作中だけの比較でもわかりますし、『なつぞら』のヒロイン一家と比べると残酷さがもっとわかると思えます。
あの一家は、妻も、夫も、娘を真ん中に挟んで、忙しくとも一致する雰囲気があったものですが。
この一家は全員揃っていても、あくまで謎の群雄割拠感があるというか……そういうのは、大河だけでええから――そう思う人がいるから、視聴率がそこまで伸びんのだと思う。ギスギスしてはいる。
※なんか燃えるしな……
光秀「心優しき八郎殿に、麒麟の絵皿を所望いたす!」
喜美子はあのカケラを見つめています。
薪だけで出る色合い。頬が緋色にすっと染まりつつある。燃えるような音も聞こえて来る。
「喜美子、どないしたん?」
ここで八郎は、後ろ手におむすびの皿を持って来る。
そこにあるのは、八郎の作った不器用なおむすび。
かわいい?
せやろか……。
喜美子は感謝してから、個展には食器セットを置くのかと聞いてきます。
作品と空間を分けると八郎。佐久間と柴田にも話したそうです。
「納得してくれはったん?」
「僕の個展や、やりたいようにやらしてもらう」
「そやな」
短い会話ですが、何かがおかしい。
・おむすびが怖い……
→砕けて、歪んでいる笑顔。関係性の象徴だと思うと、むしろ不穏すぎるから。
・下克上
→おむすびを作る側、食べる側の逆転。小さなところで下克上や。
・個展は食器を出す。作品と分ける
→これはもう、過去との決別に思えますよね。
・佐久間と柴田に、先に話している。だが、説得したわけではない
→喜美子の前に相談している。それに説得して協調路線に進んでいない。自分のものは自分のものだと、我を通している。こういう作家だったっけ? ジョージ富士川の徳とも比べましょう。
なにやら八郎の決別宣言のようなものすら始まっている。
団地見てきてん。東京でも大阪でも。帰りに万博で寄った(※劇中では翌年の設定)。
景気用なって団地も増えてた。ニュータウンや。
鍵っ子を見た。父母ともに働いている、ほんでも日ィが暮れたらいる。団地の窓に灯りがつく。
ライスカレーの匂いもした。うまそうやった。
あの灯りの向こうに、僕の作った和食器セットがあったらうれしいなぁ、思うて。
熱い瞬間や。
ジョージ富士川が言うとった。
心こめて、和食器セットぎょうさん作ったろやないか。
芸術を極めるんは、喜美子に任した――。
って、つらい!
もうこれは、ある意味出家宣言、剃髪した戦国大名!!
武田信玄はじめ、出家してからがむしろ本番というツッコミは、この際無視しまして。
八郎は、燃え尽き症候群だと思う。
熱くなるというけれど、彼の炎はポッとしていて、あくまで食卓を照らす。そういうほのかな灯りです。
「やめて。うちはそんなんちゃうわ」
喜美子は否定しますが。
「金賞目指すんやろ?」
「金賞は目指すけど……」
「何考えてん、言うてみぃ」
ここから、喜美子の熱い天下取り宣言が始まるでぇ!
信長「喜美子ッ、俺に皿焼いて来いよ!」
さあ、喜美子の番です。
狸の道を左に折れて、ずーっとずーっと、登っていくねん。
うちが大阪行く前の日や。道は荒れてて、足元悪くてなぁ。
この道でええんやろか。道間違えてへんやろか。
歩いて、歩いて、歩き続けて。
細い道を歩いて行くと、ようやっとパアッと道開ける。
そこから見える夕日が綺麗や。
お父ちゃんに教えてもらった。
そこで見つけたんが、このカケラや。
綺麗な夕日が映ってた。
映ってたように見えてん。
頑張りぃ言われてるみたいでなぁ。
明日から大阪や。負けんときぃ、よし行くでぇ! 思えた。
うちの熱い瞬間や。
明日から一人で頑張るでぇ!
あの……あんときの、あの気持ちを残したい。
何かに残したい。それがこの色や。このカケラの色や。
いつかな、こういう色合いを出して、誰かのことを励ましてあげたい。
頑張りぃ言うてあげたい。
夢や。
いつか叶えたい、うちの夢や。
そう不敵に微笑む喜美子。それを見つめる八郎の目は、戸惑うような、唖然とした顔なのです。
静かで情熱的な音楽が、響きはじめます。
折しも翌朝、夫婦で貯金した電気窯が故障。しかも修理屋も来ない。
大丈夫、あくまで燃えるのは窯やから……
あー、なんかすごいことになってきたな!
朝ドラで大河の予習できんか、コレ?
喜美子の大胆な宣言は、戦国武将も歩いていたような、そういう時代の色を再現することです。
でかい、なんという大志!
しかも見るものを励ます。
あまりに大胆不敵で、もう焼き物で天下取りに向かう、そういう意気込みすらある。
ほんまに『朝ドラで太閤記』やん!
そして八郎は、そんな『喜美子の野望』についていけない、唖然とした顔になっている。彼の炎はそんなに轟々燃えないからさ。
信長の天下取りについていけない――光秀はああいうバッドエンドになるわけです。
それを一年間、『麒麟がくる』で描いてゆくわけですが。
これから突っ込む地獄のような、夫婦の危機感も、こう言って慰められるから、NHKは極めて有能です。
「ええやん……朝ドラやし、あくまで燃えるのは窯や。本能寺やないんやで」
2020年、NHKは燃やして燃やして燃やしまくるらしい。
受信料でドラカーリス、ええんちゃうか!
三津は鏡
三津は解釈がややこしい人物像だとは思えるのですが、それは彼女自身があるようで、ないと言いますか。
喜美子と八郎の心を映す、鏡のような不思議さがあると思えるのです。
鏡は自分からはそこまで動かないし、誘うわけでもない。
ただ、目の前にいる人の気持ちを映し出して、そこに不穏があると増幅させて、破滅にまで追い込みかねない。
有名なところでは、『アナと雪の女王』のハンス王子が該当するとされております。
※あのあかん王子やな
『ゲーム・オブ・スローンズ』のメリサンドルもこの系統。彼女を見る側が天下への野望を募らせればその野心を映し出す。
けれども、相手が巨悪の打破を目指しているのであれば、そのために力を使う。
※待っとったで!
黒島結菜さんを信じて託したスタッフも凄まじいものがある。
もちろん彼女自身も覚悟を決めていて、嫌われても仕方ないという趣旨を語る。
三津をどう解釈するか、これは怖いところでもある。
だって鏡なんですよ?
罵倒する書き込みそのものが、自分自身の何かを映し出すんですよ?
まあ、私は「ん〜、アレやな、鏡やな!」で終わりにしときますわ。
文:武者震之助
絵:小久ヒロ
【参考】
スカーレット/公式サイト
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