ティラミスが大ブームだった1990年(平成2年)の東京。
岐阜県から上京した楡野鈴愛と萩尾律も、ティラミスみたいに甘くて苦い恋の真っ最中です。
マシュマロみたいで優しく、どこかミステリアスな朝井正人を好きな鈴愛。
かわいいけど、エキセントリックなところを見せる伊藤清と交際中の律。
二人の恋の行方は?
【57話の視聴率は21.9%でした(過去最高)】
まさかのお断りだと!
「好きだよ」
そう告白した鈴愛ですが、正人はなんと! こう返すのです。
「そういうつもりじゃなかったんだ」
「好きだよ、マアくん!」
信じられないのか、必死でそう叫ぶ鈴愛。正人は「離れてってば!」と相手を突き飛ばします。
あわてて「大丈夫?」と手を差し出しますが、時はすでに遅く……。
ナレーション担当の廉子さんすら、こりゃないでしょと呆れています。
秋風ハウスでは、鈴愛がボクテとユーコに慰められながら泣きじゃくっています。
こういうときに欲しいのは、あなたは悪くないという慰め。ボクテはこういいます。
「そんなの男の川下にも置けないよ!」
ユーコはそれをいうなら風上でしょ、と突っ込みます。
「ともかく女の子にすることじゃない!」
「両想いじゃなかったの?」
「いけると思っとった、今回……」
「今回っていうことは前回」
「しっ!」
ああー、辛い! 正人、この野郎!
とは言い切れないのは、正人の気持ちもなんとなくわかるからではあります。
安定剤は律 律に会いたい!
「私は振られたことしかない! 死んだ方がいい! 息が苦しい! ユーコ、薬ちょうだい!」
「そんなの難しいよ。胃薬と頭痛薬しかない」
そう生真面目に返してしまうユーコ。
ここは安定剤が必要です。
「息ができないっ!」
過呼吸になりそうな鈴愛。泣きじゃくって、過呼吸になりそうな永野芽郁さんの演技がいいですね。
自然体です。脚本やストーリーにちゃんと乗れている感じがあります。
「律に会いたい!」
ついにはそう言い出しました。
そう、辛い時の安定剤とは、鈴愛にとって律なのです。
律はユーコから電話を受け、驚いています。
そして引越し準備中の正人に、人の恋愛に突っ込むつもりはないが、と前置きしたうえで釘をさすのでした。
しかし正人は、別に付き合っていないよ、言います。
一緒に花火してご飯食べただけ。
「それで十分なんだよ。あいつ免疫ないから。マハジャロだのゴールドのお立ち台で踊る女と一緒にするなよ。偏見、悪かったけど、マハジャロに」
そうあきれ返る律です。
「一緒にしないためにハッキリ言った」
正人は、どうやらマジメに考えたからこそ、鈴愛の告白を断ったようです。
好きと言われて好きと返して、キスをしたら100パーセント好きになってしまう。正人は犬みたいにどんどん彼女を増やすタイプですから、五人目の彼女にするのはいやだと。
「律の好きな人とつきあえないよ!」
「五人目の彼女?」
「いや今はいろいろあってフリーだけど」
よかった、本当に鈴愛が五人目だったら朝から殺意の波動が止まらないところですよ。
正人は、それに律が大事だからとも打ち明けます。
実は人嫌いなところがある正人にとって、律は東京で初めてできた友達。
吉祥寺でも一緒に住もうとすら思っているのだと。
こんな友達は初めてなんだ、と正人。またサンドバッグにしてしまって申し訳ないのですが、『わろてんか』の伊能栞が同じようなセリフを言ったときは失笑しました。
本作では納得できます。
女とはバッチリあっても、男同士の友情がなかなか成立しないタイプって、実際いますよね。
「律の好きな人とつきあえないよ!」
続く正人のセリフに律はムッとします。
おれには清がいる。神様みたいなことをいうな。お前に鈴愛とおれの歴史の何がわかるんだ、とイラつくのです。
もー、律ってばー。
俺とあいつのことは俺たちしかわからないって、それ、完全に好きってことじゃないのよ。
ああ〜イライラする!!
ボクテは失恋の修羅場を踏んでいる
秋風ハウスでは、鈴愛が晴に電話中。
「あの子いい子だったけどねえ。新幹線で飲み物と『女性エイト』を買ってきてくれたのに。おかげでアイルトン・セナの恋人の名前わかったのに」
そういう晴さん。
甘いマスクにカリスマ性、そして何より天才的なセンスで、セナは大人気でしたからねえ。
「お母ちゃんの話はどうでもいい」
鈴愛はアッサリ話を打ち切ります。と、そこに律がやってきました。
受話器を律に預けると、ティッシュがないから部屋に戻ると立ち去ります。
晴との電話を終えて鈴愛の部屋へ。東京に出てくるかとすら言い出した晴に対し、そんなことしなくていいと言います。
それよりも、父、祖父、弟には言わないでと。いや、それはもう多分、まる聞こえのような……。
過呼吸にまでなっていた鈴愛。
ボクテは失恋の修羅場を踏んでいるから知っていると、言います。
ゲイは侮れんと本人も言っていたそうです。
ボクテは明るくていい子だからあっけらかんとしていますが、何度も失恋して過呼吸になっている彼のことを思うと胸が痛みます。
生まれ初めて聞いたのは鈴愛の泣き声
「”ごめん”は苦しい。よく切れるナイフみたいな言葉や。思い出すと胸が痛い」
正人の言葉を繰り返して泣きじゃくる鈴愛。
「律、裏返って。面でなくていい。裏、背中」
鈴愛は、小さいとき怖い夢を見ると晴の背中にくっついたと思い出を語ります。
「律の背中はあったかい。あったかいと、余計泣けてくる。ほっとすると涙がでる」
「そんなもんかね。平熱、36度ないけど」
「低温動物だね」
「恒温動物だろ」
「いくら泣いてもスズメの涙、なんて。こんな時でも律が笑うと嬉しい、ほっとする」
律も、しみじみこう続けます。
生まれて初めて聞いたのは、五分後に生まれた鈴愛の泣き声だった。左耳が聞こえなくなったときも、鈴愛は思い切り律の横で泣いていたのだと。
「そんなこともあったねえ」
そう語る律なのでした。
今日のマトメ「好きとは言わずに好きを表す」
鈴愛から正人への言葉は「好き」のひとこと。
一方で律への言葉は、本文をご覧ください。
行間に、言葉の間に、目一杯の二人の歴史と好意が詰め込まれています。
「好き」とは言わずに「好き」を表現する――。
そのチャレンジに、脚本家さんが全力投球した。
そんなボールがこちらに飛んで来たようです。
鈴愛と律だけではなく、正人と律の関係でも、体温を感じるようなそんな言葉のやりとりです。
これだけでもうお腹いっぱいだな。
このままラストでもいいや、というくらい満足感がありますが、もうひとつ清という山がありますね。さあ、どうなるのか。
あの子は手強いですよ。
著:武者震之助
絵:小久ヒロ
【参考】
NHK公式サイト
>匿名様
ご指摘ありがとうございます!
字幕ありの録画で見ましたところ「低温動物」でした。
本来なら、変温動物というところかもしれませんが、
二人のなにげない会話から出てきた言葉っぽいですね^^
低音動物?
多分ここは「 低温動物」。
でも、 「恒温動物 変温動物」を「定温動物 変温動物」とした可能性もあるし、
「低温動物」と「定温動物」の言葉遊びかもしれない。