
焼き物の産地だけではなくて、原材料の場所も訪ね歩いたようです。
三津は半端ない
その4「コレクター魂がある」
焼き物に熱心だろうと、荷物にこんなに瓶を入れて運ぶだろうか?
そこは三津だから仕方ない。そう受け流しましょう。
許可を得て手に入れてきた瓶はたくさんありました。
桜島の火山灰。鹿児島は島津斉彬はじめ殿様の掛け声もあり、薩摩焼は有名ですね。
北海道の黒浜砂鉄。
貝殻、石。これは坂本龍馬もニッコリ、月が美しい高知・桂浜のものだってさ。
三津は大学で釉薬の研究をしていました。
こういうものを加えて粉末にして釉薬に使うと、誰にも真似できない色みできるそうです。
土にも、他所のものを混ぜると独自の素地ができる。
貝殻は模様付けにも使える。
「どうでしょう! もし弟子にしていただけるのなら、今後の新しい作品づくりに是非活かしてください!」
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