昭和32年(1957年)春。
新婚の照男と砂良を見送った後日、なつは咲太郎のチケットノルマに協力し、赤い星座の『人形の家』を見に行くのでした。
亀山蘭子、ノラを熱演
演目は『人形の家』です。
夫に愛される主婦として生きてきたノラ。
彼女は気づいてしまうのです。
8年間暮らし、3人の子の母となった。けれど、これが愛なのか? 本当の結婚なのか?
人形のように、夫に愛玩されているだけではないのか?
そのことを考えると、耐えきれなくなる!
身を引き裂きたくなる!
一人の人間として見られていない。私はまるで人形だ。
夫・ヘルメルの制止を振り切り、夫が語るような奇跡なんか信じないと叫び、身悶えし、ノラは別れを告げるのです。
凄まじい熱演。
ノラの魂の叫びが、そこにはあるようでした。
なつと雪次郎の感動、そして蘭子
「いかった……何というか、本当にいかった……」
そう呆然と語るなつ。
「体が熱くなるようだ!」
そう語る雪次郎を、風邪かと咲太郎は茶化します。
ここで咲太郎は、蘭子とこの二人を引き合わせます。
蘭子も、やっぱり個性が強いものでして。
妹だと紹介され、咲太郎は家族がいない孤児院育ちだったんじゃないかと言い出します。
咲太郎が身の上を説明すると、
「あら、新劇になりそうなお話ねえ」
ですと。
なつを同情するわけでもない。気遣うわけでもない。
それどころか、お芝居のネタになると言い出す。
一歩間違えたら、ただの失礼で無神経な奴!
そうなりかねないところを、うまく踏みど止まっていると思います。
これで思い出したのが『半分、青い。』の秋風羽織です。
鈴愛から左耳が聞こえないと言われて、これですよ。
「私は、左の耳が聞こえません」
「だから何だ? だからといって人とちがう世界が見えるとか、オリジナルの作品が描けるとか? そういうことに頼るな! 甘えるな! 要は想像力、想像の翼は、どこまでも高く広がる!」
障害をかわいそうではなくて、個性だとみなす。
無神経なようで、創作と想像に生きてきていて、それゆえ見下さない。
そういう秋風の生き方が、そこにはありました。
蘭子も同じようなところがあるのでしょう。
会社勤めは向いていない。そういう個性がわかります。
絵にしたい、素晴らしい! そして普通
なつは、すごかったと目を輝かせて語り出します。
「他の言葉が浮かばない。絵に描きたい! 絵に描けないくらいすごい!」
そう絶賛するなつのことを、漫画映画を仕事にしていると咲太郎は説明します。
一方、雪次郎は、感極まった顔でこう来ました。
「本物は普通なんだなって」
「お前、何言ってんの?」
そう咲太郎は気まずいのです。言動不一致にも見えかねない、それが雪次郎です。
しかし、蘭子は意外そうながらも、そこまで動じていません。
「普通の人がそこにいる! アマチュアって感じ!」
そう続ける雪次郎、焦る咲太郎。
「普通の人の言葉を伝えること。スターじゃなくても、伝えること!」
新劇ってそういうものかと語り出す雪次郎に、あの咲太郎すら慌てるしかありません。
蘭子はむしろ興味津々で、雪次郎の身の上を聞きます。
高校時代に演劇部であったものの、今は菓子職人になるため修行中。そう聞いて、蘭子は意味ありげな言葉を口にするのです。
「それでよく、芝居をやめられたわね……」
そんな蘭子に、お礼を丁寧に言ってから去る、なつと雪次郎です。
これがなつたちの運命を変えると、ちょっと怖いナレーションが入ります。
なつはいいとして、雪次郎はどうなる?
芸術は人を変える、そして運命も
風車で、なつと雪次郎は感想を語り合います。
なつは、『人形の家』でありながら人形は出てこなかったこと。
冨士子に家を出たいと告げた時、ビンタされたと思い出します。
「牛ならともかく人にビンタはねえよなぁ」
そう茶化す咲太郎に、牛でもダメとなつは指摘します。
咲太郎はともかく茶化す江戸っ子なのでしょう。
咲太郎は、あの劇は「女を解き放つ運動」のものだと説明します。
ここで雪次郎がこう言い出す。
「運動じゃない」
いつもと違う目で、語り出すのです。
「イプセンも言っていた。問題解決を描くことじゃない。見ると詩的、哲学的になってこそ演劇だ。本を読んでもわからないことが、演劇を通して実感できる」
そう語るのです。
そんな人間の描写こそ、演劇の真髄だ。言葉を熱くする雪次郎に、感心する咲太郎。そういう理論は勉強していない感じがありますもんね。
雪次郎は、勉強と実体験が噛み合ったのでしょう。
なつもうっとりとしています。
「あんな芝居を、絵に描けたらすごいな〜」
この場面では、ここにいない不在の人物がいることを感じました。
一人目は倉田です。
農業に携わる人に演劇を見てもらいたい。彼はそう語っていました。
その結果が、泰樹を通して伝わってきたものです。
二人目は、夕見子です。
女が大学を行ってどうするのか。
そう突きつけられ、彼女は叫びました。
「つまんない。母さんがそんなにつまんない人だと思わなかった!」
私は人形じゃない。まさにそういう不敵さが、夕見子の魅力でした。
「めんこい」と雪次郎が褒めても、知っているとクールな反応をしてきました。
愛想笑いをするお人形じゃないし、そうなれない。それが雪次郎がずっと恋をしてきた夕見子です。
縛られないからこそ、好きなんだ。
美味しいお菓子程度で、彼女を人形の家になんか閉じ込められない!
……となったら、雪次郎はどうするのか?
天陽ルート?
さぁ、どうなるのでしょう。
※続きは次ページへ
レビューは見てませんが、『いだてん』そのものは見続けています。
初期の頃と比べて、「なんか、それはちょっと違うのでは?」という感じを受ける点は、あります。
「恋焦がれる二階堂トクヨ女史」の描写などがそうで、あまりにもやり過ぎ。笑いを取ろうとするあまり、小馬鹿にしたかのような描写にも感じられてしまう。
会見等の場での厳しい追及・持説の展開等の姿とは違和感が著しく、それで「恋焦がれる姿」等は「後から追加されたテコ入れもどき」なのでは、と感じている次第。
ただ、今のところは、全体としてはまだ面白いし、バッサリ切り捨てて視聴をやめてしまうには惜しい。そんな感じで見ています。
また、こちらのレビューは、朝ドラ『なつぞら』のレビューにしては、最近『いだてん』を気にしすぎでは?という感じをしばしば受けるところです。
蘭子さんが話していたのは「新劇になりそうな話」ではなくて「新派になりそうな話」ですよ。
新劇と新派では演劇界の中でも真逆のポジションです。かたや「櫻の園」に「人形の家」ですが、新派の代表的な演目と言えば「金色夜叉」や「不如帰」。「新派大悲劇」という言葉もあるように、観客の情動に訴える、悪くいえばお涙頂戴の要素が強いお芝居です。
当時なら、芸術性の強い新劇と比べると、ずっと大衆的というか通俗的と思われていたでしょう。蘭子さんの言葉には、咲太郎に、そんな「ベタ」な背景があったことに対する純粋な驚きが垣間見えました。ただ、それを「新派」という言葉に変換してしまうのが、全ての事に演劇というフィルターをかけて見てしまう、蘭子さんの芝居馬鹿っぷりが現れておりましたが。
女性を花に例えるのが「差別ど真ん中」とのことですが、そんなこと言ったら、その人個人の本質を言い当てる以外のその人(性)に対するあらゆる比喩表現は全て差別ど真ん中ではないですか?
どんなに自分ではフェミニンな表現をしたつもりでも、結局受け取る方の感覚次第なんですから、その気になれば発言者の意図とは180度違う意味に結論づけられてしまうこともあるのではないでしょうか?
少なくとも私の周りでは、女性を花に例えるのが差別的だ!という女性はいませんでしたが、それも男性の論理で洗脳された差別を差別と気付いていない哀れな女性だということなんでしょうかね?
なんかそういう決めつけがあるとすればその方がよほど差別的な気がします。
私のコメントを訂正いたします。
萌えアイドルは気持ち悪いという発言が、仮に武者様のご本心であるなら、それ以上の釈明も訂正も必要ございません。
これまで個人に限らず女性やその他のマイノリティへの偏見に批判的だった武者様ですから、本心からの発言であるはずがない、という私の買い被りでした。
もし武者様がアイドルへの偏見を訂正なさらなければ、考えが違うのだと思い黙って去ります。言葉足らずで誠に失礼いたしました。
萌えアイドル的なものは気持ち悪いという発言に関して釈明や訂正を求めている方がいらっしゃいますが、必要ないと思います。
個人やマイノリティを誹謗中傷したわけでもあるまいし。
なつぞらもいだてんも面白いですよ。
なつぞらは良い朝ドラです。
いだてんは大河ドラマの枠を超える傑作です。
なつぞらの感想で、そこまでいだてんを叩いてもしょうもないのでは?
よほど金栗四三のドラマでのキャラクター設定が気に入らないのでしょうね。(苦笑)
度々失礼いたします。『なつぞら』と『いだてん』中の【女性の解放】描写に関し、武者様のスタンスをお示しいただきありがとうございます。
私としては、気に入らず期待もしない作品の感想を、人に見せる意思も無く続けるくらいなら、絶賛していらっしゃる動画配信サイトの時代劇レビューだけ書けば良いのに、と僭越ながら考えてしまいますが、色々事情がおありなのでしょう。
またアイドルに関して、
「本格演技派の人材がくすぶってしまう。そんな世の不条理」
との具体的問題点のご指摘感謝いたします。実力者が機会に恵まれないのは私も残念に思います。
以上が議論の本質ならば、いだてん第22回感想の
「現在の萌えやアイドル萌え〜に近づけたような、気持ち悪さ」
という発言はそれと無関係な、感情に訴えた論点すり替えだったのでしょうか?
武者様ともあろう方がそんな稚拙な論法を放置しておくとは信じ難いです。
恐れながら、いだてん感想中の萌えアイドルは気持ち悪いという発言に関して釈明なさることをご期待申し上げます。せめて該当箇所の訂正だけでもしていただければ幸いです。
>匿名様
ご指摘ありがとうございます!
修正しました。
今後もご愛顧よろしくお願いしますm(_ _)m
昨日から日付がずれています。宜しくお願いします。
どうやら、『いだてん』は武者氏の逆鱗に触れてしまったようですな。
初期にはあれだけ絶賛していたのに。
少し前から『いだてん』レビューは見ていません。惨状は想像できるし、ご本人も推奨していませんので。
初期の頃、低視聴率だの何だの報じられて、「テコ入れ」の話も出ていましたが、それで見当違いの「テコ入れもどき」をやらかし、この状況に至ってしまったのだとしたら、残念至極としか言えません。