一悶着を終え、なつと咲太郎は風車の前にいました。
なつは雪次郎のことを祈ってか、稲荷に手を合わせます。
そうそう、こういう街中の稲荷ってあったものです。
実は排泄されないために設置されたこともあったとか。
オリンピック開発前の新宿です。
動画にまだ何か足りない
なつは自宅で、動画を仕上げておりました。
「よーし、できたー」
あの急斜面を駆け下りる牛若丸と馬のシーン。思わず安堵して、こてっと倒れます。
そして翌日、いよいよ下山に提出しますと……。
「どですか!」
そう北海道弁で迫るなつ。
「表情はいい。馬の動きがな……おかしいっていうか、足りない」
最後の方の馬の動きが足りないんだとか。
一押し、まだタメがない。そう評価されてしまいます。
「詰めて詰めて勢いをつける、緩急をつける」
マコも意見を言ってきました。
ちょっと火花が散るというか、なつが納得できずに反論すると軍師マコは煽ります。
「私がやる?」
と、挑発が得意だからね。
「いえ、最後までやらせてください!」
マコは嫌な奴に踏み込みかけつつ、モチベーションを高めるのです。
狙ってそうしたのか、負けず嫌いゆえか。そこは不明ですが。
なつは他の書類も渡され、席に戻ると、すかさず隣席の茜が気遣います。
「大丈夫、面白くなってきてるわよ」
堀内も励まし、アドバイス。
マコにはムッとするところのある彼ですが、なつには優しい。
「詰めじゃないかな」
美大卒の俺様というアピールもなく、同じ目線でアドバイスをする堀内は、いい人です。
そんな茜がちょっと引いていて、堀内がむっとするマコってどういうことか、って話になりそうではありますが。マコは癖が強いので。
しかし、馬の動きをどうしたらいいのか。
煮詰まったなつは、階段で一人考え込みます。
おいっ、そこにいると奴が来るぞ!
「また馬ですか」
来た、坂場だ。
あの坂場にドッキーンとするなんて!
「まだ馬を描いているんですか?」
いきなりそう言いだしました。
これも人によっては、カチンと来るでしょう。
まだ、そこで苦労してんの? とからかわれたのか。
マコあたりならそう思ってもおかしくないところです。
「まだ馬です」
なつはカチンと来ているのか、自嘲的なのか。
その間ぐらいな対応です。
と、そこで坂場が突拍子もない言動を。
「もしお役に立つなら、私が馬になって駆け抜けましょうか」
階段の踊り場で四つん這いになって、馬のシーンを再現しようとしています。
うーん、やっぱり。
こいつはこいつなりに、相手を手伝いたい、親切にしたいとは思っているんですね。
それが周囲とはズレているだけで。
プライドがあっても、ここは別。
自分が馬になることが、よいアニメに結びつくのであれば、そこはこだわらない。
そしてここが、坂場の坂場たるところですが、恥ずかしいという気持ちが湧いていない。
だからなつが馬の真似をしていても笑わないし、自分が馬になってもいい。
きゃー、坂場っていい人!
そう思いますか?
それはどうかな?
これがもっと迷惑な形で発揮されると、火災現場の観察のために小屋を放火しかけた『半分、青い。』における秋風羽織になります。
「室賀を謀殺すればいいよな。なら息子の祝言がチャンスだ!」
と、やらかした『真田丸』の真田昌幸とか。
「傷がどうなるか見たい」
と、遺体を鞭打ちしていた『SHERLOCK』におけるシャーロック・ホームズとか。
自分の理論を証明するためであれば、空気を一切読まない。
親切であるかどうかはどうでもいい。
なつを交際相手として求める、そんな好意があるかどうかも不明です。
馬の動きを知りたいのならば、自分でやるよりも他人の動きを見たほうが効率的ですよね。
彼は彼なりに、そのあたりを思いついたのでしょう。
そんな変人なので、会話もちょっとズレかねないのです。
なつは思わず笑ってしまいます。
「大丈夫です。それ見たら、馬を描くたびに笑って震えますから。急いで一人で頑張ります。あっ!」
なつはここで、よろめいて階段から落ちそうになります。
そんななつを抱きとめる坂場。
「大丈夫?」
そう声をかけてくる、階段から差し込む日差しを浴びた坂場は、イケメンです。
ドッキーン!
そう思えるほど、古典的なロマンス表現です。
おっ、これはどうなるのかな?
フラグへし折りに定評のある本作
きゃー、やっぱり坂場がロマンス相手よ!
そう思いますか?
それはどうかな?
本作は、狙った上で古典的なロマンス表現があります。
第一回冒頭。
なつがキャンバスに向かっているところで、あの人がやって来る。
彼は命の恩人で、生き別れのあの人だった――。
そして。
なつを思う照男と天陽。
スキー大会で勝利した方が、告白すると約束する――。
こうしてみて来ると、恋愛候補が実っていない。
信哉は一応保留ではありますが。
坂場は性格からして、こういうことを言い出しそうでもある。
「階段で抱きとめることは、危険性からの保護であって、恋愛感情とは無関係です。アニメーターが負傷するとなると、製作が遅れます。スタッフとして救助は当然のことであり、義務です」
まぁ、そこは坂場ですから。そこは仕方ないのです。
何あれ、最悪!
いや、もしかして素敵な人……?
そういう合間を、行ったり来たりする。
それでこそ表裏比興ぉぉぉおおお!
昌幸の妻である薫も、こう言っていたものです。
「あなたの言うことをいちいち間に受けていたら、身が持ちませぬ」
坂場の難点をスルーして、受け止めて、萩尾律と鈴愛ルートに行くか。
厄介な相手を理解をしないといけない、必ずしも平坦な道ではありません。
それとも避けて通るか。
今後次第ですね。
そうそう、坂場のことはナレーターの父も、こう言っていましたね。
この不器用な青年が、【アニメーターとしての】なつに、大きな影響を与えるかもしれない。
霊感ですーー。
アニメーターとしての、というところがポイント。
恋する女性としてとは、限定しないのです。
総大将はやはり強かった
なつと坂場も気になりますが、今日は雪次郎&とよババアの日!
雪月三人衆が、必ずしも一致団結していないこと。
それは言動からわかりました。
猛将・雪之助:雪次郎を何がなんでも連れ戻す!
知将・妙子:雪次郎は真剣だ。このまま菓子職人にしても、不安定かもしれない。それに、心細かったことだろう。咲太郎がいてよかった、ありがたい。
総大将・とよ:こんな惨めな思いを抱く雪次郎を、捨て置けぬわーーーーー!!
これも、三者三様の性格があります。
父だから、母だから、祖母だから。男だから、女だから。
そういう決めつけではなく、あくまで個々人の差でしょう。
誰も悪くないし、愛が欠けているわけでもない。
雪之助の人の良さは描かれて来ましたし、ちゃんと演じられてもいる。
妙子が賢いこと。
思いを慎重に絞り出すこと。
見る目があることもそう。
とよは、本音を言わなければならない。
心までしばれてはいけないと、そう促す人です。大賢者であることも、わかっていました。
そういう役割からすると、とよがここできっぱりと決めるというのは、よい流れです。
むしろ当然かもしれない。
とよは、現在最もホットなジャンルのひとつ【カッコいいババア】枠でもあります。
代表例が、シヴァガミ様ですね。
おばあさんといえば、優しくて、賢くて、ニコニコしていて、ご飯を作って待っている――そういうプラスのイメージか。
あるいは無知で、古臭くて、文句ばかり、若者の足を引っ張る愚かな足手まとい。周囲から小馬鹿にされる道化者。若い女を嫉妬していびる姑。そういうマイナスイメージばかり。
前作****のバグにまみれたブケムスメプログラムはその典型例ですね。
高年齢男性がプラスの賢者イメージにされやすい一方で、高年齢女性はステレオタイプ的な描かれ方をされがちであると、問題視されていました。
【マジカルババア】(=都合のいい高年齢女性像)って。
とよはそうじゃない。
一段高みにいて、知勇兼備で、総大将であり、大賢者。
そういう風格がたっぷりとあります。
こんなにカッコいいババアを朝ドラが出して来るなんて思わなかったよ!
出てくるたびに迫力や凄みもあって、これぞ高畠淳子さんの真骨頂だと思います。
毎回長いセリフをきっちりとこなしていて、発声がクリアで迫力もある。
それでいて、北海道弁独特の発音も入れている。
方言の発声としてお手本にしたいほどで、聞き取りやすさとニュアンスを両方備えているのです。
これはそう簡単にできることではないでしょう。
ベテラン女優として、まさしく今が咲き誇ると言いたげな演技で、毎回見ているだけで胸がいっぱいになるのです。
周囲の役者や現場も、彼女に負けじと頑張っている!
そんな魅力が伝わって来ます。
文:武者震之助
絵:小久ヒロ
※北海道ネタ盛り沢山のコーナーは武将ジャパンの『ゴールデンカムイ特集』へ!
このレビュー、いつも得心しながら見てますが、板場の見立てだけはしっくりきません。彼ほどの計算高さがあれば、どんなに間違っても秋風さんにはならないと思うんですよね。なつの天然と板場の理性(それでいてアニメで何かを表現しようとする方向性は同じ)は、最初のすりあわせに時間を要するとはいえベストな相性だと私は感じます。これからの展開を楽しみにしてます。
毎回存分に楽しんでいるなつぞらファンの一人として、今日は一点だけ苦言を言わせてほしいです。それは北海道と東京の距離感が無さ過ぎるのを私がいつも感じて引っかかる点です。
昭和30年代、北海道は本当にはるかな遠隔の地。しかも札幌ではなく帯広のさらに奥の村だ。まず東京から青森までが夜行列車で長い旅。(庶民は3段ベッド!の時代ですよ)そして津軽海峡冬景色に歌われる通り連絡船に数時間揺られ、函館からさらにまた長い長い列車の旅。片道の旅程を終えてようやく到着した時の疲労感を想像してみて下さい。
しかし本作で東京に着いた柴田牧場の村や帯広の人々のケロッとした姿は、現代の新千歳から羽田に1時間強で飛んで来た人の姿そのまま。昭和感が無さ過ぎです。
本作の登場人物はみんなスーパー元気人間ばかりだから長旅の疲れなんか見せない、というわけですか?いやいや、たとえ人間の中身はそうであっても、衣服や頭髪にくたびれ感が必ず出る時代なはずですよ。現在のように着いてすぐ簡単にシャワーが浴びれるわけじゃなかったんだし。
時代考証のスペシャリストの方々は、街の風景や小道具には細部までとことん精通していても、私の指摘するこういう面は意外に盲点になってるんじゃないでしょうか。いかがでしょう皆さん。
新宿の表通りを駆け出していく雪次郎…
おおっとアブねえ! また「幽霊電車」が写り込むところだった!
やっと写さないようになった。
少しは学んだようだな。
いつもドラマと同時にこちらのレビューを拝見させていただいて楽しんでます。
本日の回を見て、改めてこの脚本家はすごいなあと思いました。
まあ、私が勝手にそんな風に感じたのかもしれませんが。
雪次郎の芝居に対する思いとそれを止める雪之助。
幸之助演ずる安田顕さんは大学卒業後一旦会社員になってそれを辞めて芝居に復帰したと聞いてます。多分家族にも反対されて雪次郎のような気持ちでいたんじゃないかと。その彼に芝居を辞めさせようとするセリフをいわせた。
また、とよばあちゃんの高畑淳子さんはかつて息子も同業でした。当時はかなり推していたと思います。いろいろやらかしましたが、彼女はかなりフォローしてました。
今日の幸之助と雪次郎のような感じだったと思います。そしてあのとよばあちゃんのセリフ。
以前の話では裏方の仕事がどれほど大事かというなつのセリフがありました。
広瀬すずさんは以前バラエティ番組で裏方をディスったことを言ってしまって炎上したことがありました。
上記の事がそんなことを踏まえてのシーンや、あえて役者に言わせてるセリフだと思って見ていると、この脚本家はすごいって思ってしまいます。