「アンゴルモアの大王」が降臨し、世界が滅びる――そんなノストラダムスの大予言が示していたのは世紀末の1999年(平成11年)7月でした。
世界は滅びない、されど28歳を迎えた楡野鈴愛の世界は滅びようとしています。
デビュー十年目にして漫画を描く才能は枯渇!
そして、かけがえのない存在であった萩尾律は、結婚……。
手元に何もない、心にガラスのかけらをいっぱいに詰め込んだ鈴愛。
彼女は一体どこへゆく?
物語はいよいよ後半戦へ。
【79話の視聴率は22.5%でした】
もくじ
鈴愛には、何もないわけじゃない
ネームなし、ぶっつけ本番でマンガを書き始める鈴愛。
もうあいつはスケジュールという概念がないからこれしかない、と羽織は菱本に語ります。
その一方で羽織も、何か原稿を進めるようです。
菱本はその真意を尋ねますが、羽織は「落書きだ」とお茶を濁すだけ。真意を語ろうとはしません。
ボクテとユーコは、前回あれだけ罵られたのに、鈴愛を支えると言ってくれます。
鈴愛には、何もないわけじゃありません。
友情があります。
漫画家の筆を折ってなにがしたかったの?とか、主人公が何も得ていない、とかそういう意見もあるようですが、ユーコとボクテの二人に加え、羽織、菱本と言った、秋風塾の仲間を得ています。
鈴愛は週をまたいで、二人に謝ります。
当たり前ですが、雑な週単位進行解決型のドラマだと、こういう律儀なフォローはないんですよね。
ユーコは、子供のくうちゃんはシッターに預けて手伝ってくれます。
大阪制作のダメな朝ドラだと、くうちゃんが反抗期になってから、
「ママはぼくより仕事を優先したぁ!」
って言い出しそうなやつ。
そういう呪いを解いてくれるだけでもありがたい。
本作は、シッターを使うユーコのことをダメとは言わないでしょう。
いいですね。平成の物語って感じだね。そして、そういうところですぞ、『わろてんか』!(またも流れ弾)
敗残兵は語れない
二人はあと五日後の締め切りまで、毎日手伝ってくれます。ええひとや。
こういう無償労働の賛美って普段は苦手なんですけど、もうここは真冬の八甲田山みたいなものだし、仲間が大事です。
ここでのユーコのセリフもいいですね。
「仲直りはいつでもできるよ」
やさしいなあ。あんだけ罵倒されても、ちゃんと理解してくれている。
これ以上無い親友ではないでしょうか。
しかし、です。
現実は甘くない。
それでも鈴愛は描けないのです。適当にちゃっちゃっとできない。
鈴愛がここまでドン底だったり、すぐ描けなくなることがあまりにひどい、大げさという意見もありますけど、鈴愛の苦しみは鈴愛だけのものなんですよね。
成功した漫画家さんが、成功あるいは生存バイアスがかかった前提で
「このドラマはおかしい。私は作風を変えて30過ぎて成功して」
といったところでそれは虚しいのです。
鈴愛は敗残兵だから。
敗残兵は、自分がどうやって生き延びたか語ることはできないのです。
プロやセミプロの漫画家さん、漫画ファンをはじめ、ともかくアンチも多い本作。
漫画という題材のせいもあるでしょう。
実は『マッサン』のときにウイスキー製造業者がキレていた可能性もありますが、ウイスキー関係者は漫画関係者より絶対数が少ないでしょうからね。
正直あのドラマのマッサンの無職描写は、ニッカ関係者は怒って良いレベルだった気がします。
「神さま、助けて……あの船に乗れば……」
さて、話を戻します。
鈴愛が描けないのは、主人公たちが再会してからです。
自分の経験を糧にして身を削って創作してきた鈴愛です。律と再会したあとの物語がないのだから、漫画に反映できないのも当然かもしれません。
律はやはり特別。
律との決定的な別れと才能の枯渇が重なったのは、偶然ではないのかもしれません。
どこかで律と再会できて、一緒にいられるという気持ちが創作の源だったのかも。
昨年の『おんな城主直虎』では、小野政次を失った井伊直虎は、片方の翼をもぎとられた、と語られました。
直虎は家の再興を一旦諦め、結婚して農婦として生きる道を選んでいます。
鈴愛も、片方の翼がもげてしまった。
つまり……もう飛べない。
今週も月曜日から重たいです。
「神さま、助けて……あの船に乗れば……」
船の幻は、真夏の蜃気楼のように消えてしまう。
ひいんっ、もう!
そして締め切り寸前になっても途中までで未完成。
ユーコにヒントを聞くのですが、もう筆を折ってから四年目のユーコはプロットが思い浮かばない。鈴愛はボクテに聞こうとし出します。
ここで鈴愛、
「なんで止めないの?」
と振り向く。
こういう態度も、嫌いな人は嫌いだろうなあ。
こういう言動、普通はそろそろ卒業する。ただ、鈴愛はそういう器用なタイプじゃない。
こういう不器用な本人、および彼らを見捨てないで関わってきたことのある人には、刺さりまくると思います。
本作がアンチが多いの、わかりますよ。
鈴愛って、多くの人から愛されて理解される性格じゃない。
でも、そのぶんハマる人にはガツンとくるんじゃないかな。私はガツンと来ています。
電話の相手は、律だった
「相談するなら、いいんじゃない」
ユーコはそういうだけで精一杯。
ユーコも、ボクテも、そして羽織や菱本も。読者や家族も愛していた鈴愛の才能は、もう尽きかけているのです。
先週も書きましたが、もう倒れた鈴愛には立ち上がれとは言いにくい。
「次は自分で」
ユーコがそういうと、鈴愛は「次なんかないんだよ」と返します。
そのころ、オフィスティンカーベルでは編集者がうろうろ。
このままでは穴が開いてしまうと慌てています。編集者としては、何があってもそれだけは絶対に避けなければならない事態です。
そのとき鈴愛の携帯電話が鳴りました。
そういえば菱本の机にはiMacのブルーベリーカラーのモニタがありましたね。
小物で時代感が出ています。
電話を鳴らしたのは、律でした。
なぜ君たちはこんなことになってしまった!
こっそり大阪へ行ったことがばれたのか?
一瞬、そう焦る鈴愛ですが、結婚報告でした。
律は、この電話番号をブッチャーから聞いたようです。
って、そうだったのか。
ブッチャーには教えても律には教えていない。そこまで、途切れていたのか。
「そのう、結婚したんだ」
「おめでとう」
「来月の『月刊アミー』に掲載されるんだって。楽しみにしている」
すごく短くて、シンプルなセリフだと思います。
ただ、この短いセリフが悲しすぎる。
鈴愛も、律も、重たい本音や辛い気持ちを羽織やボクテとユーコには吐き出すのに、お互いはこんな短い言葉しか言えなくなっている。
この一滴の潤いもない、砂漠のような心象風景。
清流の国の岐阜で生まれて、木曽川の豊かな流れを見ながら、二人で綺麗で豊かな言葉を、たくさん交わしてきたのに。
なんできみたちはこんなことになってしまったんだ!
「あ、通勤途中。電車きた」
「電車、何色?」
「夏虫色だよ」
「夏虫って色の名前なんだ」
「綺麗な薄緑色だよ」
「あ、電車乗って。バイバイ、律」
「バイバイ鈴愛、がんばれよ」
夏虫色。それはこんな色です。
わかりづらいですね。
背景を黒くして、夏虫色を表現してみます。
夏虫色です。カラーコードだと#cee4aeです。
あの『月屋根』を代理原稿にするって
どうしたって、あの夏虫駅のことを思い出してしまう鈴愛。
電車の色を聞くところが突拍子もなくて、ちゃんとした鈴愛本来の言い方っぽい。
それでも悲しいのは、夏虫駅のことを思い出すからでしょう。
もう律は、私のマグマ大使ではない。笛を吹いても来ないのだ。そう思う鈴愛です。
しかも、鈴愛は描けなくなってしまっている。
そうなのです。締め切りを過ぎてもできているのは、30ページのうち15ページ。これは完全にアウトです。
編集者に向かって土下座する鈴愛。
段々と、このへんから秋風ワールドにも、見えないほどの細かいヒビが入っていて、しかも原因は鈴愛の気がする。
だって、以前ボクテが土下座したとき、羽織は止めたでしょう?
ここで羽織はこう言います。
「代原(代理原稿)あります」
そして出したのは、『月が屋根に隠れる』。
原案:楡野スズメ
作画:秋風羽織
「信じられない……」
ここで編集者が、鈴愛ではなくて羽織が欲しかったと残酷な本音を漏らすのはさておき。
鈴愛は、自分と羽織の名前が並んでいることに固まります。
今日のマトメ「秋風自ら破った禁」
秋風羽織半端ないってもぉー!
アイツ半端ないって!
あの『月屋根』を代理原稿にするって。
そんなんできひんやん普通、ひしもっちゃんくらいに言っといてや、言っといてやできるんやったら。
先週のクリフハンガーから、週をまたいでどんどん敗北死ルートへ行くのが恐ろしいです。
こうなることは、わかっていました。
ユーコは、ボクテにアイデアを聞きに行く鈴愛を止められないし、彼女たちも薄々これがラストチャンスだろうなあ、悔いなく挑んで欲しいと思っていそうで。
そして羽織です。
秋風塾も壊れつつある、ヒビが入った、と書きましたよね。
今回の鈴愛の敗北と離脱は、ボクテの時に語られたルール違反が出てきています。
土下座が、まずひとつ。
そしてもうひとつが、『月屋根』という鈴愛のアイデアを、羽織が完成させたこと。
『神様のメモ』のとき、ボクテと鈴愛が同じことをしたら、羽織は激怒してしました。
プロ同士でアイデアの貸し借りは厳禁だと――。
そのタブーを羽織がしてしまっているのです。
鈴愛はもう救いようがないから、鈴愛本人は救えなくても、彼女が心血を注いでいた、そして魂のこもった最高傑作になるはずだった、『月屋根』だけは世に出そうと。
先週から物騒な敗残兵という言葉を使っていまように、今日の流れは感動的ですが、同時に凄絶で残酷でした。
鈴愛が助からないから、鈴愛の残したものだけはなんとか守ろうとする。
自分が育てた弟子の無念を、師匠として看取るかのようです。
月曜日の朝から、これですよ。
大河ドラマは砲声一発すら鳴らさずに薩英戦争を終えたのに、流れ弾で朝ドラヒロインが斃れ臥すという、血も凍りそうな幕開けです。
週をまたぐあたりがおそろしい。
凡作なら、一週間に無理やり詰め込んで、月曜日は100均でのスタートからにしたはずです。
後半戦は、このどん底からスタートします。
もしもこれが徳川家康のドラマなら、ここが「三方ヶ原の戦い」のあとです。
楡野鈴愛は不死鳥なのか?
それともこのまま、負けっぱなしなのか?
目が離せません。
アンチが多いのは理解できます。
ただ、「脚本家がツイッターで余計なことをべらべら書いているのがイヤ」と噛み付くのは理解できないです。
著:武者震之助
絵:小久ヒロ
【参考】
NHK公式サイト
連投失礼します。
(私はツイッターは読んでいませんが)、7/4の「トヨエツさんのアドリブ」の様な情報を教えていただけたのは嬉しかったし、トヨエツさんに感激しました。
放送後にこんな素敵な撮影秘話を教えていただけるのはファンにとって、とても嬉しい事と思います。
うーん…
「脚本家が余計なことをベラベラ書いてるのがイヤ」と噛みついてる、というのは、6/26の私の書き込みのことでしょうか?(もし違っているのなら自意識過剰ですね)
「余計なことをベラベラ書いてるのがイヤ」と強い言葉で言っていませんし、噛みついてるつもりも全くありませんが、26日に書いた様に、放送前に作品について書くのは、広い意味のネタバレになってしまうので、控えていただきたいという気持ちは変わらないです。
それを「理解できない」と断言されてしまうのは、非常に残念です。
創作の仕事の厳しさ、見ている方も辛いですね。別の方も言われてましたが、私も何かのキッカケで描けるようになることを望んでました。ネームを飛ばしていきなり描くことや、律くんの電話、さらには夏虫色の電車…でも本当に描けなかったとは。徹底的にキツイ、でもこれがリアルなんですね、きっと。
だけど、今日の最後、秋風先生の助け舟はファンタジーでしたね。リアルではこんな事は起こらない。でも、スズメへのありったけの愛情と餞けを感じる、そして見ている私達の痛い気持ちを救ってくれる、すごいファンタジーだと思いました。
ほんと、そうきたか、です。
このドラマは、各キャラの造形や行動原理がわかりにくく、脚本家さんのツイッターを頼りに楽しんでいます(^^;)
なので、私は「脚本家がツイッターで余計なことをべらべら書くのがイヤ」とは思ったことはありません。
念のため、脚本家さんのツイッターへのリプライも覗いてみましたが、賞賛ばかりで噛み付くようなリプライはありませんでした。
むしろ、リプライではない自由な感想や朝ドラの受けに「違います。〇〇です」と噛み付いているのは脚本家さんのようです。
「正解はないので解釈は自由ですよ〜」とでも呟いて笑い飛ばしてくださればいいのに、なんて思ってしまいます。
いつもありがとうございます。
こんな時に、指摘していいですか?
>『神様のメモ』のとき、ボクテと鈴愛が同じことをしたら、羽織は激怒してしました。
お分かりの方もいらっしゃったと思います。
上記箇所を思う通りに修正されることを希望します。
見た後、このコメントは削除されて結構ですから…
書ける場所がある、
そして色々なコメントがあるということは、しあわせなことですね。
12:33の「校正委員」氏からの連絡コメントがこれまた打ちミスしてて意味不明というのは、ちょっとブラックユーモア過ぎて笑うに笑えず、ですよ。
先日もどなたかが指摘されました通り、これは広く読まれる公的な文章ですので、これほど毎回ミスだらけでちゃんと校正されないまま出されちゃってるのはマズイと思います。ちょっと真剣に改善策を講じましょうよ。たまには敢えて苦言を呈させていただきます。
私はこのドラマが好きですが、だからこそ脚本家さんには呟いてほしくない派です。
華丸さんの発言があったとき律の気持ちを呟いておられましたが、今週ドラマの中で律自身が電話で語った。それだけでよかったのでは?度々の神回予告も先入観を生んでしまいます。脚本家さんは読みたくなければ読まないでとおっしゃっているようですが、ネタバレと同じく、記事を読まなくても題名が目に入ってしまいます。
ですから正確には脚本家さんが呟くことより、それを記事にするマスコミに問題があるのでしょうが、脚本家さんも記事になることを想定して、せめてドラマが終わるまで待っていただけないかと思います。
もちろん逆に呟きを楽しみにしているかたもいらっしゃるでしょう。また、そういう脚本家の態度が嫌いだからドラマも(ちゃんと見ていないのに)嫌いと噛みつくアンチは理解できないとおっしゃるのならわかります。
しかし脚本家さんにあまり発言してほしくないという意見をすべて理解できないと切り捨てていただきたくないと思うのです。
良くある展開の、急に鈴愛が生まれ変わったようにスラスラ描き始める、そんなきっかけになるようなタイミングは幾つかありましたよね。大阪でより子に会う、ネームを省く、律から電話がかかってくる等々、その都度「これでインスパイア?」と期待するも、無残に打ち砕かれました。そんな陳腐な脚本ではないのです。リアルで鬼です。秋風のサポートは想像出来ませんでした。
自分はTwitterをしていないので、詳しくは分かりませんが、脚本家さんがリアルタイムで情報発信してくれるなんて、ますます楽しめるじゃないですか。探せば何処かのサイトに出てくる、次の週のネタバレの方が嫌ですね。
連投失礼します
ちなみによくわろてんか が被弾してますね…私もあちらには憤りを感じた部類で、よくわかります笑
ただ、わろてんか と比較したくなるのは、夕方枠再放送のカーネーションが、激しいです。女性一代記、時代背景、こんな作品が先に出て、評価もされてるのに、なぜ わろてんか が誕生した…と
比べて半青は、仕事ドラマでは全くないように思います。そして、何を表現したいのかハッキリしない…某辛口ブログではポエムのような台詞が多いと批判されてますが、私はエピソード自体ポエムのようにポンポンと散りばめられているように思います。印象的なエピソードのまにまに感じられる感傷を味わう物語。鈴愛の性格は尖ってるから、そんな物語の作り方だと共感はえずらいかな…でも擁護も批判も受信料さえ持ち出さなければ笑必要なく、そういうジャンル、というだけだな、と
私はアンチではなく、ところどころ共感し、日曜日から今日の流れなどはテンプレでない物語を見れたな、と満足中です。様々批判はあるにせよ、物語に真剣に取り組んだ人の、真剣に何かを生み出そうとしている作品だなと思います。
脚本家さんが同時進行で語るのは、私もあまり好感ではありません。
そうすると、確たる物語世界を軸に視聴者として想像を巡らせることができなくなる。脚本家の解釈にあわせなくてはならない。
もしくは、前記と真逆ですが、確たる物語世界という軸がなくなる…物語の権威が失墜する…物語を作っているのも神でなくただの人だとわかってしまうから。
ただ、物語の作り手と受け手がやりとりしながら作る風景って、物語の原風景にも思います。ばーんと出版ないし放送される物語以前、口から口へ伝承され、語り手と聞き手が好きに解釈し、楽しむ。
そう考えると、慣れ親しんだ物語の楽しみ方が変わる事へのアレルギー反応なのかな、などと考えたりしますねー
先週から物騒な敗残兵という言葉を使っていまように
タイピングミスかと思われます。