「何をしてるんですか!」
いたたまれなくなった信作が言う。おう、こっちも熱すぎてつらいほどや。気持ちはわかる。
「夫婦の会話や❤︎」
「うちでやって」
去り際に、ゆりちゃんの好きになったこと覚えてるやろ、と照子は言います。
かくしてラブラブな熊谷夫妻は去っていきます。
新婚さんのようで、何かちゃう。ここで照子が敏春に、忘れ物がないよう見るように軽く言うあたりも、ほんまにええもんがありました。
生々しいほどの愛があるな。なんや記憶を刺激されるわ。昨年、浴衣でやたらと寝室をゴロゴロして、「流石ヒロインだ!」と連呼するとか。無駄な入浴シーンとか。そういう下半身ダイレクト刺激して、萌えだのなんだのネットニュース光っとったアレや。
あれには、いくらごろ寝しても、生々しい愛がなくて。なんかただただ、浅ましいまでのやっつけ仕事を感じました。今年の大河でもアレを持ち出す論調ありますけれども、ええ加減、ハセヒロさんに失礼やろ。
『ゲーム・オブ・スローンズ』のデナーリスを演じた、エミリア・クラークが怒ってました。
「ほんまウザすぎるで。嫌なるわ。うちはあくまでキャラクター描写のためにやっとんねん。私のエロいところばかりチェックするような、そういう連中のためにやったわけやないんやで!」
役者はそれも仕事とはいえ、別にセクシーさを振りまくためにカメラの前に立つわけでもないでしょうに。結果的にそうなってしまったとはいえ、そこだけ見ているとアピールするのはどうでしょう。
人間誰しも内心の自由はあります。けれども日記ならばともかく、インターネットに書いたらばもう、それは内心ではないわけでして。
微笑み忘れた百合子など 見たくはないさ
信作はコーヒーをいれます。
火傷しそう。見ているだけで冷や冷やする。案の定、「あちっ!」とあわてとる。それでもなんとかカップに注ぎます。
「俺にもできるやんけ。うん、うまいっ……うまないわ……はぁ」
信作よ。ほんまにコーヒーそのものがうまないんか? それとも一人で飲んでもうまないんか?
信作は、思い出しています。
泣いている百合子の肩を抱いて慰めたこと。
手の大きさ比べ。
「あかまつ」に行くようになった理由を話したこと。人口増大に貢献してもええよ。多数決! そして交際が始まったこと。
三回言ったプロポーズ。
百合子、可愛い。大事にしたい。好きや。ほやからな、ゆっくり夫婦になろう。ゆっくりな。そう語る信作に、泣きながら「ありがとう」と言った百合子。
信作よ……信作が悩んでいて向き合えないこと。それは自分の気持ちだと思う。
近藤のことで苛立ったのは、自分との格差を痛感したから。自分自身の不甲斐なさがあるとは思う。
百合子の心が揺れただのなんだの責任転嫁していますが、自己嫌悪を百合子にぶつける、しょうもない八つ当たりだとは思うのです。
八郎も。信作も。
優しすぎるだの、王子様だの。そういう論調はありますが、この二人はかなり性格にくせがあって、受け止め切れる方が少ないかもしれれないとも思えるのです。
悪い人ではないから、対処や癖を覚えて受け止めんとな。ええところはたくさんあるし。これは『半分、青い。』の律や『なつぞら』のイッキュウさんにもそういうところはあったと思います。
近年、朝ドラは性格描写面で語り合っていると思えます。
セクシー俳優が「おいで」といえばええ。連続収監される極悪人だろうと「萌え! ほっこりキュンキュン!」でごまかせる――そういう手癖とテクニックはありますし、ネット投稿やそれを集めるニュースもできあがります。それこそ、お湯を注げば食べられるインスタントラーメンのように誘導はできる。
せやけど、それでええんか?
いかんでしょ。そういう意気込みは感じるで。
助け求め 慌てる心今 熱く燃えてる
そこへ電話がかかって来る。陽子です。
今な、有馬温泉! 信作が何の用やねんと無愛想に言う。そしてこれや。
「ゆりちゃんと替わって! ゆりちゃんと替わって!」
「今いいひんねん」
「したんか? したやろケンカ」
バレとる。それをごまかして、牛乳買いに行ってんねんと言い出す信作。朝から忙しい、嘘みたいに忙しいねん。そうぶっきらぼうに言います。
「まぁ、なんでもええけど、なかようやったってな。あんたの貰い手はのうても、ゆりちゃんの貰い手はなんぼでもおるんやからな」
ここで思い出される、百合子と信作の揉めた結婚までの顛末。大野家大好き、そう盛り上がっていたっけ。
「わかってるわ! 言われんでも、そんなん、俺がようわかってんねん! ほなもう忙しいから切るで!」
おっ? ここで切る時、こちらには聞こえたわけです。
「おかあさん合唱団」という団体名が。そういえばオープニングも(回想)つかない方が結構おりましたね。
信作は決意を固めたのか、百合子を追いかけるべくドアを開けます。
そしてお母さん合唱団、襲来――。
「おおっ! いらっしゃいませ、いらっしゃいませ……」
いくらなんでも襲来は酷いとは思いますが、信作が弱すぎて、これはもうおっとろしいことになりますわ。
息抜きのスピンオフ展開というわりには、毎回終わり方がクリフハンガーじみていて、凄味すら感じる。そんな今週です。
愛をとりもどせ! そのためには、距離を置くこと
絵画鑑賞教室あるある!
「この絵を近づいてよう見てください。気持ち悪くないですか?」
「はぁ〜、なんやブツブツが見えますなぁ。言われてみればなんかこう、鳥肌たちますわ……」
「それがこう、距離を置いて見てください。ほれっ!」
「ああ〜、綺麗な睡蓮の絵ですわ〜!」
ええから朝ドラの話せぇや――そう突っ込まれると思いますが、これは絵画だけではなくてドラマ、そして現実もそうだと思います。
今日は信作と百合子だから。そして助言するのが照子と敏春ですから、お笑いになっておりますけれども。
考えてもみてください。喜美子と八郎のこと。
喜美子と八郎は、夜、「かわはら工房」で語り合う幸せがあった。けれどもなんかちゃうやろ、そう信作は見抜いたわけです。
そんな信作ですら、自分のこととなると見えなくなる。
距離を置かないとわからないことが人間にはある。
喜美子と八郎から距離を置いて、信作と百合子、そして照子と敏春の目を通してこそ、夫婦関係が見えてくるとわかるわけです。
彼らは離婚して、やっとそのことを振り返る年月を経て、小池アンリの登場という転機があればこそ、やっと分析できる流れにはなって来ました。これは視聴者もそう。
あの夫婦の離婚の原因は、不倫だのなんだのと、散々突っ込まれてきてはおりますが、時間を置いて、新展開も見せてきて、そして満を辞してスピンオフと見せかけて、考えるところへ突っ込んできたと思うのです。
ネットニュースがある昨今、結末が出る前に分析は出て来る。私もその一人ではありますが……そういう反応を気にするとなると、インスタントにバシッと、伏線引っ張らないで終わらせた方が、作る側も見る側も、レビュアーも楽ではありますよね。
それをここまで引っ張るだけでも、本作は誠意と努力を感じるで!
そしてここが生々しさですが。
これはテレビの中だけで終わる話やろか?
別れていない誰かも。別れてしまった誰かも。その周囲も。
会話をしていたのかどうか?
ちょっと考え始めてしまうような、そういう巻き込み型の展開がそこにはある。ドラマの枠を超えて、人間関係を考えてみるとボールを投げられるような。そういう何かを感じる。だからこそ、毎朝こちらはヘトヘトになるのです。
『なつぞら』も「孔明の罠」システムで、下手に叩くとなんかに突っ込むものを感じましたが。こちらはいわば司馬仲達ですので、やはり、気が抜けません……。
※毎朝、燃やされそうや……
文:武者震之助
絵:小久ヒロ
【参考】
スカーレット/公式サイト
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