「北大は農業学校だし」
うん、両親と絶望的なまでに話が合わない。
この夕見子の煽り顔がたまらねえ!
夕見子は、農業ではなく文学部を目指すと告げます。富士子からすれば、国語教師ではないかと想像しています。
日本の女子教育史を見て行くと、女性教員はスタートして早いもの。
『いだてん』の二階堂トクヨ。
東京高等女子師範を目指すシマもそうですね。
勉強する女は、せいぜい教員。
(※余談ですが****のバグだらけ武士の娘モデルは、教員です。先進的な女性でした)
しかし、これは夕見子からすれば、視野が狭すぎる。
勉強してから何をするか決める。
そう言い切ります。
富士子には理解できない。それでは年寄りになってしまう、って。
縁談もなくなる。そう心配しています。
勉強のできる女は、生意気になる。そういう傾向はまだ続いています。
「彼女は頭が悪いから」
頭の悪い女は、いいようにできるから都合がいいんでしょ?
そんな問題提起もあります。
◆東大生の強制わいせつ事件に着想を得て描く、人間の醜い深層心理 (1/2) 〈AERA〉
これも、日本の女子教育あるあるっすわ。
津田梅子はじめ、日本初の米国女子留学生は、帰国後まだ嫁に行っていない女扱いされて、絶望したものです。
「つまんない。母さんがそんなにつまんない人だと思わなかった!」
母さんは、お前のためにつまんないことを言っているんだ、と剛男は庇うわけです。
これもそうです。男女間の賃金格差は大きなもの。
「女は結婚しないと生きていけない」
そういう前提で、社会がずっと動いてきている。
そこに夕見子は挑んでいます。
自分がつまんないことすら自覚できない。この町にずっといるからよ!
私は自由になるため出て行く、もっと広い世界を見たい!
ここには、なつだっているんだし。
そう言い切る夕見子。
ナゼ、バカな女は可愛いと思われるの?
それに対して、全力で煽りにくる。それが夕見子です。
頭がいい。気も強い。倫理を一から組み立てて、舌戦に堂々と挑む。
文才を、ラブレターよりも「直江状」執筆に使ってしまう。
どうですか、夕見子ってかわいくないでしょ?
わっかんないかなー、この可愛げのなさがたまらないんだよなー。
そういうイジワル軍師なんですよ!
運命の彼がやって来る
ギスギスした夕見子と親の会話中。
ここへ、明美が来ます。なつにお客さんが来ているんだって。
なんと、あの佐々岡信哉でした!なつを空襲から救った彼が、東京から来ているのです。
いいなぁ。日焼け、学帽。この時代の学生ぽいなぁ。
本作のぬかりのなさ。
それは、なつの運命のお相手ルートが、複数揃うところでもあります。
◆運命の彼・佐々岡信哉:命を救ってくれた彼が、こんなに美男子になっているなんて、再会するなんて!
◆太陽みたいなアーティスト・山田天陽:絵での話が弾むし、周囲もそう思っているけど……どうなのかな?
◆お兄ちゃんだと思っていたけど・柴田照男:にいちゃんと結婚して、牧場を継ぐ。そんな人生もあるんだ。
◆演劇部の花形・雪次郎:夕見子のこともあるけど、そういうのもありかな?
◆熱血番長・門倉:大穴でのまさかも、あり!?
乙女ゲーってこういう感じですかね?
そういう複数ルートがある。大森氏、ぬかりがないな……!
あ、そういえばこんな作品もあったなぁ。
・パンチラアプローチ&電気泥棒:**さぁん
・備品缶詰泥棒:**
この二択。どっちもどうなのよ。泥棒しかいないんだから……。
ここで、ナレーションが入ります。
なつよ、のんびり絵を描いているときでは、ないかもよ。
空から見守る父親にしたって、娘がお年頃でドキドキしますよね。
うんうん。亡くなってからも、父親の気持ちで見守るナレーション。いいなぁ。
夕見子は、煽る。そして挑む
ガーッと主張していた、今朝の夕見子。
これがこの年代の、女子大学進学者のリアルでしょう。
現代ですら、この年代よりやや下の方が、
「女の子が大学行ってどうするの?」
と言う。
世界各国の大学進学率で男女差1:1に近づく中、東京大学は8:2という異常さ。
しかも、それを指摘されると暴れる人がいる。
****では、特に勉強をしていない、夕見子よりやや年上の女性が、難関大学にイージー入学していました。
しかも、何の目的であるかすら不明。
卒業後はすんなりと専業主婦になり、茶の間でせんべいをバリバリしているだけです。
言動からして、夕見子は知略87くらいはある。
直江兼続レベル。一方でアレは……このへんでやめましょう。
時代考証、知略設定ぐらいきっちりしておかないと、リアリティがズタボロになってドラマの底が抜ける。
そのことが、この大学進学関連描写でも証明されましたね。
本作は、このあたりもぬかりがない!
現実のニュースや世相と噛み合っています。
◆上野千鶴子さん入学式祝辞。東大生の等身大でリアルな姿がわかる厳選5本|BUSINESS INSIDER
なつは、弾ける。そして挑む
夕見子という軍師の横では、無害に思えるかもしれない。
それがなつ。
夕見子はもう仕方ない。
けれども、なつは違うはず。素直にいうことを聞いて、嫁ぐんだろうなぁ〜……と思っていませんか?
これが、実は知略99の陥りかねない罠!
経験で物事を予測する泰樹は、天候予測はお手の物。
人の心もそうであるはず。彼の経験からすれば、北海道に生きる男女は、情熱の赴くままに愛し合い、結婚する。そういうものでしょう。
実際にそういう歴史もあります。
そんな知将の読みからすれば、なつが画材で喜んでいるのは、絵を描くことを理由にして、天陽に接近したいからだという答えになる。
これは悪意でも、くっつけたいわけでも、好奇心でも、歪んだ性欲や支配欲でも、ない。
ただの軍師の分析なんですね。
そして、ここが弱点でもあります。
軍師でも、読めないもの。
それは、なつの弾ける心です。
天陽は関係ない。
己の心の赴くまま、芸術で表現したい。そういう自己実現のための、弾ける心がそこにはある。
夕見子となつの共通点。
ないようで、あります。
それは独特の視野の広さです。
母親の視野の狭さにがっかりした。
そうきつい口調で言い切る夕見子。
根本的な考え方がちがう。夕見子の場合、むしろ父親のほうが理解しております。
剛男は、勉強と読書が大好き。
視野を広く持つ、そういうロマンチストなところがあるから。
◆事実や経験を積み上げて考えるタイプ:泰樹、富士子
◆自分の頭の中にある目標やセオリーを重視するタイプ:夕見子、なつ、天陽、剛男
「あんたの話は、広すぎてついていけない!」
そうなるのが、後者です。
彼女は、居場所探しに苦労する
理詰めの夕見子は、ガーッと煽ってくるから、その時点でこいつは危ない。
近づくなと避けられる。
一方で、情や感受性重視のなつタイプは、ぼけーっとしている天然ちゃん、逆らわないと思われてしまう。
突拍子もなくて、変人で頭が弱いとすら思われかねない。
彼女らが学校や会社にいたら?
夕見子は、飲み会やSNSで「あいつは女を捨ててる」、「かわいくない」、「むかつく」とヒソヒソと言われるタイプ。
なつは、正面切って小馬鹿にされ、空気が読めない、気持ち悪いと言われる。そういうタイプかな……。
ドラマだと、そういうところは描かないか丸めるんですけど。
そういう難を、きっちりと入れてきましたね。
普通じゃない。
普通におさまれない。
そんな二人。
育った故郷が大切だとは思っている。けれど、私にはあわないんだ。
彼女ら二人が旅出つことが見えてきました。
そんな彼女たちの決断を、これからも見守りたいと思います。
そして、あなたにもお願いがあります。
あなたの周囲にいる、なつや夕見子にこんなことは言わないでください。
「田舎で生きていくんじゃダメなの?」
「夢なんか見ても意味がない」
「女の子は勉強するだけ無駄。バカなくらいがかわいいって」
「女の子の人生は、結婚して、子供を産み、育てていく。それが幸せ」
「社会に出ても幸せになんかなれない」
◆上野千鶴子「東大祝辞」でワイドショーコメントが酷い! 東国原英夫、坂上忍、玉川徹、東大卒元官僚の山口真由も
「女の子は男に愛されてこそ幸せ!」
って言いたいのは誰ですかね。
女じゃなくて、
「女の子は愛されたいんだなあ〜」
と言いたい側じゃないですか。
その人にとっての幸せ。そのあるべき姿。決めるのは本人です。周りではありません。
そして受け止めてください。
2019年は、朝ドラですら、なつや夕見子のようなヒロインを描いているということ。
それを受け止められないのであれば、もう時代遅れです。
んで、これな。
リアル夕見子、ユーモア特化タイプは、これやで。
◆round.5平成31年度東京大学学部入学式 祝辞(上野千鶴子)|フェミニスト両手ぶらり旅|金田 淳子|webちくま
中には「祝われてなくて学生がかわいそう」という批判もあるようだが、どの大学の祝辞も、「おめでとう! アンタにゃ惚れちまったよ! レッツパーリィ!」みたいな内容ではないと思う(そういう祝辞が本当にあったら面白いのでぜひ教えてほしい)。私調べで恐縮だが、「気を引き締めろ」「こういう学生になってほしい」という訓示が主流だろう。
「レッツパーリィ!」の時点で、横山光輝三国志ぐぬぬ顔になるしかない。
そういうことなんですよ!
※スマホで『なつぞら』や『いだてん』
U-NEXTならスグ見れる!
↓
文:武者震之助
絵:小久ヒロ
北海道ネタ盛り沢山のコーナーは武将ジャパンの『ゴールデンカムイ特集』へ!
『なつぞら』スタート前の予告特番で、北海道ロケのメイキング映像が紹介されたとき、乾し草作りのシーンの制作映像がありました。今回放送のシーンがそうだと思われます。
メイキングでは、本来晴天が続く筈の季節(ドラマ本編中でもその旨の台詞がありました)に、断続的に雨が続き、乾し草に防水シートをかけて晴れ間を待ったり、晴れ間を見計らって撮影を敢行したりという苦心が紹介されていました。
今回放送されたシーンでも、空の一角にそのときの雨雲が見えたりして、「あのメイキングのときの雲だな」と。
照明で、晴天の明るさはうまく表現できていたようです。
現場の工夫がどのように出来映えにつながっているかを実感できました。
天衣無縫という言葉を初めて知りました。
美しい言葉ですね。
才能ある人には、のびのび飛んでほしいと思います。脚本家の方が、ゼロから個性豊かな人物を産み出し、物語で爽やかな世界を作ることはどれだけ大変なことかと思います。
頭の中で、削ったセリフ、シーンがたくさんあるんだろうなぁ。
物語が終わったら、見た人の心にだけ残る。
毎日楽しみに待つ時間も、もらえてます。
脚本家さんの次の作品、期待しています。
なつの演劇をもっと見たい、よっちゃんもっと!って思いました。なつの舞台衣裳、背景画綺麗でした。
「視野の狭い」人たちが山ほどそばにいて当たり前な作品世代の人たちはむしろ幸運で(道を進むには戦うしかない)、ほんとうの当たり前な、人に恵まれた環境に育ってしまい、社会に出て初めてどうしようもなく最低な大人たちに出会ってしまう人たちは、相当苦労してると思います。前者の幸運は言葉のあやですが、21世紀も20年目に手が届こうかという時代に、まだなにも解決できていない(むしろ後退してる)などとは、まったく想像していませんでした。数々の事件に心が痛みます。周りの方々はぜひ支え続けてあげてほしいし、ご本人も無理をしすぎず健やかに生き延びて、作中の人たちのように豊かな人生をつかんでほしいと祈っています。
夕見子の「土地に縛るのはなつだけにして」
開拓農家も三世ともなれば、拓いた土地への執着が希薄になる人も。当然と言えば当然で、それだけ生活が安定したからでもあるでしょう。
本気度あふれる造り込みに満ちた十勝編も、そろそろひと区切りの時期が見えてきたようです。何だか寂しい…「十勝ロス」になってしまうかも。
考えを改めてからの、泰樹の動きは早かった。
音問別農協随一の有力酪農家が合流するとなれば、まとまるのに支障もない。喜ぶ組合員の人達の笑顔。その後のシーンで、田辺組合長と剛男を前にした乳業メーカー側?の苦りきった表情。
作中では農協内の人間関係にはほとんど触れませんでしたが、これまでの泰樹の来歴や地区での立ち位置からは、少なくとも農協の理事の一人にはなっていそうですし、前の組合長(設立時の初代組合長)だったとしても少しもおかしくない。
もっとも、組合長は必ずしも有力農家が選ばれるだけではなく、教員経験者や公務員経験者で帰農した人等が、その経験を買われて選ばれることもあります。田辺組合長はどんな人物なのかなとも思います。
作中でも共同出荷の話をまとめるまでに労力を要しましたが、実際にも、農協の中で理事さんの間の考えが合わず、話し合いに時間を要することはあったりするようです。それ自体は必ずしも悪いことではなく、きちんと考えをすり合わせ、禍根とせず合意点を探るのには必要なプロセスでもあります。
理事さんの一人が前組合長だったりすると、早くまとまるよう尽力してくれることもある一方、逆に感情的に合わないところがあったり、ライバル心めいたものが邪魔をしてしまったりすると、却ってなかなかまとまらない…地区間でも食い違いを抱えていてこじれると、「派閥争い」のようになってしまう…ということも、時には起こってしまったり。
それを乗り越えるには、やはり、何のための農協、理事なのか、という原点を忘れないこと。それに尽きるでしょう。
本編では描かれなかった、音問別農協内の人間関係、理事さん達の奔走。スピンオフドラマの題材としてはいかがかな、とも思います。