「あ〜大丈夫じゃないです、怪我しました。弟子にしてくれたら治るでしょう」
「どこ怪我した?」
「心……」
黒島結菜さんという演技のプロによる、渾身の下手くそ演技です。
八郎は呆れ、笑われへんという。
喜美子はちょっと笑たと認める。
弟子にせんと八郎はキッパリ言い切りますが、喜美子は怪我を気にしている。
と思ったら、なんと三津の膝蹴りが命中して相手は倒れ、鼻血出したってよ!
うーん、この高い武力。
でも思い出しませんか?
喜美子も昔、こうだった。
ガキ大将の次郎をホウキ持って追いかけ回していた。
どこで、いつから、喜美子はこうじゃなくなったんだろう?
それでよいのだろうか?
三津はかつての喜美子に似ているのです。
三津は幼いところがある。それは無茶苦茶だけれども、とても大事で素敵なものだと思うのです。
喜美子は三津に思いやりを示し、八郎のお茶を与えます。
八郎は不満そうですけれども、口つけてないやんと喜美子は言うわけです。
それはそうです。食品衛生としてはそうでも、こういうお茶には愛情も籠ってる。
その愛や気遣いが移動するみたいで、ちょっと八郎としてはおもしろくないのかな。
三津はいたずらっぽくこう言います。
「釉薬でなくて夫婦の調合ですかね」
「中、見たな!」
「悪いかと思って見てません。キスって書いてありました」
おいっ、デリカシーどこ行った。
三津はデリカシーがないけれども、賢くてユーモアセンスはあるようです。
ここで喜美子は認めます。
日記じゃない、結婚前、将来こうなったらええなと思うて書いた「めおとノート」。五年先までしか書いてないって。
ご結婚から何年目かと聞かれて、五十年目と答える喜美子。八郎が突っ込むと、五十年先も一緒にいると答えます。それに対して八郎は百年先も、だってよ。
「うわ〜あ〜、いいなぁ!」
三津もジタバタ。
「このノートなほんまに大事なノートやってん。ありがとう」
「おおっ! では遠慮なく!」
そう三津は元気いっぱいです。なぁ、ミッツー。ええと思う。おむすび作るなら家事やから自分とも思わないで、堂々とそう言い切る。
しかも女で大卒で年頃。そういう嫁の貰い手、女子力を無視する突っ走り方、嫌いやないで。
三津は原時点でおもしろキャラと愛されてはいる。
けれども、いつまでそうなのか。現実にいたら空気の読めないバカとして、ネチネチ陰口だのSNS投稿だので叩かれているんではないか。
なんかこう、胸がキュッと痛くなって心配になる子や。
才能がある人は、無意識に人を傷つける
三津は喜美子の作品を眺め、八郎はテストピースを焼いております。
そんな三津に、八郎は説明します。
三津も面白いという喜美子の作品。
次世代展に応募する。
三津は新設された新しい賞だと相槌を打つ。先回りしておきますが、三津はアホやないから。なんかズレとるだけで。
八郎は、喜美子がそれを出品せず新作を作りたいと言い出したことを説明します。
せっかくこういうのができているのに……と三津が戸惑っていると、だいぶ前に作ったやつだと喜美子が言い出したと八郎は言います。
「ヒロシもそうでした!」
三津はそう言い出す。おう、さそり座の元彼氏な。
その彼氏、今は益子焼を学んで弟子入り。一年前の陶芸展で奨励賞を獲得した。
彫刻科だったのに、三津と交際してあっという間に陶芸で邁進したそうです。
良い作品ができても、あっという間にどんどん新しい作品を作ってゆく。
※益子焼。陶芸はええなぁ……
「作っていきやがる!」
とは、なんだか生々しい本音が出てきましたね。
八郎はこう返します。
「喜美子はちゃうで。まぁ、閃き型かもしれんけど。新しい作品作りたい言い出したのは僕のためや。一緒に前に進みたい言うてたからな。僕の横で新しい作品作ることで、行き詰まっているのを励まそうとしてくれてんねん。そういう奴や」
「よくわかってんですね、喜美子さんのこと」
「……そりゃ好きだから」
八郎の言葉に、三津は悶絶しております。
ハハハ笑いは貫禄なくなるでえ! そういうあたり、遠慮はないようですが。
「私はダメでしたねえ……」
三津は語り出す。
私の横で、どんどん迷いなく作っていく。できない自分に腹が立ってしまう。
「才能がある人は、無意識に人を傷つけます……耐えきれなくなって別れました」
そう語る三津。
本作は、才能の残酷さをじっくり語るようですね。
ええ発想と助言をしても、現実逃避する周囲からかえって疎まれる信作。
そしてこのヒロシと三津。
この、才能が周囲を傷つけるという点では、『なつぞら』でも秀逸でして。
なつの才能に驚かされていたマコ。
さらには神っちの才能を目の当たりにして、マコは心の底から傷ついて、一時期は引退したじゃないですか。イッキュウさんの才能ゆえの要求にも疲れ果てていた。
その後、神っちやイッキュウさんには一切期待できない――そういうマネジメント能力や交渉術によって、アニメの総大将になる道を選ぶ。
適材適所で、大きく羽ばたく。
あの役は本当にすごいと思えました。
傷ついたら、それはそれとして、相手にないもので勝ちにいけばよいのです。
昨年の放送事故のヒロイン夫。
あれはもうキッパリ捨てて、大河に期待したいハセヒロろさんですが。
ただ呼吸しているだけで周囲の空気が賢くなる、そういうハセヒロさんが演じても、ああも知略が低かったあれは一体なんだったか、ということでもあるんです。
あのヒロイン夫の才能が嘘くさかったのは、彼の才知で傷つく周囲はいなかったことにもあると思う。
ただただ、甘い汁を吸いたくて群がるコバンザメはいた。
本当に鋭すぎると、コバンザメがくっつくどころか緊張感が漂うと思うのです。
あいつのやらかしや愚かさゆえに、傾いた銀行はありますけれども。どういう無能だったんだと未だに思い出しますわ……。
明智光秀はその点、賢いからね!
さて、大河じゃない。
やはり本作は適材適所ではなく【ズレ】がある。
三津は辛い思いを語るのです。
「好きなんです。それとこれとは別なんです。胸がきゅーっと苦しくなる。会いたいよう。割り切れんよう!」
八郎は興味が湧いてきたのか、三津に名前を聞きます。
だからヒロシでしょ。そう言うわけですが、そうではなくて三津本人だってよ。
「さっき自己紹介したじゃないですか。よっぽど眼中になかったんですね。松永三津と言います!」
そのころ、喜美子はおにぎりを作っているのですが。
ここ、今日は八郎とジョーの違いについて考えてしまったんで、指摘しますけど。
八郎は極悪非道でもないし、暴力はないけれども。
言われてるほど、情に篤い方やないんちゃうか?
三津のことがどうでもよかったからこそ、体動かしても水分補給や影響補給が必要だと考えるようなことはしていないし。
名前すら覚えていなかったし。
弟子に疑惑をスパッとかけることもできたと。
「めおとノート」も、喜美子ほど気にかけていないような気がする。
そして彼は、決定的な誤解をしております。
喜美子最初の作品は、ナレーションの定義だと【自分自身のために作ったもの】だった。
喜美子の作る理由は、あくまで自己実現のため。
八郎は薄々感づいているのかもしれませんが、自分のためだと自分自身を騙している。
百年先も夫婦と言いますが、残酷なことを言えばその頃には両者とも亡くなっております。
無理なことをさらりと言ったところで、何にもならんということです。
お騒がせな泥棒猫? それとも?
三津は厄介なキャラクターになりつつありますね。
八郎が彼女に関心を持った。
これはもう波乱待ったなしですが。
「若い泥棒猫にババアが嫉妬!」
そういう持っていき方にしていないと、これまた昨年の放送事故と比較するとよくわかるんですね。
・ヒロインが義兄と歩いている目撃談だけで、不倫疑惑かとヒロイン夫が疑う
・ヒロイン夫は「さすがヒロインだ!」と口先で褒めるものの、心の底から褒めているとは到底思えない(日頃の言動も割と冷淡に思えます)
・ヒロイン姪に群がっていた男は、東京で容姿面でのスペックが上の女を見つけるとそちらに好意を移そうとする
・ヒロイン義兄は、娘をスペックでガタガタいい出し「もらう・もらわない」という言い回しを使う
・ヒロイン姉は、夫の仕事場に若い女性モデルがくるだけで嫉妬する
・ヒロイン夫は娘に対し「誰のおかげで大学に行けていると思っているんだ!」と怒鳴り散らす。ヒロインはそんな夫をたしなめない
・ヒロイン母はヒロイン夫妻の夫婦仲に気持ち悪い執着を見せる。ヒロイン自身も、我が子の苦難に冷淡なわりには、恋愛騒動には首を突っ込む
・ヒロイン義兄の画伯は、弟子にさしたる指導はしないでバカにしているものの「頭でっかちの殻を破るためには女」という関心は持っているようで
改めて、相手をトロフィーでしか見ていない。
男は若さと美貌。女はスペック。心なんて見ていない、薄っぺらさがあると言いますか。
うーん、なんという下半身欲求垂れ流しドラマ。よう受信料でやらかしたなぁ。朝ドラ枠でAV作りに挑んだのではないかというご意見がありましたが、無理もないかなと。
今回の信作にせよ、八郎にせよ。
相手をもの扱いしないで、人格を大事にしているからこそじれったいんですよね。
八郎が三津の悩みを聞いてから認識するところ。
これも奥深いんですよ。
八郎が「若い女! うっはー!」という下半身欲求ダイレクト垂れ流し野郎だったら、まずは義妹・百合子にエロ目線を向けかねない。うぅ、吐き気してきた。
工房に三津と二人きりになったら、もう大惨劇になりかねん。放送できんわ!
でも、それでええのかというとどうでしょうね。
三津の造形も、昨年放送事故エロマンボモデルと比較すると分かりやすいんですけれども。
・服装が個性的、かつモテ系で女子力高いコーデの真逆
・はっきりと自我がある
・家事に興味を持たない
・妻である喜美子を尊敬している
・子どもっぽいところがある
夫を盗む女狐造形からは、むしろ真逆なんです。
こういうプロットならば、彼女をコテコテの悪女にしてもよいところ。
そうじゃない、三津には悪意がない。
だからこそ、わかりにくくて視聴者は混乱してしまう。そういう厄介さがありそうでして。
それを和ませるために、信作と百合子はおる。
こっちもほんわかとがんばってほしい。めんどくさいだろうけれども……。
今年も複雑に突っ走りそうなドラマです。
文:武者震之助
絵:小久ヒロ
【参考】
スカーレット/公式サイト
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