スカーレット113話あらすじ感想(2/14)変人と片付けるなかれ

喜美子の作品を買うために100万円を持ってきた小池アンリ。札束を置いて、キッパリとこう言い切ります。

「よろしいですか」

「よろしくないです!」

驚愕する喜美子は、100万と言えば引き下がるだろうからふっかけたと言います。そして、こう来ました。

「ほな200万、300万、800万や!」

しかし……。
後日、高そうなハンドバッグに札束持参でアンリは訪れます。

800万持ってきました

「うそやろ……!」

芸術品が奏でる音

喜美子は降参して、売れない理由を説明します。

「これはうちにとって、初めての穴窯で焼いた作品です。なんぼお金積まれても、お譲りすることはできません。1000万でも一億でもお断りします」

アンリは微笑み、諦めたことを告げます。

「手に入れるのは諦めたんで、聴かせてもらうだけでいいんです。よろしい? 聴かせてもろても」

聴かせる? 聴かせるとは一体?

そんな視聴者の疑問にも答えるように、アンリが陶器を指でそっと撫でる。こうやってこうすると、音が聞こえてくるんです――。

「おかしなこというおばはんや思てる?」

「はい……あっ、すいません」

思わず認めてしまってから、慌てて謝る喜美子に対し、アンリは持論を続けます。

「優れた芸術品は、会話をします。お喋りをする」

そうして先生も作ってるとき会話しいひんのですかと聞いてくる。陶器を作りながらお喋りしないのか?と。

「します! する時あります、心ん中で」

「自問自答?」

「あっ、します、します!」

ここの会話は、アンリと喜美子の【会話】とは違うとは思います。

喜美子は、もっと燃やせ燃やせ、作りたいもんを作るで、そういう気合いを入れるもんだと思う。戦国武将の「エイエイオー!」みたいな。

じゃあ、アンリは?
よく朝ドラで出したなあ、そう思います。

「芸術品は語りかけてくるんです……ほんで先生の作品は、おしゃべりやなくて、音です」

音を奏でる。
それを聴かせてもろてもよろしいかと言ってきます。

喜美子はわかったのか、わからないのか。

「うちはこっちで作業しておりますけど」

そう許します。

「ほなしばらくここにいてもよろしいんやね。あっ、うれしい、ほなお礼にいくらか」

「いや、お金は結構です!」

アンリ……なんだか切なくなってきてしまった。

変なことを言うおばちゃんだと扱われるから、自嘲的に先回りしている。そういう変人を見る目をとりあえず好意に変えるためにお金を使ってしまう。

けれども、彼女はうれしそうだ。小池アンリだと通じない喜美子に親近感があるようです。うーん、なんというお忍びのお姫様。

「うち、去年の秋の展示会でこの作品を拝見しました。一目惚れでした。なんともいえん、もう、心がグイッと掴まれてしもて。時々思い出して、また会いたいなぁ思て。欲しいなあ、思て。これでも半年ようこらえたんです。どうにも我慢できんようになって。ここを調べてやって来ました」

「ありがとうございます。うれしいです。本気やったんですね」

800万は嘘だと思った。
美術商か、転売目的かと思った。

喜美子の戦国武将じみた猜疑心ゆえに……そこは初めから腹を割って話合おうか。だからこそおもろいんやけども。

作る人と、見る人、そして聴く人

「すいません、ほんでもお売りすることはできなくて」

喜美子はしおらしくそう言う。
これだけ求められて、自分の作品が心を動かしていて、こんなに幸せなことってないと思う。

『半分、青い。』では、漫画家とそのファン、扇風機を作る人と使う人のこと。

『なつぞら』では、アニメとそのファン、酪農家と牛乳を加工する人と食べる人。

そういう作り手だけではない、受け手の顔があってよかったんですけれども。その積み重ねの頂点まで、本作は登っていきたいようにすら思える。

観客の顔が見えないどころか、やたらとミカンの皮を投げる野蛮人扱いだった一昨年。

神の子の威光にひれ伏す愚民扱いだった昨年。

そういうところから、NHK大阪はよくぞここまで……。

ただ、アンリはその中でもかなり特殊な人であることは考えたいところ。

「ほな、聴かせてもろてもよろしい?」

「どうぞ」

「カントリーブルース……カントリーブルースが聞こえる」

あの初めて穴窯で焼き上げた壺はそう。

ワルツ。

演歌。

もひとつ、演歌。

喜美子はカントリーブルースやワルツはよくわかっておらず、演歌にピンと来ています。親の趣味あたりかな。

面白くなって来たのか、自ら「ほなこっちは?」と作品を差し出すのです。

「シャンソン!」

「シャンション?」

「シャンソン、ソンや」

なあ、聞こえる? アンリはそう言いつつ、陶器を撫でます。

これは本作音楽担当の冬野ユミ先生も大変だ。

「水橋先生の脚本で、こうなっているので、陶器にあうこのジャンルの音楽お願いしますわ」

そう言われるの、めっちゃキツそうじゃないですか。でも、本作はあえて冬野先生の手腕に任せて投げている感じはあるので、楽しそうでもある。

注意したいのは、喜美子視点になっていると音が聞こえないところなんですね。喜美子には聞こえない音が、アンリには聞こえる。

鼻歌を奏でるアンリ自身が音の象徴のよう。喜美子はなんだか魅了されてしまい、楽しい時間を過ごせたようです。

「また来てもよろしいですか」

そう言い残し、アンリは去ってゆきます。ここですれ違った住田が、驚いた顔になっております。

母は自炊を期待するも、息子はそうしない

その夜、喜美子は電話を受けております。

相手は武志。

カバンにおろし金を入れないで欲しいってよ。照子農園の無農薬野菜と共に入れておいたらしい。お母ちゃんあるあるやで。

当時は鬱陶しいと舌打ちしていたものの、これを見て……

「お母ちゃんは俺の健康を気遣ってのことやったんや! おぉ、もう……」

と、悶絶する視聴者もいるとみた。なんという高度な朝ドラHELL。

喜美子はこの電話はどっから掛けてんのかと言う。うちのアパートやと答えると、こうだ。

「電話引いたん……おそろしい!」

これもお母ちゃんのボケあるあるのようで、ドラマをここまで見てくると痛感できるのがおそろしい。そうです、川原家に電話はなかなか引かれなかった。

本作の生々しさって、こういう細かい反応にありますよね。電話の進歩がさらりと流されると、ここまで生々しくない。

ここでの武志の電話器はベージュ系です。喜美子は黒。黒電話じゃないところに、ナウなヤングの心意気を見た。

プッシュフォン式、コードレス、ポケベル、PHS、携帯電話、折り畳みガラケー、スマートフォンと進歩していく。そのたびに、自分の時代にはなかった上の世代が驚く。同じことの繰り返しよ。

武志はすりこぎもいらんと言ってる。自炊は? 学が買ってきた弁当を食べています。横から差し出され、食べつつ電話しとると。

自炊の心配をする母との電話を、買ってきた弁当を食べさせながら受ける息子。生々しさに息が詰まりそう。すごいな、本作、半端ないな!

ここで喜美子は、窯業研究所にいる輝子の息子に話しかけて欲しいと頼むのでした。

そう、視聴者は期待してんねん、竜也の更生物語にな。

野球少年・竜也くんと“たけたけ”

「おはようございます」

窯業研究所に向かうと、竜也がおりました。パイプ椅子を二つ使い、ダラリと足を乗せてる。赤い口下に紫のトレーナー、それにあのプリン頭がたまらん。

たまに電車のボックス席でも似たようなことをしとるおっさんがおりますが、これからは温かい目で見ましょう。

「昔、朝ドラで見た竜也みたいなグレ方しとった、その名残やな……」

その上で、どかせると。

そんな竜也を見た武志は、学の言葉を思い出しています。

丸熊の長男、高校辞めたってよ。悪い連中に捕まって、フラフラしているらしい。

うーん、なんという典型的なグレ方。丸熊はまだ廃業はしていないようです。世が世なら、永山大輔とライバルだったかもしれない。

むすっとした竜也に、武志は話しかけます。

昔、こんくらいの時、野球やっとったやん。親が幼なじみの、喜美子、照子、信作。

「あっ、たけたけ!」

そう思い出す竜也は、純朴な田舎の少年に戻ってしまう。ふてぶてしいクソガキが、かわいらしさを感じさせる。これにはびっくりや。本作、どんだけ役者の可能性引き出すんや。

たけたけか。
武志は苦笑します。“兄ちゃん”がついてなかったのかと。

なんでも、ボール捕れない、下手くそすぎて、兄ちゃんつかないただの“たけたけ”になったのだと。そういうところまで八郎に似たんやな。

思い出してくれてありがとう。そう告げ、武志はホウキを渡します。

「掃除は上手やで、教えたるわ。まず来たらな、掃除から始めたらええんや。朝の掃除は心の準備運動や。あ、掛井先生の言葉や」

「おはようさん」

ここで、その掛井が入ってきます。そしてこうだ。

「綺麗にしてくれると助かるわ。朝の掃除は、心の準備運動やで」

「ほれ」

かったるそうだった竜也も、ホウキを動かし始めます。心が解きほぐれてきたようです。

大久保の言葉といい、シャドウワークを賛美する本作。こういう軽んじられる仕事も、気持ちを前向きにするうえでは大事だと伝えてくる、そんなことを感じるのです。

武志は、ちょっとした言動の隅々にまで、父親の影を感じます。

これは喜美子、直子、百合子もそうでした。子の中に宿る親の影がしっかりとあるドラマです。

親を邪魔者扱いして、馬鹿にするだけでは、得られない生々しさがそこにはあります。

熊谷家の家庭事情

ここからは、喜美子に向けて照子の口から説明される時間です。

◆熊谷家長男グレる? 丸熊陶業の今後は……

熊谷照子さん談話

 

竜也が野球部のレギュラーから外れた時。プロ野球選手を目指しとった夫・敏春は気が気でなかったのんだから、「よかった」言うてしもた。そっからもう険悪。

竜也、敏春さんと口利かへん。高校も野球やれんからって、勝手に辞めた。そういう大胆なところ、うちに似た。ほんで怒鳴りつけて研究所に連れてった。

敏春さん、かわいいてしゃあないねん。ようやくできた男の子やから、甘やかしてしもたんやな。

その頃、敏春さんは?
窯業研究所で、そんな竜也くんをそっと見守っています。ブラインドのかかった窓ごし、廊下から見守る、トホホなお父さんです。

「片脚引いたほうがええで。右手で押さえて、左手でねじる」

そう親身になって指導する、川原喜美子さんの長男・武志くんには感謝しかない、そんな熱いまなざしがそこにはありました。

さて、そんな照子さんですが。

「敏春さんは仕事以外不器用。言葉に出さず、そこは黙ってたんやろ」

夫への思いを語ります。ノロケですね。そこがええのかと喜美子に聞かれると、こう返すのでした。

「四十過ぎて何言わすねん!」
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