1992年(平成4年)の夏は、楡野鈴愛はじめ、秋風塾の三名にとって転機でした。
ユーコがまずはデビュー。
それに焦ったボクテは、鈴愛のアイデアを剽窃したうえに、勝手に他誌へ掲載させて、羽織から破門されます。
そして鈴愛は、ボクテがガーベラ新人賞を辞退したため、繰り上がりでデビューが決定。
さあ、漫画家・楡野鈴愛。これからが本番です!
【67話の視聴率は23.2%でした】
もくじ
モスコミュールを一口飲んで
「つくし食堂」では、鈴愛のデビュー作が掲載された『月刊ガーベラ』を宇太郎が山ほど買ってきています。
うれしいなぁ〜。
鈴愛の努力だけではなく、家族の期待もみてきたからこそ、とてもうれしい場面です。
二十歳になって飲酒が解禁されていますから、祝杯としてユーコが鈴愛にモスコミュールを振る舞っています。
一口飲んで
「うまい!」
と歓喜の鈴愛。
味覚を含めた五感に訴える要素が、本作は巧みですよね。五平餅を食べた秋風羽織先生もよかった。
そしてこのモスコミュール、当時、流行りました。
二十歳になりたての頃って、ビールやウイスキー、日本酒では、いまいちピンとこないじゃないですか。
入り口はカクテルだったりします。
甘くて、苦くて、初めてのお酒の味。自分も酒の味がわかるようになったんだな、大人なんだな、って感じるものですよね。
そういう人生経験のちょっとした輝きみたいなのが、本作ってあちこちにある。恋愛だけで青春っぽさを出してないところが物語に深みを与えている。
『西郷どん』なんて、やたらとウナギが出てきますが、全然おいしそうに思えません(大河ドラマを比較にしてスミマセンが)。
やっぱり単に美味いもんを出せばいいというのではなく、ストーリーと食がほどよく溶け合って初めて、視聴者に訴えるものなんですね。
漫画描くか、眠るか、美味しい菓子を食べてるか
ユーコはちょっと奮発してお値段高めのジンジャエールを使っていました。
天井で扇風機が回る、カッコイイ、トレンディな秋風ハウスのリラクゼーションルーム。
鈴愛はいっそ街まで繰り出そう!と言いますが、ユーコは「無理! 無理無理無理」と即座に否定します。
二年間、漫画描くか、眠るか、菱本のおいしいお菓子を食べるかしていない。
そんな二人が街に出ても、厳しいものがあると。
「でも、そのおかげで私も鈴愛もデビューできた!」
そう言うユーコですが、鈴愛の心中は複雑です。やっぱりボクテの辞退がありましたからね。繰り上げ入賞というのが、どうしても引っかかってしまう。
そこへ、ツインズが鈴愛宛に配達便を持って来ます。
鮮やかな色した、薔薇のケーキ。
本作は、すべてのスタッフさんが、本当に頑張っていますよね。
ロボヨのアームとか、この凝った綺麗なケーキとか。ボクテの美意識を感じさせるもので、よりグッとくるのです。
ギリギリまで脚本があがらなければ、そういうものを時間掛けて用意することは難しいかも。
ガガーッと脚本があがってくるから、細部まで丁寧に出来ているのではないかと。
カードには、ボクテからの応援の言葉がありました。
ボクテは『月刊アモーレ』はあれきりにして、他の雑誌でデビューを目指しているとのこと。謝罪と励まし、そしていつか三人ともプロになろうと、ボクテは告げてきたのです。
よかったなぁ、ボクテ。先週で消えるかと思ったら非常に寂しかったので、うれしいです。
で、ここでちょっと引っかかるのが……律との縁がプッツリ切れたまんまなんですよね。
別れがあるから再会もあるとはいうけれど、いつもこれが気になってしまいます。
鈴愛に届いたハガキの山の正体は
一方、楡野家では、草太とその友人がアンケートをひたすら書いています。
仙吉も五平餅を差し入れ。
ノルマ、一人十枚のバイトなんだそうです。晴に至っては高校一年生と詐称しています!
おいおいおいおい、組織票かっ!
でも確かに、当時って漫画の人気バロメータといえばハガキなんですよね。
実は名作でも、マニアックな作品は幅広い人気が得られず、掲載順位が下位常連だったりしたもの。
雑誌カラーとの兼ね合いだったりするんですね。
そこを、編集者の判断で光るものがあるからと連載を存続させたからこそ、世に残った作品もあるわけで。
そしてついに、鈴愛にも担当がつきます。
「楡野先生……」
そう呼ばれてうっとりする鈴愛。北野編集長はアンケートハガキの山を見せます。
いやいや、それ、バレないですか? 大丈夫?
「おい。お前、何をやってるか? 何を隠している?」
案の定、羽織からのツッコミ。
実は、鈴愛は草太に頼み、組織票を依頼していました。報酬は、なんと車。これには慎重な草太もノリノリです。
しかし草太は素直というか馬鹿でした。
消印が皆、岐阜の梟町。
そしてその何枚かには、五平餅のタレがついている。しかも、仙吉さんの。羽織先生、鼻がよすぎ。
背景に、策士ボクテの働き、アリ!
あーあー、バレちゃった。
ただ、デビュー作の作家にはよくあることなのだそうで。
「編集長、じゃ、連載の話は?」
「ああもう! ちゃんと私からお伝えしようと思ったのにぃ〜」
『一瞬に咲け』は高評価を得ていて、しかも消印が東京からのアンケートもかなりの数が届いていたとか。
高評価とアンケートの結果、連載決定だそうです。
すごいぞ! やったぞ、鈴愛!
ちょっと複雑な顔で、内心「けなるい!」と叫ぶユーコでした。
そしてユーコは、ボクテからのケーキ伝票をみつけて、電話します。
ここでボクテの奇策があきらかに。
1. 『月刊ガーベラ』を百冊買う
2. アンケート用紙を切り取る
3. いろんなキャラになりきって、百種類の感想を書いて、プリントアウト
4. 二丁目の人脈を利用して、百人の知り合いに感想を写してもらう
5. 百枚はきりがいいので、二枚は破棄
6. 98枚を、二丁目に偏らないところから投函
策士やあな〜!
ユーコは納得しますが、ボクテは言います。
アンケートだけでは連載決まらない。
罪滅ぼしの援護射撃。
鈴愛の漫画が本当に好きなんだ。
と。
ボクテのために苦手な相手へ電話をかける
ボクテは持ち込みを始めておりました。
丸山出版の『月刊リリイ』とか。ユーコとの話を背後でジッと聞いている羽織です。
そんな羽織に、鈴愛は御礼を言います。連載決定は先生のおかげだと。
彼の世界を継承させたいという思いが実りつつありますね。
羽織は、連載デビューが決まってからこそ漫画家だ、とハッパをかけます。
そして羽織は、デスクに戻って名刺入れを見ています。
数々の名刺。これも全部、ドラマ用に作っているんですよね……。
その中から一枚取り出し、電話番号を眺めながら羽織の脳裏に、業界人っぽい脂ぎったオッサンが浮かんできます。
よく見りゃ名刺には「(苦手)」と記されていましたね。
羽織も、あまり付き合いたくない相手のようです。
それを押して受話器を取り、電話を掛ける羽織。
相手はユーコが独善的と評価した『リリイ』の江口編集長でした。
電話口で江口を褒めちぎり、ボクテについて頼み出す羽織。彼なりの援護射撃です。
ユーコも、連載をとるべく気合いを入れ直します。
みんながんばれ!
今日のマトメ「ツンデレは永久に不滅です」
前作『わろてんか』のレビューで、血を吐きそうな思いをしながら、
「ツンデレのいない世界に行きたい」
と書いた記憶があります。
「ツンデレ」が悪いわけじゃなくて、そういうのを表層的になぞった、底の浅いキャラがよくなかったのだと、今日改めて思いました。
羽織先生、ツンデレじゃないですか。
「べっ、べつに、ボクテなんか破門したからどうでもいいんだけどね」
という態度をとりながらの援護射撃ですよ。
しかも、羽織の場合は、その援護射撃をボクテや鈴愛たちがわかることがあるのかどうか、最後までわからない。
こういうのがよい、ですよね。大好物。素敵です。
『わろてんか』のように、ただ単にぶっきらぼうな態度とって、ビンタしたりして時折お守り渡して、
「でもほんとうは好きなんだからァー!」
みたいなツンデレは、佃煮に出来るほど見飽きていて、もう心に響かない。描く側も惰性&妥協でやってる感があるとしか思えない。
そもそも、そんな薄っぺらいもんじゃないでしょ。
『ツンデレ』という言葉が比較的新しいから、萌えの概念みたいに思えますけど、人類が誕生して以来、こういうことをする人は常に描かれて来たものです。
なぜなら人というものは、誰しも心理的葛藤を抱えており、スグに素直になれる人ばかりじゃないから。
「うちのうつけ息子がもう心配で、あの馬鹿が、心入れ替える日は来るのか?」
と口では言う親が、
「でもな、お母さんがそんなに心配しているのは、お前がかわいくて、実は期待しているからなんだよ」
みたいなパターンもあれば、
「キイイッ! あんな高慢ちきな奴大嫌いなんだからねっ! でも、実は、ちょっと心にひかれているかも」
みたいなパターンもある。
こういうのは常に存在してきたわけですね。
普遍的&心理的な葛藤や、素直になれない優しさに本作はちゃんとたどりついていて、表層的になぞっていない。
ツンデレが流行だからではなく、秋風羽織という人物をきっちりと作り込んで、そして行動させていることがわかります。
そういう羽織先生に、グッと来ます。
ボクテも出番があって心の底から嬉しいです。
また出てくることを祈ります!
著:武者震之助
絵:小久ヒロ
【参考】
NHK公式サイト
いつもありがとうございます。ご確認下されば幸いです。
>報酬は、なんと車。これには慎重は草太もノリノリです。
慎重派? 慎重な?
>しまこ様
ご指摘ありがとうございます。
私の資料読み間違いで、
いくつかの作品との比較の中で、でした。
訂正させていただきました。
今後もご愛顧よろしくお願いしますm(_ _)m
2011年以降最高の視聴率っていうことはないと思うのですが。。