親友だから、いつもと同じ日を過ごせない
「ヤングのグ」に、武志は学と大輔を呼び出しました。
「病気?」
二人は驚いています。
武志は服薬していたこと、アパートを引き払ったことを言います。
とはいえ、まだこの年齢です。親友二人は、てっきり真奈とつきあう宣言だと思っていたようです。こんなん悲しすぎるわ……きっと芽ぐみも、そう思っていることでしょう。
おめでとう言うたろ。そう思うて、クラッカーも持参しています。今のように散らないタイプはない時代やな。
「それなのに、なんや病気て」
「入院したやん」
「退院したやん!」
「ただの貧血とはちゃうんか?」
そう問いかけられ、ただの貧血とはちょっと違うな、と武志は切り出します。
「なんやの病気て?」
「白血病や」
笑い飛ばすしかない。
はは、元気やん。そう現実逃避をする。
「あと3年から5年はな」
「3年から5年て何や?」
「治療が続くんや……」
「3年から5年、治療続いたらどうなるん?」
「どうなるんやろうな」
もう若い親友同士は絶句している。
現実が理解できない。まだまだあるはずの長い日々。ヤングの青春。
真奈さんとデートどこ行ったん? そう語り合えると信じていたのに、そうではないのだと。人の命は平等とはいえ、若くして亡くなった誰かの命は、ずっと消えない何かを残すものです。
「あっ、ごめんな。オチのない話してもうたわ」
「治る! そんときはこれや」
大輔はそう言い切り、学が続けます。おめでとうって言うって。
「もうわかった、わかったから、ありがとう」
「おめでとう!」
「おめでとうやめろって。パンパンうるさいな」
「武志もやるか?」
武志は絵本に書きました。いつもと変わらない一日を過ごすだろう――。
でも、彼自身の存在がいつもと変わらない一日を変えてしまう。この日のことを、大輔と学は忘れられないことでしょう。
名簿を作り、名前を増やそう
喜美子は万年筆を握り、名簿を作っています。
本作は仕事が丁寧ですので、筆跡がその年代の方らしいものになっております。
そこに学と大輔、それに真奈もやって来ました。
喜美子は彼らを家に上がらせます。
「検査を受けたい?」
「はい。骨髄移植いうの聞きました」
そう切り出され、喜美子は驚いています。
「武志から聞いたん?」
ここで明かされます。病名を教えてもろたあと、調べました。病院で、骨髄移植がどういうものか聞きました。真奈はそう言うのです。
インターネットもない時代です。家庭の医学系の本を読み。そして病院で骨髄移植がどういうものか聞いたそうです。
真奈ちゃん……!
なんちゅうええ子や!
チラッと見ただけで他のドラマあたりと比べて、あざとそうだの、難病判明したら捨てるだの言ってた方に反省せいとまでは言わん。代わりにドナー登録してみいひん?
「ドナーになれるかどうか検査します!」
「うちも検査します」
「俺も!」
「今日来たのは、他の人らに言っていいのかどうか許可得たくて」
「友達関係は俺らまとめます」
「ありがとうとざいます」
感極まって、喜美子はお礼を言うしかないのです。
検査そのものは、そこまで大変でもありません。けれども、骨髄提供はハードルがあがります。
なんせ【骨の髄】ですからね。
なんか骨の中心を削るん?
痛そう?
一体どういうこと?
不安になってもおかしくない。気になる方は調べましょう。
白血病という時点で怯まない。病院まで行く。きっちり確認したうえで、提供もすると言い切る。
彼らの武志への思いは貴重なのです。
愛と善意を広げる
喜美子は武志に名簿を見せています。
そこには、喜美子周辺おなじみの人々、丸熊時代の同僚、掛井丸先生夫妻……多くの名前が並んでいます。
多くの人が力を貸してくれたことに、二人とも感無量。ありがたいなぁ。そして喜美子は、連絡はお母ちゃんがすると確認を取ります。
ここに直子から電話。布袋さんともども、一致しなかったようです。
照子からも電話。
「なんで照子が謝んねん、やめて、敏春さんにもよろしく伝えてな。うん、ありがとな」
かくして、名簿の結果は?
「あかんなぁ」
「あかんわぁ」
「全滅やな」
「全滅や」
全員不一致でした。
母子はここで「ありがとうございました!」と名簿に頭を下げるのです。
親としては、それは骨髄提供をすることが一番だけれども。できないとなれば、人の輪を広げてゆくしかありません。
なんや、善意の限界点を感じるで。
本作は、母の愛に挑んだ作品かもしれない。母の愛さえあればどうにでもなる。そういうどうしようもないマザコン幻想はあるものです。
けれども、愛にはどうしても限界がある。できること、できないことがある。
朝ドラでこんなん……見たくない気持ちはわかります。そらそうや。視聴率、伸びんでもしゃあないわ。
けど、だからこそ見て考えんとあかん!
この名簿に、自分も載ることはできる。武志のような誰かの名簿に、載ってみたいと思いませんか?
喜美子は『いつでもおいしい健康法』という本をぼんやりとめくっています。
電話が鳴る。あのカバー付き黒電話から、デジタルでちょっとおしゃれなものに変わりましたね。
「はい、川原です」
「もしもしわかるぅ?」
「ちや子さん?」
「今な、おいしいコーヒー飲んでるとこや。気分転換にちょっとでてけえへん?」
よっしゃー!
ちや子さんやで!
かつて喜美子の作品宣伝に一肌脱いで、ほんで今や政治家のセンセイや!
なまじちや子は、仁義あるセンセイなので期待が持てますね。男ぉ! 権力! 金! そういうもんを得たくて政治家になったわけではなく、人の役に立つために立候補しました。
保育所の拡充。人々の暮らしの向上。そういうことを訴えてきたセンセイは、人助け人脈があるはずやで!
荒木荘時代に得た人脈をたどり、喜美子はまた一歩踏み出します。
その先に何があるか、わからないけれど……希望と共に歩くことが大事です。
献血いこか そんでドナー登録しよか
本作には、なまじ白血病になっただけに、もう陶芸家ではなく難病もので意味がないという叩きがありまして。
イケメンを患者と医者にすれば、ババアが喜ぶ。あざとい。そんな直球の意見もあります。
これって、なまじ中高年男性向け媒体なので【ミラーリング】(※男女反転)の好例なんですね。
男性向け作品では、ともかく難病で死ぬ美少女てんこ盛りやん? ナースのエロとかな。
「女かてそうやで! ババアどもは難病で死ぬイケメンや、医者の姿にコーフンしとんねん!」
そう言いたいだけやろ?
何がすごいって、同じ記事で喜美子に華がないとかなんとか、そういうことを言ってる。朝ドラはおっさんのパラダイスだとでも言いたいんか?
生活が大変な女性に、華を求めるのってただのゲスセクハラでしかない。葬式でも「ええケツしとるのぉ〜」みたいなことを言う――そういう山守組長(『仁義なき戦い』)向けの記事ということなら、納得できますけど。
しょうもなっ!
モデルの神山清子さんは【骨髄バンク設立】という偉業を達成した人物でもあります。
彼女を描く作品で、そこを省くことはありえない。
ノーベルの伝記もので、こういうことを言う奴がいたら?
「ノーベル? ダイナマイト作った発明家やな。その伝記をあとで振り返って、業績で一番印象に残る部分が、ノーベル賞になる? なんやそれ。それって発明家の意味ないやろ」
アホかっ!
それで終わりますよね。
ところが本作では「ええこと言うたわ……」みたいな態度で、そういうことを毎日ポチポチ書いている人がおる。
うん……そういう苦しい叩きは、逆に本作が固くて叩きにくいっちゅうことやろね。
『なつぞら』でも、北海道の開拓史知識がない人がついていけなくなったのか、後半よくわからない叩き方が発揮されていました。
そこはがんばってくれ。いや、がんばる前にできることがあります。
献血いこか。
ほんでづいでに、骨髄バンクのドナー登録して来ようか。
採取のリスクは、そこでじっくり聞いてください。
誰かが一人でもそうして、名簿に名前が増えること。それこそが、このドラマの真髄だと思います。
このレビューでもそこは強調していきたいんや!
文:武者震之助
絵:小久ヒロ
【参考】
スカーレット/公式サイト
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