バターの香りは夢と心の香り
このあと、泰樹があのバターチャーンを照男と砂良に見せます。
そして、三人で作るバターだとなつに告げて欲しいと語るのでした。
なつの夢を、砂良が受け継いだとすれば。なつがホッとする。そう言い、バターを渡してくるのです。
これこそ、泰樹なりの罪滅ぼしと、なつの罪悪感軽減を考えた行動でしょう。
そこまで考えているんだ。
罪を償うって、大事なことだと思います。
『半分、青い。』では、ボクテなり、祥平なり、津曲なり。
彼らなりにやらかしたことへの贖罪まで描かれていてホッとしたものですが。
「俺は悪くないんだ! 悪くねぇ!」
とアピールするだけじゃ、ダメなんですよね。自分なりの償いを考えないとさ。
前作****のイノセントアピール大好き**さぁんはもういいってこと。
なつは、そうしてできたバターの香りを嗅いでいます。
「なつかしい香り」
うっとりとするなつ。
じいちゃんの夢そのものですから、そりゃそうでしょう。
しかしジャガイモは恋の味ではない……
照男は天陽からだとジャガイモを見せてきます。
ここからが、今日の残酷タイムです。
この、なつ、砂良、亜矢美の微笑ましい、無邪気なやりとり。
「天陽って誰?」
「なっちゃんの恋人です!」
「天陽くんは、私が目標とする人です!」
「目標って、結婚?」
「仕事の目標です!」
「照れてる〜」
これに先週の、なつの絵をベニヤ板に描く天陽の姿を重ねると、心に刺さります。
誰が見ても、もうくっついちゃいなよ状態。
結婚が目標で何が悪いの? そういう状態です。
これもなかなか、意欲的な描写だと思います。
じゃがバターと昭和仕草が絶品です
弥市郎からは、結婚祝いだという木彫り熊が届きます。
阿川親子はアイヌなのか。
コメント欄でも意見が別れていますが、この木彫り熊がもともとアイヌの伝統的な工芸品ですので、少なくとも弥市郎は彼らから技術を継承しているとは思います。
こういうお土産用ではなく、純粋なアイヌの贈り物は、和人好みのアレンジがないのだそうです。
そこまで準備しているのであれば、本作はすごいところ。
私もはっきりとは判別できませんが。
そしてここで、あいつが登場!
咲太郎です。
なつにとって義理の兄と、実の兄がそれぞれ挨拶を交わすのでした。
「みんなでおでんを食べましょうよぉ〜!」
亜矢美がそう言い出します。
本当に、盛り上げる才能がある魅惑の女将だなぁ。
そして出てきたのが、天陽のジャガイモに、泰樹のバターをのせたもの。咲太郎も大喜びです。
くれっ! 画面を超えてこっちにもくれっ!
これはもう、北海道物産展に行かなきゃ……。
咲太郎の動作も絶品です。
ビールを照男と注ぎ合う仕草が、昭和の男です。
劇団の公園である『人形の家』のポスターにここで照男が気がつくと、咲太郎が見に来るか?と誘うのですが……もう肩に手を回しておるわ! 早ぇ!
このボディタッチ、酒を一緒に飲んだら友達だぜというノリ。昭和だなぁ。
どういう演技なんですか、岡田将生さん。あまりに自然で怖くなってくるほどです。
男でもこれだ。
女相手には、もう、魔性でドロドロよ……さっちゃん、レミ子、逃げてーっ!
そこにいるだけで、色気があるという、この魔性よ。
私は助けてもらってばかりだ
このあと、新婚夫妻はなつの部屋へ。
砂良は、なつの部屋にある亜矢美コレクションを見て驚きます。
数だけではなく、デザインもかぶき者ということは、押さえておいてよいでしょう。
照男は、なつの絵を見て、仕事の練習なのかと聞いてきます。
「アニメーターにはまだなっていない。なれるかどうか」
そう自嘲気味のなつに砂良が聞いてきます。
「お母さんには何ていう?」
「お母さん?」
「柴田のお母さん!」
「私は大丈夫。好きな仕事頑張って、必ず夢をかなえてみせる」
そう誓うなつでした。
照男は、兄とうまくいっているようだと指摘します。
うまくいっているどころか、兄に助けてばかりだと苦笑するなつです。
いい子だな……咲太郎にチャンスをぶっ潰されたことを、恨んではいないのだな。
アニメーター試験において、なつが70点台だったことを思い出すと、私はちょっと胸が痛みますが。
「人に助けてもらってばかりだ、私は」
「家族が増えるみたいで、いいじゃない」
砂良はなつを励まします。
そしてここで、ある残酷なことをなつは持ち出すのです。
まだ、妹の千遥に会えていない――5歳の時に預けた親戚が引っ越して、探せないのだとか。
咲太郎は、邪魔するなと止めるのです。
これも重要だと思いますよ。
なつと咲太郎の意見が反対だったら、なつは冷酷な女と非難轟々でしょうね。
そういうところ、私はどうしても気になって考えてしまう。
そしてレビューが長くなるのです。
同じ月を眺めて
さて、その咲太郎は皿洗いをしています。
さりげなくうこういう作業をするところがすごい。男が立って皿洗い、それを女の亜矢美が座って眺めていると。なかなか印象的な絵ですよ!
「気を遣わせてすまなかった」
「いい兄貴になったね、咲太郎」
「うるせえよ」
この会話からも、両者の関係が見えて素敵です。
そこへ照男と砂良が来て、帰るとあいさつ。
なつには兄貴がついているからと亜矢美がいいます。そして北海道にも来て欲しい誘うのでした。
「ありがとう、幸せにな」
このやりとりも、複雑です。
かつて、なつを追いかけたくて北海道に行きたいと涙していた咲太郎。
北海道が嫌いで、雪次郎が北海道から来たと告げただけで、殴りたがった咲太郎。
それがここまで来たんだ。
となると、千遥のことも気になってきますよね。伏線かな?
「また来てくださいね〜」
と、投げキスつきで見送る亜矢美。うーん、この女将も魔性だなぁ。はぁ〜、常連の気持ちがわかる。
なつは二人を店の外まで追いかけて、荷物になるといいながらも、東京のデパートで買ったというお土産を渡します。
ちゃんと似顔絵入りです。
誰にどれを買うか。似合うかどうか。気に入ってくれるかな。
そう想像しながら選んだんでしょうね。いい子だなぁ。
「砂良さん、幸せになってね 絶対に幸せになってね!」
「俺がついているから」
こうして二人は去っていきます。
うーん、なつだって、天陽に幸せになって欲しいだろうなぁ。でも、それを叶えることはない。この悲しみよ。
「あ、綺麗なお月さん!」
なつはここで月を見上げて、満面の笑みをうかべるのです。
そのころ、十勝の柴田家では、泰樹が月を見ていました。
なつは久しぶりに、北海道の風を吸い込んだ気がした――そうナレーションで説明がなされます。
ここがまさに、絶品です。
本作は、セリフがなくとも雄弁な場面が多いのです。あのなつと泰樹の顔、そして月を見ているだけで、伝わってくる物語があります。
視聴者の感性に任せた、豊かな世界と信頼感を感じるのです。
そしてまた、机に向かい、その夜も遅くまでアニメーターになる練習を続けるのでした。
なつよ、みんな家族の幸せを、祈っているぞ――。
そうナレーションがしめくくるのでした。
そうそう、ナレーターのあなたも家族ですもんね。
離れていても、つながりがある。それが家族なのでしょう。
目標は個々人による
今日、一切手番がなかった天陽。
それでもジャガイモや会話の端々から、彼の存在感が伝わってきます。
なつのセリフは、天陽を思っています。
しかし、それでも二人が一緒になるとは思えない。そのことが伝わってくるのです。
結婚は結婚だ。仕事は仕事だ。同じ目標じゃない。
ここを男だと混同しないのに、女だとなんかすり替えられますよね。
仕事に頑張るのは、結婚を逃した悔しさゆえだと言い切られたり。
それをやっちまったのが先日の『いだてん』です(確認するためだけに、別に見なくてもいいですよ)。
上っ面だけなぞって、女が結婚以外に生きてもいいと唐突に言わせたかと思えば。別の場面では、仕事で結果を残せないと悩む女性に、別の女性が結婚出産すればいいでしょう、と諭す。
そんなものは個々人の価値観の違いっちゃ、そうですけれどね。
それをまとめるにせよ、作り手がそこを意識しているのか。ノリだけで適当にエエセリフを打ち込んでいるのか。
かなり大差がつきつつあります。
NHKで津田梅子はドラマにできるのか?
『なつぞら』チームなら、いいものができる可能性はあります。
前作****と『いだてん』チームは、そんなことは紐なしバンジージャンプだと作る前に無理だと気付きましょうね。
助けてもらうこと
なつが、助けてもらってばかりだと反省するところ。
ここにも、本作チームの慎重さを感じるなぁ。
本作は、なつが周囲から助けられるということを、きっちり示しています。
そしてこれを指摘するとイライラしてくるのですが、そういう存在だとヒロインはボコボコにされ、ヒーローだと特に問題視されない傾向があるのです。
『半分、青い。』の鈴愛と、前作****の**さぁんを比べればおわかりでしょう。
指摘しすぎて、こっちは疲れたわ!
まぁ、さくさくっとまとめましょう。
「ナゼ、男子スポーツ部ばかり、女子マネージャーがつく傾向がいまだに高いの? 反対も皆無ではないとはいえ……」
「『梨園の妻』という表現はあるものの、『宝塚スターの夫』という表現を見かけないのはどういうことだろう?」
あれを踏まえて、本作チームはこう言っているのではないかと。
「そんなことは、とうにわかっております」
そういう慎重さが、大胆さの中にあるんだなぁ。
今週は、アニメーターという目標だけではなく、家族関係もテーマになりそうです。
わくわくして、ちょっと怖い。
そんな月曜日が、今週も始まったのです。
※スマホで『なつぞら』や『いだてん』
U-NEXTならスグ見れる!
↓
文:武者震之助
絵:小久ヒロ
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砂良さんとじいちゃんは気が合う感じで、良かったなあ、と思いました。
なつとももっちの仲良しぶりも楽しいです。天陽君の悲しい展開は怖いです!
いだてんでげんなりして、
きちんとしている朝ドラが嬉しいです。
ジェンダーの問題をちゃんと取り組まないドラマ、今もう見るのが恥ずかしいです。誰かが傷ついているのですから。
もしかしたら、大河と朝ドラで、
その対比が現れているって、良いことなのかもしれないと思いました。
なつぞらの感想じゃないことまで、
ごめんなさい。
武者さん、お疲れ様です。
応援しています。