時は2010年。
【おひとりさまメーカー】の経営者になった鈴愛は、菱松電機を退職した律と共に会社を興しました。
社名は、【スズメ=スパロウ】と【律=リズム】という言葉をかけ合わせた【スパロウリズム】。
二人は早速、闘病する晴のために「そよ風の扇風機」開発に取り組みますが、これがなかなか大変で……。
二人の道が始まります!
【146話の視聴率は9/20に発表です】
もくじ
渦は消せたが、心地よい風は吹かず
2010年11月。
スパロウリズムのコンビは、正人、津曲と恵子兄妹の前で、新型そよ風扇風機を披露します。
業界人ぽく「暇じゃないけど」とぶつくさ言う津曲。
恵子から「暇でしょ」と容赦ないツッコミを受けます。
風速に差がある羽根の組みわせ――それで渦を消そうとするのだと、エンジニア口調で説明しまくる律。
しかし、三人は理解できておりません。理系あるあるだな!
ここで鈴愛が、スモークを焚いて風の動きを視覚化した動画を見せます。
渦が壊れて、自然に近い風になるはずだと説明を続けます。
「ではいきます!」
しかし、反応はどうしたものでしょう。
壁に当てる「たらい型」試作機よりはいいけどねえ……とつれない返事です。
恵子は包まれるような感じがある、との感想。もう一歩。もう一歩なんだ!
でも津曲は、二人の様子が羨ましいようで。
「いいなあ、俺ももう一回、企画開発したい」
おっ、そう来たか。ラーメンはフランス産の塩でごまかしているけど、才能がないと言い出します。
札幌一丁(サッポロ一番と出前一丁の複合かな)が一番うまいと思っていると本音をぶっちゃけ! ああ、フランスの塩にこだわるあたり、業界人ぽい話題性狙いっぽいとは思ってはいた!
浮かんでは消えていく数式たちよ
確かにそよ風扇風機は、ちょっと強い。
律はスイッチオン状態で、ひたすら計算に取り組みます。
鈴愛は西北大学じゃないとわからないのかと正人に言いますが、法学部の正人にもわかりません。
律だけが、この場でエンジニア魂を持っています。
数式がポンポンポン!浮かんでは消えていく。しかし、
「全然だめ、なにも変わっとらん」
と律は悔しがるのです。
こういうところ、本作は手を抜きませんよね。
数字を使って計算し、悪戦苦闘している描写なんて普通はスッ飛ばしちゃうもの。
「娘・花野のアイデアにより、こうして、そよ風扇風機は完成したのです」
なんて調子でナレーションが入り、扇風機を競って人が買っていく場面をちらっと入れて、あとは恋愛描写でグダグダ終わらせる展開も、朝ドラ的にはありなんですよ。
でも、本作のこういうトライアンドエラーがいいんですよね。
イージーでやさしいドラマならば、鈴愛の漫画だって、追い詰められた状態で本気で描けば、なんとかなっていたでしょう。
うっかり花野の秘密を漏らし
律は、つきあわせてごめんと謝り、鈴愛と正人に飯でも食ってきてと呼びかけます。
食事をする二人。
頭脳担当の律に代わり、鈴愛が資金繰りをしているそうです。銀行からは門前払いをされ続けているけれど、へこたれず頑張っていると語ります。
花野のことを聞かれた鈴愛は、三オバに預けてきたと言います。
ここで、三オバ筆頭の光江から、涼次に会わせたいと言われたと語る鈴愛。このまま花野がとられてしまうのではないかと不安だ、と吐露します。
正人は、花野はママが大好きだよ、と励まします。
律と正人の間で寝ていた時も、ママと呼びながら泣いていたのだとか。
うっかり花野の秘密を漏らし、「羽根より軽い口で言っちゃった」とおどける正人です。
正人、ナイスガイだなぁ。
これ、ダメな奴だと、子供との約束だからと軽視する。最悪の奴だと、子供を預けざるを得ない鈴愛の事情を無視して、こんなにママが好きな娘を置き去りにするなと説教始めますからね。
本作は、こういうところが優しいんだよね。
そして、ここで「羽根より軽い口」という懐かしのフレーズが出ました。高校時代に鈴愛が発した「インスピレボリューション」を律が口にしたことといい、今までの積み重ねを回収するところがいいなぁ。
「悪い男だね、相変わらず」
ここで正人、鈴愛が涼次に未練があるのかどうか確認してきます。
「ないよ」と即答する鈴愛。
そうなんですよね。
律のより子への感情、鈴愛の涼次への感情。結婚したくせに冷たいという意見もありそうですけど、未練がきっぱりとない。
条件が重なって、交際したり結婚したりしても、未練なんて残さず別れることなんて、よくありますからね。
これがリアリティというものではないかな。
「だったら俺とやり直さない?」
おおっとぉ、年上のマイダーリンはいいのか!? どうなった?
「悪い男だね、相変わらず」
鈴愛、軽くいなし、大人になったね、という正人に対しても、軽く「いろいろあった」と笑顔で答えます。
そのいろいろの中身が、夏虫駅プロポーズ、涼次とのあれやこれや。
そりゃ大人にもなる。
ただ、律にせよ、鈴愛にせよ、正人みたいに恋愛経験豊富なタイプではないし、ロマンスを気軽に楽しむわけではないですね。むしろ不器用かも。
危うい空気、楽しみたい感じもわかるけど
こういうヒロインの恋愛観成熟も朝ドラだと珍しいかもしれない。
いくつになろうと、見た目が老けないことに定評のあるダメな朝ドラ。
この手のヒロインだと、いくつになっても中学生みたいにキャピキャピした反応を恋愛相手だけには見せるんですよ。
まぁ『わろてんか』で鈴振って死霊召喚してキャッキャしていたり、謎の入り浸り実業家とウフフしたりていた、おてんちゃんとか、そのあたりなんですけど。
たぶん朝ドラヒロインというのは、世間が求める都合のいい女性像が求められるんでしょう。
いくつになっても見た目も恋愛感も中学生まんまの女なんて、そりゃ理想ですよ。中学生のままで精神が止まったら、騙したい放題ですもんね。
現実世界にそんな女がいるのかよ、っていう話なんですけどね。
「こういうの、わかんなくない。ドキドキしたり、ときめいたりしたい。危うい空気、楽しみたい感じもわかる」
鈴愛だって、何も恋愛を封印したわけじゃない。
「少しは変わるよ、賢くなるよ。一番大事な人、わかったんだ。もともとわかってたかもだけど。私、律の前ではずっと変わらないでやれるんだ」
そうなんだよ!
鈴愛と律は、いくつになっても二人になると、昔のままに戻っています。
律のエンジニア魂炸裂で高飛車生意気なところなんて、マーブルマシン時代そのまんまです。
正人は、こんなひどい振られ方をしたのは初めてかも、と言います。
いやいや、わかっていてかつては身を引いたくせにぃ~。
「あの時の仕返しだ」
そう返す鈴愛。
そうそう、正人に振られたことをそのまま返した、とも言えます。
「あ、律には言わないで。そういうのは二人のタイミングだ。そのタイミングは、永遠にないかもだけど」
恋になるのを遠ざけるのはナゼ、と問いかける正人。
「振られるのが怖いから、今のままでいい」
そう告げる鈴愛。あ、なんかわかる。わかる気がするんだわ~!
振られる、振られないもありますけど。
【釣った魚には餌をあげない】タイプも、世の中にはいますよね。おつきあい開始したら、交際相手は自分の所有物みたいなものだからと、いきなりぞんざいになる奴。
恋をしたら素敵だと思いつつも、その手前で堪える。
その、意気地なしだけどわかってしまう、そういう気持ちが残り二週間でも保たれている。
すごいぞ、このドラマ!!
津曲の息子・修次郎がスパロウリズムへやって来て
鈴愛が自宅に戻ると、花野が鈴愛の引き出しを開けて、笛で律を呼ぼうとします。
鈴愛の宝物引き出しには、花野が描いた手紙や似顔絵、そしてあの笛が詰まっているのです。廉子からもらった梟のブローチも。
ここで、ナレーションの廉子と仙吉が、どちらが先にあげたのかで言い争いをするところもイイ。向こうの世界でも、仲良くしているんですね。
この引き出しは、花野のものを真似したものでした。
「思い出の場所やな」としみじみつぶやく鈴愛。彼女は思い出を大切にして歩んでいくタイプでした。
そよ風の扇風機は、やっぱりうまくいきません。
3Dプリンタでゴリゴリ羽根を作りまくるところがいいですね。こういうことができるようになったのは、2010年代ならではの技術進歩ゆえなのです。
コンピュータでモデルを計算して作れば、こういうトライアンドエラーを短時間で繰り返すことができる!
本作の技術考証は、時代にマッチしているのです。
そんなトライアンドエラーに疲れた律に、鈴愛は初心に戻って外のそよ風を浴びようと提案します。
屋上でそよ風を全身に浴びるスパロウリズムコンビ。
その留守になったオフィスを見つめる影が。津曲の息子・修次郎ではないですか!
やっぱりキミは、律と同じエンジニアタイプなのかな?
そこへ津曲が登場。
「お父さんのオフィス、名前変えたんだよ」
名前を変えて改修した、と、しれっと嘘をつく津曲。おいおい、お前、そりゃないだろ。
津曲は、受け売りの扇風機の説明をします。
このあたりが、またフザけてて業界人している。さっき、律の説明にはちんぷんかんぷんの顔だったくせにぃ~。
「へえ、何かすげえ」
そして修次郎も感心しちゃうし。津曲も照れくさそうに大笑いです。
しかし、悪事はそこまでだ!
戦国武将風スマイルを浮かべた鈴愛が、入口から見ておりました。
今日のまとめ「正人は背中を押したのか?」
昨日書いた技術考証関連について。公式サイトを読んで、かなり細かいものだと確認できました。
昨日に続いて書いてしまいますけど、この考証へのこだわり、やはり大河向きだな。
朝ドラから大河へのスライドで【成功するかしないか】の分かれ道は、考証の丁寧さだと思います。
人情描写が上手であっても、考証で穴が開いていると、大河にスライドすると危険なものです。
『ごちそうさん』はヒロインのマッスルパワーぶりに好き嫌いが分かれたものですが(私も正直圧倒されておりました)、戦時中の空襲からの避難に地下鉄を使うなど、考証では光るものがありました。
気が早いとか勝手なことをと言われそうですが、イケると思いますよ。本作スライド大河!
さて本編!
今日も盛りだくさんです。
津曲がセコくて悲しい。
修次郎は、律と同じエンジニア魂を持つのかな、と思います。ボーカロイドで、コツコツと作曲するあたりから、そういう片鱗を感じます。
でも、津曲には、そういうエンジニア魂ではなくて、アイデア広告業界マン魂しかないのです。
ラーメンがヒットしたのも、そういうトレンドに乗っかる嗅覚ゆえと判明しました。
別にあの塩だとベストとか検証したわけでもなく、話題性に乗っかったのだと思います。フランスの塩でラーメンがうまくなるかよ、というツッコミを見かけましたけど。そういうことではなく、ミーハー魂を描くがゆえの塩なんだろうと。
【ヒットエンドラン】が潰れたことで、我が子からものづくりで尊敬される道が途絶えてしまったがゆえに、津曲はああいうことをするのでしょう。悲しい男だ。
そして悲しいだけでなく、切なくて、それでも尊いのが、鈴愛の思いです。
そんな鈴愛を口説いた正人には、マイダーリンをどう思っているんだ、と問い詰めたい気持ちもありますが。
まぁ、目の前にいたわけだし、律への思いを織り込み済みで確認したかっただけかもしれない。
あるいは、わざと口説くことによって、鈴愛の気持ちを意識させ、背中を押したようにも見える。
そして鈴愛と律の、今の関係が大事すぎて、かえって進めない気持ちもわかります。
切ない。
このまま立ち止まり、戦うもの同士でいるからこそ、かえって尊い何かがあるのでしょう。
結ばれないからこそ、描ける深い感情。どうなるんだ?
あと二週間しかないのに、そこに止まる本作の、そういうところが好きなんですよね。
いいなあ、この関係、好きです。
この歴史映画が熱い!正統派からトンデモ作品まで歴史マニアの徹底レビュー
文:武者震之助
絵:小久ヒロ
【参考】
NHK公式サイト
今さらですが、コメントに再チャレンジしますm(__)m
>頭脳担当の律に代わり、鈴愛が資金繰りをしているそうです。銀行からは門前払いをされ続けているけれど、へこたれず頑張っていると語りまう。
より子さんが再婚してくれて、やっと心穏やかに視聴できるようになりました今日この頃(*´ω`)
やはりこの「半分、青い。」は本当に面白いです。毎朝楽しみ。
自分も、北川先生の大河ぜひ見てみたいです。
というか、「西郷どん」こそ北川先生に書いて欲しかった…。
キャラが全員生きている北川先生にしか書けない大河が絶対あります。
でも、大河反対の方のご意見も非常に良く分かります。
「半分、青い。」もツッコミどころ満載で、アンチをわざと煽るような北川先生の手法は正直苦手です。
でもだからこそ、見てみたい。
とりとめなくとっちらかっててもいいです。
もし北川先生が「西郷どん」を書いていたら
めちゃめちゃクズな西郷さんとか超腹黒い糸さんとか、それこそ全国民が激怒しそうな話になっていたかもしれません。
想像するだけでわくわくします。
ところで武者さんは今作でまったく突っ込まれていませんが…
「わろてんか」で突っ込まれていた内容は今作にもかなり通じる部分はあると思うのですけど
あえて突っ込まないのか、気付いておられないから突っ込めないのか…
きっと「面白ければいいのだから、突っ込む必要はない」のだと解釈していますけど…
本音を言えば見かかったです。突っ込みながら称える新感覚のレビュー。
おお!昨日に続き大河推しですね!
ついつい、私も昨日に引き続き…
ちなみに再度ご連絡ですが、私はアンチではありません。
私、秋風先生の「真実の…」て好きです。それって本当に作り手の作りたい思いが宿っているか、誤魔化さずに見つめているのかってことだと思うんです。その意味で、半分青いには真実があると思います。
感情的な議論も見られる本作なので、一応そこも前提としてもらいつつ…
イチ視聴者として、私も、考証へのこだわりは、本当に物語を面白くする大切なところだと感じます。主に以下の理由で…
(1)事実は小説より奇なりというか…そこと向き合うことこそ得られる面白さや真実の深みがあるように思います。
(2)物語って騙して(物語世界に引き込んで)なんぼ、だと思うので、特に大河なんかは、あまりに史実無視だと、そこが気になって、そもそも物語世界に入れない。
なので、考証へのこだわりは豊かな物語の大切な要素だと思います。物語の土台・土壌に相当するものですよね。そのうえで、そこに展開される脚本家をはじめとする関係スタッフの脳内ストーリーを観客に伝えていく。豊かな土壌が豊かな物語世界や真実のメッセージを生み出し、それを、観客に伝える。(今更でくちはばったい指摘ながら)
ここには表現技術が必要だと思うのですが、そこが、本脚本家さんに不安を感じるポイントです。
表現技術は、その表現する媒体との関連で有無を語られるべきだと思いますが、昨日もコメントしたように、私は50回という長編枠を活かした物語の醍醐味は交響曲のような構成力と豊かさにあると直虎で味わってしまったので、今のところ、物足りなく感じそうだなあと。実はスズメも秋風先生に、発想はいいけど物語の構成力のなさが致命的といったような指摘をされていたかと思います。
また、そもそもどれくらい受け手を見つめているのか。私には脚本家が伝えたいことを自分の中で消化するのに精一杯で、それを伝える段階までいかずに力尽きたように見えています。良い素材をゲットして下ごしらえしたけど、そこで疲れ切って、丁寧に料理することはできなかったような感じ…
歴クラは「騙しにくい観客」ではありますが、大河に限らずどんな物語ジャンルにも、「騙しにくい観客」がいます。「まーまーいーでしょ」って置いてけぼりにされた観客になってしまうと悲しいものです。
私は大分、スズメが好きですが、それは物語というより朝ドラに珍しいキャラ個人へのエールで、物語には酔うまではいかないんですよね。大河では、物語に(も!)てほしいんだ!もちろん考証こだわりは大前提の上でよ!て思ってます。