スカーレット94話あらすじ感想(1/23)夢を邪魔するカネの壁

お母さん合唱団が「サニー」で盛り上がり、忠信がお盆をガラガラ落とす。そんな平和な日々。「サニー」はすっかり地域の溜まり場で、経営順調ですね。

いや、しかし!
順調ではない川原家がおるでよ。

剃り込みにパンチパーマがイカす、そんな当時のヘアスタイルの工事担当者が、こう扉を閉めます。

「よっしゃ!」

おお、修理できたんか。そう思っていると、奥で八郎の肩を抱いてこれやで。

「畳と女房と電気窯は新しい方がええで、なっ?」

壊れとったんか、修理できんのか!

そう盛大に突っ込むしかない。なんやこの生々しい関西ノリは!

そうそう。この「女房と畳は新しい方がいい」は、昭和に置いてきてええフレーズワースト1候補ですが、いまだに使う方もいるので始末が悪いもんですわ。

それに、三津がここにいる展開だと色々洒落になっていないという……。

光秀「おみくじを引き直したらいかがでしょう?」

マツは「サニー」で電話を受けています。

「ほなごめんな。今日な、あかんて」

ぐあーっ、これは信作受難の流れのようです。忠信はつぶやきます。

「信作、運のない奴やな……」

どうやら、ご挨拶の日とバッティングしたようだ。
まぁええんちゃう。信作は、諸葛亮と孟獲レベルの受難(=七回いろいろある)があるらしいから。しかも、肉体的打撃も確定だから。がんばれ!

ただ、信作個人の問題では当然ありません。

この場にいた照子は、なんといっても丸熊の尼将軍ですからね。

「電気窯壊れた! そら大変や!」

こうびっくりする。それからテキパキと、何かをしたようです。

照子の指示があったのでしょう。
「かわはら工房」から喜美子の小皿を運ばれてゆきます。八郎の個展のものはこれからのようです。

喜美子の方が、納期が迫っておりますし、スケジュール管理ができておりますからね。窯入れも喜美子が立ち会うってよ。

敏春もここで参上!
うちの照子がお邪魔して迷惑かけた、と謝ります。

視聴者の皆さんは、彼がお手紙を信作に託していることとか、初恋の相手と飲んでいたとか、わかっているわけでして。

インテリでエリート、見る目があってカッコいい! そういう敏春のあかんところも見えてくる。そこが本作の生々しい面白さではある。
敏春、個人的にはあの情けなさで、ますます好きになりました。演じる本田大輔さんも、魅力と深みがぐんと出ております。

役者さんの顔がええのは当たり前。かっこいいのは当然。情けなさがあるくらいで、ますますよくなるもんでしょう。

恋する気持ちは変わらない

その夜。信作と百合子は電話しております。

「大丈夫か? 聞いたで、電気窯壊れて大変なんやな」

百合子はそう言われ謝ります。
あいさつはまた先送りになってまう。なんか落ち着いてからの方がええというわけです。

同情の余地がない、直子の偽妊娠騒動!
そして電気窯!

姉二人の都合で、三姉妹の妹がいろいろ割りを食っています。金銭面では多少上向きで恵まれて……ないか。家庭科教師の夢を諦めたしな。まあええや。

「ゆりちゃんと電話? くくっ!」

「おやすみぃ〜」

「ゆりちゃんおやすみ〜」

「いけっ!」

信作の背後では、ご両親が喜んで見守っています。

信作は追い払おうとしますが、もうしゃあないわ。筒抜けやもん。

「なあ〜……電話は嫌やなぁ、会いたいわ、たまらんな……」

はい、ここから画面が二分割されまして。

「うちもたまらん、会いたい……」

「俺も会いたい……」

「うちも会いたい……」

「ちょ、ちょっと待ってな。俺も会いたい……」

「うちも会いたい……」

「会いたい……」

「会いたい……」

視聴者まで悶絶していますが、それどころではない悶絶が一名おりまして!

戸が開き、マツが入ってきます。

「いつまでやってんのん! ちょっと御不浄、ごめんな、ごめんな、あっ、みっちゃん、ごめんな!」

生理的欲求をギリギリまで我慢する――富田靖子さんという珍しい一瞬でした。何ちゅう生々しさや。

ここに三津もやってきます。百合子は切なげに受話器を持っているのです。

そしてマツも、すっきりして戻ってきます。そこには百合子と三津がちゃぶ台前におりまして。

「お母ちゃん」

「どないしたん?」

「話があんねん。あっ、みっちゃん、いてもええよ。ううん? うん。いて!」

「何や?」

「あんなぁ……あっ、あんな? さっきの電話な? あ……あの」

「電話な、便利なようで、あけすけに何でもすぐわかってまうもんな」

「やっぽり、聞こえてたんや!」

百合子はモジモジとしている。でも、マツにはお見通し。そのうえで、マツはこう語り出します。

あ、お母ちゃんの頃はな。

恋文や。
紙飛行機みたいに飛ばしてくれた。庭の高い塀乗り越えて、飛ばしてくれた。

うちのもん、誰もわかんないように、そーっと取りに行くねん。

お父ちゃん、書いて来た。

なんやろな。あの暑苦しくて臭そうだった、そんなジョーカスなのに、マツの思い出の中ではイケメンで、はかなくて、美しくて、えらいええ男に思えて来る。

※ん? そういえばええ男やったな!

どんな内容だったの?
そう問いかける百合子に、マツは返します。

「さっきのあんたの電話と同じや。会いたい、会いたい、会いたい書いてきた。きったない字でな……」

ここでマツが、こんな汚い字はあかん男としらけていたら、川原三姉妹はいないわけです。愛は勘違いもあるし、マツの結婚生活は波乱万丈ではあるけれども。

汚い字で飛んで行った、そんな紙飛行機のような恋文。それがあればこそ、この物語はあるんですね。

百合子は感極まっている。
ジョーカスの熱愛を気持ち悪い、嫌やと拒否した百合子も、そうではなくなりました。

「お母ちゃん……さっきの電話な。あんな……」

うん、うんと頷きながら聞いていたマツは、こう言います。

「信作君?」

「知ってたん?」

「なんとなくな。陽子さんの様子もおかしかったし」

おう、せやな!
マツは鈍感で無力と言われてきてはおりますが、人の心を読み取り、動かす、柔らかい能力はちゃんとありまして。マツなしでは破滅に至ったことも、川原家の歴史にはあったと思えて来るのです。

おもしろいことに、本作は後半戦で本質的な強みと弱みが発揮されて来ています。なくなったジョーですらそう。生きているマツもそうなのです。

恋心の生々しさも、普遍的なものもわかる。

マツは恋文。百合子は家電話。
百合子の子ども世代は?
『半分、青い。』の鈴愛は公衆電話に十円玉を置いてかけていましたっけ。

孫世代は?
ポケベル。コードレス電話。PHS。電子メール。ガラケー。スマートフォン。

「昔はメアド交換だったのに、今はLINEだね」

そういう流れは今もある。
手段は違うだけで、恋をして、やりとりして、ドキドキする心は一緒。

百合子がお姉ちゃんも知ってるか?と聞くと、マツは真理を突きます。

「いや、喜美子はそういうんに疎いところあるからな」

百合子はここで、喜美子も義兄の八郎も、鈍感だから気付かないとわかってホッとしているのですが……。

ここの三津。
一瞬ですが、何か閃いたような顔になった。

黒島結菜さんはどこまで演技力があるのか。怖い。彼女を見抜き、脚本を渡し、演技指導をし、撮影し、その効果を理解している本作チームも半端ない。

けれども、マツと百合子は気付くわけもない。手を握り合ってよかったと喜ぶ。

「ふふっ、みっちゃーん!」

そこに巻き込まれる三津は、平穏で優しい女性に見えます。

彼女は平穏な場所にいる時は、何も悪いことを象徴しない。芽生えていたとしても、燃えるわけではない。三津は何かあるところでなければ、無害な存在なのです。

それに、最近しみじみ思うのです。
彼女の恋愛感情をどうして責められるのでしょう?

既婚者に恋をするのは、悪いことではある。けれども、恋心そのものは美しい。それを百合子は見せてきたし、マツもそうです。

マツは、相手が悪いから「あかん!」とされてしまって勘当されたけれども。
見方を変えれば純愛です。

何が「あかん!」のか?
これがものすごく難しくて。

三津の感情そのものは、とてもきれいで透き通っているとは思えるんですよね……。
※続きは次ページへ

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