燃える緋色の炎を見つめるヒロイン。
「火事や!」
そう慌てる母に、水より薪だと告げる彼女。
もっともっと燃やす――そう語る目に、緋の炎が映ります。
昭和22年(1947年)、戦後一年と八ヶ月。
ある春の日に、リヤカーを引っ張った一家が琵琶湖沿いにおります。
海だと勘違いする喜美子。
子供だもんね。ここで父・常治は日本一の湖だと紹介します。
そんな琵琶湖を眺めると、心まで大きなるで。川原喜美子の物語が、今始まります。
NHK大阪の緋色や
ここでオープニング。
色合い、炎をモチーフとした映像は、『カーネーション』を彷彿とさせます。
NHK大阪は、あの傑作まで回帰するのかもしれない。
強気で挑むヒロイン。
オーディション採用の若手女優ではなく、それなりの経歴のある主演。タイトルも、テーマソングの雰囲気も似ているかも。
イメージカラーも赤系です。
最後に緋色の衣装を着た主演がキリッとでてくるところも、実に決まっています。
これはええかもしれん。そう期待しつつ、見始めます。
ようこそ信楽へ
さて、主人公の川原家はなかなか大変です。
空襲で何もかも失った挙句、商売に失敗。父の知り合いをたより、信楽まで来たそうです。
落ち着いたナレーションでなんとなく丸めておりますが、一言で言えば「夜逃げ」やね。
それにしても、このロケの信楽がいいのです。
昔読んだ小説で、信楽の空は焼き物のようだという一文があった。それを思い出します。
釉薬をかけたみたいな、綺麗な空です。もちろん狸の置物もあります。
大阪から信楽まで、リヤカーをガタゴト引っ張って、一家五人。なんともえらいこっちゃ。
ここで一家を迎えにきた大野忠信は、所作がしっかりしている。
「班長殿〜!」
おっ、これは元戦友ですね。
父・常治はジョーでええから、と言います。当時はアメリカブーム直撃ですから、カッコいいあだ名になります。
母・マツが三姉妹を紹介。
直子、百合子、喜美子。百合子はまだ赤ん坊で、喜美子がおぶっています。これだけの家族が、リヤカー一台とここまでやってきたと。
十時間かかったかからないと、喜美子が父に突っかかっています。
「十時間言うた!」
「言うてへん!」
結構このヒロインは、めんどくさい性格かもしれへんんで。
ジョーは大阪弁が生き生きしていると思いましたが、北村一輝さんは大阪出身ですからね。
NHK大阪で、ネイティブの関西弁がはねとる。あー、こういうのが見たかった!
ヒロイン、武力が高かった……凶器はあかん!
そんな大野家では、気の弱そうな少年・信作が、缶で作った竹馬でカポカポしています。
これも、今となっては小さな民族博物館あたりにしかないような、当時の遊び道具です。
喜美子はそんな少年に挨拶します。
「よっ! 今日からここに越してきた、川原喜美子いう!」
いきなり、よっ! とは……喜美子ちゃん、おもろいな。
タジタジとする信作に、突っかかります。
「なんや! なんやなんや!」
「紙芝居紙芝居〜拍子木叩いてちょ〜んちょ〜ん」
ここで、紙芝居の歌を歌いつつ、少年数人が来ます。
あ、本作は本気だ。
こういう童歌の類って、考証にせよ演技指導にせよ、結構面倒くさいのです。
小僧数名、脇役であるにもかかわらず、所作もセリフもしっかりしていて、かなり真面目に作っていることがわかります。
彼らをギロリとにらむ喜美子。おい、喜美子ちゃん、大丈夫か?
しかも、おぶっている妹・百合子が大便をしてしまう。
ここでクソガキどもはフィーバーです。
「うわくっさ! くそしとる、くそったれ! くそったれ! きたねええ、きたねええええ!」
感動的なまでにわかりやすいクソガキですね。
当時の日本人は心清らかだのなんだの、騙されてはいけませんよ。この世代、ワイルドですから。
『はだしのゲン』が原爆はじめ戦争描写も秀逸ですが、クソガキっぷりがワイルドで、初めて読んだ時はそこにもドキドキしました。
そういう当時のクソガキ感が出とる!
手を叩いてはやすクソガキに、このヒロインは黙っていない。
喜美子は猛然と家に戻り、背中から妹をおろすと走る。しかも、戻ってホウキを手にしてまた出ていく。
「何がくそったれじゃ、このぉぉ〜!」
強い。このヒロイン、武力が高かった。ここ数年でぶっちぎって強かった。
娘の凶器攻撃を知る父
川原家の大家となった、忠信の妻・陽子。
その彼女が、喜美子の顔についた傷に薬をつけています。
大野家は雑貨屋だそうです。これはいいですね。いろいろお世話になりそう。しかも財前直美さんです。
NHK大阪朝ドラでは『カーネーション』、『ごちそうさん』ときて本作。安定感が素晴らしい。
喜美子は怪我を気にせず、直子共々真っ白い白米おにぎりに大喜びをしています。信楽は食料事情がよいのでしょう。
ここで、忠信がこう告げます。
息子の信作は、喧嘩の一部始終を見ていた。黒岩さんの子が、百合子がくそをしたとからかってきたとわかります。
ここでジョー、猛然とダッシュ!
履いているものを脱いでダッシュ!
ええね、昭和の鉄火肌やで。しかも喜美子はこの父親に似たんやね。
「何がくそったれじゃ、このガキ!」
最高です。こういう勢いのある本場の関西弁をNHK大阪の朝ドラでずっと聞きたかった。
怒鳴り込んだジョーは、一方的に黒岩家に怒鳴り込みます。
可愛い娘にでかい傷をつけられて、ボロボロや! そう怒鳴り込みます。大袈裟なのはそういうもんやで。
しかし、母に促されて出てきた、対戦相手の次郎の方が重傷です。
しかも、ホウキを返されて凶器攻撃だとわかる。
引っ越し早々、しかもやりすぎ、ホウキは卑怯だと怒るジョー。
それに、ジョーはなんとなくバツが悪そうでもあるのです。
どんな女かと言いつつも、ちょっと歯切れが悪いというか。
自分に似とるんやろね。怒り方がそっくりだもんね。公式サイトだと楽天家で明るいところが似ていると書いてありますが、このキレ方もそっくりでしょ。
黙って耐えろと言われて納得できない様子で、反論しかける喜美子ですが。
「はよねい!」
とバッサリ。
このあと、母・マツは陽子に金を果たしています。
落ち着いてからでいいと陽子は言うものの、古くて広い家ですもんね。
この本物の古民家、どうしたんですか?
よく見つけてきたなぁ。本当にいいです! 当時そのまんまです。
さてここで陽子は、戦友の恩義を語りだします。
川原班長のよいところが気になりますが、それはおあずけ。
富田靖子さんもいいですね。おっとりしていて、強さもあって。
どうして彼女があのワイルドなジョーに惚れたのか気になりますが。
『めんたいぴりり』で見て、朝ドラで大きな役で出ないかな〜と思っていたところです。
川原家、金がない
このあと、ジョーは金を探しております。
どうやらマツが渡したあの封筒だけだったと判明。おいおい、どうすんのさ。
次女の直子は空襲の悪夢を見ています。
あの体験を思い出して泣いてしまうのです。
戦時中のことをケロリと忘れて、思い出さない。そういうNHK大阪の駄作朝ドラもありましたが、人間そんなことはありません。
マツは、もう怖いものは飛んでこないと慰めます。
ジョーはこうです。
「これからはな、楽しいことばっかり考えたらええねん」
喜美子は、借金を返し終わっていないと突っ込みます。
やっぱり喜美子ちゃん、めんどくさい性格やろ。
するとマツが、大野忠信を助けたことを語りだします。
負傷した戦友を背負い、ジョーは何十キロも歩いたのだと。そのおかげで、忠信は帰国できたのです。
「そうなん?」
ジョーは照れくさいのか、それとも苦しい思い出なのか、語りません。
こういうところが、リアルかもしれない。
戦争体験を自慢する人。黙して語らない人。その反応は人それぞれにあったものです。そういう体験談を知ることは大事です。
本作スタッフは、そういうことがわかっている。そんな安心感があります。
ジョーはここでつぶやきます。
「綺麗な月やのう」
「綺麗ねえ」
夜空には月が浮かんでおりました。
家族は、月を見てそう語り合う。こういう何気ない会話から、夫婦愛や家族愛が伝わってきます。
が、しかし、いい話は続かないと言いますか。
翌朝、喜美子は一升瓶を抱えておろおろしています。
そして父に「金を全部酒に替えたのか!」と迫るのです。おいっ!
ジョーは面倒臭そうに、お母ちゃんの着物を金にするから大阪まで行くと告げます。
結構お嬢様なので、そういうものがあるのでしょう。これも戦後のリアルです。竹の子のように、着るものをむしられてしまう。
ずーっと高い着物を着続けて、金のことをネチネチと言う自称武士の娘。そんなしょうもないドラマもあったものですが。まぁ、それとは決別やね!
「たのむで、たのむでぇ〜」
喜美子は一升瓶を抱えたまま、父に頼み込むのでした。
とってくうたる! やっぱり喜美子、強い……
そして通学路。
あのクソガキどもが、ぶつくさ言っております。
「よそもんにやられたんけ……」
そんなクソガキの横には、スカート姿に髪の毛をリボンで束ねた少女が。
『なつぞら』の夕見子もそうでしたが、この時代こんな服と長髪の少女は、おしゃれで気取りやさん、かつ生活に余裕があります。
髪の毛にシラミがたかることが当然の時代やからね。
「川原喜美子……」
そう腕組みして語るこの少女は、どんな運命をもたらすのかな?
その喜美子ですが。
「おはよー、たぬき!」
と、信楽焼にご挨拶。信作がぶつくさこう言います。
「よそもんはたぬきにばかされる……」
「ばかせるもんならばかしてみぃい! とってくうたる! あんたようみたらたぬきみたいな顔してんな! アハハハハハ!」
喜美子はこうだ。
どんだけ武力高いねん。信作を食べるととらえかねないやろ。
強気なヒロインが嫌いな層からボコボコにされそうですが、まぁ、そういうんはとってくうたればええもんね!
ここで喜美子は、ほんまもんの狸をみつけ追いかけます。
そして、うずくまる男を見つけるのでした。
「誰や?」
フルスロットルの初回、終了です。
総評
『スカーレット』、これはいい。
大傑作?
傑作?
そこまでは言い切れませんが、ここ10年のNHK大阪ではトップレベルの作品にはなりそう。
2011年『カーネーション』と2013年『ごちそうさん』をあわせて、さらに何かを加えた、そんな強い作品になりそうです。
今朝は北村一輝さんの、パワーあふれる関西弁が最高でした。
『なつぞら』のTEAM NACSのようにネイティブ。
本物の関西弁を使う役の方がいると底上げされますからね。この作品の関西弁にも期待しています!
ジョーが鉄火肌なのに、めんどうくさそうなところは露骨にやる気がないところもいい。
母より父に似ていそうな喜美子にも期待を感じます。
子役も素晴らしくて、川島夕空さんはすさまじいと感動してしまいました。これは今後のびるでしょうね。
NHK大阪も、ここ数年で鬱憤が溜まっていたんやろね。
本気でぶつかってくるパワーを感じます。
ほんまもんの「王道」朝ドラを見せたる。そういう誇りがそこにはあります。
第2話の感想は以下の記事へ。
スカーレット2話 感想あらすじ視聴率(10/1)関西フォースを感じる文:武者震之助
絵:小久ヒロ
【参考】
スカーレット/公式サイト
初回の好印象気分はだいたい同じです。自分としてはBK前2作品があったので、まだ恐る恐る評価、ですが。
またときどきレビュー見に来ることになりそうです。なつぞらではお世話になりました。