スカーレット109話あらすじ感想(2/10)日常の些細なことに愛がある

美大に合格した武志。出発を前にして、喜美子と話しています。

あの狸の道を歩いて行ったけれど、武志は悪路だから辿りつけなかったとのこと。

女の子でありながら、あのカケラを見出した喜美子の特異性が光ります。武志は作風含め、性格が父親に似てくるということなのかも。

カケラの入手経緯ですが、モチーフの神山清子さんとは違います。

神山清子さんの場合、息子さんが古い窯跡で見つけている。喜美子の場合、独身時代に子どもがいない時期に見つける。

生来的な本質ゆえの発見だと、ドラマは強めているように思えるのです。

武志は、孝行息子になりました

武志は、友達たちと大津まで繰り出そうとしておりました。

明後日から学は大阪。
大輔は名古屋。
みんな無事に合格したのですね。3人で遊ぶラストチャンスというわけです。

同じ三人組、信楽の幼なじみでも、親世代とは違います。喜美子世代で四年生大学への進学者はおりません(喜美子中卒、信作高卒、照子短大卒)。

ここで帰宅時間の確認です。

「9時!」

「10時!」

「もう一声!」

「最終の一つ前までには帰ってきなさい!」

「ありがとうございや〜す!」

そう言われて浮かれる三人組。出発前に、武志はマツの布団を敷いています。帰りがおそなるで、先敷いとくな。そう断りつつ、布団を敷く。

武志が孝行な少年に育って、視聴者も感無量でしょう。

彼と同世代のあかん人って【孝行=名門大学進学・金を稼ぐ】だけになっていたりするじゃないですか。あっ、もちろん、あかん人だけじゃないことはもちろん知っとりますけどね。

ただ、ケアワークやシャドウワークに対して気遣いをする気が清々しいほどない人が多い。彼らが結婚後に家事育児をしないことにも繋がってます。

それでええんか?
いかんでしょ。そう示す武志は最高や!

昨年のアレな。80近い武士の娘に台所仕事をさせて当然の顔をしている。そういう大学生になった外道孫どもを見て、朝から気分が悪かった。敬老精神がなさすぎて嫌気がさした。生前葬で盛り上げるってよ。ゲスが。

今年は決別や!!

旅立ちの春

大津で遊んで、ついに大学へ向かうことになる朝。

「ほな行くな」

背伸びした地方の大学生らしさを見せつつ、武志が去ってゆきます。

「気ぃつけていきや」

「これ持ってき」

喜美子が差し出したお弁当も断る――そういうものだとは思う。けれどそこは思い出しましょう。食べるものがろくになかった喜美子の少女時代のことも。

お弁当は断るのに、「靴! 靴! 靴!」と慌ててしまい、母親を頼りにしてしまう。そんな息子の姿が生々しいのです。

息子を送り出し、突き返された弁当を残された女ふたりで食べようかと言っていると。武志が引き返してきました。

「忘れてた! 俺の代わりに今日からばあちゃんの布団敷いたってな! おばあちゃんのこと、頼むな。布団敷いてあげられんでごめんな、体大事にしぃや」

マツはそう言われて、微笑んでいます。ええ孫や……理想的やで。

「ほな!」

「武志!」

ここで喜美子は、やっと思いの丈をぶつける。

楽しむんやで。

なんでも楽しみなさい。

つまらんなぁ思うたら、つまらんなあいうことや。

しんどいことあったら、しんどいなぁいうて、しんどいこと楽しみぃ。

お母ちゃんに会いたいなぁ思うたら。会いたいなぁ、思うたら。会いたい気持ちを楽しまんと。

ここで武志は、お母ちゃんに会いたい気持ちに「そらないわ」と突っ込むのですが。

「なあ、おかあちゃん」

「もうええからはよ行き」

「ありがとう。大学行かせてくれて、ありがとう。行ってきます!」

「いってらっしゃい」

旅立ちの春を迎える親子。距離感にリアリティがある。空を眺めてから、また工房で陶器と向き合う喜美子でした。

子どもが親から巣立ちたいと思うこと。

親子が愛おしいと思い合うこと。

どちらも健全で、バランスを取る。そんな本作です。

親を馬鹿にして、いじめて、それで笑いを取るとか。

親が我が子のいじめは金持ちになって見返したれ、それでいて性生活には興味津々とか。

そういう描写はいらんのです。

地味だのなんだの言われることもある本作ですが、日常に宿る美しさがあると思うのです。

女の声に動揺する喜美子(と視聴者)

喜美子は現実と向き合わねばならない。

それは武志の大学資金。
八郎が毎月欠かさず送ってきたお金を使っておりました。

これはもう、視聴者の圧倒的な「八・郎! 八・郎!」コール待ったなしやね。胴上げしとる人もおるやろなぁ。

国際的にも低い、日本の離婚後養育費支払い率。国によっては逃げきれぬよう給与から天引きするとか、差し押さえとか、制度としてしっかり整えておりますが、日本はこのへんが甘く問題視されています。

「なんでやねん。そこは新しい女とのデート代に使いたいやんか」

こういうゲスな心持ちではない八郎に圧倒的な誠意と愛を感じるで。

喜美子は“十代田さん”にお礼を言おうと思うとマツに語ります。

するとマツは、引き出しからそっと畳んだ紙を出してきます。

ここのマツのパジャマも、この時代らしいものでして。NHKの衣装ストックは流石や。この年代でも、この時代だと浴衣よりパジャマも多いでしょうね。

そこに書かれた電話番号を、カバー付きの黒電話の横に置く。そして意を決してダイヤルを回す喜美子なのでした。

そしてここで、地獄みを帯びたナレーションが入る。

女性の声がしました――。

「え……あの……くしゅん!」

喜美子はくしゃみをして、電話を切ります。視聴者の心を地獄に落とおって!

なんで女の声かのう、八郎め!

※どうしたらいいのかまったくわからん!

照子農園のキャベツやで

工房に照子がやって来ます。
農家の奥さんかと突っ込まれると、家庭菜園照子でとぅーと返す。

「かわはら工房」喜美子でとぅー。そう返した喜美子は、40過ぎて何してんねんと言う。

照子は40はでかいという。肌が水を弾かなくなると、リアルなことを言う。

このあと、野菜で成人病予防と、生々しいことも続けます。

ほんで演じる大島優子さんの衣装な。
ヘアスタイルも、そして演技も、信楽のおばちゃんになりきっていて、おっとろしいものすら感じる。

なんでや、なんで陽子よりファッションセンスがおばちゃんぽいの。どんだけ役者の可能性を引き出すんですか!

喜美子はもう二人やで、こんなにいらんと言う。

ここで照子は、武志の旅立ちを知ります。そら、食べる量減りますわ。

お礼を言ったのかと照子は聞いてくる。喜美子は武志が「大学行かせてくれてありがとう」と言って来たと返す。

そうじゃない。ハチさんにお礼。そう詰め寄るのです。

同じ人間でも呼び名で変わりますね。十代田さんとハチさんの間には、深い何かがある。

養育費を毎月送ってくるなんて、別れた旦那の鑑やで。そんな照子にうなずく方も多いことでしょう。

うなずくだけでなくて、不快感と罪悪感でジンワリしてくる人も当然いる。そこまで考えてのことやろなぁ。

八郎の離婚理由は、不倫が描けないからだのなんだの言われました。

一方で【別れた旦那の鑑】を生み出すという挑戦もありえますよね。

『なつぞら』のイッキュウさんは、

「あー、うちの旦那もこんなやったらなぁ」

と、世の男性にまでプレッシャーをかけた。

そして『スカーレット』のハチさんは、

「あー、うちの元旦那もこんなやったらなああ!」

「あー、うちの父もこんなやったらなああああ!」

と迫るから、すごいもんがあるで。どんな策士や……。

ここで喜美子は電話をしたと言う。

「女が出よった……」

照子はここで、余ったキャベツは酢漬けにしたらええよ。そう言いつつ去ってゆこうとする。

そして戻る!

「聞いてほしいちゃうのん?」

「別に」

照子、野次馬根性刺激されとるやろ。

ピィ、それは女ちゃうわ!

「しゃあないなあもう、ほんまに女?」

一方的に喋りだす。
悪口は言わんと断った上で、びっくりして受話器から耳はなしても、冷たい抑揚のない言い回しだったと喜美子は言います。

「悪口やん」

すかさず照子が突っ込む。

なまじ誇り高く、武将じみている喜美子は「嫉妬なぞせんわ!」とすっ飛ばしたいのかもしれない。それでも動揺はあると。

はい、ここでネタばらし。

喜美子が聞いた抑揚のない一方的な女の声は【留守番電話】でした。ズコーッ!

そう電話の場面に音がついてわかるのです。照子は、喜美子が「ピィ」という音に驚いてくしゃみをしたというところで察知します。

「ピィ言うたんか。もっと世の中知っとけ! 半径10メートル以内で生活しとるからもの知らんのや! もっと外に目ぇ向けぇや!」

喜美子は流行りもん知ってると言い出し、ピンクフィーバーズのポーズをします。

「もう解散したで……」

お、おう。

ちょっと喜美子の抜けたところ、欠点が見えて来ました。

一人で半径10メートル以内生活を楽しめるタイプ。ただ、社交活動に関心がなさ過ぎてこういうことになる。戦国時代なら、隠居して山籠りしてもそれなりにエンジョイできるんやろなぁ。

本作って【創造性ゆえに人間としてどうなのかというところへ突っ込む】要素が出ていて好きです。

何度か書いていますが『半分、青い。』の「鈴愛明治村デート」が大好きで。一方的に拷問の妄想話を始めたら、相手のこばやんがびっくりして振られる。そこでこのドラマは信じられると確信を持ったんですね。

想像力があるとか、創造性があるとか。そういう人物は朝ドラではお約束ではある。

しかし、ほんわかしてかわいらしいまとめられ方をする。

妄想が気持ち悪いとか。どこか抜けているとか。社会から冷たい目で見られないのが、嘘くさくて好きになれなかったんですが、あのあたりからNHK東京はこの点こなれてきたと思った。
『なつぞら』も変人クリエイター群雄割拠だったし『エール』も期待してます。

NHK大阪はここが鈍いと思っていましたが、『スカーレット』は真髄を突っ走るくらいうまい。

武志を送り出した喜美子は、変人ぶりがさらに炸裂しそうです。楽しみにしています! そして……。
※続きは次ページへ

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