おさげにワンピースの彼女は誰?
そのころ柴田牧場に、ワンピースのおさげ姿の女性が来ていました。
泰樹が目を止めます。
戸村父子も一瞬気づいています。
砂良は薪割りをしていました。
妊娠中である彼女を富士子が気遣います。
と、ここがまた、なかなかすごい。
「間違ってお腹割ったら困るから〜」
そんな切腹になりかねないジョークで、笑い合う嫁と姑。絶妙です。
NHK大阪朝ドラ班、そのノリを大河にまでぶち込んだ方は、同シーンを学ぶべきでしょう。
泉ピン子さんを姑にして、嫁いびりをさせる。
そんなパターンを喜んでいる視聴者はもう減る一方ですからね。
そんなギスギスミソジニーではなくて、こういう女同士のやりとりを見せてもいいんですよ。もう2019年ですから。
そんな嫁と姑のやりとりに、目がクギ付けになっているのがあのワンピースの女性です。
そこで照男が出てきて、彼女は驚いて転びかけ、物音を立ててしまいます。
「何かいるべ?」
そう言い出す照男が、十勝らしいですね。
日本全国に野生動物はいるものですが、北海道は多い。
ヒグマも含めて……。
砂良が正体を確認すると、相手は思わずこうつぶやくのでした。
「お姉ちゃん!」
「なんて?」
「道に迷っただけ……お邪魔しました、すみません!」
そう帰ろうとする彼女を、今度は富士子が呼び止めます。
「待って! あなたもしかして、千遥ちゃん? やっぱりそなの? 千遥ちゃんなのね」
「それってまさか、なっちゃんの? なっちゃんの妹?」
「奥原なつを探しに来たの?」
砂良は、自分はなつではないと謝ります。
それでもここは、奥原なつの家で間違いないと、柴田家の人々は喜んで迎えるのです。
「ここで探してきたんだよ。ずっとあなたを、待ってたんだわ!」
「本当なの? あなたが千遥ちゃん? 千遥ちゃん?」
彼女はコクリと頷きます。
「よく来たー、よく来てくれたー!」
そう皆が千遥を歓迎するのでした。
ここでは好きにしてくれればいい
照男が慌てて泰樹にも知らせに行きました。
「なんだって!」
座ったまま、驚きの声をあげる泰樹。
千遥は、牛乳でおもてなしを受けています。
この柴田家の懐の広さが魅力的ですね。これぞ北海道だわ。
「いかった〜、飲めて」
思わずホッとする明美のセリフは、夕見子を踏まえてのことでしょうか。
牛乳苦手ですからね。不在の誰かの存在感を見せることも、本作の長所です。
柴田家の皆は、なつのことをいきいきと説明します。
なつも牛乳が好きだったこと。
なつが搾乳していたこと。
農業高校を出たこと。
今は、漫画映画を作っていること。
そして、千遥にどこから来たのかと問いかけます。
「東京です……」
では、東京のどこかと富士子は聞きます。
東京にいるから姉妹が偶然バッタリ再会という――そういう雑なことを本作はしません。
大阪でホイホイ人が出会いまくる。何年経過していてもナゼかわかる。
そんな偶然大好き御都合主義満載の前作****とは違います。
と、そこへ泰樹が登場。
この総大将感がすごいなぁ!
「お邪魔しています」
「そうかー、よう来たなー! なつにも知らせろ、知らせてやらんか」
ここが泰樹らしさですね。
おもてなしも大事。なつのことを話したい。
そういう方向だけではなくて、問題解決もはかるのです。
富士子が電話を忘れてしまったと照れ笑い。
よほど感動していたのでしょう。
剛男ならば日頃からそういう傾向がありますが、彼女はしっかり者です。
するとなぜか、千遥が動揺します。
「姉には知らせないでください。姉が無事なら、それでいいんです」
「ちょっと待って!」
「姉には会いたくない。すみません、許してください」
そう語る千遥に、富士子はこう語りかけます。
咲太郎の手紙を持って家を出たはず。そのことをなつは知って、心を痛めていたと。
「ずっと会いに来てくれるんでないかと、待ってたんだよ」
そこで泰樹が止めに入りました。
こんなことを言われたら、千遥は辛いかもしれない、と気遣ってのことです。うーん、深いなぁ。
「そうやって言うもんでね。喋りたくないことだってある。ここに来てくれただけでもいい。なつのうちは、あんたのうちだ。好きにしてくれればいい」
どどーんとした、このゴッドファーザー的な許容力!
受け止め方がやはり大きい。それが泰樹です。
同じ総大将枠でも、立て板に水のとよとはちょっと違う。
役者の個性を踏まえた、そんなドラマ作りを感じます。
妹があの懐かしき人々に囲まれている
なつの机には、本が重ねられています。
イソップ、東方見聞録……。
これも丁寧な仕事ですね。
題材にあった当時の本を準備するにせよ、作るにせよ、手間がかかります。手抜きしておりません。
そうやってテーマで悩むなつのもとへ、北海道から電話だと連絡が入りました。
富士子が会社まで電話をかけてくるなんて、よっぽどのこと。
よいニュースとも限りません。
「なつ、落ち着いて聞いてね。今、千遥さんが、うちに来てるんだわ」
そのころ、その千遥は戸村父子がいる牛舎へと、泰樹に案内されています。
「千遥が探して来てくれた……」
ここで父が、感極まった様子で語ります。
なつよ、千遥は今あの懐かしき人々に囲まれているよ――。
戦災孤児・千遥の事情
千遥とは二度と会えないのか?
生きてるかすらわからない。そこから「雪次郎の乱」を経て、彼女が出てきました。
なつの名前が掲載されたポスターではなく、こういうカタチです。
本作は、伏線を回収することと裏切ることがあり、視聴者をほどよく翻弄していると思います。
きょうだい再会となるか?
そうでないのか?
なつと咲太郎も、一悶着あったものです。
そう、すんなり行くのかな。作劇上の都合ごではなく、当時の悲しい事情もあります。
ちょっとここで思い出してください。
なつと咲太郎が再会した場所は、ストリップ小屋でした。そこには、彼らと同年代のストリップダンサーがいたものです。
彼らが戦災孤児であっても、おかしくはない状況。
そういう可能性を示すためにも、あの設定は重要であったと感じます。
彼女のせいではないけれど、何か家族には言えない秘密があるのかもしれない。
泰樹は、そこを踏まえたのかもしれない。開拓一世ゆえの経験もあるのでしょう。
故郷にいることができずに、北海道という新天地を目指した人もいたのですから。
そこに富士子は思いが至らないのかもしれない、というのもポイント。
とよはまた違っていそうではあります。
あの人は苦労人ですからねぇ。
あの千遥を出迎える泰樹と富士子は、お見事でした。
なつの時も、酪農を通して受け入れ態勢を目指したものです。
泰樹は電話をかけろと指示を出し、何らかの手段で千遥を受け入れようとしています。
「なつのうちは、あんたのうちだ。好きにしてくれればいい」
という言葉には、プレッシャーがないのです。
なつがどれだけ探していたのか、なつのことを考えろというものはない。
ただここにいればいい――シンプルで真摯な歓迎です。
じゃあ富士子はダメか? というと、もちろんそうではない。
「よく来たー、よく来てくれたー!」
から、牛乳を飲ませる。そこには優しい心があります。
【男は解決脳で女は共感脳】とか、そういう手垢のついた偏見の出番はありません。
男でも、解決どころか、わけのわからない方向にすっ飛んでいく剛男。
指示がざっくりしすぎている倉田先生。
事態を悪化させることが趣味と突っ込まれる、トラブルメーカー咲太郎。
女でも、共感どころか先読みして煽る夕見子。
黒いオーラを身にまとい、喧嘩を売られたら買う、そんな臨戦体制のマコ。
なにかがずれている、なつ。
本作はそんな人だらけです。
そういうことって、個々人の資質と性格によるのです。
このチームワークはどうなのか?
はい、解決どころか混乱させる男として、坂場は敢えて外しました。
ある意味王者です。
前述の通り、彼は天才設定ではある。
それが難しいということを、じっくり描いていくのでしょう。
チーム結成がササッと入り、ちょっと不穏なところで千遥に突入したわけですが。
この三人がすんなり一致団結して、困難に立ち向かうとは思えません。
誇り高き黒軍師・マコ
長所:スキル抜群。勉強熱心で博識。計画性があり、目標へと邁進してゆく。決断力もある。勤勉。
短所:プライドが高い。そこに踏み込んだ者には、容赦ないところがある。言い方がいちいちキツイ。売られた喧嘩は買う。
対なつ:小競り合いはあるけれども、決定的な破綻は迎えない。殴り合って理解が深まる関係ではある。周囲から見れば怖いけど……。
対坂場:原作をつけろという意見そのものには、納得できている。ただ、こちらの意見を聞かずに結論ですんなり突き進む姿勢に、プライドを害されている模様。
想像力と創造性を備えたアーティスト・なつ
長所:想像力抜群で、イマジネーションにあふれている。ちょっとしたことから、豊かなアイデアを持ち出す。
短所:ときどき勉強不足。細かい作業がちょっと苦手で、ミスをしやすく、雑なことも。突拍子も無いことを言い出し、周囲を戸惑わせることも。実は割と頑固。感情暴発がたまにある。
対マコ:敬愛を抱き、殴り合う関係に落ち着きつつある。プライドが相手ほど高くないから、納得すれば折れる。
対坂場:そういう人だと、受け流そうとしている。
表裏比興・坂場
長所:常にアイデアを回転させて、受け入れる体制がある。豊かな世界を作り出す、そういうセンスはあるようだ。細かいことは気にしない。
短所:空気を読めない。人の気持ちを害するし、そのことにすら無自覚。考えることに夢中になりすぎて、現実から浮く。ルールとは何か説明するところから、始めなければならないかも……。
対なつ:だんだんと分かり合えて来ているような、気がしないでもない……のかな?
対マコ:相手を怒らせたことすら、現時点では無自覚。
なつも、マコも、坂場も。
画面の向こうにいるドラマの人物だと思えば、楽しいかもしれませんが、実際の職場だったら、どうでしょう。
善悪でもなく、相性と関係性の問題です。
理想の職場は、人の数だけあるものです。
そういうお仕事ドラマとして、あたたかく見守りましょう。
こちらも目が離せません。
文:武者震之助
絵:小久ヒロ
※北海道ネタ盛り沢山のコーナーは武将ジャパンの『ゴールデンカムイ特集』へ!
>Hei様
ご指摘ありがとうございます!
修正させていただきました。
今後もご愛顧よろしくお願いします^^
毎日楽しく拝見しています。
20本の短編ではなく
20分の短編ですよね?
細かくてすみません。
本と分では大分違うのでコメントさせていただきました。