お父ちゃんにも意地がある
川原家では、喜美子が目をキラキラさせて、宗一郎の柔道について聞いています。
「魔法みたいだった! うちも投げ飛ばしたい!」
「よくないけれど、やむにやまれず」
暴力を見せてしまったと、誇るどころか照れている宗一郎からは、身についた理性と上品さを感じます。ほんまもんの紳士やね。
しかし、喜美子ちゃんは武力が高いので、そういうことは通じておりません。
「エイエイッ! うちにも教えてください! 気に入らん奴投げ飛ばしたい!」
「女の子が柔道?」
「女が柔道やったらあかんの? 教えてください!」
そこへマツがやってきます。
「草間はんが困っているやないの」
まぁ、それにきみちゃんが柔道を身につけたら、強すぎてちょっと洒落になっていないかもしれません。結局、習得するけどな。
そこへジョーが帰宅します。
「ただいま」
「お父ちゃんや。早かったなあ。草間さん覚えてはる? 会いに来てくれたん」
宗一郎は身の上話を始めます。
あのあと大阪で、割のいい通訳の仕事を見つけた。それで稼げるようになって、東京に戻る前に来たのだそうです。
この時代、割のいい通訳ということは、宗一郎は英語もできるのでしょう。ハァ〜、できる人やで、ほんまに。
喜美子は、東京は遠い、日本の真ん中だとキビキビと話しておりますが。
ジョーは、こう来ました。
「日本の真ん中は大阪や!」
ん?
この前、喜美子がそう言っていた時は止めていましたよね。
心境の変化でしょう。
本作はセリフと心情描写が細やかです。ぼーっと見てたらあかんで。
「お話ようわかりました。直子を助けていただいたことも、ほんま申し訳ない。なんぼなんでも、借金の一部を草間さんに返してもらうようなわけには……」
「暴漢から助けたお礼と言いますか……」
「お金が欲しくて助けたんやない!」
ジョーはそう言い、くしゃくしゃのお札を出してきます。
当時の紙幣をくしゃっとさせて出してくる。小道具担当者さん、お疲れ様です。
「850円あります。ここに30円あったわ。880円。残りは120円」
「こんなお金どこで……」
そう、そこですよね。この金はどこから?
ジョーの持ち物に答えがあります。ラジオと手袋がありません。
宗一郎は気遣います。
「今夜ここに泊めていただくので、宿代100円。残りの20円は借りを返したいという気持ちで受け取ってください。お願いします」
「ほな残り20円返しますわ。どっかに20円……いやあと20円だけ」
「草間さん、くれてはる。受け取ったらええやん。草間さんがくれる20円、もろたらええやん」
喜美子はそんなジョーに食ってかかるのです。
しかし、ジョーには通じません。
「あかんもんはあかん! あかんいうとるやろ!」
喜美子を叩く音がします。手をあげてしまいました。
「何で……何でや!」
ギロリと三白眼になって、喜美子は父を睨むのです。
黙ってばかりの女やない。そういう気迫を感じる、すごい目つき。
続きは明日。
あかんおっちゃんは、あかんおっちゃん
今週も、月曜からジョーカスや。
カスっぷりを更新するようです。
洒落になってへん。
工藤の語り口からすると、借金を元手にして、山っ気であかん商売に手をだし、こうなってしもたと。
しかも、年寄りなら気がつくレベルの、しょうもない話らしい。
オレオレ詐欺に全国一引っかかりにくい。そんな大阪人にあるまじき失態のようです。
これはあれや。典型的な、関西のあかんおっちゃんやん!
両親が亡くなっていることも関係しているのかな。後ろ盾がないことと山っ気が重なって、どえらいことに突っ込んだと。
タコ部屋送り、あるいは漁船に乗せられんだけ、マシなのかな。
戦後、間もない頃だと、もっとあかん道もあるかな。
いやいや、さすがにそこまでいくとNHK大阪朝ドラの範囲をはみ出すわ。
※千葉真一さんあたりが借金回収に来ないだけマシだったかもしれません
ジョーについては、製作側もいろいろとエクスキューズをしているというのは感じます。
『なつぞら』では、ヒロインが周囲に助けられてばかりだという点がありまして。そこへの反発に対する気遣いを感じたものですが。
それ以上に、男だという点を差し引いても、ジョーカスはあかんやつや。
鈴愛も、なつも、断然まともやんけ!
ようやりますわ。
本作は新しいようで、ある意味原点回帰やね。
ジョーカスを「今で言うところのだめんず」と解説する記事も見かけました。
いや……「だめんず」とかいう、かわいいもんとちゃうで。
昭和の!
大阪の!
あかんおっちゃんや!!
こういうあかんおっちゃんは、現実にも昔のフィクションにもようおったものですが、平成から令和への流れでは刺激が強すぎて薄めてきたんです。
それを、戻してきおった――本作は何かものすごいパワーを感じる。
このあかんおっちゃんのジョーですが。
作り物やない、生々しさを感じます。
本作スタッフの父や祖父、曽祖父。近所のおっちゃん。
そういうコテコテのあかんおっちゃんエキスを絞って、作り出しとる。私も、ジョーと同年代の、こういうあかんおっちゃん知ってますから。その悪事の数々、朝ドラでは映像化できへんよ……。
そういう感じがあって、出汁が出ていて、これはこれでうまい。度胸がある。応援したい。
こういうあかんおっちゃん。
『じゃりン子チエ』あたりも、今ならネグレクトと児童労働のコンボで燃えますもんね。
そこまで戻ってきおったかーーー!!
毎朝、ジョーカス周辺がすごすぎて、脳みそテカテカしてくる。
ジョーカス一人で、100点満点で120点級のインパクトが直撃してくるのです。
今日のラスト。
なんでここまで意地になって金を返すのか。20円くらいええやん、しかも娘殴るって。
これも、あかんおっちゃんなりの【男の沽券】でしょう。
ここを突っ込むと炎上しそうですけれども、敢えて挑む。
見守るしかありません。
役者さんも絶品です。
こんなコテコテの借金取りを朝から見られるなんて、驚かされております。
そしてこれが最も深い闇かもしれませんが……。
『なつぞら』の剛男っていましたよね。
大酒は飲めそうにない。芸者も見たことないと言い張る(※真偽不明ですが)。娘の進学を応援する。
そういう剛男タイプが、頼りないダメ男だとされてしまっていたということです。まぁ、彼にも妙な個性があったけれども。
剛男とジョーカスを比較すると、後者のほうが【男らしいええ男】とみなされていた。
そういう価値観もあるんですね。
ジョーカスと比較すると、『なつぞら』の問題児・咲太郎すらかわいらしく見えるわけですし。そういうスーパー昭和マッチョなダメさに、東西で切り込む。そんな挑戦を感じるのです。
朝ドラは女のものとされてきた。ならば、サービス的な、うっとりする男だけを描くもの?
そうじゃありませんよね。
そこがどうも最近は弱かった。少女漫画や乙女ゲーの男性像みたいな、萌えキャラ祭りになりがちで。
それも終わったのかな?
100作目以降、暗部も含めた男の世界。そのホモソーシャルに切り込むところまで戻るのかな?
ドキドキしてきました。
ええアルトで投げ飛ばせ
そうそう、ジョーカス以外にも見所はある。そんな第二週!
今週は予告の時点で期待していました。
その理由のひとつが、戸田恵梨香さんのハスキーボイス。
「とりゃあ!」
「うちは信楽の子や、信楽好きや」
戸田さんは神戸出身で、関西弁はバッチリ。
そしてこの低い声。
女性の声の高低とは、地声ではなくて作っているかどうかも大きいものでして。
日本はともかく高い。低い声で話す女性は失礼だとされることもあるほど。いわゆるアニメ声のような、キンキン声は作っていると思った方がよいでしょう。
そもそも高い声がどうしてかわいいとみなされるか?
高い声は幼稚だと思えるのです。
これはもう、生物としてそうできているから仕方ない。
【高い声が好き!=精神的にロリコン】ということですので、注意された方がよろしいかと。
戸田さんの声をおっさんだとする。
SNS投稿をまとめたネットニュースも見ました。
芯の通った、ええアルトやん。
あれがおっさんの声に聞こえるならば、自分の感覚を疑った方がよろしいかと思います。
ほんまもんのおっちゃんダミ声は、本作でいろんな役者さんが頑張って出しているでしょ。
全然ちゃうやん。
文:武者震之助
絵:小久ヒロ
【参考】
スカーレット/公式サイト
はい、先日コメントでナオコをわがままと言ったのは私ですσ(^_^;そんな公開処刑しなくても…(つд`)
私は幼い頃犯罪に遭ったことがあって、そのトラウマが言動に出ると(癇癪は決して起こしませんでしたが)理解のない両親に罵倒され、時には殴られました。周りの大人は誰も理解なんてしてくれなかったし、過去のことを引きずる自分がダメな人間なんだと刷り込まれて思い込んで。二次被害もいいところでしたよ。
ナオコに腹が立ちつつ、どこかで感情をぶちまけても守ってもらえる、許してもらえるところが羨ましいのかもしれませんね。
アダルトチルドレンの私には、やっぱり「ゆでたまご食べたい!」もカチンときましたごめんなさい(´-ω-`)
ジョーが嫌って人が多いみたいですね。このドラマで一番美味しい魅力的な役どころなのに!若いか、酔っ払いにトラウマがあるか、自分の正しさを信じて疑わない人なんでしょうね。
そういう批判が多いのか、わざわざ「人間はいい面と悪い面がある」とエクスキューズを作中で入れたように感じました。ジョーの良い面と悪い面、あんなに分かりやすく描いてあるのに~。喜美子のほっぺたをつまんで「かわえぇなぁ」って言うところなんか、愛情丸出しのだだ漏れで、本当に良かったと思いますよ。今回の脚本家さん、凄いですね。
それにお母さんには批判はないんでしょうか。お嬢様なら、どうして喜美子に最低限の読み書きくらい家で教えてあげられなかったのかと。本も紙も鉛筆一本もなかったのかもしれませんが、それでも我が子を思ったら少しでも何か出来たのではないかと思います。
お母さんは良い人ではあるけれど、喜美子に頼り切って精神的にも肉体的にも弱いという設定なんでしょうかね。
半分、青い。以来。ご無沙汰してますしております。
今回の「スカーレット」。本サイト管理人さんがどんな感想を書かれているか楽しみになり、再びお邪魔しております。
そう、このドラマ。往年の名漫画、「じゃりん子チエ」を思わせますよね。70年代~80年代前半くらい迄は大人の犠牲?になった不遇な子はまだあちこちにいたのではないでしょうか。そして、21世紀になって再び… 今と違うのは(あくまで虚構だからかもですが)子供達の物凄い生きようとする力ですかね。そういう意味でもこれはやはり昔を描きつつ現代の物語である、という王道朝ドラ作品ですね。
そして、先週の照子の脳内のルンルン♪ はまるで文楽の色恋物のようでしたし、信楽と大阪、2つの地を通して「関西」もたっぷり描いてほしいですね。
日本の真ん中は大阪ではないと思います。あるアンケートでは中京の中心名古屋が第1位兵庫県明石市が2位岐阜県関市の3位。