学が察知する親友の異変
「親父さん、もう一杯!」
「おうおう、飲み過ぎやん!」
酔っぱらった武志と、それを心配する学。そこへ芽ぐみが真奈先輩を連れてやって来ます。
芽ぐみは全力で真奈の恋を応援しているわけです。
「べっぴんさん二人来たでぇ〜」
このあと、武志は介抱されて自宅に来ました。
「ほらしっかりせえや!」
「どこやここは? あれ、俺んちか」
真奈は、ベッドに倒れ込んだ武志に水を差し出す。芽ぐみは郵便物を取ってきた。
すると「次世代展」の通知を見つけます。落選を見て、これが酔っ払いの原因かと気づくのです。
これはよいことなのか、悪いことなのか。敏感な学ならば、親友の異変は感じ取っていたとは思う。
「こんな武志初めて見たしのう……」
そう言っているわけですから。
それが、芽ぐみにこう言われると「そうなればそうなるやろ」と、誤誘導されてしまう。
そのタイミングで電話が鳴りました。出て欲しいと武志に頼まれ、学が受話器を取ると喜美子でした。
「あ〜もしもし、学くん? そうか、うん、いや悪いな。ありがとう」
力貸して欲しい
ここで、電話をかけた喜美子側に移りまして。
家には直子と百合子が来ておりました。直子は今日もヒョウ柄や。
次世代展あかんかったってよ。
「せっかくケーキ作ったのになぁ」
そう直子が言うと「作ったのはうちや〜」と百合子が返します。
そんな妹二人に喜美子はこう宣言します。
「あんな、二人に話がある。口堅いか?」
柔らかいと直子がふざける。ここだけの話ちゅうやつか。そう茶化され、よそには漏らすなと喜美子が釘を刺します。
「ええ話?」
「ええ話やったら漏らすやろ」
「……力貸して欲しい」
喜美子はそう絞り出します。
この時点で、ちょっと異変がある。これまでは姉として、むしろ妹二人を助ける側でしたから。
直子は、布袋さんに言うたらお金も用意できると言い、百合子が「お金があれば何でもできるわけやない」と嗜めます。すると直子は「お金なかったらなんもできひんやん」と止まらない。
やはり直子は父、百合子は母に似ておりますね。
百合子はここで、お義兄さんも一緒に聞いた方がええのかと言い出す。彼女の中で、彼は離婚後も「義兄」なのです。喜美子は、ハチさんには来てから話すと言います。
「武志の前ではな、まだ聞かんかったことにして欲しい。当分の間はな。本人が言いたない言うんを、うちの判断で勝手に話す。武志が白血病になってしもた。厳しくて難しい病気や」
そう聞かされ、呆然とする直子と百合子。直子はこう言います。
「いつ治るん? 厳しくて難しい病気、いつ治るんや? ちゃっちゃっと治せや!」
ここで直子をそこまで責めないで欲しい。
彼女はこの苦痛に向き合えず、怒りをぶつけてしまっている。こういうところが父そっくりなのです。
「治すで。治す。治すのにな、お願いがある」
喜美子はそう切り出します。
画面には、百合子のケーキが映されます。
武志おめでとうと書かれたケーキ。
誕生日すら、もうすぐ祝えなくなるかもしれない。そんな彼へのケーキです。
話し合いはあえて入れず、ナレーションが語ります。
骨髄移植の話をしました――。
武志と白血球の型があうか調べる適合検査を、二人とも引き受けてくれました。
そして玄関前に妹二人の姿が見えます。
泣いて目元をおさえている百合子。怒ったようにそんな百合子の手を引く直子。
こうした一瞬に、彼女たちの個性の違いと、衝撃の強さが出ています。
9時30分を過ぎて、彼が来ました。
「遅なったごめん」
八郎です。彼にも喜美子は知らせねばなりません。
偶然ではない、必然だ
本作は、不思議な何かがあります。
朝ドラをきっかけに結婚したカップルの不倫騒動と、八郎と三津の接近。
そして、病気の不安と闘う中、武志が難病に罹ってしまう。
オカルトじみたことを言ってもしゃあない。ただ、教訓となるようなことを盛り込むと、現実と一致してしまう部分が出てくるのだとは思います。
『半分、青い。』や『なつぞら』でヒロインが直面した、共働きの育児問題が今流れても、タイムリーということになったと思います。
鈴愛やなつが、周囲を頼りにしていたとが、甘ったれているだのなんだの言われておりましたが、今だったら言った側がむしろ白眼視されかねないのではないでしょうか。
嫌な一致もある。
放映タイミングが一致しなかったとはいえ、一昨年モデル企業の黒い体質が暴かれました。
昨年のモデル企業の炎上騒動も。あれはNHK側が背景を知らなかったはずがないからには、必然の一致なのです。
医者にかかることは、誰にでもあることです。
そういうとき、患者はどういう気持ちになるのか。その家族はどうなのか。どう対処すべきなのか。わかっているようで、実はない。
それどころか、ドラマともなれば非現実的、迷惑だろうと「盛り上がればええ」とばかりに、無茶苦茶なことをします。
医療面で、ここ数年のNHK大阪朝ドラは悪質の極みでした。
病室に医薬品を持ち込むわ。感染の可能性を考慮しない言動をかますわ。医者を侮辱するわ。
昨年ネタとしてかました「内臓逆位」なんて、よくもあんなことできたと思います。命に関わるというのに。
でも、悪影響を与えかねないのであれば、好影響を与えることもできる。そういう発想の転換を感じるのです。
暗い話は見たくないだの、どうせ治るだの、そういう声は出てきますが。
せやろか?
見ているだけで、病気に対処する力がつくのであれば、本作は意義ある作品として名を残せるのです。
そういう気合いを毎朝感じています。
それゆえに、本作と現実が一致することは、偶然ではなく必然なのだと。そういう力がある作品なのだと。
文:武者震之助
絵:小久ヒロ
【参考】
スカーレット/公式サイト
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