自宅でたこ焼きパーティー
武志の部屋で、乾杯をしております。ボクサーのポスターがこの時代らしい。
未成年の竜也はジュースで。そこはきちんとせんとあかん。
川原武志。
永山大輔。
宝田学。
熊谷竜也。この四人です。竜也くん、お友達できてよかったね!
しかも、ガスコンロたこ焼きパーティー。なんという関西。なんで買ったか思い出せない、台所の隅にある。そんなたこ焼き器。そこは活用せんとあかん! IHヒーター登場はまだまだ先のことやで。
※たこ焼きパーティーや!
ここで夏の思い出が語られる。
ビキニの美女とデート? うっはー! って、そういうんはもうええ。武志は、こう言います。
「夏の思い出は雪の結晶です! すごいやろ、寒いやろ!」
しかし、そこは昭和の青春です。参加者のみなさんは、むしろ石井真奈さんとのことを語って欲しいわけで。
それを武志は理解できてへん。大輔はイラッ。竜也でもうっすら気づいとるのにな。
そうワチャワチャ盛り上がっていると、武志は台所でうずくまってしまいます。
「あの体勢から鳩出すで!」
「愛の告白ちゃうか? 真奈さんのこと、ほんまに俺も思ってますねーん!」
そう盛り上がっていると、竜也が止めます。
「ちょっと! 大丈夫ですか?」
「ああ、ごめんな。大丈夫、大丈夫」
なんという啓発ドラマ。
アルコールが入っている。経験が少ない、かつ油断しがちな若者たちが盛り上がっている。こういう要素がそろうと、危険なこともあります。
急性アルコール中毒。
薬物混入。
大学生でこういう事件が起こりがちであるのは、アホやからでもなく、複数の条件が揃ってしまうから。朝ドラでそこへ突っ込んできました。この場合はそうではありませんが、条件としては揃っています。
何かあったとき、この竜也みたいに行動せんと!
※気をつけよう!
夏の雪、言葉、思い出を焼き付けること
ここで異変が起きる。
武志が鼻血を出すのです。
「止めぇ! 鼻血、止めぇ!」
これもアホみたいな話ですが、昭和といえば【鼻血=スケベな妄想】の結果とされておりまして。エッチなコーフンして鼻血ブー! そういう誘導です。
ありえへんとは言い切れなくとも、それよりも問題がある可能性はあるわけで、ふざけている場合じゃないぞ!
このあと、大輔と学は帰りました。二人きりになって、武志はこう言います。
「ごめんなそれ。せっかく持ってきてくれたのに」
ファミコンや。
インベーダーゲームから、ファミコンの時代へ。
※テテッテテッテ〜♪
1983年(昭和58年)7月15日発売。それを持っている竜也は、おぼっちゃまではあります。
誰もが欲しがるファミコン。
ところが、なんと武志の部屋にはつなげるテレビすらない。竜也はからかうわけではなくて、よっぽど一生懸命、帰ったら寝るだけの毎日だと感銘すら受けております。ほんまは素直なええ子なんやね。
そして思い出す。野球をやってたときはそうだった。肘痛めた。もともとそんなん無理やん思てたん。
そう語る相手に、武志は言い切る。
「夢は無理やから見るんやで。手ェ届かへんから人は夢見るんちゃう」
「たけたけは、どんな夢見ているんですか?」
竜也は、たけたけと呼ぶくらい心を開いた。それでも敬語。敬意と愛がしっかりとあります。
亜鉛結晶のデザイン化。器に雪を降らせること――。
それは終わったのではないかと聞く竜也ですが、武志はどうしようと軽く笑います。
「夢見てくださいよ」
「お前もな。悪ぃ、寝るわ」
「調子悪いんですか?」
「いや、飲み過ぎてん」
「どっか痛むとか?」
「ちょっと寝たら治る。おやすみ」
武志は疲れているのか、そう断って眠るのです。
母の気遣い、子の強がり
このあと「かわはら工房」に照子が来ます。
竜也が照子に鼻血のことを伝えておりました。照子はジョーの体調不良を知り、そしてその子である竜也は武志の異変を知るのです。
照子と竜也が臆病と言いますか。慎重なところが重要です。野菜を届けつつ、ドーンと構えるがゆえに図太い喜美子に告げると。
川原武志の体調は?
・鼻血が出た
・一月前にも、酷い風邪をひいた
・疲れたまってんちゃう?
案の定、そういうことを知らない喜美子。さすがに異変を察知し、武志のバイト先「ヤングのグ」へ向かいます。
昭和関西のおばちゃんらしい店長は、きっつい色付きレンズメガネと髪型をしております。ヘアメイク衣装さんもええ仕事してはる。
店長は、体調悪い、だるいと言うて休みがちだと告げるのです。
すかさず喜美子が「いやーすいません、ご迷惑おかけして」と頭を下げていると……その武志が現れました。
喜美子が体調が悪いのか?と尋ねても、武志はかったるそうにしている。息子あるあるですね。
「ほんま大丈夫やから。お母ちゃんこそ痩せたんちゃう」
そう強がる我が子を見ている喜美子です。
けれども、彼女は見守るしかないとは思わない。そういう喜美子は、この異変にどう立ち向かうのでしょう?
夏の雪は、儚く消える、そんな何かの象徴――。
消える姿ではなく、焼き付けられたものを、考える時間が始まろうとしています。
難病を描くということ
突っ込みたいことはあった。
日本のフィクション、難病で若い女を殺し過ぎ問題!
※架空難病も出てくるわな
これは最近のことでもない。昭和の定番が白血病ではあった。
※『赤い』なんちゃら
こういうことを、フィクションで描くのってどうなのか?
昔からひねくれていて嫌いなので、こういうやりとりをして人間関係がしばしば破壊されました。
「なぁなぁ、この話感動したで! 読んでみぃ!」
「やかましわ、こんなもん医学知識にむしろ有害や! むしろこっちや、『ハンニバル』やで!」
「そういう医者の出てくるフィクションは求めてへんから……」
※レクター博士は精神科医
でも、別に後悔はないといいますか。
最近、弊害をしみじみと感じるようになりました。
やりすぎて、パブロフの犬状態ですよね。誰かが難病にかかったという条件の時点で、
「号泣!」
「涙止まらない!」
「そんなネットの声が!」
と、こうなるわけでして。
ゾッとしたのは、史実において過労死した女性がドラマに出てくる時点で、
「ハンカチ用意しなくちゃ!」
という投稿を見てしまったこと。
人間は、別に泣かせるために、号泣投稿をさせるために、病になるわけではありません。
フィクションで死ぬ。泣く。それでええんか? いかんでしょ。
人間の命って、おもちゃにしてはいけませんよね?
でも、手癖になって、それで「ネットの声が!」という反応があるとわかると、簡単にそのタブーを踏んづけますよね。
一昨年の、仏壇前セーブポイントでアイテム使うと、死んだはずの夫が出てくるシステムとか。
昨年のオーバー80老母の「死んだと思った? 実は生前葬ぉ〜〜〜!」とか。
こういうことは、反省しなければ意味がない。いくらネットでワーワー言ったところで、それでええというわけはないでしょう。
それにこの作品は、医療考証がしっかりしていて安心感がある。ジョーの最期は、圧巻でした。
足を怪我したのに咳き込むみたいなお粗末表現は、もうええから。
人は理由を探します
朝ドラでハンディキャップを出すことは、なかなか難しいことではあると思う。
見る側が気に入らなければ、ハッキリ言って無視される。わかりやすい例が、『半分、青い。』と『なつぞら』でありましたね。
『半分、青い。』では、鈴愛がムンプス難聴で左耳が聞こえないという設定でした。
それでも鈴愛が気に入らないと、こういう意見まであったもの。
「脚本家が自分と同じ障害を出すとか、ウザいしムカつくだけだわ」
「そんなもん知らねえし」
「片耳が聞こえない表現が出てこない!(※指摘するのも疲れましたが、出てきているし、かつプロットにも関与していました)」
『なつぞら』の、ヒロインが戦災孤児設定も、届かない人にはそうなってしまう。
「イージーな人生!」
「苦労知らずのなつ、なんて浅はかで馬鹿な女!」
どうしてそうなる?
人間は、嫌いなものをまず叩いて、そこに理由を後付けするから。
『半分、青い。』は脚本家。
『なつぞら』は主演女優。
そして両者ともに、女性の自立もテーマに組み込んでいる。
このあたりが気に入らないけれども、それをハッキリ言うとあまりにゲスいので、叩けるポイントを一生懸命探すんですね。それでも思いつかないとなると、ネットやニュースを探して見つける。
「お前はどうなんやクソレビュアー!」
わかっとるで、それな。
昨年のアレは、事前段階できっちり予想できてたで!
台湾ルーツ削除の時点でいかんでしょ。自分の脳味噌ひねくり回して出しとったわ。ネットの声なんて漁ってへんで!
どんな過ちでも、複数の人間が語れば、それには説得力が生まれるものです。定着します。鼻血がエッチなコーフンのシンボルになったみたいにね。
そのうえで、自分を飾りたてます。
朝ドラ大好き。ドラマ通。教養あふれるこの私。フォロワーも多いんだから!
右手に理由という剣を持ち、左手にステータスという盾をつけ、いざ出陣じゃ、この私を怒らせおって! エエトウエエトウ!!
こういう仕組みを、もう作り手も把握しつつあるので、考えた方がよいでしょう。
そのうえで、本作はかなり策を練っているとは思いました。
誰かが難病で倒れる。そんな悲劇が盾となって、盤石な守りになるかもしれない。そこであえて、先週に隙を作って相手の出方を見ているのでは? そういう何かを感じたで。
ほんまに司馬仲達が作っとるドラマや……。
※気ぃ抜けん日が続くで
文:武者震之助
絵:小久ヒロ
【参考】
スカーレット/公式サイト
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