芸者を見たことがないってほんとかい?
このあと、夫妻の寝室で富士子は剛男にこう語ります。
「あの子は、ちゃんとしつけられている。洋服も姿勢も綺麗。そんな悪い置屋じゃないのよ」
剛男は、こう返すのです。
「ここにいたいと言ったら、どうする? 辛いと言ったら……」
夫妻で意見が食い違っています。
富士子は千遥の境遇を信じて、安堵しているのです。ところが剛男は、そうではないことをなんとなく悟っていると。
「芸者のこと、よく知ってるの?」
そう富士子がいきなり切り出します。剛男は焦っています。
「本物は見たことがない!」
「嘘!」
「本当!」
「こっちみーろー!」
「いや、本当!」
剛男はタジタジです。
お見合いを経て結婚したこの二人ですから、剛男は遊んだ方ではないのでしょうけれども。
とはいえ、軍隊経験があるわけです。そして戦友は、あの咲太郎の父ですからね。
さて、どうでしょうか。
そこは夫婦の話ということで。
朝ドラは懐が深いんです。
モデル夫婦が重婚で、婚姻関係が成立していなくても、大丈夫なくらいですから。
写真を撮らないでください
翌朝、千遥はなつのオーバーオールを着て牧場へやってきます。
「おー、なんか懐かしいべー」
「なっちゃんが帰ってきたみたい」
照男や戸村親子もうれしそうです。
「こき使わんでな、なつに怒られるから」
そう冗談半分で言ってから、牛について聞きます。
牛が怖くないかと聞かれても、千遥はそんなことはないといいます。
「なつも、牛をめんこがってた……」
そうしみじみとした空気が流れますが、油断はできません。
牛に蹴られると命に関わります。
菊介が守ると言うわけですが、砂良が突っ込みます。
「それが一番怖い」
砂良はよい嫁です。
若い嫁は従順で、中年期以降におもしろくて強いキャラにチェンジをするパターンもあります。
彼女はそうではありません。
お腹を割るジョークも出るし、嫁入り道具は猟銃ですから。幼い頃からずっと、強くてユーモアセンスがある女性なのでしょう。
泰樹はこう尋ねます。
「搾乳、やってみっか」
「はい!」
そう千遥が答えます。
泰樹はやっぱり、なつのことを思い出しているのでした。
「数を数えるように、上から指を折るんだ。うまい、うまい、うん、それでいい」
乳を搾ったら、今度は牛乳の入ったタンクを運ぶ――と、本作の象徴とも言える、酪農シーンです。
その瞬間、何かが光ります。
「ごめん、驚かせたかな」
そこにいたのは信哉。カメラを構えています。
途端に、千遥は顔がこわばり、怯えたような、警戒するような表情です。
「千遥ちゃん、この人誰かわかるかい?」
剛男が連れてきたのです。
「信哉だ。ノブ、なっちゃんや千遥ちゃんからはノブさんって呼ばれてた」
「ノブさん……」
「そう、覚えてる?」
「少しだけ。なんとなくだけど」
「うれしいよ」
ここで、信哉の説明が入ります。
放送記者として帯広に赴任して、東京ではなつと咲太郎にも会っていたこと。
なるほど。信哉転勤も、こういう流れだと生きてきますね。
「その写真をどうするんですか?」
千遥は緊張感を帯びた口調で尋ねます。
「どうもしないよ。なんとなく撮った」
「誰にも見せないでください! どうしても、写真が嫌いなんです……」
「わかったよ、ごめん、勝手に撮って」
信哉はじめ周囲は、千遥の強い口調に少し戸惑います。
千遥には、怯えるような、警戒するような、不穏な何かがあるのでした。
その翌朝、帯広の雪月になつと咲太郎がたどり着きました。
どんどんと戸を叩くと、雪之助がそこにいます。
「朝早くにすみません!」
なつよ、やっと来たか――。
そう父が語る中、明日へ。
千遥の人間不信
突如撮影されて、暗い顔になる千遥。
その要素をまとめますと、やっぱり不穏です。
・柴田家を去りたい理由は、時間制限ではないと判明
→急いで帰ろうとしていた態度から一変、とどまることに。時間制限はないということになる。
しかも、勤務先や下宿先に連絡を取るそぶりがない。
これがもしもなつのような立場ならば、そうしているはず。
・千遥のよい暮らしとは「衣食住」しか示されていない
→富士子は「衣」について着目し、安心しています。
確かに千遥はしつけはしっかりしていますが、接客業であればそうなるでしょう。
そこに心理的な満足感や、高等教育を受ける機会があったかどうか。
そこは示されていません。
・千遥は食事に満足していたのか
→栄養不良で成長できなかったとは思えませんが、柴田家ほど恵まれた食事ではなかった可能性はあります。
柴田家の食卓が豪華ということも、もちろんあるのでしょうが。
・幸せでは姉に叶わない
→少なくとも本人も、姉ほど恵まれた境遇ではないと口にしています。
・剛男と泰樹の態度
→とぼけているようで、実は直感が優れている剛男。
そして知略99の泰樹が、何らかの異変を感じ取っているそぶりがあります。
・怯えている
→かなり打ち解けて来ましたが、千遥の態度には何かに怯える態度があります。
・写真を誰にも見せないで
→それがはっきりと示されたのが、写真への拒否感です。
あれはただ嫌いなのではなく、はっきりとした拒絶を感じます。
かなり打ち解けてきたとはいえ、千遥は何かに怯えているのです。
その秘密とは?
芸者の「置屋」
芸者という言葉は、曖昧で誤解が多いものです。
「芸は売っても身は売らない」
という言葉はありますが、これもあくまで表向きというものではあります。
裏オプションで春をひさぐ例はありました。
こうと決めた相手とは内縁の妻状態になった芸者も多い。明治政府中枢には、そんな芸者あがりの政治家夫人がおりました。
※木戸孝允と木戸松子等
遊女が「黒」ならば、芸者は「グレーゾーン」ですかね。
言い逃れはできる。
「置屋」という言葉への反応から、そのへんの理解度もわかります。
明美:芸者は綺麗なお姉さん、憧れちゃう
富士子:ここでは深く突っ込まない。夫の反応を確認する必要がある
剛男:これは深く突っ込めないけれども、うーん……
なお、
北海道に芸者はいたのか?
ということですが。
歴史に関わりがあります。以下の記事では、旭川中心にまとまっていますのでよろしければご覧ください。
『いだてん』でも、浅草芸者の小梅が登場しております。
そこをじっくりと描けば興味深かったところですが、軽く流されました。
本作はどうなるのでしょう。
「文化の盗用」でトゥラッタッタ♪
ここから先は、前作****についてです。
本作の感想だけをお求めの方は、この先は読まずにブラウザタブを閉じてくださいますようお願いします。
こんなニュースが話題です。
◆キム・カーダシアンが起こした「Kimono」ブランドの波紋
◆【更新】下着ブランド名「Kimono」を変更。批判殺到のキム・カーダシアン氏、SNSで発表
アメリカ人セレブであるキム・カーダシアンが、日本の文化である「着物」を商標として使おうとして、断念したと言う内容です。
※夫のカニエ・ウェストも有名です(※閲覧注意)
私は前作****について、こう指摘してきました。
・主人公夫モデルが台湾ルーツであることを、日本に変えたこと
・チキンラーメンという台湾の食文化を、日本の天ぷらルーツであるとする企業の虚偽説明をそのまま史実として放送したこと(ドラマのみならず、関連歴史番組でも踏襲)
これをふまえ、あのドラマを批判してきたわけです。
「文化の盗用」に関してホットなニュースが出てきたので、論点を整理しやすくなりましたね。
****というドラマは、こんな話の食文化版です。
キム・カーダシアンとカニエ・ウェスト夫妻は、何かとお騒がせ行為(※ドラマではシャレにならない悪事はカットします)で知られていますが、とてもラブラブなセレブカップルです。
彼らは、奇跡的な発明を思いつきましたぁ。
キムの名前からインスピレーションを得た下着「キモノ」ですぅ♪(※****ラーメンも、ヒロイン夫妻の名前から取られていましたっけ……)
「キモノ」は世界中で大ヒットし、みんなを幸せにしましたぁ。めでたしめでたし。
こうしてまとめると、いかにぶっ飛んだドラマかよくわかりますね。
自分の名前を商品名に入れるって、どういう神経だか理解できませんでしたが、キム・カーダシアンのようなセレブ思考だったんですね。
すごいセンスだなぁ。
それにしても、NHK大阪朝ドラ班は何を考えているのでしょうか。
そういうドラマを公共放送で作り、流し、台湾を侮辱する。結果、出演者の経歴にまで傷をつける。
そう遠くないうちに、裁きは下されることでしょう。
キム・カーダシアンが炎上し、****がそうでないのは、知名度の問題でしょう。
決して悪質度の差ではない。
朝ドラが日本だけのコンテンツでよかったですね。
英語で拡散されたら、大炎上でしょう。
大坂なおみ選手のコマーシャルもそのパターンでしたっけ。
◆大坂なおみ選手の肌の色に違和感? テニプリコラボの日清「カップヌードル」CMで論争に
信徒の皆さんは、そうなってもあの作品を誇りに思い続けるのでしょうか。
それこそ「叩けば何とかが出る」状態なんですけどね。
文:武者震之助
絵:小久ヒロ
※北海道ネタ盛り沢山のコーナーは武将ジャパンの『ゴールデンカムイ特集』へ!
搾乳など、久しぶりに酪農に関するシーンがありました。
十勝編が放送されていた頃は、それを機に酪農や生乳取引についても、あれこれ熱く考えていました。何だか懐かしいです。
あの頃、テレ東の『ガイアの夜明け』を無批判に丸呑みし、まるでJAグループが諸悪の根源のように決めつけたコメント投稿もありましたっけ。
生乳取引についての規制改革会議の動きを見てみると、あれは、生乳取引に参入し、JAグループ等既存の生産者団体を排除して利益を得ようとしていた一部業者の主張を、規制改革会議自体がほぼ無批判に取り入れ、踊らされてしまったというものに過ぎなかった。
だから、規制改革会議の提言は二転三転し、結果的に、むしろ既存の指定生乳生産者団体制度そのものには極端な問題があるわけではないことも明らかになったし、交付金の配分対象を拡大することで落ち着いた。
それなのに、未だにあの「決めつけ」の影響があちこちに残っているとは、呆れました。
テレ東と関連の強い日本経済新聞は、最近も、種子法廃止を受け、種子保護のために自治体が種子条例を制定する動きが続いていることを挙げ、「民間参入の阻害」などと、またしてもひどい決めつけをした記事を掲載していました。
日本の農業を破壊する主張にしか見えず、強い反感を感じます。
武者さん、お久しぶりです。
生活環境が変わって忙しかったのもありますが、「自分が面白いと納得できる作品」だと自己完結してしまって、こちらのサイトから足が遠のいておりました。(半分、青いと名前を言ってはいけないあの作品は真逆ベクトルにフラストレーションがたまって…)
久しぶりに読んで、やっぱり面白い。ちょくちょくまた寄らせてもらおうと思います。
千遥ちゃんに時間制限がなさそうなこと、私も気になっていました。北海道に東京からくるにしては荷物も随分少なかったですし。ああ、ナレーションのお父さんのように見守ることしかできない。どうか幸あれ。
千遥がらみの話では涙が止まらないのですが、今日ばかりは怖くて泣けませんでした。。。不穏すぎてソワソワします。
>匿名様
『本作の感想だけをお求めの方は‥‥』って親切に断りまで
入れてくださっているじゃありませんか。
何故そこで読むのを止めないのでしょうか。
誰かがあなたに読むことを強制しているのですか。
此処は武者様の場です。
あなたは一体どのような立場で指図しているのですか。
前作の話はもういいです