せっかく「提供者が見つかった!」と喜んだ方の希望を後になってリセットするのは残酷過ぎます。検査の封筒が届いた時点で、周囲の理解を得られるように相談しましょう。
なお、交通費、入院等の金銭的負担はそこまでありません。ただし、会社で休むとなると、場合によります。
病院は向こうから指定されます。
必ずしも近い場所とはならず、私の場合は隣県まで新幹線で移動しました。ちょっとした旅行気分ではあったのです。
事前準備
提供が決まりますと、精密検査と2度の自己採血をすることとなります。
採取後、自分の血を戻すわけです。昔は予防注射すら嫌いだったものですが、克服しました。覚悟を決めてください。
採血後は、水分をたくさん摂取し、ついでにプルーンを食べるようにしておきました。
といっても、そこまでつらくはありません。むしろ隣県まで来ちゃったと名物を食べて、楽しめました。
ただ、貧血の危険性はあります。
体の負担が大きいことや、立ちっぱなしの状態にはならないように注意しましょう。
当たり前ですがスポーツはダメです。
入院
さて、ついに入院です。
健康のまま入院するケースは、そう滅多にありません。いざというときのための、ちょっとしたテスト体験になると考えました。
医師も看護師の皆さんも親切ですし、病院内の施設も興味津々。本をたくさん持ってきて、暇つぶしをする気も満々でした。
とはいえ、骨髄提供そのものは手術室に入ります。
昔、海外の医療ドラマでは『もっと気軽にしていたような……』なんて思いつつ、不謹慎なワクワク気分はありました。申し訳ありません。
車椅子に乗って、手術室へ。
医療ドラマみたいだな!
そんな、しょうもない感慨を抱けるのは、健康体だからです。
麻酔が効いているので、記憶はここまで。
気づけばベッドの上だ!
そういう経験をしている間も「ドラマだ……」と思うばかりですから、呑気でした。
途中で麻酔が切れて痛くなったので、打ち合わせ通りナースコール。麻酔がまた効いてきて、何のこともなく就寝。
翌日は、病院食ってやっぱり健康に良さそうだと思いつつ、休憩室でテレビを見たり、本を読んだりしていました。
「健康体で入院すると結構楽しいかもな」
最後までそんな気持ちのまま、退院し、またも名物を食べて帰宅です。
私の場合、痛みもありませんでした。
あまりにも元気すぎて、
「提供したって嘘でしょ!」
と、突っ込まれるくらい平然としていたのです。
提供後も呑気に観光をしていて、あとで家族から怒られました。
「ずっと連絡ないから倒れたと思ったぞ!」
「えーそうなの?」
能天気すぎるのも考えものです。なお、骨髄提供後、献血はしばらくお休みとなります。
『スカーレット』で気づく
他の方の体験談を読んでいると、使命感があって、感動して泣いた方もいて、ただただ偉いと思いました。
「健康体で入院っておもしろい!」
「人体パーツ提供みたいでなんか楽しい!」
そんな、ある種、人でなしな感想を抱いたことが恥ずかしくて、親しい友人以外に語ったことはありません。
お医者さんや看護師さんから「えらいですね!」という目線を感じたような気がして、ちょっと気分はよかったことは認めます。
しかし、自分のしたコトの意味に本当に気付けたのは、移植された方から手紙が届いたときです(※回数制限付きで、匿名の手紙交換はできます)。
なんでもその方は経過が順調で、婚約もしたとのこと。
ん?
もしかしてなんかすごいことをしたのかも?
このあたりで、じわじわ感動して来ました。
ですので、「もう一度適合したらどうするのか?」と問われたら、絶対に「します!」と答えます。
プラスorマイナスを考えると、むしろよい体験だったのです。
人の命を助けるということはもちろん大事ですけれども、自分にとってもメリットはあるのです。
まず、健康体で入院をしておくと、病気や怪我で入院する時に対処しやすくなります。
満足感も得られる。
遠隔地の病院だったためか、名産品を食べられて、ちょっとした休暇気分でした。
我ながら馬鹿っぽい体験談だとは思います。
不純な動機と思われそうでもありますし、全身麻酔をするからには、気軽に登録してみろとも言えません。
また、私の場合は好条件も、そろっていました。
まずは、家族の理解があっさりと得られたこと。
今なら『スカーレット』の放送があり、説得材料にしやすいかもしれません。そう考えるとドラマの意義も非常に大きなものだと痛感します。
それから職場の理解も大きく、有給休暇が残っていてよかったな、と。
肉体的に鈍感だったのも、爽やかな気分でいられた一因です。提供後、痛みがある方もいるそうです。それが私には全然ありませんでした。
ちょっと変わった旅行程度だったな。
深く思いつめたものではなかったからこそ、今こうして体験談として語れているのだと思います。
武志と喜美子を見ていて、奇跡と大崎が言う。
そう言われてみればそうだったのかも。映像化されて、その衝撃を見て、そのことをやっと痛感できるようになりました。
『スカーレット』にも感謝しています。
語り:匿名希望
監修:武者震之助
絵:小久ヒロ
【参考】
スカーレット/公式サイト
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