ある朝、喜美子は喫茶店オーナーから歌声喫茶新装開店記念チケットを貰います。
コーヒーが一杯無料だって。
「もう一枚!」
「厚かましい」
そう言いつつ、おっちゃんはチケットをくれます。
この喫茶、なんか混沌とした溜まり場になるわ。
きみちゃんの名札とペン立て
仕事の段取りにもなんとか慣れ、叱られることも少なくなった喜美子。
しかし、大久保はまだまだ手強い。
横にしたままのまな板を立てられる。
それでも喜美子には、一息ついた時間に何かをする理由が生まれたのです。
得意の絵で名札を作り、下駄箱に貼り付けるのでした。
圭介も雄太郎も、絵が上手だと褒めています。
このところちや子は、先輩記者が突然抜けて毎日激務だとか。ヘトヘトになっております。
そんなちや子のために、喜美子は元気付けようと工夫をこらします。
紙と色鉛筆で飾り付けたペン立てを作り、そこに歌声喫茶チケットを入れて、部屋の前に置くのでした。
きみちゃん、優しい! 気が利いてる!
そう感激するこちらですが。
しかし、大久保の目は厳しい。ペン立てや名札を見ています。
嫌な予感がしてきてぞ……。
ストッキング地獄が始まる
豆の固さについて喜美子に意見を求められた大久保。
こう言い出します。
「こんなもん作る暇あるんやったら、ほかにすることあるで」
豆をあと20分炊けと指示を出し、そしてどこかへ去ってゆく。
彼女の言う通り、豆はちょうどええ固さになっていると喜美子は感心するのですが……ほんとうの地獄はここからだ!
大久保は段ボールを持ってきて、ドサリと置きます。
その中身は?
「ストッキングや」
女の人が履くものですね。この繕いをしろと言うのです。
こ、これは大変なことになった。
「これ荒木荘の仕事ですか?」
「あんな名札やらペン立て作る暇あるならできるやろ」
「誰のですか?」
「裁縫できへんの?」
「できます、一通り母に習いました」
「ほなやりぃ。合間みてやりぃ。素早く丁寧にな」
「これ、荒木荘の仕事ですか?」
「できるかできんのか、どっちや?」
「できます!」
喜美子は疑念と抵抗を示しつつも、受け入れます。
素直に受け入れるのではなく、挑発を受けて意地をはるあたり、ジョーの血を感じます。直子なら、まぁ、やらないと思うんだな。
でも、ええの?
そんなに煽られて引き受けてええの?
心配だなぁ……。
はい、ここからが地獄です。
破れやすいストッキングを繕う。これはおそろしい。
戦後のこの時代、【強くなったのは女と靴下】という言葉もあった。
化学繊維であるナイロンストッキングが生まれたのです。
とはいえ、まだまだ弱いことは確か。
今なら伝線したら捨てますが、これを繕うのです。想像するだけで気分が悪くなるわ。
ストッキングはなかなかお高いですし、破れやすい。
何かの折にふざけて破いたら、伝線通り越して絶縁になりかねませんので、気をつけましょう。
うーん、ブラジャーの次はストッキングね。
そういうセクシーさと結びつけるものを、ありのままに取り戻す強さを感じます。
大久保、大久保! とやあ〜!
翌朝、喜美子は寝過ごしてしまうのでした。
慌てて起きると、大久保が外を掃いている。これは気まずい。
「申し訳ございません寝過ごしました! 以後気をつけます!」
「追加や。合間みてやりぃ」
喜美子は中身を見て、ウッという顔になる。
こっちもや。
キエーッ!!
喜美子はひたすらストッキングをチクチクしています。
そうしていると、大久保が窓を叩く。
「雨降りそうやで」
そこで洗濯物を取り込んでいると、これです。
「また持ってくるさかいな」
「えっ」
ストッキング地獄は続く。
針を指に刺しても続く。
かくして喜美子はむしゃくしゃした。こういうときは枕柔道やで。
枕を投げて、叩きつけます。
「大久保! とやあ〜! この……どや!」
うーん、主演が戸田恵梨香さんでやっぱりよかった!
ええアルトで、腹の底から声を出せる強さがあるからこそ、喜美子なのでしょう。
本作は今のところ、ミスキャストゼロです。
目も強い。大久保に立ち向かう目線がとてもよかった。
こういう肝の座った関西の女を描くからこそ、戸田さんなのでしょう。
他にここまでできる人はいない。
オーディション選考の新人女優さんではなかなか迫力が出せない。彼女なくして喜美子なし。そういうことですね。
そんな枕柔道しつつ、ストッキング地獄。ここで再び窓を叩かれる。
「でけた?」
「まだです。こんなにようさん……」
「出しなはれ」
はい、喜美子はまた枕柔道タイム。
「大久保とやあ〜! よしっ!」
そしてまたストッキング。
枕柔道、ストッキング地獄の繰り返しです。
こんなんしんどすぎるやろ。
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