冬の十勝を、咲太郎が彷徨います。
「なつー寒いぞー」
そこは冬の大地。
あまりに薄着ですので、どういう展開か予測がつきますね。
「きょうだいだぞ、逃げて一緒に行こう」
そう柴田牧場に転がり込む咲太郎ですが、外には誰かがいます。
しかもタップを踏んでいる。
「どこにいくんだ。お前になつは連れてゆかせない」
声を掛けるのは泰樹。
同時にタップを踏んでいた警察官が踏み込んできて、咲太郎は逮捕されるのでした。
十勝は冬です
夢でした。
眠るなつの顔に、明美が雪をかけます。
なつは、寝言でしきりとお兄ちゃんと言っていたようです。
「どっちのお兄ちゃん?」
そこで夕見子が無神経なことを言うなと諭します。
あんたが言えた義理じゃないだろっ!
しかも、雪をかけろとけしかけたのは夕見子の策だと判明します。おいおいおいっ!
十勝は冬です。そう説明が入ります。
月曜日だけを夏の新宿にする。そういう区切り方に工夫を感じますね。
北海道の冬といえばスキーです。
スノーボードはもっと後。
ここで戸村菊介が、スキーを教えると迫ってくるのです。
「スキー大会出ようって!」
「開拓青年団スキー大会」があるそうです。照男にも誘いをかけています。
菊介はどうやら元選手で、現在はコーチになりたいようです。
「出るべよ? なっちゃんも出るべよ?」
そんなしつこいスキーへの勧誘をかわし、照男はなつを話があると呼び出します。
全員がすっかりモコモコ、冬服ですね。
たまたまもらったチケット2枚って、絶対嘘だ
ここで照男は、ディズニー『ファンタジア』の映画チケットを差し出します。
目を輝かせるなつ。しかも、チケットは2枚あるそうです。
よっちゃんならデートだと絶対にトキメキますね。
夕美子ならば、理解した上で何か煽りを入れそうだ。
しかし、なつはそもそもが気づかない。まぁ、兄ちゃんだもんね。
「明美と行ける!」
そう言ってしまうんだなぁ。
「いや……」
ここで、俺と行こうと言ってこそだぞ、照男!
「天陽と行けば?」
照男ーっ!
そのままではずっとお兄ちゃんでしかないぞ。それなのに、天陽には新宿のことでお世話になったとか言ってしまうのです。
ここでなつもちょっと何か気づいたようでして。
「わざわざ買ってくれたのに……」
「たまたまもらったんだ」
いや、もう買ったってバレてますから~!
そんな二人を、泰樹はじっと見ています。
知略99の彼でもぬかったかもしれません。
彼の脳裏に、なつとの結婚を命じた日が浮かんで来ます。
「お前ならできる! できるだろ!」
そう強く言い切った泰樹。彼もかつてはそうだったのかもしれません。
愛する妻のためならば、何でもやった。突き進んだ。それでいくんじゃあああ!
それなのに、どうにも孫には無理らしい。
全くわからん!
そんな戸惑いが、知将の顔に浮かんでいます。
夕見子は負けない
冬の十勝は、自転車ではなくスキーと鉄道通学になります。
そうそう、季節で全然違うのです。大変だ。
そのスキーの途中で、夕見子が転びます。なんでも睡眠時間が二時間だそうです。
すごい。それでスキー通学か!
そこまでして北大、札幌に行かなくても……と、なつは不安そうです。
夕見子は「負けたくない」と言い切りました。
相手は人じゃありません。
女のくせにとか、どうせ無理だとか。そういう世間の目に負けたくないのです。
なつのようにわかりやすく戦ってはいない。なつはどこでも戦っている。
私には何もないから。自分の戦う場所は、自分で選ぶ!
寝不足でわけのわからないことを言った――そう照れ隠しをする夕見子ですが、なつは「わかる」と言います。
わっかんねーかなー!
この夕見子の闘志!
女の子らしくない。それはそうでしょう。
女性にしては珍しい部類でしょうよ。いや、男女双方かな。
期待に応えるとか。周囲に流されてとか。
そういうことじゃない。
闘志満々で突き進んでいく。そんな強い意志がそこにはあります。
塾も少ない地方で、受験ノウハウも身につける機会が少ない。
しかも兄のいる女子。それでも大学進学するような女性とは、闘志満々でしょう。
そういう闘志満々の女子を、可愛くないだの、良妻賢母でこそ幸せだのは、赤子の理屈で話にもなり申さぬ。そういうものでしょう。
あなたの隣に夕見子がいたら、絶対におちょくらないように。
※反撃されてもやむを得ない
雪次郎は夕見子ちゃんが好きなんだーっ!
そんな夕見子に、恋をしている雪次郎。
電車の中、反対方向に向かって行く夕見子に声を掛けています。
「夕見子ちゃん、おはよーーー! 気づいて、夕見子ちゃーーーん! 君の名はーーーー!」
「今呼んだべさ」
ヒットラジオドラマ『君の名は』にひっかけた呼びかけも、軍師には通じない。
朝ドラ第46作にもなりましたね。
頑張れ、雪次郎!
夕見子は彼の話になると若干の動揺を隠せませんし、意識はしていますよ。
それに、狙いすましたものより、ああいう直球の方がグッとくるかもしれません。
照男にも、雪次郎くらいの率直さがあればいいのに……。
※続きは次ページへ
本作の制作スタッフが全て鉄道に知見がないのか、と言えば、それは「否」です。それは今回の通学シーンの巧みさを見れば明らかです。
なつや夕見子たちが乗車したローカル普通列車。列車の全景は一切映らず部分的な描写のみでしたが、客車の茶色の外板、内装は木製、一部の座席を外して設置したストーブ、幅の狭い二重窓といった、当時の北海道のローカル客車の特徴を的確に捉え、十分に表現していました。
これら部分部分のシーンから、昭和30年代の北海道のローカル普通列車の雰囲気は十分に伝わってきます。無理して引き画で全景を映す必要など全くありません。
新宿の街角のシーンで、引き画にこだわり過ぎるあまり「明治の幽霊電車」だの、「バラック建て等の一切ない、整い過ぎたあり得ない街並み(←前回のZai-Chen様のご投稿も参照)」だのといった、実感をひどく損なう余計な画像を放映してしまったのとは雲泥の差。同じ制作チームが手掛けたとはとても思えない。
いや、むしろ、
東京の街角のシーンを担当したグループは、十勝編等を担当したグループとは別なのではないか、とすら思えてきます。
東京の街角のシーンは、これまでのいくつかの駄作・失敗作と同じような空気・雰囲気を感じてしまう。何だか「大がかりにすればよい」ということにばかりこだわっているような。
十勝編ではどうかと言えば、帯広の町が出てきたシーンでも、引き画は一切ありませんでした。なつの幼少期、バラックが並ぶ通りを、なつの低い視点から映したくらいで、あとは「雪月」の店先のシーンが多少あった程度。それでも、人の動き、並ぶ品物等から、地方の中心都市の雰囲気は十分に表現されていました。
もし、東京の街角のシーンが別グループの担当であるのなら、猛省とともに、十勝編とレベルが揃うよう格段の努力が必要。むしろ、できれば十勝編グループが今後の東京編も担当してもらいたいとすら思うところ。
それに対して、
今回の十勝編では、積雪期には通学の交通手段が変わることを紹介。これは現在も北海道の常識です。
札幌などの大都市でも、積雪期には二輪車利用を止めて公共交通に変える人が非常に多い。通学生のみならず通勤者も。
それで積雪期とそれ以外では、鉄道もバスも混雑率が大きく違う。だから、北海道の都市バスは本州の都市バスより車体が長く定員の多いタイプが多いし、事業者によっては座席の一部を省略して詰め込みが効くようにしていることもある。
こういう、当たり前のことを当たり前に描写するという良い姿勢が、十勝編になって戻ってきました。見ていて安らぐ、ほっとするのは、こういうことです。
最初の東京編が終わり、物語は再び十勝へ。
何だか十勝編のほうが、あらゆる点で落ち着くし、見ていて安らぐ気がします。
前回までの東京編は、とにかく交通関係がメチャクチャでした。実は私は、5月1日の第27話は、所用で冒頭のあたりを見ていなかったのですが、録画で見直してみたら、まず冒頭がひどかった。
なつと富士子がバスを降りる。すると、のっけから、やって来るのはあの「明治の幽霊電車」!
もう東京編は、はなから呪われていたのか…
なつと富士子は、連絡船を挟んで鉄道で東京に到着した筈。この時代、東北方面からの列車の発着ターミナルは、かの上野駅ですから、そこから新宿へ向かうのには、山手線に乗り換えて回り込むか、途中の秋葉原で更に中央線に乗り換えるか、いずれかで新宿駅に行くのが時間的にも運賃の上でも最も自然だし、地理不案内な上京者にもわかりやすい。
然るに、何故か、なつと富士子はバスで目的地にたどり着く。新宿駅からバスで少し入り込んだ場所なのかなと思いきや、降りたバス停は「新宿駅前」…何だそりゃ。
これではまるで、上野駅前からわざわざバスで新宿駅前に来たかのよう。
地下鉄もほとんどが未整備のこの時代、わざわざ国電を避けてバスで上野駅・新宿駅間を移動するなど、全く意味がわかりません。都電で上野・新宿を乗り通す人すらいないでしょう。まして、上京者には路線の位置すらわからないバスに乗るなど、絶対にありえない選択。
こういう東京の交通事情も、少し調べれは簡単にわかること。前回のコメント欄で「路面電車に全く知見がない」と書きましたが、それだけでなく、少し調べればわかる基礎的なことすら調べていないとしか、言いようがありません。
十勝編で見られた、緻密を極める考証の姿勢は、前回までの東京編には見られません。甚だ残念を極めるのですが。
物語は今後、なつが再び上京した後の描写が主体になるわけですが、その時こそは、是非きちんとしてもらいたいと思います。
「もう、ちゃんとして!」(黄金原聡子さん風)