ここで生きたい!
なつは天陽から絵を描くよう勧められますが、断ります。それはそうでしょうね。
そしてこう語り合うのです。
「貧しくて驚いたか?」
「ううん、私なんてずっと家なかったんだから」
本作は、子供が心を開くタイミングがはっきりとわかります。
夕見子は、父の説得を受けてから。
咲太郎となつは、父の思いを受け止めてから。
そしてここで天陽も、感情を爆発させます。
おいしくて冷たい水が流れる清流。その先にあるのは、あまりに貧しい、山田家の畑。
畑がうまくいかないから駄目なんだ。
いくら耕しても駄目。
そんな山田家は、父の郵便配達、母の農家手伝いで、なんとか食いつないでいるのです。
しかし、今年の秋でその生活も終わるかもしれないと彼は語り始めます。
ここにはいられない。
作物が育たないからには、捨てるしかない。
語られるのは、死んでしまった馬のこと。
人では耕せない。どうしようもない。そうなのです。
トラクターの前は、長いこと馬や牛を頼りに農作業をしていました。
命綱であった馬なのに、死ぬ間際のものを騙されて売りつけられた山田家。
高い金を払い、そんな馬を買ってしまった山田家。
「ちくしょう! ちくしょう!」
農家をやりたい。ここで生きたい。ここが好きなんだ。
天陽は土地への愛を語ります。人相手ではありません。
「この土に、勝ちたいよ、くそっ!」
心を開き、怒りを爆発させ、そう泣きじゃくる天陽でした。
本作の怒りは、幸せな感情なのです。
心を開き、幸せを感じ、守るものを見つけなければ、怒ることすらできないのだから。
見捨てられた人たち
なつが酪農中に天陽の苦悩を語ると、戸村悠吉が「拓北農兵隊だべ」と説明します。
これが何とも、知られざる北海道、そして日本の暗黒部分です。
空襲被災者を、疎開と開拓の一石二鳥だとして、北へと導いた政策。
しかし、こういう時にずさんなことをやらかす。それは日本の暗部と言えます。
屯田兵そのものが、極めて杜撰な政策であり、苦闘を極めました。
明治以降、膨張する人口をなんとかするため、日本人移民政策が進められるわけです。
これも行き当たりばったりなことが多かったものです。
南米の日系移民は、当初の約束とは異なる荒地が待ち受けており、苦労をしたものでした。
太平洋戦争前の満州然り。
樺太然り。
現地の人種差別も厳しいものでしたが、それだけが苦労の原因でもありません。
「日本人、日系人の勤勉さに外国人も感動しました!」
というような論調を見かけますが、それもそのはずです。
勤勉であるか、死か……そういう辛い歴史が、そこにはありました。
単純に美化してよいものなのでしょうか。
正治が怒り、悔しがり、政府への不信感をつい漏らし、たしなめられてしまう。それも理由あってのことなのです。
なつはあの子を救いたい
柴田家の牛舎で働くなつ。
思いつめた様子で泰樹に頼み込みます。
「お願いがあります。天陽くんを助けてください!」
泰樹は収穫できないなら諦めろ、とそっけなく言います。
冷たいというよりも、北海道流儀と言いますか。皆を救って沈むことを避ける。そんな知恵を感じます。
それでもやりたい。そんな彼を応援したい!
「はっきり言いました。土に勝ちたい、って。勝たせてあげてください!」
泰樹は無理だ、見んでもわかると言います。
そう言いながらも、顔に動揺が走っているのです。
もう放っておいてやれと言う泰樹に、なつは食い下がります。
「うそつき!」
自分の力で働いていたら、いつか誰かが助けてくれる。そう言ったのに!
天陽は一人で頑張っているのに。天陽くんを助けてあげて!
そうなつは、せがむのでした。
剛男はロマンチスト、そして浮く
なつは食後、一人で部屋にこもります。
天陽を助けろって、どういうことなのかな?
そう考える剛男。
「好きなのさ、あの子が」
ここで夕見子、また鋭い一撃です。富士子も賛同します。
「好きか嫌いか、そういうことでもない」
「はぁ〜?」
ここで露骨に、戸惑う父を牽制する容赦がない夕見子。
毎回、いちいち、強すぎる!
いつまでも我が子を子供だと思いたい父親、ダサいよね〜、だって!
この夕見子がグサグサと突き刺さるぞ、全国のおとうさーーーん!!
そして富士子も、そういうものだと賛同しています。
「そういう単純でないことも、この世にはある!」
そう反論する剛男。
ったく、どこまでロマンチックなやっちゃなぁ。
あの子の怒りを理解したいと彼が言い張ったところで、誰も理解できないのでしょう。
ここでやって来る泰樹もそうでした。
「何をごちゃごちゃ言うとる」
「ごちゃごちゃ言わせているのはお義父さんでしょ」
「なにぃ?」
「……!」
この関係、面白いですね。
義父が婿にイライラしていること。それが当たり前なのだと、伝わってきます。
剛男が富士子にプロポーズして、泰樹に挨拶に行く。
そんな過去の修羅場が見たい!
ロマンチストの世界は暴走する
しかし、剛男は浮いたロマンチストというわけでもありません。
もっと大きな、何か人に説明できないようなこと。
アイスクリームの味から平和を実感し、どこか夢見がちな剛男だからこそ、なんとなくつかみかけること。
そこをちょっと剛男になって想像してみます。
男女間の、そこにある愛ではなくて。
人類愛、人が人として、正義があると信じて生きられるような。そんな世界がないことを、なっちゃんは怒っているんじゃないかな!
そうだろう?なっちゃん!
はい、なりきり剛男、終了です。
剛男が適性ゼロの「牧場の世界」に飛び込んだのも、なんとなく掴めてきたと言いますか。
富士子の手を取って美しい世界を見に行こうと、ロマンチックにメロメロになったからかもしれません。
牛以外にも素敵な世界があるんだよ〜、とメロメロと。
そりゃあ泰樹からすれば鬱陶しいですし、とよからはそこを見抜かれますし、夕見子もちょっと気持ち悪いと思いますよ。
悠吉も内心、呆れていますよ。
戦争から帰ってきて「寂しいんだよ❤︎」と甘えますよ。
あれは彼の性格がよく出たセリフだったんですね。軍隊では、さぞかし苦労したでしょう……。
そういうちょっと気持ち悪い、愛すべき男なんだ、剛男は。
名前と中身が全然あっていない!
なつ自身も、実はちょっとわかっていません。
この語り口や場面からも、なつも剛男側の住人じゃないの〜? と推察できますが。
ここでナレーターの父が、ヒントを与えてくれます。
なつよ、それは少なからず幸せだからだ――。
剛男が気持ち悪い、だがそれがいい!
2週目に入って、だんだんと登場人物が増え、キャラクターも安定してきました。
1週目から続投ですと、深みや本質が出てきます。
夕見子の容赦ない強さ。
そして剛男のボロが気持ち良いくらいに出てきました。
剛男は、バカなのか、賢いのか。掴みにくい人物です。
言動からすると、どちらにも解釈ができるのです。
浅草の孤児院で奥原きょうだいを見つけるあたりは、きっちりとした判断力を感じます。
一方で、ジャガイモにバターを載せたことが義母の死因である思い、口に出すとか。バカとしか思えない言動もやらかします。
そりゃ、まぁ、お前はちょっと黙ってろバカもん! と言いたくなる気持ちもわかるわけでして。
こういうタイプは「天然」といわれ、バカで迷惑ばっかりかける、足を引っ張るお荷物扱いされがちです。
鈴愛にも、そういうところがありましたよね……あのバッシングには、空気が読めない奴はビクビクしながら生きていけという、そんな圧力を感じたものです。
しかし、そうじゃない。
彼らなりの考え方が、何かをもたらすこともあるはずです。聡明さが見えにくいだけなんです。
りゅうちぇるさんやローラさんが、おバカタレントを脱ぎ捨て、知性あふれる行動をとる姿には感動すら覚えますよね。
これには周囲の目線も大事です。
婿に苛立ちながらも、受け入れる泰樹。叱咤激励する富士子と夕見子。見守る戸村父子。
こういうはぐれもの、空気の読めない存在を受け入れる。
よいところを引き出す。
そういう意識を本作から感じます。
OPテーマの歌詞も、教えたいと謳っている。
週タイトルも、なつに教える形を取っています。
だからといって、教える側が上、教えられる側が下。そういうことではない。
協力し合うことで、豊かな世界になる。そう示す作品なのでしょう。
夢見がちなあの子を受け入れよう
そんな中、ちょっと痛いことは書きたくないのですが。
◆『なつぞら』前半は『おしん』を彷彿、若手イケメン俳優の大量投入でまったく先が読めない展開に
こういう「男女問わず、ともかく美形の異性を出せば話題になる、誰とくっつくかだけに興味があるという見方」は、そろそろ終わりにしませんか。
剛男も、言っているではありませんか。
何か大きなものがあるんだ、って。
なつの見ているもの。
気持ち。
それは恋愛よりももっと大きな、空のような。そんなもの。
はっきりとそう示されています。
これも、『半分、青い。』からの流れを感じます。
目の前にあるものだけではなく、何か大きなものに取り憑かれてしまう。
そのせいで空気の読めない変な子扱いをされる。
それでもいい。そんなあの子を受け入れよう!
そういうメッセージを、本作からは感じるのです。
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文:武者震之助
絵:小久ヒロ
北海道ネタ盛り沢山のコーナーは武将ジャパンの『ゴールデンカムイ特集』へ!
オープニングのアニメの最後のところでなつが動物たちと一緒に駆けているシーンで、少しだけなつが遅れてきたところ、なつは少しだけスピードを上げて動物たちを追い抜く。でも、つまづいてコケてしまう。でも、周りの動物たちはなつの周りで立ち上がるのを見守る。ムリに急がなくてもいいよと。そしてみんなで笑顔。何気ないシーンだが、こんな暖かい触れ合いが当たり前のようにできる事がこのドラマのテーマのひとつなんだろうな。
人口吸収を目的とした、安易とも言える移民政策・拓殖政策の不合理に焦点を当てたのは意義があると思います。
空襲被災者を対象としたこの「拓北農兵隊」事業が多くの失敗を生んでいたにも関わらず、終戦直後は外地引揚者や復員者を対象に緊急開拓事業が行われることとなります。恐らく、この『なつぞら』の劇中の時点では、各地で農耕に適しない旧軍用地や未利用地の開墾・入植が始められようとしていた筈。
拓北農兵隊の教訓は活かされることもなく(それどころではなかったのでしょうが)、入植者の人々の多くは数年を経ずして入植を諦めることとなります。
しかしながら、国の政策の不合理にも関わらず、入植にこぎ着けることのできた少数の人達は、おもに畜産や酪農で生計を立てることになります。僻地で牧場を営んでいる方の中には、そういうルーツがある方も少なくないそうです。今も少数残る「開拓農協」という農協や、「開拓牛」というブランド牛などもそう。
苦境の中で入植者の中から、新たな泰樹のような人々がまた立ち上がっていったであろうことを思うと、感慨深いものがあります。
だからこそ、天陽に救いの手が差し伸べられて欲しいのです。
今回の話はちょっと情緒不安定の人が多かったかな、というのが正直な感想です。
天満くんも唐突に爆発したり(そして聞き取れない)、なつも恋愛脳を拗らせて、じっさんに怒鳴りつけたり。
前回まで家族として受け入れられた暖かい感動する話だったのですが。
まぁ、でも「幸せだからの感情の爆発」だという、ナレでの内村さんのフォローがあったりしたので、早計に評価決め付けるのはまだ早いとは思います。なんといっても、題材がいいですし。
武者さんの強引なフェミ論を押し付けたドラマレビューにはやはり疑問を感じます。
今回のなつは典型的な「気になっている男の子を何とかしたくて理不尽に感情的になっている」女の子にしか、今んところ見えないからです。
藤木直人だけが、なつの怒りにそんな単純な理由でなく、何か理由があるのではないか、と疑っていたのですが、武者さんにはそれが逆に少しボケた男に見えるのでしょうか。あれだけ感情的な恋愛脳の女性像を嫌いながら…解せぬ。
武者さんには是非とも以前のような考察とキレのあるレビューに戻ってもらいたいものです。
小林綾子さんが天満くんの母ということをこのブログで初めて知りました。
BSのおしんを見ていてあの子役がどうなったのか気になったので感慨もひとしおです。
今回のOPの橋のアングル、実写でも出てきました。どことなく「赤毛のアン」のオーチャードスロープに至る橋や、アイルドワイルドのような風景もあったり、プリンスエドワード島っぽいな、と思いました。
もしも剛男が、古代ギリシャの4つの概念を知っていたら
きっとうまく、説明できたのでしょうね。
エロス(eros)=男女間の性愛… 古代ローマではキューピッド
フィリア(philia)=友人間の友愛… 多分、フランスの「Liberté, Égalité, Fraternité」のFraternitéとほぼ同じ
ストルゲー(storge)=親子、兄弟間の家族愛
アガペー(agape)=無償の愛
萌え(≒eros)だけに頼ったドラマは心に残りません。
(朝ドラだけでなく深夜ドラマでも)
その他の3つの愛(philia、storge、agape)を排除したドラマ、最悪です。
そういえば、脚本が『てるてる家族』と同じ方ですが、子供時代にも貧困の描写をきちんと描いていましたね。
「女性にまつわる迷信。」
これで思い出したのが、↓こちらのコラムでした。
https://yossense.com/discrimination-against-men
軽快かつユーモラスな筆致の下、男性にまつわる迷信(差別・偏見)が取り上げられていて、それは女性にまつわる迷信(偏見)と表裏一体であるという厳しい指摘がなされています。
こうした迷信は「できない人」「そうではない人」を追い詰めるだけでなく、最悪の場は差別や自殺さえも招いてしまう恐ろしいものです。
「なつぞら」には、この調子でこうした迷信をガンガン打ち砕いていって欲しいと願っています。
今日の天陽くんの「くそーっ」には、悔しさ、やりきれなさが表現されていて、とても心に響きました。
あの超駄作の「くそっ」の連呼には、また汚い言葉を吐いてるなーとか、脚本家の語彙の少なさしか感じませんでしたが。
「半分、青い。」や今作と、超駄作の差は、脚本家の力の差でしかないのでは?と思います。脚本が良かったら、現場の士気も上がりますよね。
東京のNHKドラマならば、キャラ人気に媚びずにドラマを描けると思いたいです。
なつが泰樹に発した「うそつき!」には少しハラハラしました。世話になっている泰樹にそんなきつい言い方をするなんて。でも誰もきつく咎める者はいませんでした。そこまでなつが本当の家族のように柴田家に馴染んでいること、また本音でぶつかっていく性格である彼女の良さを周囲が認めていること、が良く伝わってきます。「半分、青い。」で鈴愛が羽織に対して当然の不満を爆発させたとき、世間からは理不尽なバッシングが起きましたが、現状に妥協せず、自分の世界を切り開いていくクリエーターには必要な要素として描かれているでしょう。 「本作の怒りは、幸せな感情なのです。心を開き、幸せを感じ、守るものを見つけなければ、怒ることすらできないのだから。」なるほど、素晴らしい解説。レビューし甲斐のある良作品ですね。