そう突っ込む武志。
このおばちゃんのお菓子の秘密はあとで明かされるで。
ここで看護婦の山ノ根が「検査室へどうぞ」と武志を案内します。喜美子が「お母ちゃんも一緒に行ったろか」と言うと、武志は「ええよ、ええよもう」と断るのでした。
そこへ、安田智也と理香子母子がやってきます。待合室で苦しんでいた子と、その母です。
喜美子は素早くそちらに移動して、お菓子を差し出します。
「これ、よかったら」
「ありがとうございます」
「すみません、ありがとうございます」
よかったな、智也。そう我が子に語りかける理香子。かわいいお菓子に、ちょっとだけ心が和んだようです。
記憶にありませんか?
お祖母ちゃん、お母ちゃん、おばちゃんの家にあった、お菓子入れのこと。
※ルマンド男子が広告になる。令和はそこまで変わった……
関西のおばちゃんがバッグから出してくる、飴ちゃんのこと。
照子の家庭菜園もコレやな。
あれは遠足のノリであるとか、中年太りの原因だけでもない。コミニケーションの王道、【アイスブレイク】やな。
※初対面のコツやで
氷を割るように、緊張感をほぐす。ビジネスパーソン同士なら名刺交換かな。それよりもやわらかくて、万能の手段かもしれんね。
こういうところも大事やで。昨年のアレは、主婦は煎餅をバリバリしながら電話したり、テレビ見たり。働かないで女捨てたアホなおばちゃんのシンボルとして、お菓子を使っておりましたっけ。
それとはちゃうで、おばちゃんのお菓子には役割あるで!
病気には辛いこともたくさんあるけれど
翌日、喜美子は骨髄検査移植のための検査を受けました。
八郎も受けました。
ここで、ちゃんと赤い血液を映すところに誠意を感じます。
武志の鼻血もそうですが、赤い液体というだけでも忌避感はあるもの。それでも、そうしていては本質に迫れません。昭和ドラマあるあるという単純なことでもない。
血を見ても「昭和やな〜、ありがちな演出やわ〜」で終わるのであれば、思考停止かもしれません。
抗癌剤の量を増やしたことで、武志は吐き気が酷くなり、食欲も落ち込んでしまいました。体調が安定するまで入院を続けることになりました――。
そう静かに語るナレーションと、病院食のトレイを返す喜美子も生々しいリアリティを感じます。
ただでさえ質素な病院食です。
彼の年代の男性ならば、物足りなくて仕方ないところ。それをこれほど残すのですから、深刻なことなのです。
自分の料理をおいしいと食べていた。そんな我が子が、これしか食べられない。親にとって悲しみの極みのようなものを感じます。
八郎も病院にいます。ここで映る革靴の爪先の疲れ、傘から流れ落ちる雨が涙のように見えます。
そこへ大崎がやって来るのです。
二人は診察室へ。
「病気のことはお父さんに言いたくない……」
そう切り出す大崎。八郎はショックでしょうね。母である喜美子は知っていて寄り添えるのに、父である自分はできない。
「川原さんのところは、陶芸一家なんですよね。僕は医者一家なんですよ。業種は違うけれど、どう距離を取っていいかわからなくなるのは、同じかもしれない……」
こう稲垣吾郎さんが語ると、演技を超えて、医者一家に生まれた人にしか見えなくなるのがすごい。
時には親子、時にはライバル、時には親友になれる。そう語られ、八郎はやっと笑います。
「ははっ、いいですね親友……」
大崎はここでこう言うのです。
「病気には辛いこともたくさんあるけれど、泣きたくなるような素晴らしいことも、いっぱい起きます……」
ただの慰め、気休め、美談に終わらせてはいけない。それをどう演じるか? そんな挑戦がそこにはあります。
力もらいたい、そう認めること
武志は、あの深野先生の絵ハガキ見ています。
ジョージ富士川の絵本といい、この絵ハガキといい、作品でつながる世界です。彼は病院の窓に落ちる雨粒を見ています。
翌朝、天気は快晴です。
武志は喜美子に絵本を渡します。
「これ、書いた」
「見てええの?」
「ええよぉ! あっ、でもあとでな、帰ってから見てや。わかった? ほんでな、お父ちゃんにも言うてええよ。みんなにも言うてぇや、俺のこと」
「ええの?」
「うん……会いたい、みんなに会いたい。力もらいたい」
「わかった」
「おう」
「おう。ふふふっ!」
そう語り合う親子。喜美子と武志の心がまた一歩、進んだようです。武志が向き合う決意は悲しいものの、喜美子が抱える不安は分け合うことができそうです。
悲しいことを消すことはできないけれども、そのことを分かち合うことはできるはず。
家族と仕事の両立
前述の通り、最近はこのドラマを見ると辛いのです。
それは武志や喜美子の苦難だけでもない。
なんというか、嫌味ではなく、骨髄移植への知識がほとんど共有されていないんだなと、びっくりしてしまうのです。
だからこそ、本作には意義がありますよね。
朝ドラできっちり「HLA型」と言い切ることで、啓発できるのであれば、これぞ受信料のよい使い道だと思います。このドラマを契機にして、救われる人が出るのであればそれは意義があるのです。
血液疾患だけではなく、もっと身近なところにも突っ込んできていると思えました。
例えば、八郎のこと。
#八郎沼 が大盛況であった反動か、最終盤になって八郎バッシングが出てきました。
どうしたものでしょうね。
ドラマでも厳しい目にあっているというのに。ただ、この八郎の立ち位置こそ、昭和から令和という価値観と時代の間に落ちた感があって興味は尽きません。
「八郎は仕事で何してんねん? 休みはどうなっとる?」
というツッコミはありますわな。仕事と家庭の両立について、迫ってきそうなものを感じるで!
1980年代からそのあと。この時代の関西には、トラウマがあります。
1985年、阪神タイガース優勝に貢献したランディ・バース。神様・仏様・バース様! そう言われたほどの助っ人外国人でした。
それが御子息の難病による帰国問題で球団側と対立して、結局退団してしまうのです。それ以来、何人の【バース再来】が登場したことやら。
ホロ苦いネタにしていいようで、深刻な問題ではあります。
家族か、仕事か?
そういう対立があって、仕事を選ぶことが美談扱いされた。こういう昭和じみた価値観って、どう思います?
私はそんな状態で試合するアスリートだの、役者だの……罪悪感を刺激されるので、むしろ見たくないのです。これも令和現在だからそうなのかもしれない。
だからこそ、八郎の立ち位置は難しい。
昭和で価値観が止まった人からすれば、サンドバッグに最適ですわ。
『なつぞら』で育児をしていたイッキュウさんは、なまじ天才設定ですし、叩きようがないので、妻であるなつのだらしなさに向かえばええと。
『半分、青い。』はアンチターゲットロックオンされていたから、何をしようと正義でしたっけ。どんなこじつけだろうと「せやせや!」と賛同する誰かがいるから、暴れたい放題でしたね。
「ネット民」って誰やねん
本作へのモヤモヤは難しい。本作の設定は盤石で、マツのような「理想の昭和女」を出してきたから、こう言えましたっけ。
「生意気な女を平然と出すNHK東京と違うて、NHK大阪はわかっとるわ。『半分、青い。』は論外やろ。それに『なつぞら』の生意気女どもとは大違いで、ええなぁ!」
それが喜美子穴窯炎上あたりから、どうにも調子が狂う。
八郎も家事育児に協力的に思えるし、喜美子は夫を上回るし。ちや子は独身に苦しまないで政治家のセンセイにまでなってまう。
嘘やん! そうなるわけやな。
しかし、息子が難病になってそれを支える母ともなれば、叩いてかえって火傷するかもしれない。鈴愛となつは楽でよかったな。
そうなると、捻りに捻ってこうよ。
「八郎があかん!」
「#八郎沼 なんやいうて、調子こいとる女どもが諸悪の根源や!」
「男(名誉男性含む)の俺が唸るようなもん、見せてみぃ!(※そもそも朝ドラ想定視聴者層は女性というツッコミは無視)」
結果のリンクは、各自お探しください。
某ニュースやレビューのコメント欄見ればええんちゃうか。この手の意見には、ドラマ見ていればわかるようなことを「描いてへん!」と言い募るような、些細な揚げ足取りも多いもんです。
誰でもミスはあります。本作でも、セリフ内年齢設定のミスがありましたっけ。
うっかりしたミスと、根本的な悪意による捏造、理解度が低いゆえのミスは区別がつくものですけれども。昨年の台湾由来のものを日本由来にするようなどでかい取り返しのつかないミスとは区別しましょうか。
それができんと、揚げ足取りで逆転できると思い込んでしまう。気ぃつけてな!
ほんで得てしてそういう人って【ツッコミどころ】って言いますよね。具体的な理詰めの理屈であかんと言わずに、ニヤニヤしながら【自分の感情や狭い範囲の常識にコミットせんこと(知らんがな)】を【ツッコミどころ】という古臭い概念でごまかそうとする。そういう手癖がある。
そういうことはわかるけれども、流石に俳優名を見出しにしてまで誤誘導するようなニュースは、どうしたもんかと思う。
はい、ここでちょっとしたライフハックですけれども。
「ネットでは」
「ネット民」
こう見出しに入っていたら、読まんでええよぉ。
ネットというのはあくまで媒体のことであって、発信者の属性は不明やんか。
『電車男』時代ならさておき、現在では年代の差も出てこない。こういう記事をトレンディな若者目線だと思う人は、現時点で【精神年齢が年相応に成長できなかった元・若者】なので、そこを狙ったデタラメと悪意まみれの記事なんて、どうでもええ。
ついでに言うと、この手の見出し「ワケ」が好きすぎやろ。ちぃとテンプレ使って考えてみるわ!
「ネット民はクソレビュアーが大嫌い?! ウザい、しつこい……そう叩かれるワケ」
どや? ええんちゃうか!
文:武者震之助
絵:小久ヒロ
【参考】
スカーレット/公式サイト
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