なにが「ううっ」だ!
「ううっ……」
なつぞら41話 感想あらすじ視聴率(5/17)それでこそ、わしの孫じゃ!字幕で確認したら、ここ、本当に「ううっ……」でした。
こんなベタな唸り方、「むむむ……」の横山光輝『三国志』くらいかと思っていたぞ!
「咲太郎さんを含めて、みんな大賛成なんだ!」
絶好調の剛男は、泰樹にかわって謝るほど。
なつも、その流れに乗ります。
「じいちゃん、お願いします!」
「なつさんを必ず幸せにします! 必ず約束します!」
「はじめからそう言えばいいべや」
「はい!」
「ありがとう、じいちゃん!」
ん? なんだか気になりませんか?
坂場は「幸せにする」からスタートしていますよね。
坂場「幸せにします」
↓
泰樹「でもなんかおかしいべさ」
↓
坂場「はい、無職です」
↓
泰樹「むむむ……なめ腐りおって」
↓
坂場「幸せにします」
↓
泰樹「はじめからそう言えばいいべ」
「きっと」と「必ず」という差こそあれ、むしろ、初めに言っている。
ループしてる。
脚本家の大森氏以下が気づいていないわけでもないので、敢えて泰樹がおかしい振る舞いをしていると、考えている結果だと思うんです。
では、どうして泰樹は唸るだけなのか?
混乱しているのか?
剛男に痛いところを突かれたんでしょう。
本当に心底認めなかったら?
座って痛いツッコミをしている場合じゃない。それは、高山で証明済みです。
「お前か……抹・殺☆」
出たーッ、待ち受けていた総大将・泰樹による抹殺パンチ出たーッ!
待ってましたぁ!
出会い頭であれだ……『三国志』ですら、名乗るのに……。
あれをやられない坂場は、第一関門はクリアしております。
夕見子がこの一連の流れをどう見ていたのか。
そこも面白い点ではありますが、終わったことだからとスルーしても、それは何の不思議もありません。切り替えが大事だもんね!
泰樹はこのあと、牛を撫でてアニマルセラピーをしているような状態です。
いや、もちろんこれは仕事ではあります。ただ、あの顔からして何か頭が回転してはいるのでしょう。
真田昌幸のクルミカチカチと同じように、何も考えていないようで、実はそうでもないのだ。
田辺組合長がまた何かに巻き込まれるらしいぞ
なつは、父の成長に感動しております。
総大将一騎打ち、もとい舌戦で勝利ですもんね。
※がんばったな……
これも、農協での経験があるのではないか? とのこと。
今や専務だそうで、相変わらず富士子には弱いものの、そこには進歩があるのだとか。
しかも、なんと夕見子は父と同じ職場です。
そして、これは禁句だぞ!
「なんだべ、結局、地元の農協に就職するなら、わざわざ北大さ行かなくてもいいべさ」
いや、軍師には軍師の野望がありますからね。
そういうことは言わんでいいからね!
照男曰く、その野望は現在進行形でした。
田辺組合長が気に入って、海外出張にまで行っているらしい。
「さすが夕見子!」
なつも褒めています。
いや、夕見子もすごいとは思いますが、田辺の人を見る目と寛大さも素晴らしいと思いますよ。
当時、北大卒、女性、そしてありのままの夕見子。
そんな彼女を生意気だとへし折らない田辺は、あっぱれなものだと思います。
なつの演劇部前後以来の再登場。
只者じゃない!
『坂場の野望・大志』
はい、ここからは【表裏比興】の坂場。
めんどくさいスピーチが全開になります。
「みなさんはいい!」
牛舎で皆の仕事を褒めるところからスタートするのはいい。
問題はそのあと、論理が飛躍するんですね。
・生産の美をいくらでも追及できる!
→この時点で戸村親子困惑。なつがフォロー。
・これこそ人間の美徳!
→えっ……?
「牛飼いだから仕方なく」と困惑する菊介。
・そんなことでは牛が泣く!
→その発想はなかったわ。
そう暴走してから、ますます話をでかくしおった。
「どんな仕事でも、人には誇りが与えられる! 農業にも酪農にも必要だ!」
この一連の演説を、あの男が見ていた……おわかりいただけたであろうか……じっと見ている泰樹ジジイの姿を……。
「なっちゃん、ごめん、よくわからんわ」
戸村親子は困惑しています。
都会育ちで牛飼いの苦労なんか知りもしないで、綺麗事を上から目線で言う。そう思われてしまうでしょうね。
坂場は、傷ついた顔を露骨に見せています。しょんぼり。
いや、なつがついているから大丈夫なんじゃないぞ。
あの泰樹が、なんだか同志を見つけた顔になっているんだ!
「君と余だ!」
と、劉備に言い出す前の曹操状態になっているんでは?
『夕見子の野望・農協』
その夜、晩ご飯はなんと、ヒグマ鍋です。
猟銃指導も入る本作、あの阿川弥市郎が仕留めていました。
「結婚と聞いて、無性にクマを撃ちたくなった……」
ここで照男が、義父の言葉にちょっとビクビクしています。
「それは俺のことですか?」
これも文化の違いですかね。
明言されていないため、本レビューでは推察としていますが、阿川父子にはアイヌのルーツが関わっているはず。
アイヌにとってヒグマは最高のご馳走。
ヒグマはカムイとして、むしろこちらに肉と皮を与えてくれる。ヒグマによる結婚祝いってことですよ!
※食べるとうまいべな
ここで、泰樹はこう来た。
「銃を貸せ……撃ちたい奴がいる」
冗談にしても、シャレになっていないぞおおお!
これも【表裏比興】の習性で、不謹慎ジョークで、周囲がびびることを想定しないで、思いつくままに言ってしまうのでは。
同じ枠の夕見子も、けろりと咲太郎を泥棒呼ばわりするくらいですし。
同じ枠の坂場は、ウフフと笑い出して無邪気なものです。受けてるぞ!
が、メンタル弱い相手だと辛いと思いますよ。
【表裏比興】枠同士の対決だから平穏なんだ。
※泰樹前世による結婚式サプライズが全然面白くなかった、室賀正武さん
「さぁ、食べて」
熊鍋をつつきつつ、『夕見子の野望・農協』が語られました。
ニヤリと不敵に笑い、なつとじいちゃんの夢であったバター作りを引き継いだと語り出されます。
おっ?
挫折していた夢がパワーアップして戻ってきた?
夕見子の人生には、彼女なりの開拓者魂があるので、ツッコミはいりません。
ジャズ喫茶?
高山?
乳製品が苦手だった?
酪農を軽蔑していた?
ハッ、赤子の理屈で全く話にもなり申さぬ。君子豹変したまでのこと。
この軍師が牛乳大嫌いなのは、嗅覚が過敏であるとか、そういう幼少期の特徴だったのかもしれません。
彼女は彼女なりに、割り切りなり克服なり、先の道を見出したのでしょう。
※気にするおぬしが悪いだけのことよ……
これが、やっぱりスケールがでかいんですよ。
農協が乳製品を作り、十勝で工場を回す。そういうところまで来おった。
なつよ、きみの大好きなふるさとにも、新しい風が吹いているらしいなーー。
父が綺麗にそう締める。
が、どうしたってこれは乱世の予感……。
大ばくちの始まりじゃああああああ!!
泰樹の疑念
はい、めんどくささ全開の泰樹ジジイですが。
ただの頑固ジジイか?
不機嫌な中高年男性の、ベタな苛立ち描写なのか?
そこは注意した方がよろしいかと思います。
【表裏比興】枠っぽい、個性あふれるめんどくさい疑念に取り憑かれています。
・「普通」はどうでもいい
→彼の特性は、剛男との比較ではっきりしてきます。
あの柔軟な剛男すら、そこはセオリー通りに父が言うことにこだわりを見せたのですが。
→泰樹は違う。そこからはみ出されていても平気。
俺のメンツだとか、順番だとか、世間の常識とか。そこははっきり言ってどうでもいい。
→これまたメンツ、俺を立てろとこだわっていた****とは違う。
・「きっと」に突っかかる
→自分が疑念を覚えたことが気になりだすと、止まらなくなって突っ込みはじめます。
態度が気に入らないわけじゃない。他の人ならば見落とすようなことが、引っかかり始めると止まらないのです。
・「世間」のことは一言も言っていない
→無職であることで、世間にどう思われるか。そこは無関係なところでイライラしています。
恥ずかしいとは言わない。あくまで「覚悟」を問いかけています。
→戸村親子は、そこが違います。
ぼんやりと東大卒はともかくすごいと理解し、納得しています。
→名門大卒だと浮かれてマウンティングをしていた****とは違う。
→泰樹は甘いものが大好き。坂場はかわいい動物が大好き。
それを真剣に、照れることもなく表明します。
自分が好きであること。そのことが、世間の目よりも大事。彼らは素直なのです。
・負けは認める、素早い撤退、再起すればいいだけだ!
→「ううっ……」と絶句して、奇妙なループに突っ込み、牛を撫でる。
奇行の数々に思えますが、自分の論理破綻に気づいたら、さっさと撤退する潔さはあります。
坂場も、何の言い訳もなくあっけらかんと辞職しましたし。
→『半分、青い。』では、いじめに対して転校を選んでいましたよね。
それを本当の解決ではないとバッシングする声があったものです。
****はマウントして殴り倒してこそいじめの解決と言い切っていましたが。
いや、そうでないんだわ。
そうそう。泰樹ね。
これは本人も無意識かもしれませんが、自分と同じ枠と結婚すると、なつが苦労すると思っていませんか?
愛する妻は、夫の言動とそのフォローが大変だったとか?
そういう自覚がありませんか?
だから再婚しなかった?
愛はある。疑うわけではありません。
ただ、妙な引っかかり方であることは確か。いずれ明かされるのでしょう。
『泰樹の野望・開拓』
さて、そんな泰樹ですが。
あの坂場のデカい話を聞いて、じっと納得感を見せていました。
泰樹も、いちいち話がデカぁぁい!
なつにせよ、夕見子にせよ、そんな背から開拓者としての魂を見出そうと走り続けてきた。
そういう泰樹からすると、坂場のあのスピーチこそ、自分の人生を言い切ったものだと心うたれた。そう思える演出です。
実は、これも初めてのことではありません。働くものにこそ見いだせる世界、そしてエンタメがある。そういう主張がなされてきています。
演劇部の倉田は、農業をしている人こそ、演劇を見て欲しいと訴えていました。
なつぞら18話 感想あらすじ視聴率(4/20)そして語られる、妻への愛【演劇とは、生活者が楽しみながら、自分の生活を見つめ直す機会が得られるものである。
地べたで格闘し、苦しむような農民にこそ、演劇が必要なんだ!】
蘭子は、先輩からアマチュア魂あってこそ演劇だと。
なつぞら99話 感想あらすじ視聴率(7/24)桜隊の悲劇実は蘭子も、かつて同じことを言われておりました。
新劇で一番大事なことは、アマチュア精神なのだと。あのとき咲太郎が焦る中、蘭子が納得し、雪次郎に才能を見出した意味がわかりました。
この演劇論の際にも、坂場は雪次郎を怒らせてから、ポイントを突いていた。
なつぞら100話 感想あらすじ視聴率(7/25)朝から魔性が恐すぎる「雪次郎さんが変えるきっかけになるのでは? 蘭子さんに認められているからこそ、変えるきっかけを持っている存在なのでは? ただの共演者で満足ですか? 先を目指せるのでは……」
一旦痛い目にあう、そういう一段落を経る残念さはあるものの、坂場には物事の本質を見抜いて、変えてゆく何かがあるのです。
「本物の【表裏比興】はきみとわしじゃ! 高山は話にならん!」
こういう状態になるのかな?
偽物に厳しい泰樹は、高山に髭剃りまで要求しておりましたが、本物ならば最高の味方になるはずです。
再就職もきっとうまくいくぞ!
東京では【魔王】神地も待っていることだし。十勝で再起だ!
その前に夕見子が暴れそうですが、そこはまあ、見守りましょう。
いやむしろ楽しみなのよ?
文:武者震之助
絵:小久ヒロ
日にちがずれてませんか?この日が8/5で、以降1日ずつ…。
「よつば乳業」ではなく、
正しくは「よつ葉乳業」でした。
訂正させていただきます。失礼いたしました。
よつば乳業は、酪農家・農協が主体となって、酪農家自らの取引地位の強化のために設立されたという特色があり、現在はホクレングループの企業です。
本作の中ではサイドストーリーとなりますが、設立の趣旨・生産者の地位強化の取り組みなど、夕見子のうごきと共にどんな具合に描かれるか、楽しみです。
田辺組合長と夕見子が推進している農民主体の乳業工場の設立構想は、現在のよつば乳業がモデルですね。
と言うことは、田辺組合長のモデルも、よつば乳業創業者の太田寛一氏なのでしょう。この時期に海外視察を行うという点も合致します。