岐阜の実家に出戻り、「センキチカフェ」で五平餅を焼く楡野鈴愛、37歳。
音声で会話のできるマスコットの「岐阜犬」も大好評です。
そんな鈴愛にも梟会にも変化が訪れます。
母・和子を失った律は、間もなく大阪へ異動。
愛娘の花野は、フィギュアスケートの浅田真央選手に憧れ始めました。
鈴愛の人生、さぁどうなる!?
【127話の視聴率は21.4%でした】
もくじ
花野が肉まん全部奪っとるな!
花野がジャンプしていると、鈴愛が帰宅しました。
宇太郎、晴、草太も部屋の真ん中でクルッと回ろうとしており、耳の障害を気にする鈴愛だけがチャレンジを断ります。
廉子が、アホやなー、と突っ込みつつ、2008年当時の浅田真央選手フィーバーを説明しております。
楡野家は、昼ご飯にそうめんです。
草太の調理スキルもありそうで、赤々としたトマトがノッており、とても余り物とは思えないほど美味しそう♪ プロとはいえ、本当に本作の男性は料理が上手です。
鈴愛と里子は、何か話し合っております。
話題は花野のお小遣いのこと。里子の子・大地と一緒にスーパーへ行くと、花野はお金がないと言い切るのだそうで。
大地に肉まんを買ったりしても、はんぶんこになるのだとか。
ここで鈴愛、いいや、違う!と言い出します。花野:7、大地:3だろうと。
肉は全部花野だろう、とも。
「うーん、カンちゃんかわいいでな」
里子がここから真相を告げます。実は花野:10、大地:0でした。
それはもう奢りだ!
カンちゃんが肉まんを奪っとる!
里子はお小遣いをあげたらと鈴愛に告げるのですが、実は鈴愛はちゃんとお小遣いをあげておりました。
一体おこづかいはどこへ消えたのか!?
自分たちの子供の頃を思い出し、花野を気遣う草太
問い詰める気満々で花野の前に座る鈴愛。草太はお手柔らかにな、と言います。
「自分のとき、思い出せ」
草太はいいお父ちゃんになりましたね。
やたら怒鳴って父の背中を見せ付ければ育つ系の、そういう父親じゃない。きっと大地のことも、思いやりを持って育てているのだなあ、と思わせます。本作の父親像って、基本的にそういう感じかも。
秋風塾の父親だった秋風羽織も、厳しいようで気遣いができる人格でした。
こういう男性、朝ドラだと割と珍しいかもしれません。
現代モノはともかく、戦前の成功マダムものだと、まずありませんよね。
まぁ、時代もありましょうけど、父親という以前に、ヒロインの相手役としての要素が強調されがちだからかもしれません。特に、鈴を鳴らせば亡霊となって現れる……って、もういいですね。
花野は、白鳥が水の上で泳ぐ絵を描いております。
浅田真央選手が、花野の目にはこう見えるのだとか。
花野は、フィギュアスケートをやってオリンピックに出たいと主張します。宇太郎がメダルを取れると言ったことも、大きいようです。
そのためにお小遣いを貯めていたのでした。
大須のリンクへ通えないだろうか……
「同じでごめん」と言いつつ、五平餅を和子の仏前に供える鈴愛。
重要人物の死という状況は共通しておりますが、大往生だった仙吉と和子には違いがあります。
そうでしょうね。死ねば皆同じとか、雑過ぎます。
鈴愛は、律と弥一に花野のフィギュアスケートへの夢を相談していたのです。
名古屋といえば、大須にリンクがあります(公式サイト)。
当時は浅田選手と安藤美姫選手、その前は伊藤みどり選手の本拠地として有名です。
現在も、平昌オリンピック銀メダリストの宇野昌磨選手はじめ、多くの選手がここから世界へ向かいました。
大須で習えば、メダリストも夢じゃない!
しかし、梟町から大須は、ドアトゥドアで二時間ほどかかるのだとか(公式サイト)。
週末の休みなら俺が送っていけると律。
そこで鈴愛が、大阪に戻るのだろうと突っ込みます。律、忘れていたな!
というものあるのですが、やっぱりまるで花野が鈴愛と律の子供のようと言いましょうか。律は鈴愛と花野のためなら、そこまでやるんだなあと、ホロリとさせられます。
弥一も送ろうか、と言いますが鈴愛は遠慮します。
東京なら神宮外苑まで地下鉄で一本だったのになあ、と鈴愛(公式サイト)。
涼次が成功しようと未練がない鈴愛ですが、ここには未練がある。
田舎は地下鉄ないもんなあ、と苦笑する一同。こういうのが、都会と地方格差のリアルかも。
しかし、鈴愛は無理なことを諦めない、と宣言されます。律も弥一も驚きつつ感心しています。
そうだ!
鈴愛は夢を追うのだ!
参加賞は、参加しただけで偉いからなのだ
花野は、鈴愛と並んで寝転がりながら「青メダルが取りたい」と言います。
そんな色はないぞと言われると、金銀銅には好きな色がないんだもんとのこと。
青メダルがあるとすれば何の賞だろうと考える鈴愛。
参加賞かも、と思います。
そして参加賞はえらいのだと。
メダルも、オリンピックも、選ばれた人しか取りに行けないもの。
でも、鈴愛はとろうとするだけで、その勇気にメダルをあげたいと思うのです。
これは、漫画家の道を挫折した鈴愛の言葉と考えるとよりグッと来ます。
チャレンジすること。それだけでも素晴らしいのだと。
これも、朝ドラとして秀逸です。
戦前成功マダムものは、既にテッペンとった女だからこそドラマになっている。
しかし、本作はそんな考えとは別物なのです。
鈴愛は、青いメダルを作って花野にかけてあげたのでした。
失礼だけども、そこが個性、健人です
このあと、センキチカフェで梟会。
青メダルを与えた罪深さを鈴愛は吐露します。
しかし、これは花野が初めてやりたがったことだ、とも言うのです。
このあと、健人と麗子にウェディングドレスは何だったのかと尋ねられる鈴愛。
素直に答えると「それは離婚するからやめよう」と健人は言います。
おいw 毎回毎回、短い台詞でインパクト残すコイツ、やっぱり好きだなあ。失礼だけども、そこが個性だ。
失礼なことを言われながらも、鈴愛はキッチリ五平餅の焼き方も指導します。
梟会の面々は、変わらないようで俺たちの話題も子供のことになったなあ、としみじみ。
鈴愛は席に戻ると、花野はわがままを言わないのだと言います。彼女にとっては大好きなパパと別れることになった涼次との離婚の時も、慰めてくれたほどだと。
そうそう。
鈴愛と涼次の離婚ですが、鈴愛はもっと花野ちゃんと涼次が会えるよう気遣うべき、という意見もあるそうです。
ってさぁ、そんなもん、涼次が自分で会いに来ればいいでしょうが。
カフェオーナーの鈴愛が、仕事に穴を開けて、花野のお手々引っ張って、東京くんだりまで顔を見せに行けと?
そんな必要性、私は感じません。
涼次があんなヒドい育児放棄しておいて、離婚までして、一応仕事が成功したのに、元妻がそこまでやらないと娘の顔すら見られないなら、その程度の父親ということです。
両親揃ってこそ健全な子供が育つと、伝統的朝ドラの家族像は言いたげですが、どうでしょうか?
私は両親が離婚経験者からこんな話を聞きました。
父母が喧嘩ばかりするから、別れてホッとした。相手の横暴から逃れた親は、一人になってからイイ人になって嬉しかったのだ、と。
伝統的な家族像というものは、実はマイノリティなのかもしれません。
そろそろ、我々も自分の考えを疑ってみる時では?
「律、見てて」
話を戻しまして……。
二回転飛べるのも、家族の中で花野だけと鈴愛は言います。大人になると体重もあるので、子供より身軽に動けなくなるということもありそうですが。
「あの子は金メダルを取るかも」
そう言う鈴愛に、そういう親バカたちがおるから金メダリストたちが生まれるとブッチャーが突っ込みます。
律、試しに、ここでジャンプに挑戦してみます。
ブッチャーとナオも跳びます。
そして鈴愛も
「跳ぼうかな」
と、左耳のことは置いといて、トライしようとします。
これが梟会の力かな?
律が側にいて、転んでもきっと支えてくれるという信頼感ゆえだとしたら。やっぱりこの二人の間には、何かあるんですよね。
律も、手をそっと伸ばし、鈴愛のジャンプ時のトラブルに備えます。
「律、見てて」
そう、他にも梟会はいるけれども、ここは律に呼びかけるわけです。
そして、ジャンプ!
おおっ、いいぞ!
「一回転もできとらん」
とブッチャーは突っ込みますが、いいですよね、この突っ込みも。
鈴愛が跳ぶだけでも大事ですけれども、そこを過剰に感動的に演出しないところが、本作の良さ!
鈴愛と律の間にある何かをそっと描くところが好き。
そこへ細い黄ネクタイの業界人が、跳びながらやって来ました。
「えええええ、誰?」
名刺を渡す業界マン・津曲。
鈴愛は名前を読み間違って「つきょく?」と呼ぶわ、おまけに思ったままのことをこう言うわ。
「へんな名前」
「なんだと!」
そういうところだぞ、鈴愛が規定外朝ドラヒロインなのは!
だが今日もそれがいい!
今日のマトメ「青メダル」
花野の夢がフィギュアスケートというのが、実にご当地らしいですね。
名古屋が近い。されど実際に花野が向かうとなると時間のかかる、岐阜の田舎町ゆえの距離感が出ておりました。
情熱、熱気、熱狂は、交通機関なんて関係なしに県境くらい越えるけれども、いざ練習しようと思っても物理的距離感はどうにもなりません。
そんな今日、気になったのは何と言っても【青メダル】です。
『半分、青い。』と、タイトルにも入る青。
金、銀、銅のような輝く色は、努力した人の中の一握りに与えられるものです。
しかし、その輝きを目指しただけでも青メダルの価値観はあるのだと、本作は告げてくれました。
秋風塾を去り、漫画家を辞めるとき。鈴愛は、師匠である秋風羽織を越えられない、一流になれないと告げました。
二流以下でも食べていけるように続ければよいのに、という批判もあったものの、それに対する答えが、この青メダルでしょうか。
夢に挑むことは難しいと、秋風塾や涼次との交流で鈴愛は学んだはずです。
夢を見れるだけでも幸せや、とは仙吉のセリフでしたね。
涼次との結婚も、ダメな失敗とされがちですけれども、あれにも意味がありまして。
花野を授かったことだけではありません。
夢を追う人間が、どうやって周囲を残酷に捨てかねないか、それを涼次や元住吉の言動で描いていたと思います。
朝ドラ世界観における夢を追う過程は、極めて美しく描かれるものです。
それは成功した実業家モデル作品が多いという点もあるのかもしれません。
ヒロインと最愛の夫が、わくわくした顔で夢を追い続けたら、夢も手には入ってお金持ちになれる。そういうセオリーが、多いではないですか。
前作のヒロイン・吉本せいの夫なんて、史実では、夢を追いすぎて遊び人だった気質に、妻のせいは呆れ返っていたような部分がありました。されど、ドラマではあくまで夫婦がお笑い大好きで、その夢を追うかたちに美化されておりました。
夢を追う厳しさ。夢追い人の残酷さが、この作品にはあります。
鈴愛の夢見た漫画家の世界は、親友ボクテのパクリや、ユーコと鈴愛自身の挫折という、厳しい結末が待ち受けていました。
夢を追った成功者である秋風羽織だって、世間からすれば規格外のところがありました。
朝ドラの夢を叶えた師匠枠は、普通はもっと人格者なんです。
しかし、映画監督の夢を追う涼次のクズっぷりは、蒸し返すのもどうかと思うほどですし、元住吉祥平の芸術家肌のこだわりも迷惑で痛々しいものでした。
そんな夢追い人に、青メダルを!
鈴愛は、そう宣言したように思えます。
成功した羽織や涼次だけじゃない、ユーコや自分自身にもメダルをかけたい。
だって勇気があったのだから。
本作は良妻賢母になれなかった鈴愛を通して、そういう人生がありだと教えているように思えます。
夢を追いかけ輝くメダルを取れなかった人の首にも、青いメダルをかけてくれました。ほんっとに、ありがとう!!
そうですよね。
花野は、今後もしメダリストになれなくとも、一生で自分が初めて取り組みたいと思った夢のために努力した鈴愛の姿を、きっと忘れないはずです。
練習で得たもの。
友情。
アイスリンクを滑ったときの感動。
夢を追うことで得られるものは、成功だけではありません。
鈴愛が漫画家挫折したことで、秋風塾の日々が無駄になったわけではありません。
秋風塾で得た喜怒哀楽、友情、達成感、岐阜犬を描くことになった画力。
全部、今日まで生きています。
この歴史映画が熱い!正統派からトンデモ作品まで歴史マニアの徹底レビュー
文:武者震之助
絵:小久ヒロ
【参考】
NHK公式サイト
立身出世物語でなく、ヒロインが無名の庶民のままの朝ドラといえば(昭和、20世紀の作品はほとんど知りませんが)「純と愛」「ひよっこ」そしてこの「半分、青い」ぐらいでしょう。「純と愛」は朝ドラの定型を打破しようとする意欲は凄いけど、壊すことのみにこだわって自爆しちゃった感じです。「ひよっこ」は好感の持てる秀作だけど、谷田部みね子はやっぱりNHK推薦的な良い子、頑張り屋さんであり、まぁニュータイプの道徳テキストドラマですね。
要するに、毎日続けて見せるには成功or道徳的ストーリーの方が無難だし作りやすいのは確かです。無名庶民女性のリアル人生の創作ドラマで半年間もたせるのは困難で、作家も制作スタッフもそのチャレンジは結局尻込みするのでしょう。私が楡野鈴愛と本作の作り手の皆さんに「青メダル」を贈りたいと思う理由がそこにあります。