昭和58年(1983年)、冬――。
八郎が川原家に来ています。
そこへスーパーの袋を持った喜美子が登場。エコバッグはまだまだ先のことです。
このスーパーの袋も、時代がかったものになりつつあると。
マツ世代は、買い物かごでしたね。
もくじ
無施錠、これぞ昭和の田舎
喜美子はそしてこう言います。
「おいしいもの、食べさせてやろ思て」
かつて川原家では野菜を畑で収穫し、食べておりました。そこが穴窯となった今、スーパーで買うのです。
八郎が、おいしいものは名古屋で食べてんで、と返す。エビフライとか手羽先やな。喜美子はそれに「武志や」とつれなく答える。今朝も世の父へのデッドボールが期待されますね。
「あ、はい」と答える八郎に、喜美子はこう来ました。
「鍵、開いてんで」
「閉めなあかん!」
生々しい防犯意識やなぁ。
かつて川原家は、泥棒に入られた事件があります。それで喜美子は進学を断念しました。釉薬ノートの事件もありました。喜美子はそれなりの資産はあるはず。金の厳しさは身に染みているはず。
それなのに施錠をしない。女性一人暮らしで一番危険なのに、しない!
生々しい昭和田舎のリアルが、キッツイでほんまに……。
「ええなぁ〜、昭和って平和やなぁ〜」
と、まるで当時の人々が全て善良みたいな礼賛を時折目にしますが、手放しで褒め称えるのは注意しておくべきかと思います。
例えば、昭和の広島は暴力団員が昼間から射殺しまくっておりましたが、そういうことを当時の東北地方の人であれば知らなかったりするのです。認識できなければ、それまでのことですから。
報道網の整備、人間の意識の変化。そこはふまえましょう。
※実録じゃけえのう……
喜美子と八郎は買い物を片付けつつ、陶芸教室を始めたことを話し始めます。八郎はチラシを見たと返す。
これが和解前なら、チラシを見ただけで胸が痛んだことでしょう。
喜美子は人数が少ないけれど、大人と子どもでクラスを分けると言います。
武志も手伝うのかと尋ねる八郎は、次世代展への応募作品ができたこと、掛井先生に褒められたことも伝えます。
「そういうことは報告するんやな」
喜美子はそう言いつつ、武志の体調について触れる。八郎もなんとなくは知っているらしい。そのうえで、自分の体験もふまえてこう言います。
「何も食べんとやってたんちゃうか」
そうそう、八郎は集中すると食べなくなって、喜美子に食べさせてもらっておりました。
喜美子は「今日来たらいっぱい食べさせてたろ」と張り切るのです。
今、すっとろい男が朝ドラで静かなブーム……
ここで百合子が、アップルパイを持参して登場。すごいなぁ……と、喜美子は驚く。
おはぎの姉と、洋菓子の妹に、世代や性格の差を感じますね。百合子は、クリスマスと誕生日にケーキを焼くおかあさんになった。バレンタインも手作りかな? それともデパートの地下か神戸で買うのかな?
切ったアップルパイを仏壇にお供えするところにも、たまらん生々しさがある。
お供えはなんとなく和菓子にしたほうがええ。そういう気持ちはあるかもしれませんけれども、だんだん消えていくものです。お茶でなくてコーヒーをお供えする家もあることでしょう。
ところが、妹の桃だけしかおりません。あれ? 姉の桜は?
百合子がここで、親子喧嘩したと言います。ピアノ行くのをサボったってよ。
喜美子と百合子の二人が話を始めようとすると、桃がゴム跳びをすると言い出し、八郎が「おっちゃんも一緒にやったろ」と助け舟を出す。しかし……。
「ハチさんが? この人絶対できんから気ぃつけてな」
「できるよな」
「やり、ましょか」
喜美子がからかい、八郎が応じる。そういう仲になりました。そして二人は外に出て行きます。
コレ、何度も書いているんですけれども。『なつぞら』のイッキュウさん、この作品の八郎と信作。スポーツができない男性でも、それはそれで愛嬌があってええと示すことは、大事だと思いますよ。
スポーツ万能イケメンがモテモテ? いつまで昭和ラブコメやっとんねん!
乙女ゲーツッコミ実況だの、最近のディズニーアニメに、
「なんやねん、こんな女に都合のええことばっかでアホらし」
と冷笑しとるわりには、恋愛フラグに鈍感だとか、スポーツできない男性がドラマに出てくると、
「ありえへん!」
「わからんわ!」
と言うのはなんかもうちょっと考えたほうがええ。
理解示されても冷笑を返したら、何も解決せんから。
育児に迷ったら、喜美子に聞いてみよう!
ここで喜美子は、百合子の気持ちを聞いています。
喜美子先生の育児相談室
相談者:大野百合子さん(滋賀県)「長女が習い事のピアノをやめたいと言い出しました」
相談者:発表会でも、うまくできたのですが。それで満足してしまったようです。
ピアニストを目指しているというわけでもありません。けれども。途中でやめてしまうのはよいこととも思えません。
そろばんも、習字も、途中でいやいやと放り出してしまう。
先生:自分からやりたい言うたん?
相談者:それは……大事やで。そろばんも習字も大事。うちかて習いたかった。うちができひんかったことは、全部させてあげたい。学習塾行って、短大行きたかった……。
先生:ちょっと仏壇前で、おかあちゃんに相談してみましょう! はいはい、座りぃ。子育てがんばってたら、大事なもん、どんどん増えてきたなぁ。
相談者:わかってるよ。そんなん言われんでも、何が大事か。
今朝もEテレと言いますか。
喜美子がカウンセラーになりおったわ!
『なつぞら』のレジェンド・とよに匹敵する風格ついてきたわ!
会話の中で、喜美子は百合子の心の扉を開けたようです。
昭和名物でもあった教育ママに、百合子はなりつつある。
エプロンをつけて、ケーキを焼く、そんな専業主婦。子どもの習い事をともかくさせたい。レッスンバッグを作って、そろばんをかわいい袋に入れてくれる。晩ご飯も用意して待っている。
あのママたちは、自分ができなかったことを、我が子にさせていたと本作は迫ります。
そういう存在が、どれだけイレギュラーで、一時的なものであったか。
本作を見ていると理解が深まりますよね。
マツ世代以前はそうではないし、百合子だって今からすれば古いし、喜美子ははみ出している。『なつぞら』は、【ありえないものを本当のことのように描く】テーマがあったがゆえに、なつも夕見子も外れていたものです。
【鍵っ子】という概念が出てきたあたりでも、本作は問題提起的で野心を感じたものですが、ますます深く掘り下げてきたで!
そしてこういう、百合子のような母親に育てられた世代が、今の社会問題にもつながっているのではないかと考えたいところでもあるのです。
今、休校が全国で広がり、問題が起きております。
どうにもその背景には、休校にしたところで家には百合子のようなママがいるはずだ――そんな甘い見通しを感じずにはいられません。
『なつぞら』のような共働きとか。『半分、青い。』のようなシングルマザーとか。
「あんなんありえへん、ごく一部やろ」
そういう偏見がなかったと思いますか?
私は、あの作品のヒロインが、パブリックエネミーじみたネットリンチすら受ける様子を見て、嫌な予感がしていたんですけどね。
後付けで言うとるわけやないで!
さんざんそのへんに突っ込んできて、ほんでボコボコにされてきた。そういう心の古傷と青痣写真を見直すと、確信できるんや。
【悲報】大野信作、娘に「お父さん、臭い」と言われた記念日
喜美子との対話で、自分の心を知った百合子。そこへ桃がこう言います。
「お母さん、お姉ちゃんきたよ!」
「桜……」
「ごめんなさい。ピアノ続けます。やめません」
桜がそういうと、背後で信作がこう突っ込んでいます。
「ちゃうやろほんまは……」
なまじ本気出すと鋭い信作は、娘のやめたい気持ちを感じたのでしょう。あとで話そうかと促されつつ、百合子はこう言います。
「桜、やめたかったらやめてええんよ。桜の気持ちが大事やからな。叱ったりしてごめんな。あとで話そう。帰ったら話そう……な?」
ここで信作が納得していると、本日渾身の豪速球デッドボールが放たれます。
「お父さん、臭い」
しっとりしたBGMから、盛り上げてアップテンポに切り替えつつ、朝ドラHELLやで!
しかも喜美子たちは容赦がない。
「今、臭い言われんかった?」
「おう……こんなにええにおいのする父親おらんわ!」
「キッツイなあ」
「ええ匂いやで」
百合子は天使なので庇うから優しいけれども、喜美子は容赦なく焼き討ちを仕掛けます。背後で八郎がいたたまれない顔になったのも、細かいと思いました。
本作は「お父さん、臭い」ネタが好っきゃなぁ。ジョーの手拭いは汗だから、まあ、わかる。濃い顔やし。
それが滋賀県枠の林遣都さんでも、臭い! 臭い! 臭いってよ!!
ええんちゃうか。生物学的に自然なことやで。近親でのそういうんは、遺伝子異常を起こすことがある。ゆえに、遺伝的に近いと本能が気持ち悪いと告げるよう、人間はできとんねん。
臭い、パンツ一緒に洗うな、キモい、ウザい。娘の拒否は、正常なことや。イケメンだろうが、キモいもんはキモいねん。「ただイケ」は平成に置いてくるべき概念やで。
「父の前でモデルになって、エッチな絵でも描いて欲しいのォ〜」
娘同士、義母まで乱入して言い合う。そういう『ビビッドアーミー』広告レベルの惨劇は、昨年だけでもうええから。ほんまアレには吐き気したで! 受信料使って、エロ漫画レベルの妄想を垂れ流すのは、もうええから……むしろ有害やから!
※今は便利なものあるからええんやで……
朝ドラも、子離れせんとあかん! 配慮は捨てな!
そして夜。豪華な夕食です。
喜美子は武志に電話をしています。何してん、はよ来い! そうは言われても、掛井先生が急に来はったと断られるのです。
とはいえ、嘘だと親の側はわかっている。信作は電話の向こうから「早よ来い!」と怒鳴りつつも、気持ちはわかっています。
「そら来えへんわな」
「まあ元気いうこっちゃ」
「せっかく用意したのになぁ」
そう女性から慰められ、男性は来たくない気持ちはわかると思われる。
家族の姿です。信作と八郎は、ちょっとした言動から気持ちが一致しているとわかりますよね。細かいなぁ。お母ちゃん、うっとうしいねん。
信作はよせばいいのにこう口走る。
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