なつぞら69話 感想あらすじ視聴率(6/19)謝罪なんて要らないんだゼ!

下山の話は次のような内容でした。

あのころの警察は、混乱していた。

そこにいるのは、やっぱり人間だからね。

 

派出所の新米巡査だったころ。逃げ込んできた娘がいた。
その娘は働いている飲食店が、怖くて逃げ込んできた。

当時は貧しさから娘の身売りなんてあったからさ。

 

警察としても、違法とは言えなかったんだ。正式な斡旋業者がいたからそう判断した。

 

けれど、ある先輩は違った。
諦めずに、新しく成立した憲法を調べたんだ。

 

第十八条
何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。又、犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。

 

それを盾に、娘を自由にした。

 

上司も、飲食店主も怒ったよ。
先輩も、辞職覚悟の上だったんだ。

 

今、その娘は、先輩の知り合いの旅館で、元気に働いているよ。

 

奇跡なんて、普通の人間の勇気によるものじゃないかな。
奇跡を持っている人は、どこにでもいるんだ。

そう語る下山に、なつは問いかけました。
その先輩とは、下山本人のことではないのか? と。

彼は照れ臭そうに、勤務日誌に似顔絵ばっかり描いているから、辞めたと言います。

「その子も、誰かに助けられてるんじゃないかな。早く食べなよ、ゆっくりね」

「いただきます」

なつは、おにぎりを食べながら、そのおいしさに感動しているのでした。
広瀬すずさんの顔、いいですね!

おにぎりを作った亜矢美も、奇跡を起こす勇気を持つ普通の人でした。
その味わいも、格別なことでしょう。

女優の顔になる常盤

なつとマコは、仲から呼び出されます。
両者の要素を取り入れた、仲によるハイブリッド案の常盤がそこにはありました。

「すごい、うまい……」
なつは驚くしかありません。

確かに、これがまた、うまいんですよ!
両者の要素を取り入れつつ、きっちりまとまっています。

気の強そうな目元。
それでいて、優しそうな全体像。

マコが指摘したしたたかさを、なつの描いた優しさが、包んでいるようでもあります。

そして何がすごいのかって、松嶋菜々子さんはじめとする、本作の保護者ポジションである女優たちをも想定させるところです。

富士子も。マダムも。亜矢美も。妙子も。総大将とよババアも。

知性も、個性も、気の強さも、あくの強さも、ちゃんとある。それを、何か大きなもので包んでいる。
そういうのが出てこそ演技であり、女優の力だと思うわけですが。

このキャラクター案は、まさに、そういう女優の顔をしています!
甘えたいけど、ダメ出しもされたい。そういう顔になった!

本作のアニメ担当者は頑張っております。
何がすごいのって、レベルの違いがわかるところです。

高校演劇部と新劇は、どちらも魅力的だけと違うし。
それは、なつ、マコ、仲の絵にしてもそう。

この常盤案は、まさにこれだという強さがあります。

「どうしたらこんな絵を描けるんだろう……」

思わずなつが口にする……そういうセリフに負けない絵がそこにある。
プレッシャーもあったことでしょう。お疲れ様でした!

そして仲は、なつにあの案になった理由を聞きました。

母だって人間

北海道の母を思い浮かべたから――なつはそう語ります。

彼女の説明に対し、仲はこう指摘しました。

自分の母には優しさしか見たくないかもしれない。
けれど、母である以前に人間なのだから、怒りや苦しみ、子供の見たくないものだっていっぱい持っている。

なつは子供の気持ちになり過ぎた。
いわば【情】に流され過ぎて、理想化し過ぎたってことですかね。

一方のマコは、指摘される前に気づいていました。

「私は生い立ち、理屈ばかりだった……」

【理】で詰め込み過ぎてしまった。そう反省しているのです。

どちらも大事だ。そう二人は悟ります。

仲はここで、なつの意見ももっともだと指摘します。

「子供が見て本当だと思うこと。子供の力を侮ったら、それで終わりだ。ね、マコちゃん」

「もちろんです!」

そんなマコに、生意気言って悪かったとなつは謝るのでした。

そんな暇はない、アニメーターだからな!

なつに謝罪されたマコの顔が、おもしろいですね。

謝罪を面白がっているというか、相手を認めているというか、若干うっとうしいと思っているというか。
貫地谷しほりさんが飄々としていて、それでいてアクがあって、いいなぁ!

これはなつを、殴り合った後に認めた顔です。

「謝ることはない。口にしたことの責任を取る。仕事で認め合うしかない」

「なっちゃんはもうアニメーターなんだから」
すかさず仲も同意します。

なつよ、今はもう、頑張るしかないぞ――。

そう父も励ます、爽やかな水曜日でした。

これはよい職場です!

前作****で、
「ブレーン(頭脳)がストリーミング(流れる)しないッ!」
と嘆いた記憶があるのですが。

それと真逆です。
ブレーンが轟々と音を立てて流れる。そんなキャラクター検討会でしたね。

・遅刻に理解あり

→フレックスタイム制を採用しながら、なんとなく出社時間が決まっている。世の中には、そんな意味不明な職場もあることでしょう。

本作はそれと逆です。
アイデアを煮詰めたら遅刻もしちゃう。怒るよりも、それを見せなさい。

いいじゃありませんか!

・無記名で案を貼る! 役職? 関係ないね

→これの逆が、無記名を装いつつ、偉い人や採用案を目立たせるように貼るセコい手です。

上司のものであれば、ともかく採用する。忖度を求める。

「俺のアイデアがわからねえのかぁ!」

そう絶叫していた前作****の**さぁんの会社ですよ……あれは見ていて精神に打撃を受けたもんです。

・意見交換が活発

→これぞブレーンストリーミング!

堀内の意見をきっちりと検討し、次に進みました。

新人であるなつの意見を遮らないところも、実に風通しがよいものです!

・それぞれの長所と短所を把握している

→仲は、ただ自分のものがいいとなつとマコを却下するわけではありません。

どこが悪いのか、きっちりと説明し、気がつくように促しています。

そのうえで、両者の長所も褒めるのです。

・謝罪? いらねえぜ

→マコは、ダメ出しにムッとはするものの、相手の言い分や自分に足りないところがあれば、むしろありがたがるタイプなのでは?

根に持たない。臨機応変なのでしょう。

そんなマコもよいものですが、仲もアニメーターとしての心意気を説明するのです。
最高の職場じゃないかーーー!!

『半分、青い。』の秋風塾も好きだったんですけども、あれは各人愛すべき暴走気味で、やや【情】上位感がありましたね。
そこをふまえつつ、本作でさらなるリファインを目指してきた感があります。

NHK東京はきっと進歩が止まらないし、こういう風が吹いているんだろうな。
そこまで想像してしまいます。

そういえば『半分、青い。』の北川先生は、ここまでやっていいのかと確認したものの、上が理解してのびのび書かせてもらったと語っておりましたっけ。
現場の風通しがよいんだろうなぁ。

だからこそ、演じる側も、演出する側も、見るこちら側も、さっぱりとさわやかな気分でいられるんだろうなぁ!
そう確信できました。

ただ、万人にとってよいわけではないのです

私はこの職場環境が最高だと思うわけですが。
合わない人も当然いるとは思います。

・自分の意見を言わねばならない

 

・期待されていることがはっきりしない

 

・指示命令が曖昧(倉田と天陽でもありましたっけ)

 

・マコみたいな、わけがわからないうえに、何だか怖い同僚がいる

 

・遅刻するなつのような、ルールを守れない人に甘い。ルールが緩い

 

・仲は何が言いたいん?

 

・いつも計画通りに進むわけでもない

 

・アイデアの勝ち負け、上下があいまい。しかもハイブリッドだって?

 

・自分の長所や短所に向き合う、思考や内省を要求される

 

・一人で作業する時間が長い

 

・独創的なアイデアを期待される

 

・ルーチンワークでない。手順がコロコロ変わる

 

・出会いがない。決まった相手ばかりで、友情や人間関係が広がりにくい

こう積み上げていくと、絶対こんなものは嫌だ! 向いていない! となる人も当然いるとは思います。
そして、それだけが正解だなんてことはない。

何が大事か?

『なつぞら』だけが正義じゃないってことでしょう。
個々人による。
好き嫌い、適合不適合は人による。

それを認めあうってことじゃないですかね。

人間です 当たり前でしょう

今日の、仲のセリフも深いものがありました。

母親だって人間。
いろいろなものを抱えている。
これは昨今のニュースを見ていても、感じるところです。

痛ましい子供の虐待にせよ、加害者の性別によって見方が違うんじゃないかと思うことがあります。

母親だろうが、育児ノイローゼがたまれば、慈母ではいられなくなる。

そこを無視しているんじゃないか。
子供を産んだら自動的にそうなるんじゃないか。

そんな意識を感じます。経験ゼロから親になることは、男も女も変わらないはずです。

あと、本作お得意のアニメ原点回帰について。

アニメのキャラや演じる声優に対して、異常なまでに人間性の放棄を要求するようになっていませんか?

キャラクターや声優が性的経験をにおわせただけで、ソフトを粉砕するとか、ボイコットするとか。
萌え絵ポスターが撤去されただけで激怒し、ずーっと同じことをつぶやくようになるとか。

それは何か違うでしょう。

あと「子供を侮るな」も重要です。
皮肉にも、それを認識しているのがジャパニメーションよりも、このところはディズニーやピクサーなんじゃないかと思えるのも、悩ましいところです。

好きな作品やキャラクターが、幻滅するようなことをした時の苦しみはわかるんですけれども。
その背景なり、理由なり、人間性なりを考えてから怒っても、遅くはないでしょう。

「自分は傷ついたァー! ウワァア!」

では、ちょっと何も得るものがないと思います。

※『ズートピア』は奥が深かったな

下山は警察官に向いていないけれど

今日のMVPは、下山でしょう。

彼の話で気になるところ。
下山は先輩その人ではないか? ということです。

なつが自分のことではなく、常連客の話としたことで、下山もそうぼかしている可能性を示しています。

性格的にも、ありえることです。
マイペースで、クリエイター向きの下山。あの作画課で毎日楽しそうな彼が、警察官に適性があるとは思えません。

「勤務日誌に落書きばかり」と本人が認めているところでもありまして。
その反面、憲法をコツコツと調べて、奇跡を起こす柔軟性があるとは感じます。

なつの亡父もそうでした。
上官の落書きをこっそり描いて、剛男たちを笑わせていたという父が、軍隊に向いていたとは思えません。

軍隊にせよ、警察にせよ。
そういうカチコチの組織で、浮いてしまう人っているものです。

彼がその典型例でしょう。

ゲゲゲの女房モデル・水木しげる&武良布枝夫妻の生涯「なまけ者になりなさい」

下山が先輩であるかどうか。
そこはさておきまして、彼は自分に似合う場所を求めた。自分のために奇跡を探した。

そういう強い、普通の人だと思います。

仲のような才能の塊、マコのようなエキセントリックなタイプでもない。

そういう下山が、いいじゃないですか!
凡人だって、自分の居場所を探してよいのです。

そして

第十八条
何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。又、犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。

これを、持ち出してきたことは大きいと思います。

奴隷になるくらいなら、転職じゃあー!
そういう勇気を、本作は示しているんじゃないかな。

下山役の川島明さん、そんな下山を演じる表情もセリフの読み方も、ともかく素晴らしい!
お見事でした!

文:武者震之助
絵:小久ヒロ

※北海道ネタ盛り沢山のコーナーは武将ジャパンの『ゴールデンカムイ特集』へ!

【参考】なつぞら公式HP

 

3 Comments

匿名

前々から気になっていましたが、ブレーンストリーミングではなくてブレーンストーミング(嵐)ですよね。レビューをいつも楽しんでいる者です

羅蜜欧

「そのために遅刻したんだろう」
このセリフで昨日少し引っかかていたなつの遅刻の扱いについての疑問が晴れました。
いつの間にか自分も時間に追われる生活が身についていて、
会社に遅刻するのはいかがなものか、という頭になっていた。

この部署はクリエイターの面々なのだ。時間に縛られているわけではなく、
作品そのものの出来に心血を注いでいるので、遅刻など問題視していない。
むしろ遅刻したものは自ら舞台を降りたのだと判断されて、生きる場所を失う。
単にそれだけ。叱る理由もない。むしろ遅刻を装い無記名だったキャラクター発表の場を自分の作品はこれだとアピールする場として利用するしたたかなメンバーがいてもおかしくない。なつはたまたまの遅刻だろうけど、自分の作ったキャラクターを発表できるいい機会になったようだ。
結果がすべての世界なのだから、一般常識で働いている会社員ではなかったのだ。
そして、若いなつでも主張するべきことは言える環境。上司に媚を売ったり、だれに遠慮する必要もない環境。クリエイターが伸び伸びと育つことのできるいい組織を表現されていますね。
このなつの置かれた環境となつ自身を疎ましく思う視聴者は一定数いるんだろうなぁ。

まるいと

今日の服装をチェックをしてたスケッチブックのメモが「半分、青い」でしたね(笑)

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