大阪らしさはセーブされる。一方でNHK東京が河内弁罵倒(『半分、青い。』八尾市出身・豊川悦司さん)を繰り出し、飴ちゃんも出してきた(『なつぞら』枚方市出身・橋本さとしさん)。
ここまで色々たまっていたら、そら桜庭ななみさんをヒョウ柄おばちゃんにするくらいせんと、解消できんわな!
対する戸田恵梨香さんは、ほんまに菅原文太さんのような風格が出てきました。
直子に酒を勧めます。
「飲みぃ」
なんやこの、若い衆を気遣う組長のようなオーラは……。昨年は山守夫妻みたいな主人公でしたけれども、それも終わりや。
※喜美子にあこがれ、喜美子を生きる……
これがほんまの「わけわからん離婚」
「聞かへんの、なんで捨てられたか?」
直子はそんな姉貴に聞いて欲しい。だからこそ信楽まで来たところはある。
「聞いてもしゃあない」
喜美子の器がデカい……。
どーんとこうして構えていられると、むしろ話したくなる気持ちになってしまう。彼女自身が離婚経験者ということもあるのでしょうが、後付けお説教してもしゃあないという境地でもあるのでしょう。皿が割れたら、それまでのことよ。
直子は「これは報告やからな」と言います。
そのうえで「ほやけど百合子は聞きよったでぇ」と言う。
百合子の反応:姉の代わりに泣きよった。お姉ちゃんも鮫島さんも、どっちも悪ないて。
直子の見解:百合子はわかってへんねん。どっちも悪ないことないわ。わがままばっかり言うとったうちが悪い。捨てられた!
喜美子の判定:大変やったな。つらかったやろ。
鮫島がゲス不倫をしたとか。直子が詐欺にひっかかったとか。暴力とか。酒とか。覚醒剤とか。
そういうことでもなく「性格の不一致」でした。
直子が子役の頃からわがままであったからこそ、視聴者も納得できるかもしれません。
鮫島が犯罪に手を染めて、収監されたとか。重婚していたわけでもない(それは史実における昨年ヒロイン夫)。
直子が黒い勢力の力を借りて、闇営業していたわけでもない(それは一昨年ヒロインの史実における共同経営者)。
シンプルな理由でした。
そういう理由を「ありえへん!」と言いたくなるのはなぜでしょう?
人間は理由を探したい生き物です。その上で自分にとって認識できない内容だと「ありえへん!」という。
「この世で一番高い山は何か知っとる? 富士山やで」
そう言い切る人がいたら「チョモランマも知らんアホがおるわ」となるじゃないですか。これは山の知識があるからこそ、そうなります。
それが別分野ですと、こういう誤認がしばしば起こる。
知らんことを言うてる奴は、アホ扱いして罵倒すれば、それでとりあえず問題は解決したように思えるんですよ。
直子は立ち直ったでぇ!
ここで、直子は報告があります。
・うちな、鮫島のこと大好きやった!
そう言いつつ、食欲が落ちることもなく、ガツガツと飯を食い、酒を飲む。
そんな姉妹なのでした。うまそうやなぁ〜。
にしても、なんという朝ドラHELLでしょう。これは特定視聴者層にまた豪速球デッドボールを投げました。
※歌の中におる「大阪で生まれた女」
演歌の世界の女は、別れても好きな人を思ってます。演歌だけでなく、ラブソングはそういうもんや。
せやけど、現実は「次いこ、次!」。女性の方が切り替えが早い。
そういう男なしでも楽しく強く生きる女の姿を、本作はじっくりと描く。
・新聞記者、そして政治家へ。独身ライフをエンジョイしているちや子
・ジョーの死後、「おかあさん合唱団」を楽しむマツ
・八郎と別れてもたくましい喜美子
・そして、すぐ次の社長を見つけるヒョウ柄おばちゃんの直子
一方で、女なしでしんどくてつらい、そんな男の姿も。
・娘の稼ぎに頼らなければ生きていけないジョー
・「人妻のよろめきですわ!」と、恥ずかしい告白をしながら陽子不倫疑惑に苦しんだ忠信
・姉の稼ぎで進学でき、妻についていけなかった八郎
・百合子がいないとカスマスターになる信作
『なつぞら』が、男女が協力して生きる世界を描く、#HeforShe ならば。
本作は「女同士最高や! 男なんて最初からいらんかったんや!」と突っ込みかねない下克上であり、デナーリスの境地や『アナと雪の女王』まで突っ走る。
※今朝も燃やしとるな
女叩き週刊誌が大好きな層や、一日中「フェミガー!」とSNS投稿しとるような連中からすれば、そら、どちゃくそムカつくドラマやろなぁ……ええんちゃうか、最高ちゃうか!
本日の放送に対する批判も想像できます。
「ありえへん、なんやあの離婚。それにあんなヒョウ柄おばちゃんが社長とできとる? ないわ、女の妄想やろ」
そういうのな。
『半分、青い。』のナレ離婚、女が十歳年上カップル叩きで予習できるで。
妄想やないやん。
【人妻のよろめき】でもう、エロいおばちゃん需要あること、本作にはバレとるで。
今は消えましたが、おっさん向けのそういうエロエロ雑誌がコンビニにあったわけよ。見たくもないのに、そういう性癖を見せられてきた。手の内はバレとるで。
それなのにババア呼ばわりして気分スッキリするのは、自分はジャッジできると仲間同士で感情共有して、ええ気持ちになりたいわけよ。
しょうもなっ!!
武志の病名は?
病院待合室で、武志は喜美子の話を聞いています。
「不動産会社社長……」
「そこくいつくか」
「直子叔母さん、やるなぁ」
「やるでぇ」
そう噂にのぼる直子です。鮫島はファンも多いのに、この仕打ちよ……。
ここで武志が呼ばれ、親子で診察室へ入ります。
入院は必要ありません。通院で構いません、お薬出しますので。しっかりと治療していきましょう。
これまでと変わりない生活して大丈夫です。血液検査をしましょう。
これってどうなんでしょうね。
陽子の場合、悪いところを早期で切って、それですっかり治り、今やピンピン元気です。
即座に原因がわかって治療ができれば、手術はむしろ好ましいものですが……BGMのテンポがあがり、ピアノの音が喜美子の鼓動と重なるようで……。
武志が出て行ったあと、大崎は切り出します。
「では改めて、ご説明させていただきます。先日の検査結果です……」
白血球の数値に異常がみられる。骨髄検査で染色体の異常も確認されました。
「武志くんの病気は、慢性骨髄性白血病と判明しました」
喜美子の目が、見開かれています。
妥協しないドラマ作りって何?
『あさイチ』のゲストは戸田恵梨香さん。この場面を演じた稲垣吾郎さんは、
「これはもう朝ドラではない」
と、その緊張感を語っておりました。
もう、朝ドラどころか、ドラマを超えたリアリティを感じました。
ここでふと思い出したのは、昭和の脚本家の回想です。
戦死した我が子の遺骨を受け取った母親。
受け取った瞬間は涙ひとつこぼれず、黙っているしかなかった。
それが帰り道、骨壺を抱いて列車の窓から外を見ていると、幼い頃遊んだ姿を思い出し、涙があふれて止まらなくなった――。
こういう脚本にしたいと訴えて、通るかというと、そうならない。
演出や監督側が止めるんですね。
観客が見たいのは、骨壺を抱いた瞬間、号泣する母の姿なのだと。
これって、表現者の悩みではありますよね。ふっきって、受ける表現をするか? リアリティを求めるか。
NHK大阪は、悩んで結論を出したのだと思えました。
昨年のアレは、病院でベテラン女優がやらかしておりましたね。
「娘の名前ぇええ〜!」
と、ベテランが、死にそうな娘の名前を呼んで絶叫すれば、
「なんかええもんみたわ〜」
と、感情にコミットできるんですよ。仕組みは割と簡単なんだ。
カンヌお墨付き女優が、赤ん坊を背負って浜辺で泣くとか。演技派俳優が、機銃掃射の危険性の中、畑でローリング悲嘆をするとか。
そういうのは、演技を見せるようで実は手抜き仕事です。視聴者の感情を刺激すればええ。そういう手口ですわ。
この先も、視聴者の感情にコミットするどころか、リアリティと理詰めを突き詰めて、本作はシビアなところへ突っ走ると思えます。
つらくて、叩かれて、しんどいけれども……それでもやると決めただけでも、本作は天晴れなのです。
新しいものを作るためには、果敢な挑戦が必要です。
NHK大阪の新しい始まりを感じる。
いつまでも『カーネーション』の名声に頼っとったらあかん。そんなん【バースの再来】を望む阪神ファンと同じやんか。それでは暗黒時代待ったなしよ。まぁ、ある意味そうなのかな……とはここ数年を振り返って思いますけれども。
その手応えはある。本作の何かに心を動かされたという読者投稿、お便りはある。そういうことを、作り手自身が感じていると思います。
諸葛孔明「心を攻めなあかん!」
※孟獲の心攻めたる!
ただの口が悪いだけの朝ドラレビューでもどうかと思いますので、本作の意義、受信料のええ使い方を考えましょう!
病院の場面で、献血ポスターがありました。これはかなり重要です!
今、献血が不足していて大問題になっております。
「よっしゃ献血いったるでぇ!」
そう思って献血ルームに行く前に、やることあるで。
などなど……条件次第ではできんことあるから調べてな。
「あかん、朝は低血圧で……」
そういう健康だけと低血圧な人は、階段登ったらええんちゃうか。ほんまに低血圧でしんどい、ただの朝弱い以外の人は無理せんでな。
善意だけでは人助けはできない。情報と知識も仕入れんとあかん。
ほんで、これも大事なことですが。
「なんや献血であったやんか、ポスターで揉めた件」
これも重要でして。
この世には【インセンティブ】というもんがあります。献血でもらえるグッズは、馬につるす人参ちゅうこっちゃ。ほんでも、こういうことをモノで釣るのは危険です。
かつてインドを植民地支配したイギリスの役人はこう考えました。
「コブラはあかんわ。せや、コブラの死体に報奨金つけたらええんちゃうか!」
それでどうなったか?
「コブラ殺せば儲かる? ほな養殖したろか!」
はい、悪徳業者がコブラを増やしました。ここで気づいてあわてて中止したらどうなったか?
「なんやもう、コブラ殺しても金にならんの? 放したるわ」
最悪の事態や……。
献血も、金を払って募集した【売血】の結果を受けてのことでして。
「善意で募集せなあかん!」
「心を攻めなあかん!」
こういうことを言うと、オマエは南蛮を攻める諸葛孔明か? 偽善的だし綺麗事だわ、という反論もありがちですが、実は合理的なんですよ。
心を攻めることで、世の中を動かさなあかん!
本作は、そういう意義を感じる作品です。
そう、だからこそ不安を共有せなあかんこともある……。
はい。
感情共有をだらだら訴えてきましたが、私もたまにはしたい。『エール』公式サイトを見ていて、記憶を刺激されたんですよ。
「ん、土屋CP……あっ!」
『花燃ゆ』のアレやん!
せわぁない。毒おにぎりを食べてしまったような嫌な予感がしましたが、どうなんでしょう。
まぁ、彼一人だけのせいでもないでしょうし。あのドラマの脚本家さんでも実力発揮している方はおります。
なんの根拠もあらへんよ。ただ、不安を共有したくて……せわぁない。
文:武者震之助
絵:小久ヒロ
【参考】
スカーレット/公式サイト
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