自分本位に見えるからこそ、いきいきしている。そんな三津との落差が悲しい……。
喜美子は三津に休んでええという。
武志みてくれてありがとう。おやすみ。そう言い、三津は去ります。
喜美子は八郎の宿と切符を気にしますが、もう三津に頼んであると返されます。
直子は朝一で大阪へ戻る。お金は渡した。喜美子はそう言います。
そう語る喜美子は、いつも地味な服装。陶芸家の妻として、きれいな着物を買えるはずもない。
着付けは荒木荘時代に覚えたのに、肝心の着物がない。
もう、悲劇そのものにすら思えてくる。
そんな喜美子の手には「めおとノート」。
前みたいに書こうや。こんなふうになったらええなあ、と書く。
これからのこと。
八郎が東京行っている間に、ふたつみっつ、書いとく。
喜美子がそう言うと、八郎は、
「それを楽しみに帰ってくるわ」
と返します。
でも、それって夫婦で思いを通わせながら書くということではないのでは?
数日後、八郎は東京へ出発しました。
入れ違うように、次世代展の喜美子の作品が戻ってきます。
「春のお皿」が戻り、春という季節は過ぎてゆくのです。
過ぎるのは季節だけやろか?
喜美子は「めおとノート」を開き、鉛筆を握ります。
【新しい作品作る】
出来上がった作品を陶芸展に出品。金賞受賞。
ハチさん喜ぶ。うちも喜ぶ。
陶芸にうち込む。
透き通ったBGMを背景に、喜美子は集中します。
すごく名場面ではあるのですが、おかしなことに気づきませんか?
喜美子の努力。集中。作品。超えてゆくこと。
そのことこそが、八郎を苦しめる――そう三津から聞いていたのでは?
「めおとノート」に書き込んでも、喜美子の本質は変わらない。
紙芝居が見られないから、作った頃。
「女にも意地と誇りはあるんやぁ〜!」
そう叫んだ頃。
喜美子の本質は、挫折や結婚を経験しても、その頃から何も変わらないのです。
その本質が八郎を苦しめるのであれば、壊して進むしかないのでしょう。
崩壊で盛り上げてはあかんのか?
東京旅行に三津が行かない――とはいえ地獄は終わっていません。
喜美子をあそこまで徹底して同行させなかった時点で、危険です。
あれほど八郎は夫婦の時間を大事にしてきた。それなのに、喜美子の意見を排除してまで数日間過ごしたいという時点で、もう流れは決まったようなものです。
本作は緻密に壊す。
思えば、これも朝ドラ大逆転、転機になるとは思います。
『半分、青い。』はNHK東京の挑戦でした。
朝ドラの定番だと、主人公夫妻は早々と結ばれてしまう。
それを、敢えて最終回まで引っ張ることで、盛り上げる!
これを許した朝ドラチームはすごいなあ〜。そう北川悦吏子先生は感心しとったんですけどね。
「NHK東京、ええと思います。せやけど、NHK大阪も夫婦の描き方で、本気と違いをみせな(アカン)」
じゃあその中身は何やねん?
「夫婦の崩壊で盛り上げてはいかんのか?」
おっとろしい挑戦やろ。
百合子と信作は、激辛展開をやわらげるための存在やで。
本作は、狙いに狙って、視聴者のハートをぶっ壊す仕掛けが大量にある。
どういう地獄研究しとんの?
ドラマ作りのスキルを、心理的打撃を与える方面に振り切ってんの?
いやいやいや、ほほえましい場面もあるから、そうではないとわかりますけどねそのおさらいをしたいと思います。
ここで八郎の指摘してきたあかんポイントをおさらいです。
・押されると弱い
・距離感の取り方が独特で、急接近されると動揺が激しい
・冗談が通じにくい
・でも拒むとなれば強硬にそうする
気分的に、本気で嫌であれば怒って追い出すところでもある。
はい、前後のシーンをおさらい。
・直子は嘘をついていた。それなのに八郎は、喜美子が直子を疑った時点で「騙すなんてありえない」と言っていた。八郎は騙されやすい
・あのマツですら、激怒すれば直子に平手打ちができた。それなのに八郎はできないのか?
・婚外妊娠への言及が多い。喜美子は百合子がそうなったらあかんと止めている。直子はそれで嘘をついた。二度あることはなんとやら。三津は妊娠可能な未婚女性だ
・川原家の女性たちは話し合えばすぐ和解できる。そうではない人たちからすれば、驚くほどすんなりとそうなる。それでは川原家以外は?
「気になりますな……ご家族が楽しむ朝ドラで、何故婚外妊娠の話を? 百合子や直子、既婚者喜美子ならまだしも、婚外妊娠とは?」
「臭いますな……」
「婚外妊娠というのは……」
「うるさいわ!」
「失礼しました」
もう、私一人で地獄に落ちたくない。
ここはみんなで、一致団結して落ちましょう!
あかんのはNHK大阪なんや……。
文:武者震之助
絵:小久ヒロ
【参考】
スカーレット/公式サイト
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