1980年(昭和55年)、岐阜県東美濃市。
大衆食堂「つくし食堂」の娘・楡野鈴愛と、「萩尾写真館」の息子・萩尾律は同じ日に生まれた幼なじみです。
ある日、鈴愛と律は木曾川で遊んでいて、律が川に落ちてしまいます。
鈴愛からそう聞かされた母・晴はびっくり。
その朝、律の母・和子が楡野家にやって来ました。
もくじ
中部名物モーニングを注文しながら
和子に呼び出され、怒られるのかな、と身構える晴。
日頃からおてんば鈴愛に手を焼いているのでしょう。
謝罪モードに入っていると、和子はそうじゃないの、と話を始めます。
三途の川の糸電話について語られると、晴は、
「あの子は本当に馬鹿で……」
と言うのですが、和子は「いい子ですね」と褒めます。
仮に腹の底で『うちの娘は優しい』と思っていても、ここでは出さないというのが晴の常識感です。
お母さん二人は、レトロな喫茶店に移動します。
朝早くから開いている喫茶店です……はっ、これはもしや、中部名物モーニングでは?
※モーニング(サービス):名古屋発祥とされる喫茶店を中心とした飲食店のサービス。初期はコーヒーにゆで卵とトースト程度であったものが、次第に豪華になっていき、1980年代には朝食文化として定着。岐阜県も盛ん。
夢を語れる友だちがいることに喜ぶ和子
二人が何を食べているかもちょっと気になりますが、それはさておき。
和子は、友達がいなくて孤立しがちな律が、鈴愛によって助けられていると御礼を言います。
「いえいえ、呼び捨てで、マグマ大使みたいに笛で呼び出して……」
そう謙遜する晴。
むしろマグマ大使にたとえられて嬉しいと、和子は得意だというゴアの物真似を始めます。
和子は、嬉しかったのです。
鈴愛からノーベル賞が夢だと聞かされて、とても嬉しかったのです。
律は母親相手にすら背伸びしているのでしょう。
そういう我が子に夢があるとわかって、それを教えてくれた鈴愛に感謝しているのでした。
息子に夢を語る相手である鈴愛ができたことも、和子は喜んでいます。
テーブルの上のものを倒してここでちょっと会話が途切れるのですが、照れ隠しのようにも見えます。
この和子の会話から、和子の律への思いや、苦労している部分もあることが伝わって来ます。
晴も、和子も、母親の愛情がわかるのがいいですね。
前作の『わろてんか』では上っ面の綺麗事ばかりで、そういう表現にお目にかかれなかったものでして。
わざと解答を間違え「ハイハイすみませんでした~」
鈴愛と律の教室では、豊島先生が怒っています。
なんでも『かぐや姫』の選択問題で、サービス質問を出したのに、一人だけあてつけのように不正解を選んだ子がいると。
姫が去ったあとの祖父母の気持ちを当てるもので、
「せいせいした」
という選択肢が入っていました。
他には
「かなしかった」
とか
「さびしかった」
とか、いずれも正解であり、そこさえ間違えなければ満点も狙えた萩尾律ただ一人、明らかに間違いである「せいせいした」を選んだのです。
ここで豊島先生、りょっと理不尽なまでに怒っています。
律は可愛げがないというか、「ハイハイすみませんでした~」みたいな態度で謝罪。
なんだろう。
律は悪い子じゃないけれども、ちょっとひねくれているというか、和子さんのハラハラ感も理解できる危うさがありますね。
国語のテストに絶対の自信があったという編集さんは、
「選択肢3つがすべて正解だとしたら、そこから1つを選ぶとなると逆に超難解。これはそういった考えから【せいせいした】を選んだ可能性も考えられる」
と仰ってました。
たしかに【テストで正解を選ぶ】とき、特に国語の選択肢は【間違いから消していく】というのもセオリーですよね。
本当にサービス問題を作るのでしたら、正解の他には明らかに間違った選択肢を3つ用意した方が良いかもしれません。
例えば「せいせいした」の他に
「ざまぁと思った」
「バカだと思った」
といった感じなら間違えないでしょう。って、こんな選択肢、今じゃ絶対に炎上しますな。
「なんで勇気だしてかばったのにちがうんや~!」
ともかく律が槍玉に挙げられると、鈴愛が手を上げ、一生懸命かばいます。
おじいさんとおばあさんは、姫がいなくなって心配せずに済むようになったからじゃないか、とか。
いやぁ、頑張っているなあ。
しかし律は、
「まあそうかな。ちょっと違うけど」
とニヤニヤ。
これには鈴愛も怒り出します。
「なんで勇気だしてかばったのにちがうんや~!」
思うが早いか突っかかり、教室は大騒ぎ。
真っ直ぐな鈴愛と、ちょっと斜に構えた律という対比です。
本当は、かばってもらえてうれしいでしょうにね。
カー消しで友だちを釣るブッチャーの悲哀
晴は、宇太郎に「三途の川の糸電話」について話しています。
宇太郎は娘の発想を面白がっているようで。
鈴愛が心配している仙吉は、今日もぼんやりした様子でキャベツを収穫しているのでした。
放課後、ブッチャーは、箱入りのスーパーカー消しゴム(カー消し)を同級生に配っています。
このころ、まさに大ブームで、ノック式ボールペンのノック部分で、消しゴムを走らせるレースや相撲などが流行っておりました。
編集さんの地域では、一番人気はランボルギーニカウンタックが圧倒的で、
・ポルシェ→カエルに似てる
・BMW→顔が豚鼻
という理由で不人気だったとか。
それと六輪のティレルも流行ったそうで、なんだか男性視聴者に突き刺さりそうなネタが多いですね。
鈴愛は、ナオちゃんと焼却炉でゴミを燃やしています。
今にして考えてみれば、小学生が焼却炉で燃やすというのは危険な気もしますが、昭和の学校はそれが普通でしたね。
ここでブッチャーが、ジュディ・オング『魅せられて』の替え歌を歌います。
「楡野は~ばか~す~ずめ~思い通りに生きて~」
ブッチャーは鈴愛の名前をからかいます。
「すずめ~人の名前とは思えん、ネズミみたい」
鈴愛は激怒し、金属製のゴミ箱を投げつけます。
しかしブッチャーではなく、かばった律の顔面に直撃。これはさすがに危険だ!
子供のエスカレートする喧嘩あるあるですね。
ブッチャー、今日も一番イケてたわ~
キミカ先生の岡田医院に来ています。
ここで号泣しているのが、鈴愛とブッチャーです。
ブッチャーは、
「律に何かあったら、どうしたらええんや。あいつしか友達がいない……」
と絶望中。
カー消しをあげている子は?と、聞かれると
「お父ちゃんが言うとった、金でつながった関係はあかん。律はスーパーカーを受け取らん、本物や!」
ってwww
すまん、ブッチャー、今日イチ笑った。
このマセた台詞、ギラギラの父親の顔も浮かんできました。
そして実は、律も船の渡し賃目当てだったことを知らない純情っぷり、ブッチャー、お前ってやつぁ!
和子は二人を「念のために来ているだけ」と慰めます。
律は病室から出てくると「みえねえ、なーんもみえねえ!」と脅かしますが、セーフでした。よかった、よかった。
子供の前では落ち着いていた和子は、病室のキミカ先生の前では泣き出します。
震えていました。
やっぱり和子さん、いいお母さんだなあ。子供の前では強がって、本音を出す時は泣く。よい人だ……。
鈴愛は律と歩きながら、このことは母親には言えないとつぶやきます。
律に対抗してつけた名前なのに、それをからかわれたとは言えない、と。
川を二人で渡ろうとした時、鈴愛は異変を感じます。
鈴愛の世界が揺れた瞬間、とナレーションが語るのでした。
今日のマトメ「人付き合いの苦手な子供」
ダイオキシン問題発覚後、消えてしまった焼却炉。昔はこれでゴミを燃やしていました。
そのゴミ捨てが、今回ちょっとした事件を起こすわけです。
前半は母同士の愛情。
後半は子供同士のトラブルですが、会話で性格を説明していて、それぞれの家庭事情がそれとなくわかるのはよいと思いました。
連日、西園寺家のことばっかりとつっこまれそうですが、今日もブッチャー。
確かに、いたよ!
アイスをおごったり、おもちゃを配ったりして人気をとろうとしていた、人付き合いの苦手な子。陰ではウザがられている子。
編集さんの周囲では、カー消しではなく「ゲームウォッチをあげる」とウソをつき、注目を集めようとしていた同級生もいたそうで。
確かにゲームウォッチは1980年(昭和55年)発売ですから、もしかしたら劇中に出てくる可能性もあるかも……。
ブッチャーを見て、切なくなってくるのは、当時は彼のような子を理解することができず、
「なんかアイツ、ウザいよなあ。アイスおごってくれるときはいい奴だけど」
と振る舞っていた過去をうっすら思い出すからかもしれません。
そういう、子供特有のオブラートにくるまない残酷さとか、凶暴さとか、出てきていますよね。
いきなりキレたり、ゴミ箱ブン投げたり。
朝ドラヒロイン幼少期のお約束といえば、高所に登ることでして。
鈴愛はそうではなくて、岐阜らしい川にまつわる冒険に変更されているのが個性でしょうか。
ヒロインのおてんばぶりは、好奇心やお茶目さを示す好意的な描かれ方が多いわけですが、鈴愛の場合は短絡的かつ暴力的なマイナス面もあります。
これは律もそうで、なんだか屈折している部分がありますね。
大人びた、理想の少年というだけではありません。
またおてんば系か、と言われますけれども、鈴愛は他の作品より駄目な部分が出ています。
立志伝系ではなくて日常系という要素もあるのでしょうが、成長後もこういういびつで悪いところも残して欲しいですね。
そこが現時点では、彼女の魅力にもつながっていますので。
著:武者震之助
絵:小久ヒロ
【参考】
NHK公式サイト
いつもありがとうございます。気になったところです。すみません。
>律は悪い子じゃないけれども、ちょっとひねくれているというか、和子さんのハラハラ感も理解で切る危うさがありますね。
>思うが早いが突っかかり、教室は大騒ぎ。
>ブッチャーは、
「律に何かあったら、どうしてらええんや。あいつしか友達がいない……」