時は明治。
日本一の「ゲラ(笑い上戸)」娘ことヒロインのてんは家を捨て、船場の米屋・北村屋の長男藤吉のもとへと嫁ごうとするものの、藤吉の実家で姑の啄子からは認められません。
そうこうしているうちに、藤吉が詐欺に引っかかり北村屋は倒産。店も家を失います。
三人は売れない芸人が集まる通称「芸人長屋」に引っ越しました。
そこで藤吉とてんは、てんの実家藤岡家から五百円(現在の貨幣価値で五百万円)を借りて、亀井という男から寄席小屋を買います。
さて、いよいよ夢の寄席が始まるというところで……。
もくじ
「ブサイクやし!」の一言が、朝から心臓に突き刺さり
舞台の中心には、どんと「薬」と書いた額が飾ってあります。
“笑いは薬”というてんのポリシーだそうです。
食うもの、着るものにも困るような借金まみれのこの状況で、「私の届ける笑いは薬です」なんてよくも強気なことを……(´・ω・`)
そもそもこんな立派な額をドコでいくらで買ったのでしょう。
キースとアサリは、寄席小屋の名前のことで小競り合い。アサリに向かって「ブサイクやし!」と酷いことを言うキースに嫌悪感が募ります。
関西弁というか、向こうのあけすけなノリは、場合によってはとてもキツく聞こえてしまうんですよね。
今、大人気の漫才コンビ・千鳥さんが、東京進出の直後ぐらいに
「口が臭い」
「シンプルに胃が腐っとんじゃ!」
というヤリトリをして、一気に関東人の心を冷えさせてしまった失敗例を思い出します(大阪のローカル番組では鉄板だったようで……)。
ですから、朝ドラで「ブサイク」という難しい言葉を強めに出されると、視聴者としてはキツいのではないでしょうか。
実際、そういった空気を察したのでしょう。
最近のバラエティ番組では「ブサイク」ではなく「ブス」という言葉に置き換えて使ってる芸人さんも見かけます。もちろん受け取り方は視聴者次第ですが、個人的にはマイルドになっている印象です。
キースを演じる大野拓朗さんは住民票まで移して頑張っておられます。
スポーツ紙にも報じられておりました。
大野は「大阪の芸人」になりきるために住民票を大阪市内に移したことを明かした。東京出身のイケメン俳優のコテコテの“大阪人化計画”が進行中だ。(上記、日刊スポーツより引用)
しかし、こういう口の悪い関西弁キャラは、ネイティブでお笑いの経験もある人でないと、かなり難易度が高そうです。
というか、イケメンに「ブサイク」と言われたら、言い返す余地もなくただただ凹むだけで。
フットボールアワーの岩尾さんあたりに言われたら「お前が言うんかい!」と笑いになりそうですが、いずれにせよ、取扱にナーバスになる言葉を選んだ時点で脚本の失敗かと……。
家を買って家具を忘れるレベルのミス
舞台の準備をせっせと進める一同。
ここで備品が一切ないことに気づいてズッコケます。
寄席小屋五百万円だから、それしか用意しない藤吉とてんがあまりにもヌケ作過ぎて><;
寄席が何かわかっているんでしょうか?
家だけ買って家具を買い忘れるレベルのミスなんですが。これを「二人のボケぶりがおもろいでしょう?」と言われても正直困惑するばかりです。
さて、備品の勘定をやっと始める藤吉。
湯呑みは百個と計算していると、啄子から「湯呑みのような壊れやすいものは予備に二百個必要や」と注意します。啄子は「儲け出してくれ」と金勘定もしています。
「ドケチで口うるさい姑」として描きたいのかもしれないけれど、やっぱりマトモな感性の持ち主はこの人だけかもしれません。
そもそも頼りない藤吉を引き締める、こういう役目を果たすのは、てんのはずなんですけどね。
しかし、この備品騒動はすぐに解決。
歌子が偶然「潰れる料亭を見つけたよ! そこの備品を貰えばいいよ」と提案して終わり。
てんが困れば、伊能栞も、インド人も偶然通りかかるし、料亭だって潰れるんですよ。
ホンマよかったなぁ。備品は何故か座布団だけ破れていて、あとはピカピカでっせ! って、なんじゃそりゃ!
てんが座布団を工夫して繕う場面を可愛らしく挟みます。
寄席の準備は、ドラマの見せ場として非常に肝心なところでしょうに、ここもダイジェスト感満載で……。
あとはキースとアサリが雑巾がけしてぶつかったりします。
今更雑巾をかけなくても舞台は既にピカピカですが、雑巾がけでぶつかる場面って、もしかして笑うところなのでしょうか。
「すんまへぇ~ん! すんまへぇ~ん!」
藤吉は番組(プログラム)作りに頭を悩ませます。
寄席なのに落語家が見つからないことが悩みだそうです。元芸人の強みはゼロかーい!
一方、てんは、万丈目から履き物の整理について学びます。
これがまるで『おんな城主直虎』で放送された草履番の話の劣化版。見ている方が、こんな調子で大丈夫なのか、と緊張してしまいました。
座布団を敷き詰める「お茶子」についても習います。
客の間に座布団を詰める練習ということで、てんがへろへろと万丈目に何度もぶつかり、こう繰り返します。
「すんまへぇ~ん! すんまへぇ~ん! すんまへぇ~ん! すんまへぇ~ん! すんまへぇ~ん! すんまへぇ~ん!」
先週のホーホケキョラッシュに続くリピート地獄。
これって、もしかして笑うところなのでしょうか?
葵わかなさんは厳しいスケジュールの中、頑張っているとは思うんです……。
ただ彼女が、史実の吉本せいのように、キビキビと客の間に座布団を詰めていくところはまったく想像すらできません。
今まで、そういった機転を利かせるシーンがゼロだったのですから、私だけじゃないでしょう。
なぜ大事な出演交渉のシーンがないのか
その晩、歌子の一膳飯屋で芸人たちがたむろしていると、藤吉が落語家の和泉屋玄白が出演することになったと告げます。
だから、その出演交渉を描いて下さいよ!
寄席経営で一番の見せ所でしょ!
番組作りでウンウン唸るところと、芸人相手にダラけるところと、てん相手にイちゃつくばかり。
ビジネスをぱりっと取り仕切る場面がないから、藤吉が無能に見えてしまうんですね。
あとは、藤吉が落語家も出すけど、お前らも出すよ、と言って盛り上がります。
てんと藤吉、そしてこの芸人たちに親近感があれば盛り上がるんでしょうね。でも岩さんなんて未だに通行人Aレベルの存在感ですしねぇ……。
てんと藤吉は寄席小屋の名前を考えます。
藤吉がてんに送った小鳥の鈴つき飾りからとって「風鳥亭」だそうです。これも二人のなれそめから関係性まで、視聴者を引き込んでいたら感動したかもしれません。
しかしこの二人だと……吉本の花月をバカップルの愛の思い出で汚染しやがって、という気分になります。
結婚式の引き出物で貰ったカップル写真入りマグカップのようで辛い、ほんと辛いのです。
若い頃、啄子が着ていた着物を仕立て直してくれた
バカップルがイチャついていると、啄子ががらっと乱入するいつもの寒いパターン。
啄子の手には、綺麗な着物がありました。
若い頃、彼女が着ていたものを、質屋から出して仕立て直したものだそうです。
「はい! 頑張ります!」
着物を受け取ったてんの返事がいい……わけないですって!
なんでまず「ありがとうございます」が出てこないのでしょう。
てんを素直でよい子で描きたい意図はあると思うのですが、京都から様子を見にやってきた風太相手にケラケラ笑うだけだったり、具合の悪そうな父親を気遣わなかったり(ともに第6週)。
こうした小さな積み重ねが、いい子というより鈍感で尊大な子という印象を与えてしまっています。
着物はもらって当然、啄子だって応援したいだろう、みたいな態度に見えてしまって(´・ω・`)
いろいろあって花びらが舞う中、ついに開業する「風鳥亭」。
「花のれん」ならぬ「鳥のれん」です。
そういえばこの間、年末の餅がどうこう言っていましたが、もう花の季節ですか。時間の感覚がよくわかりません。
今回のマトメ
てんが活躍するのであれば、今週か来週あたりがチャンスではないでしょうか。
吉本せいがお茶子として座布団を運んで客をぎゅうぎゅう詰めにしたり、物販で工夫をこらしたり、蜜柑の皮を集めて薬屋に売ったのは有名なエピソードです。
映像化されてわかりやすく、おもしろい。
それをやるのならば今週だろうと。米売り対決(第4週)はその前振りかと思っていました。
しかし、あの「すんまへぇ~ん!」を聞いているうちに不安が募ってきました……。本当に、本当に、大丈夫なのでしょうか?
そして今日は「風鳥亭」のネーミングが出てきましたね。
「花月」をそのまま使用できないのは仕方ないとしても、この由来のセンスにこのドラマの駄目要素が詰まっている気がしました。
本来の「花月」には、
「花と咲きほこるか、月と陰るか。全てを賭けて」
という、覚悟を感じさせる由来があるのです。
一か八かやったるで、という心意気。それが「二人の愛の証だから鳥~♥」みたいな由来って……覚悟、全部、ぶち壊しやで!
つまるところ最初から今までこの「全てを賭ける」覚悟が一切感じられないんですね。
借金して、もう全てを失って、そこから何が何でも成功させようという覚悟が見られない。
実際、史実と違って、ドラマの中の彼らには、覚悟がないのでしょう。
だから、面白くもない友達の芸人を出そうとする。そして、何にでも頼り切っている。
そもそも「笑いは薬」って言葉も、自分たちが笑わせてあげることをありがたく思えよ――というような上から目線を感じてしまいます。
笑いというのは、当人たちにそんな気がなくても(あっても)、ふざけている、しょうもないと相手に不快感を与えることもあります。
誰もがわかっているように、とにかく難しい。
それを寄席小屋にわざわざ客足を運ばせるのです。
なのに「笑いは薬やから、ありがたく面白がれ」みたいなテーマ設定は、自分たちのクビをしめておりませんかね。
印象的なのが、藤井隆さんの記事です。
◆藤井隆、万丈目吉蔵役で出演の「わろてんか」に「恐ろしいことをするなと思って参加している」
「わろてんか」という作品そのものについて、「そもそも、おもしろい話です。『どうぞ朝から笑ってください』というのって、『ちょっと聞いておもしろい話があるねんけど』と同じで、やたらハードル上げることですから」と語り、「恐ろしいことをするなと思って参加している」と明かした。(上記、サンスポより引用)
藤井さんのこのインタビューが、本質を突いていると思います。
最初からハードルを上げてしまった時点で、まず「笑いをわかっていない証拠」ではないでしょうか。
だからこそ「こんなんオモロイやろ」「好きやろ」という上から目線が随所に出てしまう気がしてなりません。
もちろん藤井隆さんに、作品への批判意識がないことは百も承知ですが、それゆえ本作の弱点を図らずも指摘してしまった、それが本心なんだろうなぁと。
現時点でこのドラマは、簡単に視聴者を笑わせられると思っている。
そんな驕りを感じてしまい、月曜日から少々げんなりしています。
もちろん軌道修正には期待したいところですが……(´・ω・`)
著:武者震之助
絵:小久ヒロ
【参考】
NHK公式サイト
コメントを残す