「柴田牧場」へようこそ
ここで、復員兵である夫を妻・富士子が出迎えます。
「お父さんが帰ってきたよ!」
「やっと帰ってこられたわ」
王道の復員兵の帰還場面です。
富士子の背負っている明美は、結構大きいことが確認できます。
そうなのです。働く女性は、こうでもしないといられなかったもの。
ここで、ニコニコ笑顔なれども、抱きつきに行かない妻や子供たちにもリアリティ感じます。
そうなのです。このころは夫婦だろうと親子だろうと、ボディタッチはそこまでしません。
育っている子供に驚き、喜ぶ剛男。
これも、リアリティがあります。
あまりに再会できない期間が長いと子供の側で、
「なんか知らないおじさんが家に来て、父親と言い出して気持ち悪い……」
となってしまう。そんな悲劇もあったものでした。
ここで、親子の再会だけではなく、戸惑うなつも見事です。
子役の粟野咲莉さんが絶品です。
可愛らしくニコニコしているだけじゃない。
戸惑い。
苦しみ。
戦争の記憶。
不安。
そういうものが、どの場面でも伝わってきます。
甘えたいのに、甘えられない。
そんななつの人生が始まったのでしょう。
泰樹がカッコよすぎるので勘弁してもらえませんか!
「よく戻った」
そしてここで、怖い義父こと柴田泰樹が満を持して登場!
こんなんカッコよすぎて卑怯やろ……!
草刈正雄さんが、ウエスタンぽい衣装で牧場主。
そこにいるだけで、圧倒的なカリスマとカッコよさで辛くなってくるほどです。
自分の払った受信料が全部草刈さん絡みであれば、もう何も言えない。いや、言うけど。
このあと、とりあえずなつを風呂に入れることにします。
この牧場のセットも見事です。
セットではなくて、本物の開拓者の住宅を使っているのでしょう。
何もかもが、眼福です。
勉強になります。
「そだねー」って訛っていたの?
そうそう、随所に使われている北海道方言も、自然かつ見事です。
大阪弁と違い、北海道弁はこれみよがしに出すものじゃない。
ぽろっと出てしまう。
しかも、言った方は標準語にはないことにすら、気づいていない。
各地方から来た開拓者の方言が混ざり合っているため、独特なのです。
カーリング女子チームの「そだねー」が、好例ですね。
本作にも出ています。
「そだな」
「やっと帰ってこられたわ」
「したけど」
むしろ、訛りにすら気づかない。
その言い方は面白い、可愛いと言われて、そうなのかとびっくりする。
そういう北海道弁のリアルが、そこにはあります。
※試しに北海道の方に聞いたところ「字幕で確認しながら見ていたところ、気付きにくいレベルの方言まで結構はいっていた」とのことです
戦災孤児は犬猫なのか
ここで剛男は、なつの身の上話をします。
満州で、彼には戦友がいました。
お互い検閲から隠した手紙を預けあっていて、戦死したら互いの家族に渡そうとしていたのです。
富士子に「あなたも書いていたのか?」と突っ込まれて、剛男は照れ出します。
ここで、泰樹はそんなことはいいから本題に入れと急かすのです。
あ、これは怖い義父だね。
戦友の手紙を持ち、東京にある料理店を訪れた剛男。
しかし、何もかもが焼き尽くされていました。
この回想が、結構恐ろしいものがあるのです。
なつはともかくとして、兄と妹は?
彼らも孤児のはず。幼い彼らは、焼け跡の中に消え、どこにいるかすらわかりません。
剛男にせよ、引取ることができたのはなつだけだったのです。
富士子は状況を理解するものの、泰樹は犬や猫じゃあるまいし、と冷たいものです。
牛や馬は役に立つけれども、その子はそうじゃないだろ、と。
これも、戦後まもないころの残酷さが出ています。
彼だけが特別に冷たいわけではありません。
もらわれた先で、邪魔者扱いされた孤児たち。
バラックや闇市の中、生きていかねばならなかった孤児たち。
『火垂るの墓』や『はだしのゲン』では、そういう子供達が描かれていました。
最悪の道を選んでしまう孤児といえば『はだしのゲン』でのムスビ。
麻薬漬けにされ、ヤクザの鉄砲玉になってしまうのです。
全ては戦争のせいです。
広島ヤクザを描いた映画『仁義なき戦い』の冒頭シーンは原爆投下でした。
あれには意味があります。
何もかも焼けてしまった広島では、ヤクザが復員兵の若者や、戦災孤児を使って抗争を繰り広げたのです。
日本の歴史の、もっともどす黒い部分。
そこに、本作は踏み込んでいます。
戦争の傷あとは、戦争が終わっても消えなかったものなのです。
なつが聞いてしまった、夕見子は見てしまった
風呂に入りながらも、空襲のことを思い出してしまうなつ。
安心どころか、トラウマを思い出し、辛そうな表情なのです。
演技が入魂のものであって、もうこちらまでぐっときてしまいます。
しかも、風呂から上がって大人の会話を聞いてしまう。
犬猫と呼ばれていると、知ってしまう。幼い心でも、自分があぶれ者であると悟ってしまうのです。
三白眼気味で、ぎょろっとした目で、暗い中で立ちすくむ。
そんななつ。
彼女を抱きしめる富士子。安堵感で泣き出すなつ。
そして、それをじっと見る夕見子。これは何かありそうです。
一軍、連れてきおったな……
一話目で、かなりの手応えがありました。
セットも、衣装も、方言指導も。
全てきっちりとこなしています。
これを指摘すると残酷ですが、作品によってここまで露骨に一軍、二軍分けをしなくてもよいではないかと、本気で心配になってくるほどです。
あとこれは、楡野鈴愛ファンの皆様には朗報。
アンチ(=信徒)には解散のお知らせです。
ヒロインなつは、鈴愛側の子でしょう。
ついでに言うと『いだてん』の金栗四三と古今亭志ん生もそうですね。
あの広い大地で、タンポポを見つけ、そして迷わず食べる。
手のひらや水の触覚。
そういう感覚から、記憶を辿ってゆく。
OPアニメの世界観。
ナレーションでの言葉選び。
五感を頼りに生きていて、そのせいで空気の読めない子であると認識されてしまう。
そんなタイプになりそうです。
『まんぷく』でほっこりきゅんきゅんされた方へ。あの作品の録画を見直したがよいかもしれませんね。
住み分けして、爽やかな朝を過ごしましょう。
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文:武者震之助
絵:小久ヒロ
北海道ネタ盛り沢山のコーナーは武将ジャパンの『ゴールデンカムイ特集』へ!
過剰なポリコレが関わると碌でもない結果になります。
昨今のオスカーであったり、Netflixの聖闘士星矢しかり。
ポリコレじゃない=巨乳萌え、なわけないですしね。
火垂るの墓は、本作ヒロインの旦那、小田部羊一が作画を手伝ってたので、1回目でそういうシーンがあったのだと思います。
大阪製作は、天下の迷作(?)”純と愛”のトラウマが激しすぎて、外部の評判を気にしすぎ、冒険ができない状態が続いたままのように思います。
”ごちそうさん”は、”純と愛”のころにはもう企画が進んでいたでしょうから無関係として、そのあとは、”マッサン””あさが来た””べっぴんさん””わろてんか””まんぷく”とオリジナル物、現代物を避け、モデル有しかも企業系に偏りすぎです。さすがに次作は企業から離れそうですが。
一方、東京はその間も、現代、戦後、戦前、モデル有り無しとうまく散らせて、成功作ばかりではないもののいろいろ取り組んでいて好意が持てます。
今作もアニメの使用など、批判されるリスクも承知でのトライと思われます。
私は、今まで『火垂るの墓』を見たとき、主人公ら二人が追い込まれ、節子が衰弱し命が燃え尽きていく過程に心が破れそうになってしまい、しばしば耐えきれず視聴を断念してしまっていました。
今回の『なつぞら』第1話も、胸が締めつけられるようで。
なかなか、真剣勝負を挑んできた作品と思います。
そう言えば、松嶋菜々子さんは、ドラマ版『火垂るの墓』では、主人公らを追い込んでいく叔母の役を演じていましたっけ。
半年間の真剣勝負が始まりました。しっかり臨んでいきたいです。
前作のおかげでハードルが下がっていることもありますが、
色々と細部を見るにつけて「豪華だ…!」と思ってしまいます。
しかし、ここであまりに力を入れすぎると、
「本作に全力投入するので、『スカーレット』は片手間になります」とならないか、心配です。
四十数年道民でしたが、まあギリギリ気持ち悪さを感じないしゃべり方で安心しました(偉そう)。これ以上変なアクセントつけるのはやめれーって感じですね。
今回はホントに演者さんスタッフさんの質の高さや気合の入れ具合を感じてしまいます。松嶋さんの優しいお母さんっぷりや、大丈夫よって声かけに、もう駄作は見なくても大丈夫よって言われた気分になりました。
今回は毎日武者さまの楽しそうなレビューが読める気がするので楽しみにしてます。お体にはくれぐれも気をつけて無理しないで下さいね〜
>匿名様
ご指摘ありがとうございます!
婿入りじゃない同居だったんですよね。
説明がややこしくなるので、削除させていただきましたm(_ _)m
マスオさんは、婿養子ではないですよ。
なつぞら、ぼくも初発は好印象でした。レビュー見続けることになりそうです。よろしく。