半分、青い。51話 感想あらすじ視聴率(5/30)されど空の青さを知る

1990年(平成2年)、東京。

漫画家・秋風羽織に弟子入りした楡野鈴愛は、片思いのド真ん中で悩んでおりました。
ゆるふわイケメンの朝井正人と花火デートを約束したものの、電話がかかってこないのです。

フラれたのではなく、ちょっとしたすれ違いに、気づかない二人。

そのころ萩尾律は、大学で出会ったロボット工学に興味を抱いていました。

【51話の視聴率は21.1%でした】

 

彼女の唇が『待ってて』と言ってる気がした

その日、律は、体育の授業で弓道場におり、見事に皆中(4本全部を的にあてる)を達成しておりました。

するとそのとき一人の少女が声を掛けてきます。
高校時代に一度だけ出会った、あの弓道部の美少女。

ここで彼女の唇がアップになります。
『待ってて』

そう聞こえた気がした、初恋の人、伊藤清。
律はそう思います。

本作はナレーションがかなり自由ですが、律と鈴愛の声で語るときは、漫画のモノローグコマを意識しているのかな、と感じます。

今日は廉子さんのナレーションはおやすみ。
唇のアップもそうなのですが、意図的に漫画、それも往年の少女漫画を連想させる演出を感じます。

律が道場から出てくると、清がいました。

「萩尾律くんね」
「伊藤清さん」

二人の恋を元ネタにした鈴愛のマンガ第2作『神様のメモ』では、遥か先(55才)まで再会しなかった二人ですが、実際にはそうではありませんでした。

 

鈴愛よ、恋をしろ!

「覚えていてくれたんですね」
美男美女ですし、これはもうロマンスの予感しかありません。

二限の授業はサボることにして、コーヒーを飲みに行きましょう、と言い出したのでした。

平成末期の現役大学生は、バイトと講義と就職活動で大変なようですが、平成初期はまだ時間的にも金銭的にも余裕がありました(当然、学部などによって個人差はあります)。
「古今和歌集」という授業内容からして彼女は文学部のようですね。

一方で鈴愛は、正人のことを思い出して仕事中にボケ~ッ。
うっかり大事な原稿にインクを落としてしまいます。

あわてて、リカバリをします!と言い繕うものの、羽織はボクテに作業を任せ、鈴愛を別室へ向かわせるのでした。

ツインズがきれいに拭いた机で、羽織と鈴愛は向かい合って座ります。
てっきり怒られるのかと思ったら、羽織は「正人から電話はまだないのか」と何やら気を揉んでいる様子です。

そして、こう命じます。鈴愛よ、恋をしろ、と。

ナゼ羽織は鈴愛を弟子にしたのか?

あの五平餅も理由の一つですが、それだけではありません。
漫画を読み、書いてきた、いわば漫画漬けだったのボクテとユーコとは違い、山を駆け回っていた鈴愛は野生の強みがある、ということです。

大事なのは想像ではなくリアル!

これ、編集さんも「めっちゃわかる」と震えておりました。
誰かに取材して、それを本人に成り代わって記事にする経験が長く、体験者しかわからない【リアルなナマ情報】をいかに原稿に盛り込むのかがキモで、それを聞き出すのが一番の苦労だったそうです。

例えば、美味しいラーメンを作る話なら、
【全国各地の食材を探して、スープを何時間煮込み】
とか、一般に想像できる話を万遍なく書くのではなく
【スープ用の◇◇鶏を普通に注文すると、◯◯の部分がカットされて入ってくる。業者はサービスで処理してくれているが、実は、ガラと一緒に◯◯を煮込むと美味しくなるパーツだから、特別に注文をし直した。作業が一工程省略され、原価も逆に50円安くなる】
みたいに、具体的に体験しなければわからない話を盛り込むというワケですね。

上記のように食べ物の話だと喩えやすいんですが、これが他の事象だと非常に難しい。

特に恋なんかは、取材を重ねるより、やっぱり自ら体験するのが一番。
それが作品の血肉になる、と羽織は言ってるんですね。

 

羽織の口から溢れ出る創作術の極意やテーマ

ベタを塗るような技術面より、鈴愛の感性の部分を伸ばしたい羽織。

この辺りはドラマとしても意識して作ってあって、漫画のモノローグ的な鈴愛のナレーションやセリフには、キラキラした感性があります。
初期ネーム二本は経験から生まれているわけで、鈴愛の資質を羽織も磨きたいのでしょう。

鈴愛だからこそ描ける世界があり、そこには心動かされる真実がある。
これまた羽織の口から出た、本作創作術の極意やテーマの吐露のような気がします。

ちなみに、本作アンチ派の意見としては、脚本家の自分自身の体験が反映されているのが嫌というものがあるそうです。

確かに脚本家さんの経験や経歴が、何人もの人物に分割されて埋め込まれているところはありますよね。

本作は、脚本家さんの自伝ではありませんが、岐阜という故郷に向き合うのは初めてなのだそうです。
今までさらけ出してこなかった真実の部分や経験、創作への態度が反映されているんだろうなぁ、と思います。

朝ドラというフォーマットではちょっと扱うには重たいかもしれません。

ただ、私はそこが嫌いじゃなくて、逃げていないんだな、恐れずに書いているんだな、と驚かされてしまいます。
創作物にはどうしたって作者の血や心が混じってしまうわけで、
「どちゃくそ度胸あるなあ! 覚悟完了しているなあ!」
と感じてしまいます。

だからこのあと羽織と鈴愛の、
「逃げるな! 今何かものすごくいいことを言っている気がする!」
「はい、心に彫刻刀で刻みました」
という台詞も納得できました。

 

若くはないけど味はある ナカノガタの作品

羽織はツインズに命じて、アシスタントを呼びに行かせます。
それでは流石に原稿が落ちるので、菱本はナカノガタは置いてきました。

置いてけぼりのナカノガタ。
中野はボヤきます。
「若い子っていいねえ。先生も張り切っているし」
それに比べて、自分は鳴かず飛ばずと自嘲気味です。

野方は、
「そんなことないよ。『青空列車』、ほのぼのしていいよ」
そう慰めます。

中野の作品が掲載されているときは、『ガーベラ』を後ろから読むそうです。
「ありがとう、がんばる」
そう励まされる中野。

若くはない彼らにも、彼らなりの励まし合う関係や、あたたかいものがあるようです。

※ちなみに中野を演じる河井克夫さんはご自身でも実際にマンガを描かれている漫画家という顔もあります。ほのぼのとした作風はリアルだったりします

 

清には方言を気にする必要もないんだよな

さて、律と清はといえば……。

清が、弓道の講義にいたのは偶然です。
彼女は履修しているわけではなく、弓道部員のアシスタントして来ていたそうです(実際にこうした例は珍しくない)。

先輩に頼まれて一回きりのお手伝い。これぞ偶然ですね。

律は一限はかったるいから寝坊しようかな、と思っていたそうで……。
一緒に行くはずの友人は、寝坊して出席しなかったそうです。正人ですね。

「きみに会うために弓道を始めた。なんて嘘。いや、ちょっとだけ本当。君の姿がカッコよくて、やってみたいな、って思った」

そうたどたどしく語る律。
正人の真似をした一文節区切り話法ではなく、戸惑いながら話すからこういう口調なんですね。

このへんも見ていてうーん、なんかこう、胸がざわつく。
だって律は、鈴愛にはこういう話し方しないわけです。

律も、鈴愛も、今まで見せたことのない、恋する顔を見せてくるわけじゃないですか。
お互いが向けるのとは全然違う顔なのです。

ここで律が岐阜弁が出ると隠そうとします。
しかし、清も岐阜の出身ですから、そのあたりの距離感が程よいのでしょう。

今まで律は、訛りを隠してたどたどしい一文節区切り話法で女の子とコーヒーを飲んで来たわけです。
清相手にはそんなことしなくていい。

 

もっと知りたい 感情の漣が顔に浮かぶ

清は中学まで横浜だったと語ります。

思わずハッとする律。相手のことを何も知らないんだな、と今更ながらに気付かされます。

要するに、清のことをもっと知りたいって話なんですね。
クールな律くんが、もう転げ落ちるように恋に落ちて行くわけですよ。

佐藤健さんのちょっとした表情や声音の使い方、むしろ安定感がなくて、自然に感情の漣が顔に浮かぶ演技が、ズバリこれは恋する少年です。
鈴愛ほどわかりやすくはないかと思えるけど、みずみずしくって朝から眩しくてたまらんわ!

正直に書くと、佐藤健さんの高校生スタート(回想入れると中学から)は年齢的にキツいんじゃないかと思っていました。
永野芽郁さんとの年齢差もあります。

杞憂でしたね、はい、杞憂です。ノープロブレム。問題なし! むしろ素晴らしい!

律はドキドキしながら(していないはずがない!)、こう尋ねます。

「ほんのちょっと会っただけなのに、よく覚えていたね」
「忘れるわけない、あんなこと、人生で二度も起こらない。一度だけかも」

そう答える清、ここで出会いの回想が入ります。

 

されど空の青さを知る

律と清は互いにデートコースも知らず、コーヒーのあと缶ジュースをベンチで飲むということにしました。

学生街の中にある、小さな公園。
「稲荷神社」の旗がいい感じで寂れていて、絶妙な雰囲気を醸し出しています。

律は、高校時代に聞いていた彼女の噂話を尋ねてみました。インターハイで入賞したり、名古屋の栄でスカウトされたの?と。

ここで清は、本音を吐きます。

「早気」(手を矢から早く離しすぎる)のスランプからやっと抜け出せた。
インターハイ入賞は本当だけど、スカウトは嘘。
ずっと皆から注目されて、それがプレッシャーになって辛かった。

律はここでまたドキッとします。
梟町の皆から期待の星とみなされていた彼も、彼女と同じ息苦しさを味わっていたからです。

「井の中の蛙ってやつかな」
自嘲気味にそういう律に、清はこう返します。

「井の中の蛙大海を知らず、されど空の青さを知る、っていうよ。ちょっといいでしょ」

そう言われて、ドキドキが止まらない律。
それはそうでしょう。

飲んでばっかりだから、とここで清はトイレに行きます。

 

寝坊の間に世界は動いていた

そのころ朝井正人は、部屋で寝坊中でした。

当時のサボりがち大学生は、昼の『笑っていいとも』あたりで起きるのが日常。
『いいとも』が終わって目が覚めると、さすがに凹んだようですが……。

正人は猫のミレーヌを抱きながら、ようやく起きようとします。
あざといくらい決まっていますね。

目覚ましを見ると時刻は午後2時。やっちまったな。

そして何の気なしにベランダへ出てみると、律と清の歩いている姿が目に飛び込んでくるではありませんか。

正人が寝坊している間に、世界は動いておりました。

 

今日のマトメ「あらためてタイトルに唸る」

羽織先生の創作熱血レクチャーが刺さりました。

が、メインは、やっぱり恋。
敢えてそうしているのでしょうが、往年の少女漫画的な演出をクリアな映像で見せて来ます。

律の恋模様は、もう見ていて照れくさくなるくらい、ドキドキでキラキラ。懐メロを次から次へとかけて楽しむ、鈴愛の恋愛模様とは違う、詩的なものです。

で、清がね。
これがねえ、律のコンプレックスとか、欠けているものを補うような人物でして。
ただ綺麗な顔をしていて、ロマンチックな出会いをしたわけでもないのです。

それでも完全にこの恋愛にハマれないのは、どうしたって鈴愛のことを思い出してしまうからです。

「空の青さを知る」
という一文にしたって、律にとってその青さって鈴愛のことじゃないの?と思えてしまう。
窮屈でプレッシャーのかかっていた故郷での暮らしだって、常に鈴愛という青空が見えていたでしょう、それはどうするの?と考えてしまうんですね。

『半分、青い。』というのはいろいろな捉え方ができる面白いタイトル。

鈴愛と律、どちらが恋していても、半分は青空、つまり本当の運命の相手はいるんでしょ、と、やきもきモヤモヤ。
してやられたなあ、と思ってしまいます。

最後に。
一昨日と昨日出てきたロボットアーム制作の方のツイートです。

なるほど、あの見事なものはこうした舞台裏があるのですね!

著:武者震之助
絵:小久ヒロ

【参考】
NHK公式サイト

 

4 Comments

roko

「早気」(手をやから早く離しすぎる)のスランプからやっと抜け出せた。

()内の”や“は漢字ですかね。矢

しおしお改め、七歳上

清さん、赤が似合わないのでは?

まい

私も清さんが私服で髪を下ろしたらそんなに綺麗に見えなくて…。
なんか、きつそうな、意地が悪そうな雰囲気を垣間見たような気がします。
やっぱり鈴愛に思い入れがあるからでしょうか。
なんか、律くんにがっかり。

しおしお改め、七歳上

ロボヨの演奏、素敵でしたね。
製作者の方、素晴らしい。
清ちゃん。
弓道着を脱ぐと、あんまり
綺麗に見えません。
私服の色合いのせいでしょうか、
重ったるい。
ピュアな魅力は鈴愛の方が
ずっともっと、ありますね。

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