昭和32年(1957)年8月16日。
二十歳誕生日の翌日は、東洋動画新作『わんぱく牛若丸』のキャラクター検討会です。
千遥行方不明のショックを受けたなつは、寝坊して遅刻してしまいます。
それを謝ると、井戸原は笑ってこう言うのです。
「そのために遅刻して来たんだろう?」
とうとうなつは作画課にやってきました。なつを温かく見守るアニメーターの2人をスタジオ前で発見!#朝ドラ #なつぞら #井浦新 #小手伸也 pic.twitter.com/r3rm3xZXwf
— 【公式】連続テレビ小説「なつぞら」 (@asadora_nhk) June 14, 2019
これぞ、クリエイターの理解ある職場です。
夢中になって作業をすると、基本的な生活に必要な要素すら吹っ飛ばしてしまう。
食事とか、睡眠とか。
そして、それをアピールするわけでもなく、周囲から指摘されてハッとなるわけです。
【不眠で食事抜いてるぜ!】アピールをしていた前作****は、変人を気取りたいだけですね。
なつはかくして、千遥への不安を抱えたまま、アニメーターとしての第一歩を踏み出したのでした。
常盤案で火花散る
なつは仲案メインとなって決まったばかりの、牛若丸を見ます。
みんなうまい……。圧倒されます。
井戸原は、なつが提出した常盤御前の検討に入ります。
ただ、仲はこうつぶやきます。
「みんな美人を描こうとしている……」
単に美しい人ではなく。もっと深みのある。そんなデザインが欲しいのでしょう。
そこで仲の目が止まったのが、なつ案です。母性を感じると評価するのでした。
井戸原は、仲のなっちゃん贔屓かとからかうのですが、仲は即座に否定。
堀内が、ここで意見を述べます。
「常盤はただの母ではない……」
彼女は自分を頼って来た牛若丸を一度突き放します。
ただのよい母ではない。
そうすると客の感情移入が阻害されると懸念するのです。
そういう意味で、井戸原が評価するのはマコ案です。
確かに不敵な妖女めいた美しさがあります。
下山がここで、こう言いました。
「描く人の内面がにじみ出るね!」
「どういう意味?」
マコがそう突っ込むと、女性には女性の内面がわかるから〜と適当にごまかす……って、ごまかせていないけどね!
かくして常盤の候補は、なつvsマコとなるのでした。
ナゼこうなのか?
両者の描いたキャラが、それぞれ、どうしてそういう人物像になったのか。
二人で順に理由を語ります。
マコ:千人の候補者から、はじめは選ばれた侍女に過ぎなかった。それが源義朝の側室にまで、美貌と知性で上り詰めたのだから、きっとしたたかで強い
マコのタイプが見えてきましたね。
図書館で文献を漁り、その要素をきっちりと反映させる。そういう【理】上位です。
読書が大好きで、理詰めでやりこめてきた、そんな夕見子と同じタイプ。
彼女も軍師ですな! まぁ、小野政次だからそれでいい。
なつ:怖い顔の母を、子供には見せたくない。ただ怖いだけで、優しくない母親像には、納得できない。怖い顔でも優しい。怒られても、愛が伝わる。子供が夢を見るような像にしたい
なつは完全に【情】重視です。
図書館で本をめくるのではなく、自分の経験や思いをかたちにしてゆく。そういう詩人タイプですね。天陽と同じです。
いずれにせよ、どちらも中身は濃い
美女という外見だけではなく、内面をデザインにまで取り入れようとしています。
井戸原は、ここでこうまとめます。
「二人とも中途半端。一枚で奥行きを感じられない」
とりあえず決着はせず、次へと進むことに。
これも、なかなか深い話です。
なつもマコもお互い違うからこそ、両者に感心するものです。
「そういう見方もあるのか……」
と、なるのでしょう。互いの意見を強硬に主張しても、進歩はありません。
違いを認めて、自分にないものを意識して、すりあわせて長所をどちらも取り込んだものを作ること。
それが成功ということなのでしょう。
違うところがあるからこそ、このコンビはきっと強くなる。
理想的だな!
本官に話してみなさい
このあと、噴水で昼食をとっているなつに、下山が近づいてきます。
彼がナゼそうするのか、理由がわかります。
下山のファッションチェックスケッチで、ついになつが同じ服装をしていたことがわかったのです。
こういう理由をきっちりと出してくるところが、本作の緻密さです。
「何かあった?」
「別に何も」
明らかに何かあったと、ウキウキしながら下山は話しかけて来ます。
同じファッションだった、証拠を見せようかと言い出すのです。
なつはちょっと悔しそうに、毎日変えるのは無理だし、夏は薄着だから組み合わせが少ないと返します。
セリフの端々から、気の強さと負けず嫌いなところが見えますね。
「やだぁ〜もぉ〜、そりゃたまにはぁ〜かぶりますよぉ〜」
みたいに媚びる声、なつはやりません。語尾もベタベタしない。
「本官に話してみなさい。楽になれ」
なつとモモッチの服装を毎日観察していた、麒麟・川島明さん演じる下山さん。東洋動画スタジオの中庭で、2人の服装が描かれたスケッチブックを手に3ショット♪#朝ドラ #なつぞら #広瀬すず #川島明 #伊原六花 pic.twitter.com/4k0OZM06bO
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ここでおどける下山に、なつはハッとします。
「警察……あっ」
【おでん屋の常連客の話】だと前置きして、なつは千遥の家出と失踪について語りはじめました。
何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない
あの時代、家出した戦災孤児が、生き延びている可能性はあるのでしょうか?
その問いかけに、訥々と答えていく下山。
立て板に水ではなく、自分の経験や賢さを見せつけるわけでもなく、語り出します。
いい人です。マコや夕見子とはちょっと違う。
いや、あの手の軍師も、よいところはたくさんありますね。人の情緒ケアにちょっと疎いだけで。
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前々から気になっていましたが、ブレーンストリーミングではなくてブレーンストーミング(嵐)ですよね。レビューをいつも楽しんでいる者です
「そのために遅刻したんだろう」
このセリフで昨日少し引っかかていたなつの遅刻の扱いについての疑問が晴れました。
いつの間にか自分も時間に追われる生活が身についていて、
会社に遅刻するのはいかがなものか、という頭になっていた。
この部署はクリエイターの面々なのだ。時間に縛られているわけではなく、
作品そのものの出来に心血を注いでいるので、遅刻など問題視していない。
むしろ遅刻したものは自ら舞台を降りたのだと判断されて、生きる場所を失う。
単にそれだけ。叱る理由もない。むしろ遅刻を装い無記名だったキャラクター発表の場を自分の作品はこれだとアピールする場として利用するしたたかなメンバーがいてもおかしくない。なつはたまたまの遅刻だろうけど、自分の作ったキャラクターを発表できるいい機会になったようだ。
結果がすべての世界なのだから、一般常識で働いている会社員ではなかったのだ。
そして、若いなつでも主張するべきことは言える環境。上司に媚を売ったり、だれに遠慮する必要もない環境。クリエイターが伸び伸びと育つことのできるいい組織を表現されていますね。
このなつの置かれた環境となつ自身を疎ましく思う視聴者は一定数いるんだろうなぁ。
今日の服装をチェックをしてたスケッチブックのメモが「半分、青い」でしたね(笑)