離陸するまでに総距離三分の二を助走に費やし、最終版になってまで「長い目で見て欲しい」というドラマが世の中にはあります。
◆ドラマ最前線 制作者インタビュー NHK 小松昌代 今の大河ドラマのトライを、長い目で見てほしい(木俣冬) – Y!ニュース
一方、本作は完全に離陸。
レビューやニュース、SNSを見ていても熱い好評意見が多く見られます。
◆[あさが来た]NHKに好評意見が続々 「ここ何年かでは珍しい…」 | マイナビニュース
視聴率も付いてきています。
先々週の視聴率上昇は山本耕史さん効果かと思われるところもありましたが、先週も数字評価ともに伸ばして来ました。
◆「あさが来た」第4週平均は自己最高22・3%!4週連続大台超え ― スポニチ Sponichi Annex 芸能
また先週の内容で私の見落としが。
あさが玉利、惣兵衛夫妻が今井家に借金を頼み混む場面です。
あさは出された座布団を避けて座りましたが、惣兵衛夫妻はそのまま座布団に座りました。
破天荒に見えるあさですが礼儀はわきまえていて、一方で惣兵衛たちはこの期に及んでも詰めが甘いとわかる細かい演出です。
こういう積み重ねが、高評価につながっているようですね。
実はわたくし武者は、レビューのためもあってか毎日二度か三度は本作を見直しているのですが、そのたび小ネタの発見があり、噛めば噛むほど味が出てきています。
本当に面白いですね。そんなわけで、評価が甘くてすみません。
大阪から見た明治維新
明治維新という新しい世は、大阪の町人にとって歓迎できないものでした。
加野屋は持ちこたえたものの、山王寺屋はもう息の根が止まったようです。
明治維新って、国立競技場問題みたいなものじゃないかと思うのです。
古い競技場=徳川幕府ではもう駄目です。
補修改修が必要だと思う人は多かった。
じゃあ壊してしまえと倒幕してしまうわけですが、新しい競技場=明治政府を作るとなると、ものすごく大変だということがわかった……。
「そうなるなら壊す前に気づいたら? 新しいものが必要なのはわかるけど、もっとやり方あったんじゃないの!?」
と、思う当時の人は多かったと思うんですよね。
倒幕したはよいものの、ちゃんとした新政府の青写真があったかというと、そうとは思えないのが維新の難しさです。
そういう混乱の現れのひとつに「萩の乱」などの士族反乱もあるのですが……大河の描写があれでは……。
戦場になって負けた会津。
将軍様のお膝元・江戸。
確かにそういった視点からの不満が描かれることは今までありましたが、銀本位制を廃止されるわ、もろもろで大混乱の「大阪から見た明治維新」は今までに無い切り口。
果たして大阪のあさたちは、この局面をどう切り抜けるのか!?
脇役にも魅力的な背景がある
明治を迎えた大阪の街は、銃を担いだ兵士が歩いているくらいしか表面的な変化はありません。
加野屋では、あさの手腕にすっかり感心した亀助が「頼もしう思えてきた」と語ります。
それに雁助が茶々を入れ、口論に。
この口論で、亀助が独身、雁助が妻に逃げられてバツ一独身ということが暴露されます。
こういう本筋とは関係ない脇役のやり取りが面白いです。
「思わせぶりに出てきて、しかも面白い役者を使っているのに、結局あいつは何だったんだ……」
みたいな、脇役を腐らせる使い方はしておりません。
二人の争いを止めるのが正吉。
エスカレートしても、人の心は傷つけるなと彼の優しさがよくわかる止め方です。
山王寺屋には提灯を持った群衆が押しかけ
あさは姉のはつの様子が気になって仕方ありません。
ここでのあさと新次郎の「おいど=おしり」が出てくる会話がいいですね。
おいどをぶたれていたあさでしたが、今はおいどが立派な若奥さんになっているわけです。
新次郎はあさを連れて、山王寺屋を偵察することを提案。
といっても、三味線の稽古ついでのようで、美人の三味線師匠・美和を思い出し、あさは気がかりです。
山王寺屋の前は、提灯を持った群衆が押しかけていました。
この場面、照明効果が面白い。
提灯だけが光っていて、群衆は顔が見えないまま動いているのが何とも不気味なのです。
「画面が暗い!」というのはクレームとしてよくありがちですが、暗い=悪いわけではないのですね。見せ方の問題です。
この場面で顔がはっきりと見えるのは、あさと新次郎だけ。
暗闇の不気味さがあさの心情ともシンクロします。
次のカットでは山王寺屋の暖簾が無残にも踏みつけられています。
加野屋の朝を描いた場面で、亀助が笑顔でバサリと暖簾を掛けていました。山王寺屋にも同じように暖簾に誇りを持つ人たちがいたはずです。踏みにじられる商売の誇りが、なんとも哀しく見えます。
大阪の両替屋は9割潰れた!?
苦境に陥っていたのは山王寺屋だけではありません。
なんと維新の混乱で、大阪の両替屋は9割潰れました。
加野屋ですら綱渡り。
ドラマの構成上、機転を利かせた加野屋ギリギリの成功と、無策な山王寺屋の失敗が対比されておりますが、9割も潰れるような状況ではどうしようもなかったのでは?
いくらなんでも、新政府のやり方が乱暴過ぎたのではないでしょうか。
亀助の台詞
「なんでこないことに。新し時代なんて言うけれど、なーんもええことあれへん」
というのは、当時の大阪商人の正直な気持ちでしょう。
加野屋は、山王寺屋の二の舞にならないよう重役会議を開きます。
正吉は自分の商売だけの問題ではない、自分まで潰れたら大阪の商売全体が危ういと踏ん張る決意を新たにします。
さらにしっかり者の三男・榮三郎も
「天子様も新政府も江戸に入ってしまった。このまま何もかも江戸に取られてしまったらかなわない」
というようなことを語ります。
子役から成長していないように見える彼ですが、精神は着実に育っているといいますか。神童か!(続きは次ページへ)
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