1989年も残すところあと一ヶ月。
岐阜県東美濃市で暮らす高校三年生の楡野鈴愛は、卒業を前にして大きな決断をします。
上京して、少女漫画家・秋風羽織に弟子入りすることにしたのです。
大きな夢へ踏み出すことになる鈴愛。
それは、家族や友達、かけがえのない幼なじみの萩尾律との別れでもありました。
もくじ
サンバランドのクリアファイルに北野天満宮のお守り
年が明けて1990年、平成2年の元旦。
晴れ着の鈴愛は、萩尾家にやって来ます。
「回るか?」
「御意」
こんな幼馴染ならではの会話を交わす二人です。
鈴愛は、初詣で引いた【大吉】のおみくじを律に渡します。
「京都大学なのに京都で受験しないのか」
本気でスッとぼける鈴愛に、センター試験の説明をする律。
律は、共通一次がセンター試験に変わった最初の年の受験生ですね。
ここで鈴愛は、サンバランドのクリアファイルを取り出します。律もお揃いのファイルを持っているのが、嫌なフラグに……。
「じゃーん、鈴愛の宝物入れ!」
親戚に頼んでもらったという、北野天満宮のお守りを渡す鈴愛。優しいじゃないですか。
「ありがとう、鈴愛。俺、がんばるよ」
鈴愛はフランソワを可愛がっています。
「うん! フランソワに律って名前つけて東京で飼っていい?」
「だめだ。京都にいったあとの当面唯一の友達になるんだから」
「ブッチャーは?」
「忘れとった」
忘れられるブッチャー、哀れです。
出てきたのは写真とイカ天ライブのチケット、漫画原稿……
センター試験当日の朝。
ガラスのハートを持つ律は、眠れないまま朝6時を迎えました。
サンバランドのクリアファイルに入れておいた受験票を確認しようとすると……鈴愛が秋風羽織と写した写真、イカ天ライブのチケット、漫画の原稿……。
もしかして、サンバランドファイルが、入れ替わってるぅー!
うわああああ、一気に胃が痛くなる展開に突入します!
「やばいやばい、まだ6時、余裕だよ!」
律は慌てて楡野家に行きます。
そこにいたのは上機嫌の仙吉。
新春ワイド時代劇『宮本武蔵』(主演:北大路欣也さん)を見たそうです。
ちなみに新春ワイド時代劇は2016年が最後です。
当時はビデオがありましたので、録画を見たようですね。
この直後、つくし食堂店内にサンバランドクリアファイルがチラリと見えます。
仙吉っつぁん ドラマを見すぎて貧血って
晴にも挨拶をして、さぁ、あと少し!
と、思ったそのとき、仙吉が倒れます。
パニック状態の晴を放っておくわけにもいかず、119番をして、毛布を用意して、付き添う律。
岡田医院に連れて行き、キミカ先生の見立てでは貧血でした。
どうやら新春ワイド時代劇を夢中になってみて、夜更かししたことがよくなかったようです。って、おいおい、今度は律がピンチだよ!
「あら、律くんセンター試験じゃないの?」
キミカ先生の言葉に、晴が驚きます。
大丈夫、まだ余裕があるはず、と律が食堂に向かうと、例のファイルがない!!
鈴愛の部屋を探してもありません。
ちなみに鈴愛ちゃん部屋は、整理整頓が苦手なようで、なんともリアリティのある乱雑さですなぁ。
今世紀最大の【やってまった】
そのころ鈴愛は、バスで移動中。
アーモンドチョコレートを隣席の男の子と分け合い、上機嫌です。
一方、律。
虚無の顔で呆然と座り込みます。
ナレーションの廉子さんも困惑中です。
電話がかかって来て律が取ると、出前の間違い電話。二度目の電話は晴からでした。
「あれ、律くんなんでまだいるの! 鈴愛? 東京に下見に行くって出かけたけど」
うわわわわ、万事休すじゃないの、これ⁉︎
そのころ鈴愛は、隣の席の男の子にイカ天ライブのチケットを見せようとし、クリアファイルを開けます。
そこでおみくじを見つけ、さらに受験票を見つけ…。
「バスを止めてください!」
それで間に合うのか、鈴愛!
今世紀最大の【やってまった】でした。
今日のマトメ「1990年ならではの悲劇」
今日の展開は、1990年ならではのものです。
もしもこれが2018年の高校生ならば、LINEで連絡を取り合ってこんなことにはならないはずなのです。
1970年の高校生ならば、おじいちゃんが録画したドラマが原因で倒れる展開はありません。
まさに1990年ならではの悲劇。ポケベルもギリギリ導入されてない時代です。
今日は見ていてこちらまで胃が痛くなる展開。
【萩尾家の人たちが鈴愛の運命に光明をもたらす】
という先週の土曜日と真逆で、
【楡野家の人たちが律の運命に暗雲をもたらす】
流れなのです。
和子が秋風羽織トークショーのチケットを当て、その幸運の恩恵を受ける鈴愛に対し、楡野家の人々は鈴愛を先頭に律を困らせます。
鈴愛は幸運を積み重ねたのに対して、律は悪運が重なってしまうのです。
クリアファイルを間違って渡したのは律でしたが、仙吉が寝不足で倒れなければ、こんなことにならなかったはず。
って、そういう責任の所在を明確化しても意味がないんですよね。
律はこのセンター試験の大失敗で、東京に進学することになるのでしょう。
これはやっぱり脚本家さんの出た早稲田かな。
結果的に、やはり二人は離れない。
偶然の積み重ねによって離れるようで離れない、そんな展開が両者の絆を暗示しているようです。
律には悪いんですけど、これもまた運命ということで。
著:武者震之助
絵:小久ヒロ
【参考】
NHK公式サイト
受験票忘れても何とかなるんですよ。知らないのかなあ?
ああー、律くんヤッテマッター!
またしても受験当日の悲運ジンクス男。現実社会でアクシデントに見舞われて入試をフェイルしてしまった方のことに思いを致せば笑うのは不謹慎、なのは分かっていてもこのドタバタには笑い転げてしまう。まあイケメン・スポーツマン・成績抜群の三冠王の律くんだから、これぐらいの目に合ってちょうどバランスが取れるよね。って片付けてしまうのもこれまた乱暴なんだけど、視聴者側には少なからずそういう目線があることは否定できませんから。
もちろん鈴愛にとっても相当これはショックな不幸な事件。だがこれも人生経験、後になれば良き思い出にもなるということにして、無責任傍観者の我々は笑って済ませましょう。
しかしこの脚本、やっぱり話の流れがナチュラルでよく練られていて巧みです。ドラマで笑いを取るやり方ってこんな感じにやるんだよ、少しは分かりましたかねわろてんかの脚本家さん、てどうしても言いたくなる。
律くん、諦めちゃダメだ!
会場に向かおうよ!
この年京大は足切りなかったよ!
当時それほど普及してなかった、A4サイズのクリアファイル。⬅どうかな~と思っていたらこんな形で回収されるとは。面白いです。