昭和32年(1957)年8月15日。
生き別れの妹・千遥は、10年以上も前に家出し、行方不明になっていた――。
そんな辛い事実が判明した日、なつは二十歳の誕生日を迎えました。
苦い、大人の世界の始まりです。
柴田家から贈られた万年筆が置かれた机につっぷし、疲れ果てて寝てしまうなつ。
その夢には、幼い千遥が出てくるのでした。
亜矢美、だがそれがいい
咲太郎が悩み続ける中、亜矢美がなつの部屋をノックします。
「明日から仕事でしょ? 明日着ていく服、見てみようか?」
優しく、気が利く、それが亜矢美。
ストレートに心配している、大丈夫か、とは聞かずに、服を選ぶことで励まそうとしています。これが女将の身につけた人生の知恵でしょう。
「何のために、私は生きてるんだろう? 自分だけ好きな夢を追って、それでいいんでしょうか」
なつは、そう問いかけます。
ここがなつの、結構気が強く、濃い性格であるとも思います。
にっこりと作り笑いをして、大丈夫とは言わない。気にかけてありがとうでもない。いきなり人生の意義を問いかけてくる。
これはなかなか、手強いぞ!
「生きてるなら、仕方ない」
亜矢美は、ここでポーンと投げ出します。
もう仕方ない。生きているからもうそういうもの。
「自分で作るしかないよ、きっと」
きっちりと答えを返すわけでもない。ある意味投げて、それでもそうかというふうに、相手の心を持っていきます。
亜矢美はちょっといい加減なところもあるけれど、寛大で懐が広い人物だと感じます。
そういう意味では、ある意味こう形容できます。
「男らしい」
「漢だ」
「兄貴分」
しかし、言うまでもなく彼女は女性です。
こういうことは、男女関係なく、個々人の資質なのでしょう。それを型にハメて男特有としてきただけ。
やっぱり亜矢美はかぶき者なんです。前田慶次系なんですよ。
かぶき者は、男だけのものじゃないんです。
だが、それがいい。
千遥のために絵を描け、なつ
そして、ここで咲太郎がやって来ます。
「なつ、俺が悪かった。俺が千遥をあんな目にあわせてしまった……でも、どこかで生きていると信じている」
そう咲太郎が言うと、なつは苦しそうにこう言うのです。
「今すぐ千遥を探さないと。絵なんか描けないよ」
ここで咲太郎は、にっこりします。
「どうして? 千遥のために描くんだよ。漫画映画は、子供の夢なんだろ? その夢を、千遥に見せてやれよ」
咲太郎は【家族の絵】を広げながらこう言います。
これを動かすことが、なつの夢だったと。
なつの夢の中で、家族は皆生きていて、神田の祭を楽しんでいました。
「これを動かしてた。その絵を動かそうとして、漫画映画を作ろうとした。みんな生きてたんだろ? そんないい夢、千遥に見せてやらないでどうすんだよ。千遥の、見たいものを作れ。千遥のために絵を描け、なつ。お前は絵を描け」
そう励まされ、なつの目がらんらんと輝き始めます。
「お兄ちゃん、これ描かないと、明日会社に行けないから」
「うん、わかった」
兄に励まされ、なつは一心不乱で絵を描き始めました。
ここも、なつの結構な気の強さが出ていると思うんです。
お礼を言うわけでもない。にっこり笑うわけでもない。涙が頬をすーっと流れるわけでもない。
いきなり目がカッと光る。
しかも、作業するから出て行っていいと復活アピールする。
広瀬すずさんの演技力を信頼し、そういう演出をして、広瀬さんが答えているってことでもある。
それは岡田将生さんも同じです。
きょうだいで、互いの思いを確認して、理解した。
それをきっちりと、過不足なく描写している。そうできる。
熱気と自信があって、きっちりとまとまっている。まぎれもない名場面だと思います。
視聴者に迎合しない。
忖度しない。媚びない。
とても濃くて、強いドラマ作りを感じます。
絵と夢を通してつながる世界
そのころ、十勝では富士子が目を覚ましていました。
剛男が気がつくと、まだ子供の頃のなつが一人で泣く夢を見たと富士子が言うのです。
「誕生日だから、そんな夢見たんかね。大丈夫かね」
「大丈夫だよ。なつはもう、子供じゃないんだから」
「そだね」
そう二人は確認します。
なつが描いている絵は、ここで誰のものかわかる。そういう仕掛けだと思います。
なつが富士子を思い浮かべながら描くとき。
なつが、幼い牛若丸に自分を重ねて、常盤に甘えたいと願うとき。
絵と夢で、家族がつながる。
そういう神秘的で、素晴らしい場面だと思います。
そして泰樹も、北海道らしい寝具の下でカッと目を開けて、天井を見つめているのです。
やっぱり愛弟子とつながるのか。流石ぁ〜!
この場面、一歩間違えるとオカルトじみて、陳腐になりかねないのです。
ただ、偶然が重なったという処理もできるし、そうではないと解釈してもいい。視聴者の判断を信頼し、任せた――よい場面だと思います。
仏壇前セーブポイントでアイテムを使うと、幽霊がNPCとして出てくるとか。
亡くなった姉が、守護霊または悪霊として何度も何度もしつこく出てくるとか。
そういうオカルトトンデモシステムを家族愛として実装。
そんなバグだらけのNHK大阪は、もっとゲームシステムをきっちりと考えてください……。
朝からバースデーケーキかっ!
なつは、夢中になってそのまま寝落ちしました。
気がつけば、朝です。
「やっば!」
慌てて着替えて下へ。
そこには、バースデーケーキにろうそくをつけた状態で、咲太郎と亜矢美が待っていました。
タイミング的にはどうかと思いますが、サプライズですね。
本当は、昨晩のうちに食べたかったんでしょうけれども、邪魔できなかったのでしょう。
ここで気になるのが、信哉がケーキを買っていたということです。
おぉっ? やっぱり信哉は、なつを意識しているんじゃないですかね。どうなるのかな?
なつは慌てて火を消します。
「食うか?」
「遅刻しちゃう!」
「じゃあ一口だけ」
「うんっ、おいしい!」
慌ただしい中、なんとか一口だけ食べるなつ。
亜矢美は、作っていたと言うおにぎりを渡します。優しいなぁ〜!
「いってらっしゃい」
「いってきます!」
なつはもう大遅刻です。
咲太郎に見送られて、会社へ走って行くのでした。
遅刻ということはあるけれども、これだけ元気なら安心ですね。怒涛の水曜日に向かって、なつは走ってゆくのでしょう。
まずは、完全に吹っ切りました。
※続きは次ページへ
ここで、再放送の『ゲゲゲの女房』について言及するならば、この作品は内助の功の話ではなく、時勢に上手く乗れない人の描写や戦争の傷を描いていましたよ。某作と違い、真摯に向き合っていたことを忘れてはいけませんよ。
>匿名様
ご指摘ありがとうございます!
日付、修正いたしました。
今後もご愛顧よろしくお願いしますm(_ _)m
武者さん!コメントしたことはないですが、毎日毎日見にきています。
日付が1日ずれてる~!今日は18日です~(^-^;
私も家族も、なつぞらは「久々に面白い」で一致してるのですが
俯瞰的に観られなくて、なつの言動でムッとすることが時々あります。
武者さんのレビューで納得してます。ありがとうございます。
半分青いのレビューの時に比べ、今回は、より「空気読めない行動にムッとしてしまうタイプの視聴者の気持ちを代弁しつつ、俯瞰的に説明している」ところが、ホント素晴らしいと思いますし、なつを嫌わなくて済むので助かっています。ありがとうございます。